【インタビュー】中村滉己、芸道20周年記念公演を11月7日に開催。「民謡が持ってるパワーは時代を越える」

民謡歌手で津軽三味線奏者の中村滉己が、11月7日(土)に東京・日経ホールにて<第36回ちよだシーズンコンサート 中村滉己 LIVE「Next Trad」>を開催する。
本公演は、3月にリリースされたアルバム『Next Trad』の名を掲げた、芸道20周年記念公演。中村滉己にとって、史上最大規模の公演でもある。
現代ではあまり馴染みのなくなってしまった“民謡”の魅力を、自分にしかできない形で伝えている中村滉己。今回の公演に向けての意気込みをたっぷり語ってもらった。
時代は変わる、民謡は進化する
新しい民謡の形──
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──前回取材させていただいたのが2月。その後に大学を卒業され、いまはより一層アーティストとしての活動に注力できているのではないでしょうか。
中村:実は、学生の頃とそこまでスタイルは変わってないんです。どこかの企業に就職したとかでもないですし、“慶應大学生”という肩書きがなくなったというだけというか。でも、その肩書きに差し替わる自分のキャラクターやカラーを見つけたいなという意識は強くなりましたね。
──新しい中村さんのキャラクターは見つかりました?
中村:いまTikTokなどで生配信を頑張ってるんですけど、その中でリクエストが来た曲を全然知らなくても即興でジャムってみるということを続けていて。“中村滉己といえば即興演奏”みたいなカラーもいいかなと思っています。
──結構マメに配信してましたよね。
中村:はい、コンサートがない時期とかは週3くらいでやってました。サイン会などがあったら、配信で話したことからファンの方と会話が広がったり、みなさん細かく動向を追ってくれてるなという実感もあって嬉しいですね。あと、和楽器奏者の間ではやっぱりこういう配信ってハードルが高くて。でも僕が続けていることで、“滉己がやっているならやってみようかな”ってハードルが下がったという方もいたり。やっぱり直接反応が見れるのがSNSのいいところですよね。
──3月にリリースした、大学卒業と芸歴二十周年を記念したアルバム『Next Trad』の反響についてもお伺いしたいです。
中村:みんな共通して言ってくれるのが、スルメ曲だねっていうことですね。最初はどうしても「民謡…? バンド…? シンセサイザー…?」って“?”が多かったんですが、聴いていくうちに「OHARA」のフレーズが頭から離れなくなったとか、「MINATO」をドライブでかけたくなったとか、そういう反応が多かった印象です。
──『Next Trad』に入っている民謡のメロディって、覚えやすいんですよね。
中村:何回も聴くうちに、頭に染み付いて離れなくなるというファンの方がたくさんいます。これは僕のアーティスト活動にも通じていて、2〜3回配信を見にきてくれた方が、そこからずっと常連になってくれたりとかするんですよね。
──昨今の音楽は“短いフレーズでいかにバズるか”みたいな傾向があったりしますが、それとは真逆ですね。
中村:僕もこうなるとは思わなかったんですけど、10が20になり、20が30になり、そういう伸び方を自分でも感じられるというのは嬉しいことですね。そしてどこかで30が100になってバズってくれたらいいですよね。
──『Next Trad』は既存の民謡のイメージをガラッと変えた作品でしたが、邦楽界の反応はどうでしたか?
中村:民謡の世界は保守派な方が多いんですが、そんな方たちがみんな「OHARA」について「悔しいけどこれはやられた!」って言ってくれて嬉しかったです。全然これまで僕の曲なんて知らなかったような民謡歌手の先輩が、車で必ず聴いてくれてたりという話も聞きましたし、リハのときの音出しの音源を「OHARA」にしてくれている方もいるんです。「OHARA」は結構振り切ったので、その潔さが良かったっていうことなのかなって思ってます。
──“民謡を聴く、を日常に。”というテーマで制作された作品でしたが、それは浸透してきたなと思いますか?
中村:例えば車で聴いてくださるということとかは、まさに“日常”になった瞬間ですよね。前作アルバムのときは、「全体を通してよかったよ」という声をいただくことが多かったんですけど、『Next Trad』に関しては具体的に「どこそこでこういうふうに聴いてる」と言ってもらえることが多いので、そこは自分の中では成功だなと感じています。
──アルバムを出したあと、初の海外公演も実現しました。
中村:音楽のオリンピックじゃないですけど、各国の団体がチームで来てその国の音楽を演奏するという公演に、日本チームとして参加させていただきました。これまで海外で演奏するというのがひとつの目標だったんですよ。それを達成できたので、次は違う国でどうやろうか、といった夢も生まれました。今回はヨーロッパで正統な演奏をしたので、今度はアメリカの方でロックっぽく弾いてみたいな、とか。
──なるほど、いいですね。ヨーロッパの方々の反応はいかがでしたか?
