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Sean Combs(またの名をPuffy、Puff Daddy、P. Diddy、お好きなように)は、3月16日にニューヨーク市で武器所持と贈賄の容疑に関して無罪判決を受けてからマイアミに逃亡したとき、ニューアルバムを制作するつもりはなかった。彼が求めていたのは休息とリラクゼーションであり、仕事ではなかったのである。
だが、楽しみのために始めた作業が動き出し、『P. Diddy & The Bad Boy Family…The Saga Continues』として結実した。これはCombsと大家族のようなラッパー、シンガー、プロデューサーたちによって構成された18トラックのセットであり、裁判期間中にCombsのBad Boy enterprisesを覆っていた黒雲の中から抜け出すような心地よいカタルシスに満ちている。
この『The Saga Continues』が発売1週目にBillboardアルバムチャートで初登場2位にランクされたことは、P. Diddyと彼の拡大するファミリーにとって喜びもひとしおだったことだろう。
「計画して作ったアルバムじゃないんだ」。31歳になったCombsは話す。「裁判が終わったときには、まるで再びお天道さまの真下でシャバの空気を吸えるみたいな解放感に浸っていたのさ。俺はマイアミに逃げ込んだけど、夜にはスタジオに入ってレコーディングをしていた。特に理由はなくて、レコード作りの楽しさを取り戻したかっただけなんだ。3週間ほど経って、気付いたときには10曲も仕上げてたよ」
「このレコードにはヒット曲、というかアップテンポの歌がいっぱい入っている。本当にラフで生々しいものだけど、聴き手をいい気分にさせる曲ばかりなんだ。これこそ今のヒップホップが必要としているヴァイブだと思うな。つまりポジティヴかつフレンドリーで、あまりアングリーじゃなくて、それでいて聴き手をいい気分にさせる歌を揃えるということだよ」
Combsの視点とはもちろん、12年間以上にわたって自分と他のアーティスト名義でヒットを放ってきた、多彩な音楽ビジネスのベテランとしてのものである。ハーレム生まれながら、快適な環境のニューヨーク州マウントヴァーノン近郊とワシントンD.C.のハワードユニヴァーシティで高等教育を受けたCombsの経歴書には、Jodeci、Mary J.Blige、112、そしてもちろん故Notorious B.I.G.とBiggieの未亡人、Faith Evansのほか、彼自身とLed ZeppelinのギタリストJimmy PageやFoo Fightersとのコラボレーションも掲載されている。今年も『The Saga Continues』以前にはティーン・ヴォーカル・グループの、Dreamを成功に導き、「This Is Me」と「He Loves U Not」をヒットさせている。
それでもCombsは『The Saga Continues』を、’99年の自身による前の作品『Forever』よりもゴキゲンな内容にしたかったようだ。
「前のアルバムはちょっとアングリーなものだった」とCombs。「とってもタフな時期だった。パーソナルなトラブルに巻き込まれてしまって、その本当の現実について語ったアルバムだったのさ。だけど、大衆が僕に求めているのはエンタテインメントであり、楽しい時間を過ごさせてくれるということだったんだ。『Forever』は俺にとってはパーソナルなアルバムだったけど、音楽はパーソナルなものであってはいけない。音楽に関して利己的になるべきじゃないんだ、いつでもというわけにはいかないにしてもね。自分の感じたことやしていることを表現するアルバムには個人的な側面はつきものだけど、ときには誰でも関わりを持てるようなものを作ったほうがいいのさ」
「今度のアルバムには一貫したテーマなんかないよ。ホットなレコーディングを集めただけなんだ。クラブで踊れるようなアップテンポの曲で楽しいときを過ごすだけなら、誰にだって関心が持てるだろ」
実際のところ、Combsは当初Bad Boyのコンピレーションアルバムを発売するつもりだった。裁判の間は「クリエイティヴィティが完全にストップしていたんだ」と彼は説明する。だが、アンソロジーというアイデアにはまったく馴染めなかったという。「コンピレーションアルバムを出したいと心底望んだことは一度もなかったよ。でも、商品を出していくのに必要な経費を支払い続けるためには、出さざるを得ないところだったんだ」
ニュートラックの「Let’s Get It」と「Can’t Believe」は、そのプロジェクトのために作ったものであった。「単にコンピレーションアルバムを出すだけというアイデアは全然気に入らなかったのさ。出さずに済む可能性がでてきたところで、直ちにキャンセルを決断したんだ」
『The Saga Continues』には、大勢のコラボレーターが参加してCombsと共演している。その顔触れはEvans、Carl Thomas、Black RobといったBad BoyのベテランからG. Dep、Mark Curry、the Hoodfellaz、KainそしてCombsが“今の遊びのパートナー”と呼ぶLoonなどのニューカマーまで多彩なものだ。
「彼らはみんな的確な働きをしてくれた」とCombsはコラボレーターたちを讚える。「一定のスタンダードに達してないやつはこのアルバムには参加していないよ。これはまるでthe Fam(ファミリー)の21世紀ヴァージョンみたいなものと言えるね。これからの俺たちが進むべき新しい方向を示しているんだ。連中は若くて生々しいだけでなく、彼ら以前に登場していた他の面々からなる前のファミリーの作品に近いところもあるのさ。彼らが育ってきた過程でファンだったアーティストたちだからな。連中は俺のコンサートに来ていたし、Biggieのも見に来ていた。つまり俺たちの申し子ってわけさ」
Combsは『The Saga Continues』においてファミリーの外部にも手を伸ばして、Eightball、MJB、Kokaneといった“名誉ファミリー”とも共演を果たした。彼はまたホットなプロダクションチームであるNeptunesも招き入れ、上機嫌の自己自讃トラック「Diddy」に参加させている。
「彼らが電話をかけてきて“Yo, アンタ向けのトラックがあるんだけどな”って言ったんだ」とCombsは回想している。「それをこっちに送ってきたんだけど、コーラスから何から全部やってくれていたんだ。俺たちが何年も前からダチだったことは、あまり知られていないけどな。俺は連中に最初に仕事を与えたうちのひとりなんだよ。’95年にTotalのアルバムを担当してくれたのさ」
Combsがなぜ自分だけの名義でアルバムを制作せず、このように集合体の一員として振る舞うのかを訝しがる意見があることは彼自身も認識している。答はいたってシンプルなものだ。フレッシュなパフォーマーと触れ合うことができるという賢明なビジネス的戦略は別にしても、彼は自身をチームプレーヤー、つまりバスケットボールにおけるポイントガード役のヒップホップ版だと見なしているのだ。「たしかに俺は走り回って得点を稼ぐけど、同時にチームの一員としてプレイしているのさ」とCombsは説明している。
それに、そのほうがあまり孤独にならなくて済む、とCombsは付け加えた。
「俺は他人と一緒にやったほうがいいパフォーマンスができるんだ」と語るCombsは、『The Saga Continues』が成功を収めたら「これまでで最高のR&B/ヒップホップのショウを見せる」と約束してくれた。「アルバム全部を自分ひとりだけラップでして、最高の出来になるとは思えないのさ。俺はプロデューサー、オーケストレーター、リングマスター、そしてチームのキープレーヤーとして、売り出してやりたいと思う若いタレントに囲まれているのが、いちばんうまくいくんだよ」
By Gary Graff |