【ライブレポート】杏里、4thアルバム『Heaven Beach』を掲げた全国ツアー開催中「みんなの歌声に力をもらえます

2026.11.07 18:21

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9月にスタートした杏里の全国ツアー<ANRI LIVE 2026 Heaven Beach>。全公演がほぼソールドアウトとなっている大人気ツアーの、東京・SGC HALL有明での公演が10月24日に開催された。SGC HALLは今年6月11日の<MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE Surf & Breeze>以来となる会場。ステージと客席の距離が近く、杏里は、観客の顔がよく見えるところがお気に入りとのこと。

昨年のツアーはアルバム『Timely!!』をテーマに開催された。今回は『Heaven Beach』の収録曲を中心に、デビュー曲「オリビアを聴きながら」を始めとしたヒットナンバーを交えたセットリストを展開した。『Heaven Beach』は、1982年にリリースされた杏里4枚目のアルバム。恋の終わりの切なさを夏の季節の終わりと重ね、後ろ髪を引かれるような名残惜しさを、カラッとしたサウンドと爽やかなボーカルで歌い上げた名作。「杏里=夏や海」といったパブリックイメージを印象付けた、シティポップを代表する1枚として世界的に人気だ。

ブラスセクションやコーラスを加えたバンド編成による開放感あふれるサウンドと、キャッチー且つ爽快感あふれる杏里の歌声。ベースやサックスが軽快にソロプレイを繰り広げ、コーラス隊による重厚かつスケールの大きなハーモニーが会場を埋め尽くしたライブ序盤戦。1曲目から総立ちとなった観客は、身体を揺らしながらクラップ。そんな様子に、うれしそうに「東京!」と呼びかけた杏里。「Fly By Day」ではペンライトを揺らす観客の姿もあり、ステージと客席は早くも一体になった。

最初のMCではアルバム『Heaven Beach』について、20代前半のころに作った作品で、10代のときに作った曲を収録していることや、1曲1曲にさまざまなメッセージが込められていることを解説し、「今の世の中は荒々しく戦争や紛争があふれているけど、私はポジティブで平和で穏やかな気持ちを持っていたい。今の時代にこそ、歌う意味がある」と、同作をツアーのコンセプトにした経緯を振り返る。

「地上ではいろんなことがあるけれど、海のなかはきっと平和でボーダーレス。魚たちは七つの海を自由に泳いでいて、そんな自由さにどうしても憧れてしまう」とも話し、「今日のこの空間だけは平和で、ビーチにいる気分だったり、水中へ一緒にダイブする気分になっていただけたらうれしい。最後までゆっくりと楽しんで行ってください」と、思いを込めて挨拶をした。また、近くで大きな花火大会が開催されていたことにも触れ、「花火大会ではなく、私のライブを選んでくれてありがとう」と茶目っ気たっぷりのコメントで、集まったファンを笑顔にする場面も印象的だ。

カリブ海でイルカと泳いだ経験談を添えて披露した「Dolphin Ring」からは、バラードを中心に展開された。月明りに反射する水面のようにキラキラとした音色を奏でるギター、穏やかな凪のように奏でられるピアノを中心にしたサウンドをバックに、優しくて温かく海のような包容力を持ったボーカルを聴かせ、観客を魅了した杏里。曲間に流れる波音や虫の音もあいまって、会場にはゆったりとした時間が流れた。

『Heaven Beach』に収録の楽曲を連続で披露したコーナーでは、「あのころの空気感を感じてほしい」と杏里。客席に手を振りながら微笑みかけた「Memorial Story」。ミディアムアップのナンバーでは会場にクラップが広がり、鈴木明男の哀愁たっぷりのサックスを中心とした演奏でも聴かせる。そして自身が作詞・作曲を務めた「Heaven Beach」では、スポットライトを浴びながら歌唱。サンセットビーチの情景と、歌詞に込められた優しく美しくて尊い気持ちが会場に広がった。

小松秀行によるベースのグルーヴィーな演奏でスタートした後半戦は、メロウで大人のムードあふれるシティポップの世界観が表現された。夏の終わりという季節感はそのままに、海の情景から一転して、東京タワーやビル群が立ち並んだ都会の夜の情景がバックに映し出された会場。杏里による、どこか寂しさを漂わせた情感豊かで儚げなボーカルが、観客の胸を締め付けた。

近年の世界的なシティポップブームもあって、今年5月にはニューヨークとロサンゼルスで単独ライブを成功させた杏里。MCで観客にどこから来たかを尋ねると、日本各地だけでなく、香港、韓国、ロサンゼルス、ドイツなどの声が上がり「私のコンサートもこんなにグローバルになっちゃって!」と、うれしそうに表情をほころばせ「エンジョイしてくださいね」と声をかける場面もあった。

ライブ終盤戦は、バンドによるスリリングなセッションで会場を沸かせ、その勢いのまま、ヒット曲満載のセットリストで観客を沸かせた。ポップなメロディが心地良い「コットン気分」。会場に観客のクラップが広がった「気ままにReflection」。そして杏里の代表曲の一つ「悲しみがとまらない」は、イントロから大歓声が沸いた。「みんなで歌ってください!」との呼びかけに、〈I Can’t Stop The Loneliness〉と一緒に歌う、観客による大合唱が会場に響き渡った。

杏里の名前を呼ぶ「杏里コール」で始まったアンコールでは、「Cat’s-eye」が披露され、〈緑色に光る〉という歌詞になぞらえ、グリーンのペンライトが揺れた客席。観客の元気な歌声と掛け声に、杏里は満面の笑顔をほころばせた。そしてラストには、植田浩二のアコースティックギターと鈴木明男のサックスをバックに「思い切りアメリカン」が披露された。楽曲の後半「ここからはみなさんの番です!うしろに歌詞が出ますので歌ってください。文字も大きくしておきました(笑)」と、老眼世代に優しい施策。手拍子を打ちながら歌う観客に、「みんなの歌声に力をもらえます。本当にありがとう!」と杏里。最後はバンドメンバーと客席に投げキッスを贈りライブを締めくくった。

11月からデビュー49年目に入るという杏里。キーボードの小倉泰治をはじめ、長年レコーディングやツアーをともにしてきたバンドメンバーは家族を超えた存在で、なかでもデビュー55年というサックスの鈴木明男は杏里ツアーのムードメーカーとして人気だ。「悲しみがとまらない」の間奏のソロは鈴木のサックスが恒例となっていたが、杏里には内緒でトランペットの小澤篤士がソロを務めるというウィットに富んだサプライズもあり、「聞いてないよ!」と思わず笑ってしまった杏里。また、来日50年になるにも関わらず日本語を聞いたことがないと、ドラムのケニー・モズレーを冷やかす場面も。同じ時代を過ごして来たからこそ通じ合える、ラフでフレンドリーな空気感もまた、杏里のツアーの醍醐味となっている。

取材・文◎榑林史章
写真◎小林利史

◆杏里 オフィシャルサイト