中村:「ホーハイ節」をやったときにすごい拍手をいただきました。
──え、「ホーハイ節」って刺さるんですか。
中村:多分キャッチーで、メロディもAメロ、Bメロ、みたいな感じで分かれてるからだと思うんですよね。雅楽チームも一緒だったんですけど、どうしても日本の雅楽や邦楽って抽象音楽で構成がわかりづらかったりするので。
──いい経験になりましたね。
中村:はい。僕以外、東京藝大出身で、なおかついろんな挑戦されてる方々なので面白いチームでしたし。海外に行ってみて、こういう披露する場もあるんだという発見になりました。これまではただ海外に行ってみたいという思いだけだったんですが、こういう場所でのパフォーマンスも今後視野に入れていきたいですね。
──演奏会だけでなく、民謡のワークショップとかもされてましたよね。
中村:アルメニアの国立音楽学校で、ゲスト講師として「津軽甚句」を教えました。普通は絶対に五線譜になんてしない民謡なんですけど、ローマ字で無理やり楽譜に起こして、僕が演奏するからこれで歌ってみてねって学生さんにやってもらいました。
──歌えるものなんですか!?
中村:「Too Difficult!」ってめっちゃ言われました(笑)。
──(笑)でも世界に広がっていく日本の民謡って、面白いですね。
中村:こういう体験の積み重ねで自分も成長できるのかなと思いました。
──街中でも演奏されていましたが、ああいうのの反応は?
中村:滅多に行ける場所じゃないので、後悔ないようにたくさんやろうと思って。ウィーンにモーツァルト像があるんですけど、その横の宮殿みたいな場所で演奏したり、気球フェスティバルで有名なアルメニアの共和国広場で演奏したりとか。結構、通りすがりに「Wow!」とか反応してくれたり話しかけてくれたりしましたね。20周年という記念すべき年に、こんな経験ができて嬉しいです。やっとスタート地点に立てたという気持ちもあります。

──そこから津軽三味線奏者の中村卓也とのユニット・ROCKGEN -六弦-のライブもあったり、<中村滉己リサイタル ACOUSTICS 2026>があったり、いろいろ活動されていました。振り返って、印象に残っていることはありますか。
中村:兵庫県立芸術文化センターで行ったROCKGEN -六弦-のワンコインコンサートは印象的でしたね。キャパ2000席が、発売から数分で即完したのが嬉しかった。そして、ワンコインコンサートということで初見の方が多いのはわかっていたので、その方たちに対して自分のパフォーマンスをどう展開していくかいろいろ考えたのがとても勉強になって。和楽器を知ってる方と知らない方、どちらに向けたセットリストを組むのかとか、見せ方の違いとか。以後、それを自分のコンサートでも応用しています。
──和楽器を知ってる方向きのコンサートと、知らない方向きのコンサートって、具体的にどう違いを見せているんですか?
中村:知ってくれている人たちに対しては、自分の気持ちを吐露するかのようなセットリストにしますし、自分の世界に一緒に没入してほしいと思っています。逆に初見の方が多い場合は、カバー曲を入れてみたり身近に感じてもらえるような構成にしています。

──いよいよ開催目前となってきた、史上最大規模で挑む11月7日(土)日経ホール公演は……。
中村:20周年を記念するものでもありますし、自分のこれまでの歩みを見せていきたいと思っています。ただ、千代田区の主催ということで初めての方もいらっしゃると思うので、演出を結構こだわっていくつもりです。例えばAメロ、Bメロ、と曲が展開するにしたがって照明を変えてみたりして、わかりやすさを提示していこうかと。今回、初めて自分で照明のリクエストをパワーポイントで作りまして。曲のタイム何秒から何秒で、この照明をここにこんなふうに当てる、みたいなことを考えさせてもらいました。
──おぉ、すごいですね。
中村:民謡リバイバル曲が、もっとポップス的に皆さんの耳に入っていきやすくするためにはどうすればいいのかと考えています。いろんなアーティストさんのライブ映像を見てパフォーマンスも勉強してて。普段のコンサートではマイクをワイヤレスにして結構歩いたりするんですけど、あえてこの曲はセンターにしかいないとか、定位置でアクションを派手にするとか、色々考えてます。
──『Next Trad』を出したことで楽曲の幅がより広がりましたし、表現が増えそうですね。
中村:そうですね。『Next Trad』をほぼ全曲披露する予定なので、ライブでどうなるかを楽しみにしていて欲しいです。
──SNSにアップされていた、演奏予定曲の紹介動画もわかりやすくてとても良かったです。
中村:ちょっと出しすることで期待も高まるかなと思って。
──改めてここでも見どころについて聞かせてください。
中村:本番のお楽しみと言いたいところですけど、やっぱり生じゃないと伝わらないものってあると思っていて。音圧もそうですし、臨場感と演奏者のひとつひとつのアクションとかって、音源では絶対に伝えきれない。今回でいうと、特にドラムセッションを披露する「NIKATA」ではそれを強く感じていただけるんじゃないかな。「NIKATA」の曲とステージのアクションが交わったときの爆発力って凄まじいと思います。
──他に注目の曲は?
