【インタビュー&レポ】#KTCHANの心地よいRAPの秘密に迫る

2025年11月6日、東京国際ミュージック・マーケット(TIMM)によるイベントの一環として、渋谷ストリーム稲荷橋広場にてinterfmの人気音楽番組「TOKYO MUSIC RADAR」の公開収録とミニライブが開催され、ゲストとしてRapperの#KTCHANが登場した。
「TOKYO MUSIC RADAR」でMCを務めるNagie Laneのmikakoが、ステージに#KTCHANを呼び込み、女子トークのようなフランクな会話が繰り広げられた。うら若き女子とは言えど、ふたりとも現役のミュージシャン、その会話はアーティストならではの心の機微が語られる貴重なものでもあった。
──(mikako)ここ渋谷ストリーム稲荷橋広場 特設ステージよりお送りしています『TOKYO MUSIC RADAR』の公開収録「LIVE ON RADAR」、本日のゲストは今注目の新世代Rapper、#KTCHANです。

#KTCHAN:ヤッホー、#KTCHANだよ、よろしく。
──(mikako)#KTCHANは20004年、横浜生まれの21歳。2022年に「高校生RAP選手権」でFreestyle RAPデビューしたRapperですが、それまで普段からRAPをしていたんですか?
#KTCHAN:RAP自体に興味はあったんですけど、Freestyle RAPをやったことはなかったんです。その「高校生RAP選手権」は高校3年生の時だったんですけど、コロナ禍真っ只中でイベントや行事が全くないところで「やばい、このままじゃ花のJK、なんもないまま終わっちゃう…」ということで、たまたま見つけたのが「高校生RAP選手権」。予選会の2週間前からFreestyle RAPの練習を始めて、そこから本選に行けちゃって。
──(mikako)それはすごい。元々ヒップホップとかRAPを聴いて育ってきたんですか?
#KTCHAN:小さい頃はジブリを聴いたりとか聞いてたりしてたんですけど、メロディアスなRAPは中学生の頃からよく聴いていました。
──(mikako)それにしても予選の2週間前から始めたって、よほどの覚悟がないとできないと思うんですけど…。
#KTCHAN:「高校生RAP選手権」に関しては、ほんと思い出作りのノリで「行っちゃえ」っていうところから始まったんです。ただ、高校生になった時に日記とかちょいちょい書き溜めていたんですけど、リリックを書いてみようかなと思ってそれを見返してみたら、語尾が全部韻を踏んでいたんですよ。「あれ?これRAPじゃね?」って思って、そこから意識的にRAPに興味を持ち始めました。
──(mikako)凄ーい。偶然というか、無意識でそのような表現をしていたんですね。
#KTCHAN:そうですね…導かれてた(笑)。
──(mikako)そこから「高校生RAP選手権」で初めて人前でRAPしたんですよね?凄くないですか?
#KTCHAN:本戦会場は渋谷のSpotify O-EASTだったんですけど、オラオラーって指ポキポキやっているフィメールRapperに威嚇されまくりながら、1000人ぐらいの前でステージで闘いました(笑)。
──(mikako)すごい話ですよね。そもそも人前で新しいことに挑戦する事自体、凄く緊張することだと思うんですけど、いきなりO-EASTでBATTLEするなんて。
#KTCHAN:非日常過ぎて、逆に「夢の世界って空を飛べたりとかする」じゃないですか。あの感覚と一緒で「この場所だったらなんでもできんじゃね?」みたいな、謎のバイブスの上がり方をしていました。
──(mikako)そこから全てが始まったんですね。
#KTCHAN:そこからいろんなMC BATTLEに呼んでいただいて、アーティスト活動を本格的に始めて今年の1月にデビューして、です。
──(mikako)メジャーデビューしてから9ヶ月で5曲もリリース…すごいスピードですね。

