【インタビュー】GLIM SPANKY、2年4ヵ月ぶりアルバム『Éclore』に今だからこそ大切なこと「何が本当か、自分は何を信じるのか」

GLIM SPANKYが3月25日、2年4ヵ月ぶりのオリジナルアルバム『Éclore』をリリースした。同アルバムには、『BYD SEALION 7』CMタイアップ曲「衝動」、TBS系ドラマストリーム『スクープのたまご』主題歌「カメラ アイロニー」、FODオリジナルドラマ『こないだおばさんって言われたよ』主題歌「春色ベイビーブルー」を含む、全10曲中8曲を新曲として収録。メンバーのみで作詞・作曲・編曲のすべてを担うなど、GLIM SPANKY純度100%の仕上がりだ。
『Éclore』はフランス語で、“孵化する” “(花が)開く” “(才能などが)生まれる/出現する”を意味する言葉。そのタイトル通り、本作には“新しい自分になる/何かから抜け出す/回復する”という感覚が、全編にわたって息づいている。「ロックと向き合いながら、音楽を通じて伝えるメッセージ」を探求した本作は、彼らの新境地を切り拓き、今まさに羽ばたこうとするアルバムとして届けられる。アルバム『Éclore』のオフィシャルインタビューを以下にお届けしたい。

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■ひとつひとつの楽曲がそれぞれ独自の物語
■短編ムービー集や短編小説集みたいなアルバム
──フルアルバムのジャケットに、松尾さんお一人が写っているのは、これが初ですよね?
松尾:そうですね。これまでは“GLIM SPANKYはこの二人”ということを見せる意味でも、ジャケットには必ず二人一緒で写る、という縛りを自分の中で設けていたんです。でも10周年を越えて、次の新しい一手というか、何かアップデートした面白いことができないかを考えたときに、ジャケットやアートワークより先に、まずアルバムのテーマが決まったんですね。昨年の終わりに、私が喘息で寝込んでいた時期があったんですけど、そのとき頭の中にあったのが“復活”や“孵化”というワードでした。とにかく早く治して、そこからさらに成長したい、進化したいという気持ちがあったんだと思います。しかも、自分がいま書きたいことや、曲たちに共通する無意識のテーマを探っていくと、全部“新しく何かをする”とか“変わる”とか、そういうことにつながっていたんですよ。それで、ふさわしいタイトルを探していたときに、「Éclore」には“孵化する”とか“花が開く”とか、そういう意味があると知って。
──ぴったりだなと。
松尾:もう一つ、アルバム用に出揃った曲を改めて見てみると、“私と誰か” “私とあなた”という書き方がすごく多いことに気づきました。そこから、まるで会話劇を見ているような、映画や小説の世界に感情移入していくような、そんな体験ができる作品にしたいなと。ひとつひとつの楽曲がそれぞれ独自の物語になった、短編ムービー集や短編小説集みたいなアルバムにしたい、ということをデザイナーさんにも伝えて。それで出来上がったのが、今回のアルバムジャケットなんです。
──松尾さんの衣装も幻想的で、とても素敵です。
松尾:ありがとうございます。自分でも、いままでで一番気に入ってるかもしれないです。もともと妖精が好きだったこともあるし、“羽”って可愛いなと思っていたんですよ。しかも今回は、天使や蝶々じゃなくて、“蛾”や“蚕”がいいなと。そのイメージを衣装さんと共有して、それをもとに作ってもらいました。

──音楽的には、デビューから10年間の集大成とも言えるベストアルバム『All the Greatest Dudes』を経て、何か新たな一手を考えました?
亀本:すごく考えましたね。今回、松尾さんと共有して取り組みたかったのは、歌唱表現を、これまでの自分たちとも周りのバンドとも違うものにしていきたい、ということでした。歌い方そのものもそうですし、声の音色ももっと現代的にできないか、と。たとえば今の時代、僕も含めて音楽をヘッドフォンで聴くことが多いじゃないですか。そういう環境の中で、もっと歌が前にある感じというか、ある意味ちょっとASMR的な、声の近さや質感を目指したいなと。実際に松尾さんには僕の自宅の作業場に来てもらって歌ってもらうなど、いろいろ試行錯誤していきました。
松尾:特に意識したのは、声の“下の部分”を出すことでした。私はこれまでずっと、レコーディングで映える歌い方というより、ライブの爆音の中でも負けない歌い方を追求してきたところがあるんですよ。でも今回は亀(亀本)の自宅で歌を録って、DAWの波形を見ながら「こういうふうに歌うと、この帯域がよく出るんだね」「こっちのほうがより低音が出るよ」みたいに、何度も歌い方を試してみたんです。その結果、今度はライブの現場でPAさんに「なんかすごく下の成分が波形で出てるけど、どうしたの?」って言われたんですよ(笑)。自分ではそこまで意識していなかったけど、声の成分をより幅広く出す歌い方が、ちゃんと身についていたんだなと思いましたね。
──先ほどおっしゃった休養期間中は、どんな心境だったのかをもう少し詳しく聞かせてもらえますか?