中村:あとはやっぱり「OHARA」です。一緒になってリズムを取ったり、掛け声を入れるタイミングもあるんで、みんなで盛り上がりたいですね。やっぱり民謡ならではの人の心というか温もりが、現代的な歌詞とリズムで表現された曲なので、ぜひ“これが次の民謡なんだ”と思って見てほしいと思います。
──今回初めて中村さんのコンサートに行くという方には、どのように楽しんで欲しいですか?
中村:とにかく超自由に見ていただきたいです(笑)。盛り上がる曲だったら立ち上がってペンライト振っていただいてもいいし、普通にライブに行く感覚で来てもらえたらと思います。最近、ファンの方がオリジナルでペンライト用意してきてくれてたりもして。和楽器のコンサートだからといって正装でこなきゃいけないとかそんなことは全くありません。
──こういうコンサートって、二部構成で途中に休憩が入ったりすることもありますよね。普段ポップスのライブに行く方にとってはそういうのもわからなかったり。
中村:あ、今回は休憩なし70分です!
──へぇ! その中で「津軽じょんがら節」のような伝統音楽と『Next Trad』の曲たちをどう構成していくのか、とても気になります。
中村:そうなんです。そこが面白いところだと思うので楽しみにしていてください。
──そして今回は、なんとチケットが1000円。昨今ライブチケットは1万円を超えることも珍しくなくなった中で、かなり破格ですね。
中村:はい。この金額でアニバーサリーライブができるってなかなかないことですし、皆さんにとっては1000円で新しいエンターテイメントに触れることができる機会でもあります。ちなみに1000円で見ることのできるライブの中では、結構最大限の演出になるんじゃないかな。この機会にぜひ、日本にこういうエンターテイメントを作っていこうとしている22歳がいるんだということを知っていただきたいです。このステージを見て少しでも和楽器を気にしてくれるようになったら嬉しいですね。『Next Trad』は和楽器や民謡を知るための入り口のような作品だったので、今度のコンサートはその入り口を体感するものにしたいです。
──会場は過去最大規模です。中村さんご自身としては、楽しみですか? 緊張ですか?
中村:楽しみと緊張で半々です。もう開催まで一ヶ月切ってますけど、とにかく自分のカラーであの会場を染められるように準備を進めていかなければいけないなって感じですね。
──このライブで伝えたいことはありますか。
中村:とにかく民謡が持ってるパワーは、時代を越えるということです。スマホやAIもないアナログな時代に生まれた民謡には、人間同士の温もりだったり男女の恋愛観だったり、生活のことだったり、そういうものがたくさん詰め込まれてて。そういったものを、便利になりすぎたいまの時代だからこそ感じてほしいんですよね。民謡って、いまは文化として保存の対象なんですよ。もともとは民衆の中から生まれた音楽なのに、昔の文化として語り継いでいくだけのものになってしまっている。でも僕はその民謡の魅力を、アレンジして伝えるようにしてるので、それを今回のコンサートで感じていただけたらいいなと思っています。
──民謡って、全然知らなくてもいざ聴いてみたら耳馴染みがいいんですよね。
中村: そう思います。日本人は味噌汁を飲んだら落ち着く、みたいなことと同じだと。ポップスがたくさん聴ける時代になって、みんな民謡を聴くという選択肢がなかっただけだと思うんですよ。だから聴いてさえもらえれば結構楽しめるものだと思うので、11月のコンサートでみなさんに体験してほしいなと思います。
──ちなみに中村さんは、9月に日本郷土民謡協会の公認教師に認定されましたね。
中村:はい。教える人としての技術や能力があるという認定をいただきました。僕は民謡の伝統にきちんとリスペクトを持って活動しているので、こういった看板をもらえたことがとても嬉しいですね。
──津軽三味線にしてもそうですし、中村さんは正統な伝統の継承者である点が素晴らしいと思っています。
中村:ありがとうございます。でも、そう堅く捉えていただかなくて大丈夫です! 民謡は絶対に日常的に聴ける音楽なので、日経ホールの公演ではそれを実感してほしいです。
──日経ホール公演を終えてからは、どのように活動していく予定でしょうか。
中村:2026年は楽曲をリリースして、自分のやりたいことを表現できた一年だったので、次はもっともっと知ってもらうための活動をしたいですね。その第一歩が日経ホールのコンサートなので、皆さん見届けにきてください!
取材・文◎服部容子
<第36回ちよだシーズンコンサート 中村滉己LIVE「NextTrad」芸道20周年記念公演>
2026年11月7日 (土) 日経ホール
会場 15:00 開演15:30
出演:
中村滉己(三味線 Vo)
友田ジュン(Key)
竹内大貴 (Dr)
チケット:
一般:1,000円
こども(小学生~中学生):500円
(全席指定・税込)