#KTCHAN:デビューシングルからの3曲は3ヶ月連続でリリースしていて、そこからひたすら制作して録音してライブして…っていうのを繰り返しまくった時期でした。
──(mikako)デビューの手応えというのはいかがでした?
#KTCHAN:デビューしてから、改めて「自分ってなんぞや」みたいなこととか、自分の「このモヤモヤって、言語化したらどういう感情なんだろう」とか、内面のことについて向き合う時間をじっくり取っていたので、デビュー前よりも、自分自身への理解もより深まった気がするし、アーティストとしてクリエイティブをしていく中で、より濃いものができるようになってきたんじゃないかなっていう実感があります。
──(mikako)#KTCHANのXのアカウント名は「kt_disritakunai」で「disりたくない」とありますよね。そこに自身の精神性があるのではないかと思ったのですが。
#KTCHAN:HIPHOPって普通disり合うものなんです。disリスペクトを送り合うので、RAPを知らない人からすると悪口を言い合っているみたいな感じなんですよ。自分が初めてそういうFreestyle RAPを見た時も、単純に「怖いな」って感じたし、disりたくないしdisられたくもないなって思ったんです。直接disらないRAPだったり、褒めるRAP、ポジティブなエネルギーに変えていくRAPがしたいと思ってからは、それをずっと貫いてやっています。もちろん普通のことをしているわけではないからアンチもあったんですけど、楽曲の中でも変わらずに一貫して自分の中でやってることではあります。
──(mikako)#KTCHANからのそういう発言、嬉しいです。やっぱり怖いと思ってしまうところありますよね。それはそれで生命力を感じるところでもあるんだけれど。そんな#KTCHANですが、10月8日に「ホントウノコト。」という曲がデジタルリリースされましたが、楽曲をモチーフに香水も作ったとか。
#KTCHAN:そうなんです。曲を聴いてもらったらわかるんですけど、「もうこの関係を終わりにするべきかもしれないけど、でもまだこの関係の中で漂っていたいな」っていう大切な人を想う曲で、香りがキーワードになっているんです。なので、この曲の世界観を表現する香水を作らせていただきました。
──(mikako)歌い出しのリリックから、香りというワードが出るんですけど、香りって記憶とか季節とすごく結びつきますよね。出来上がった香水「Pefume KT」は、どんな香りなんですか?
#KTCHAN:男女兼用で、結構爽やかめな石鹸っぽい感じです。