松尾:まず、2年前にコロナになったときのことを思い出してしまって、“もうああなるのは嫌だな”と思いましたね。その一方で、ちょうどアルバムを作らなきゃいけないギリギリの時期でもあったし、“今の焦っている自分”や“咳をしている自分”さえ作品にしようとも思っていたんです。映画を観たり、本を読んだりしてインプットもたくさんしたし、ある意味この療養期間は、自分の気持ちとものすごく向き合った時間でした。そのうえで、今の自分はどんな音楽が聴きたいかを考えたんです。自分は喘息で苦しんでいるし、世の中的にも、たとえばAIみたいなものがいろいろ出てきている。“どれが本当かわからない” “何を信じるべきなのか”という混乱がある。そういう苦しみや悩み、葛藤をそのまま歌うのではなく、むしろそこから少し離れた視点で歌いたいなと思ったんです。不安定な世の中だからこそ、自分自身が弱っている今だからこそ、大切なのは自分を信じることなんじゃないか、と。何が本当か、自分は何を信じるのか。とにかく自分と向き合うことの大切さを、自分たちの音楽にのせて発信したくなったんですよね。
──何か対立軸を作って反対側からカウンターを打ち出すというより、別の選択肢を提示するオルタナティブな感覚に近いのかもしれないですね。
松尾:そう思います。私は昔から、“決められること”がすごく嫌なんですよ(笑)。うまく言えないんですけど、“ロックなんだからこういう考えでいなきゃダメ”とか“こっち側じゃないと敵だ”とか、そういう決めつけが本当に苦手で。たぶん、自分のあり方を外から規定されたくないんだと思います。自分には自分の考えがあるけど、それで何かと対立したいわけでもない。結局“自分は自分”だし、これを聴く“あなたもあなた”だ、ということが言いたいんだなと。それは音楽だけじゃなく、政治でも生き方でも、何にでも言えることだと思っていて。あの時期に自分と向き合い、いろいろ考えたことが、今作にすごく反映されていると思いますね。
──ちなみに、このアルバムを作っていた時期に、お二人はどんなものにインスパイアされましたか?
松尾:外に出られないぶん、映画はたくさん観ました。印象に残っているのは、ウォン・カーウァイの『若き仕立屋の恋 Long Version』です。主人公が自分のやるべきことに真摯に向き合っている姿が本当に美しくて。人間の生活の中にある、悲しいけれど美しい情景みたいなものに胸を打たれました。’60年代の、少し乙女な映画もよく観ていました。去年の夏くらいに、6〜7年ぶりにフランスへ行ったんですよ。それもあって、『汚れた血』や『ポンヌフの恋人』、『白夜』、『夏物語』、『気狂いピエロ』などもたくさん観ました。タイトルをフランス語にした理由も、その旅行が大きいですね。ほかにも王道ですけど、『パリ、テキサス』も見直しました。ちょうど「わたしはあなた」を書いていた頃で、祖母が亡くなった時期でもあって、別れというものをすごく意識していたんです。『みじかくも美しく燃え』を観たのも、きっとその影響ですね。
亀本:僕がアルバムを作る上で大きかったのは、RADWIMPSのトリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS Tribute-』です。Mrs. GREEN APPLE、米津玄師さん、SEKAI NO OWARI、ずっと真夜中でいいのに。、上白石萌音さん、ハナレグミ、iriさんなど、日本のトップクラスのアーティストたちが勢揃いしているような作品で。もちろん、曲自体がRADWIMPSの曲だからというのもあると思うんですけど、ほとんど全部の曲が生録音だったんです。しかも弦やいろんな音がかなり入っていて、有機的で温かい生の演奏がちゃんと鳴っているし、歌にも人間味がある。そういうものがきちんと“見える”のっていいなと思ったんです。今回、音数をかなり減らして松尾さんの歌をより聴かせるようにしたのは、このアルバムを聴いた影響も大きかったと思いますね。
──本作は、作詞・作曲・編曲、そしてプロデュースまで、全て二人だけで手がけたそうですね。
亀本:結果的にそうなった、という感じですね。これまではポジティヴな意味で、いろいろなチャレンジもしてきたんです。たとえばアレンジを誰かにお願いしてみようとか、誰かを呼んでコラボしてみようとか。でも今回は、ある意味“とにかく作品を作らなきゃいけない”という、締め切り的にも差し迫った状況があって(笑)、半ば強制的に2人だけでやる形になったところはありました。ただ、結果的にはそれがすごく良かったなと思っています。
──では、1曲ずつ聞いていきます。まず「第六感」ですが、先ほど松尾さんがおっしゃっていた「自分と向き合うことの大切さ」を、第六感を研ぎ澄ませることに喩えた楽曲だと言えますね。
松尾:そうですね。「第六感」みたいな感覚は、すごく大事だと思うんです。さっきも言ったように、自分が“これがいい”と信じられるものがちゃんとあることはすごく大きい。そこがブレてしまうと、生きている途中でも、曲を作っている途中でも、だんだん自分に自信がなくなっていってしまう。それが自分の中では一番嫌なんです。だからこそ、第六感というか、自分の中で“これだ”とピンときたものを信じて進めば後悔しない。そういう感覚を歌いたかったんです。
──「大天使」のようなアレンジも、これまでのGLIM SPANKYのレパートリーの中では異色だと思いました。
亀本:そうですね。今流行りのJ-POPも意識しつつ、速めの8ビートというか、16分っぽいビート感で、少し打ち込みっぽい感じの曲がやりたくて。ただ、普通に歌メロありきで作るとつまらなくなると思ったので、まずメインのリフをしっかり作り込もうと思いました。それだけでだいぶロックっぽくなるんですよね。しかもマイナーキーのリフって、けっこう作るのが面倒くさいし、みんな避けがちだからこそ差別化できるかなと(笑)。そうやって試行錯誤しているうちに、なんとなくメロディーも固まっていきました。そこにコード進行をはめてみたら、いわゆる「丸サ進行」(椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」で使われたIVM7-III7-VIm7-(Vm7-I7)というコード)になっちゃって(笑)。変にこねくり回すより、手癖で出てきたメロディーが延々と繰り返されている感じも、なんか楽しいなと思って、そのまま進めました。
松尾:この曲の歌詞は、本当にギリギリで仕上がったんですよ。ライブもツアーも始まっていた中で、「この日に仕上げなかったらアウト」みたいなレコーディング日程で。しかも歌詞が全然できていないまま、大阪でドレスコーズとのツーマンがあったんです。その翌日が歌録りだったので、ライブの後にとりあえず打ち上げだけ行って(笑)、ホテルで朝まで書いて。そのまま移動の新幹線と、レコーディングスタジオに向かうタクシーの中でも、もう一回ブラッシュアップして。歌録りギリギリのところで完成して、そのまま録った、という感じでした。結果的にはすごく気に入っています。自分でも、面白い歌詞ができたなと思ってます。
──「春色ベイビーブルー」も異色というか、疾走感あふれるロックナンバーですよね。
亀本:ギターを思い切りジャカジャカ鳴らす、速い曲がやりたくて。アイデア自体は2年くらい前からあって、そこから試行錯誤を繰り返しました。ちょうどその頃、『Sonny Boy』の主題歌だった銀杏BOYZの「少年少女」を偶然聴いて、“これ、めっちゃいい!” “こういう感じがやりたい!”となって。それでも、僕らがやると銀杏BOYZにはならない。
松尾:私が歌詞を書きながら思い浮かべてたのは、サニーデイ・サービスの「恋におちたら」でした。あと、ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」とか。どちらも東京の春というイメージなんですよ。晴れやかな空の下、住宅街を歩きながら“どこにでも行けそう”みたいな気持ちになれる。その感じをちょっと入れたいなと思って。春なんだけど、ただただ明るい春というよりは、少し切なさもある。だから色はピンクじゃなくて、“春はベイビーブルーだな”と思って作りました。
──「あたらしい物語」はどうですか?
亀本:これは何年か前、タイアップのコンペに出した曲だったんですよ。新生活とか、新しい社会みたいなテーマのCMで、それ用のワンコーラスのデモを作ったのが始まりでした。それをちゃんと形にしよう、ということで作り始めたのがきっかけです。
松尾:ちょうど自分が療養したり、いろいろあった時期とも重なっていて、その頃は“生まれ変わりたい”みたいな気持ちがすごく大きかったんです。新しい季節が訪れるたびに、もしかしたら毎日少しずつ生まれ変わっているのかもしれないし、毎日殻を破り続けているのかもしれない。そういうことを、ちゃんと噛み締めたくなったんです。
──「ラストシーン」で獲得した、松尾さんの“職業作家的な曲作り”が生かされた曲ですよね。
松尾:まさにそうで、「ラストシーン」の作家的な感覚を呼び起こした曲でもありました。この頃はユーミンをよく聴いていて、特に荒井由実時代の「生まれた街で」という曲が頭から離れなくなっていたんですよね。“街角に立ち止まり 風を見送った時 季節がわかったよ”という歌詞があって、季節の変わり目に気づく、自分の中の大切な記憶についての曲を、私も作りたくなったんです。たとえば昼間の喫茶店で、窓の外の交差点をぼんやり眺めている時とか。コートを着ている人がいるな、とか。店の中は静かで、ストーブの上ではやかんの湯気が立っていて、とか。そういう時に、すごく安心を感じるんです。その温もりを曲に込められたと思っていますね。