──(mikako)いいですね。ミュージック・ビデオの青い色合いも、ソープの香りとすごく似合っていますね。
#KTCHAN:泡みたいな儚い中でもまだ漂っていたいというイメージともリンクしていて、そういうところも意識しながらプロデュースしたものなんです。
──(mikako)「ホントウノコト。」という曲が作られたきっかけは、どういうものだったんですか?
#KTCHAN:私はいつも常にノートを持ち歩いているんですけど、日常の中で感情が揺れ動いた瞬間とかを全部書き留めるようにしているんですね。で、家の中でメイクしていた時に、ドレッサーの脇に置いてあったその香水がなくなりかけていて、自分の心の中で思っていた感情とその香水が急にリンクして、「そういえば、大切な人と出会ったのはこの香水がきっかけ…というか、その人のためにこの香水を買おうって思ったんだよな」って思い出して。
──(mikako)うわー、胸がキュンキュンする。
#KTCHAN:そういうことをちょっと思い出して、そこから曲になりました。
──(mikako)普段からメモを取ったりしているんですね。こういうものを歌にしたいみたいなモチーフになる感情なんかもメモるんですか?
#KTCHAN:基本的には「自分の中での葛藤」とか「なんで自分こういう風にできないんだろう」みたいな、ド頭に出てくるのは割とネガティブなものが多い気もするんですけど、でもそれをありのまま書き留めておかないと自分自身の心や本音とは向き合えないし、そこから「自分の中でどういうふうに考えを変えていくことが、真っ直ぐ生きるってことなんだろう」って考えた後に、それを作品にしたいなって思っています。なので「同じような感情が湧いた誰かにそれが届いてくれたらいいな」「少しでも力になってくれたらいいな」っていう気持ちで書いてますね。
──(mikako)「disりたくない」という#KTCHANらしい話だと思いましたが、いわゆるRapperの人って、怖いと思われがちですよねか。
#KTCHAN:そうですね。圧があってパワーがあるので。
──(mikako)そう。disリスペクトをめっちゃ言っていたりするとそういう印象を受けるわけですけど、案外Rapperってどういう人だったりするんでしょう。
#KTCHAN:みんな、見た目によらず繊細で優しい人が多いんですよ。元々ヒップホップって、生きていた自分の道…そのバックボーンに苦悩がいっぱいあったり、精神的にマイノリティだなって思っているものでも、それを力に変えてRAPにエネルギーを込めている人がほとんどだと思うんです。そのファッションストリートの中では強そうな見た目をしている方が多いですけど、根本的にはみんなアーティストだから、実際話をしてみるとすごく優しく寄り添ってくれたり、「最近元気にしてる?」みたいに声をかけてくれたりする方が多いんですよね。
──(mikako)魂の叫びをリリックにしている方々だから、同じ苦悩を味わってる人と寄り添える。
#KTCHAN:そうですね。そういう使命感を持ってやっている人が多いなって思います。
──(mikako)ちなみにヒップホップの世界って上下関係とか厳しかったりするんですか?
#KTCHAN:どうなんだろう…。実際はどうかわかんないんですけど、私に関しては結構歳も離れている方が多いし、女の子っていうのもあるので、挨拶する時は超大先輩とかでもハイタッチしてグータッチみたいな感じで、よろしくお願いしますみたいな感じにはならない。私の中では意外とラフな感覚です。
──(mikako)ヒップホップの世界の独特の文化や、そのギャップに困ったこととかは?
#KTCHAN:それこそハイタッチしてグータッチが自分の中では当たり前すぎて、それを他所でやると「ここは違かった」(笑)っていうのがあります。バラエティーとかで、芸人の方とかタレントさんとご挨拶するときに、タッチの手を出しそうになって(笑)。なので楽屋挨拶のときは、失礼なことをしないかヒヤヒヤしながら一般的な日本の距離感を保ちながらやっています(笑)。
──(mikako)優しいRapperさんもたくさんいらっしゃるんでしょうね。
#KTCHAN:カルちゃん(呂布カルマ)とか、Zeebraさんはぶらりんって呼んでいるんですけど、優しくて、もうお父さんみたいですよね。
──(mikako)え?呂布カルマさんを「カルちゃん」、Zeebraさんを「ぶらりん」って?
#KTCHAN:はい、DOTAMAさんは「たまちゃん」、漢 a.k.a. GAMIさんは「かんかん」。みんな可愛いあだ名を付けています。

──(mikako)すごっ。でも一気に親近感がわきますね。
#KTCHAN:そうなんですよ。久しぶりに会うと「最近#KTCHAN元気なの?」って声をかけてくれる。ありがたいですよね。
──(mikako)そこは#KTCHANの人柄もありますね。そんなRapperの世界ですけど、日常にヒップホップがどれくらいあるんでしょう。癖でガンフィンガーしちゃうとか。
#KTCHAN:あーあります(笑)。指を銃の形にしてウェーイって上げるのをガンフィンガーって言うんですけど、Rapperは現場で盛り上がった瞬間とかにウェーイってガンフィンガーするんですよ。
──(mikako)ですよね。
#KTCHAN:だから、それやったら「ヒップホップ好きなんだな」って一瞬でわかるんですけど、全然ヒップホップの現場じゃないところ…打ち合わせとか、誰々さんの誕生日ですよとか言われたときに「うえーい」ってガンフィンガー上げちゃったり、ご飯食べてて「これマジで美味しい」ってガンフィンガーをあげちゃったり、場違いなところでやっちゃうことにたまに気付く。
──(mikako)でも、緊張感のあるミーティングでも、小さくやれば同じパッションを共有できるかも。
#KTCHAN:確かにヒップホップ好きな同士で繋がれますよね。
──(mikako)そういうハンドサインがあるっていいですね。
#KTCHAN:そうですね。写真撮るときRapperしかしないだろうみたいなポーズとかありますよね。親指、人差し指、中指3本出してたり、小指出してる人とか、中指だけ引っ込ましてパー作ったりとか、人それぞれなんですけど、みんなそれぞれRapperだなって感じます。そういうポーズはRapper以外でやってる人は見たことない。DJさんぐらいじゃないですか?あと私は、重低音に身体が反応します。
──(mikako)どういうこと?
#KTCHAN:ヒップホップって地響きが鳴るような重低音が常にずんずんずんって鳴っているビートが多いんですけど、街中の工事とかトラックのエンジン音、あと貨物列車のガタンゴトンとかでリズムを刻んじゃう。凄くテンションが上がっちゃうんですよね(笑)。ヒップホップの重低音が癖になりすぎて、日常生活のゴゴゴゴ系の音が心に来ちゃう。アドレナリン出ちゃう。
──(mikako)ノイズの中にバスドラを感じたりするってことね?
#KTCHAN:そう。ガタンゴトンとか言ってると、だんだん勝手に身体が揺れてくる。
──(mikako)その上でFreestyleしちゃうとか。
#KTCHAN:たまにありますね。普通のアーティストで言えば「シャワーの音でメロディーが降ってくる」みたいな人がいますけど、あれと同じ感覚でゴゴゴゴみたいな音が鳴ってるとフロウが降ってくるような感覚になる。職業病かなと思いますね。
──(mikako)いつでも韻を踏んじゃうというのもあるそうですね。
#KTCHAN:長い文字の看板とか、テレビの字幕をサウナとかで見ると、他に何もすることないからその字幕で韻を踏めるかなって考えちゃう。目に入ったものでひたすら韻を踏んでいくみたいなことは暇な時にやりますね。スマホをずっと見ているのが苦手で、脳みそ疲れちゃう感覚があるので、何もしたくないなというときはたいてい韻を踏んでいる。
──(mikako)で、目についたものをノートにどんどん書いたりとかして。
#KTCHAN:いや、ノートには書かないかもしれない。
──(mikako)え、そうなんですか。じゃあノートに書いてるのは?
#KTCHAN:感情の断片が多くて、日常の中で「今私、こういうものにエモさを感じた」とか「木枯らしで切ない気持ちになった」とか。それのうまい表現が浮かんだ時とかに書き留めたり。普通にプライベートでも「なんでこういう風に思っちゃったんだろう」みたいな、自分の心理分析みたいなものなので、日記に近いですね。そのパズルのピースを組み合わせて1曲にしたりするので。
──(mikako)でもそこに韻は書かない。
#KTCHAN:韻は書かないですね。ひとつの作品として作詞しようってなった時、まず自分の言いたいことがあって、その中で韻を踏む。RAPの要素として必要不可欠だしこだわりたいポイントで、ワードチョイスにも手を抜きたくないなって気持ちはありつつ、1番大切なのはやっぱパッションだから、自分の気持ちが1番伝わることを大切にしてます。自分が1番言いたいこと言えなかったら、それは本末転倒だなと思っちゃう。
──(mikako)感情が整ったうえで韻を踏んでいくという順番なんですね。
#KTCHAN:そうです。口に出してみたとき「これ気持ちいいな」みたいなのをチョイスしていったり。自分でワクワクするワードチョイスをする。
──(mikako)そこに時間はかかるんですか?
#KTCHAN:思いつくものはいっぱいあるんですけど、自分のマインドに1番近い形でライムできるワードってどれだろうっていうところで結構時間かかったりします。私は曲を書き始めたら、家の中にこもって7~8時間とかずっと座りっぱなしで集中して作るので、じっくり熟考して作るタイプ。割と30分とか2時間ぐらいで書き上げられますみたいなアーティストも多いと思うんですけど、私は時間がかかっちゃいます。
──(mikako)なるほど、だから#KTCHANの作品には、すごく耳心地がよくて気持ちの良いライムとグルーブが流れているんですね。秘密が分かった気がしました。貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー◎mikako(Nagie Lane)
文・編集◎烏丸哲也(BARKS)

New Digital Single「ホントウノコト。」
2025年10月8日リリース
COKM-46061
https://lnk.to/KTCHAN_hontounokoto

#KTCHAN 初著書『飛んできたナイフは、プレゼントで返したい。』
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