【インタビュー】由薫、ドラマ『推しの殺人』主題歌「The rose」に残酷さと混沌と光り「美しさとはどういうものか?」

2025.11.16 17:00

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由薫が10月22日、ドラマ『推しの殺人』主題歌にして新曲「The rose」をデジタルリリースした。同ドラマは原作が第22回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞したもの。その原作小説とドラマ脚本を由薫自身が読み込んで、“美しさとはどういうものか?”をテーマに制作された書き下ろし楽曲が「The rose」だ。

◆由薫 画像

「星月夜」(ドラマ『星降る夜に』主題歌)、「Sunshade」(ドラマ『笑うマトリョーシカ』主題歌)など、これまで担当した数々のドラマ主題歌が高い評価を得てきた由薫だが、とりわけ今回、彼女が真正面から向き合ったのは音楽家としての自分自身。「楽曲を作る中で、自分自身のなかにあった、トゲトゲとした静かな怒りのような気持ちと向き合うチャンスをいただいたなと思います」とは「The rose」制作に関する由薫のコメントだ。前回のBARKSインタビューで、「今年のテーマは“見つめる”」だと語っていた由薫は、より鋭く自身の心の深部に潜り、その奥にある闇やマグマと対峙することで、この楽曲に残酷さと希望を見たようだ。「The rose」には混乱のなかで、それでも静かに咲く美しさがある。

邦楽や洋楽といったカテゴライズすら超越したメロディラインを中核としたサウンドについて、血の通ったバラードにするべく川口大輔に依頼したというアレンジについて、そして現在の自身について、じっくり語ってもらったインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■私はもともと暗い人間だし
■こういう曲があったっていい

──この夏は8月から9月にかけて弾き語りツアー<UTAU>で各地を回ってきました。東名阪ツアー<YU-KA Tour 2025 “Wild Nights”>ファイナルのアンコールで<UTAU>開催が発表されましたが、デビュー後、初の弾き語りツアーが、なぜこのタイミングだったのですか。

由薫:これまでバンド形式でのワンマンライブを何回かやってきたんですけど、特にデビューしてからは、“ひとり長尺をやるライブってやっていなかったな”と思ったんです。ちょうど<UTAU>ツアーの前の時期は、いろんなことを考えたり、自分と向き合う時間でもあって。そういうなかで、普段のライブではバンドの皆さんがすごく上手いから自分も進化している気分になるけど、じゃあ全部の皮を剥いでひとりになったとき、自分はどういう表現をするんだろうと思ったんです。

──観客と一対一で鼓動を伝えるような親密な距離感というか。

由薫:はい。あとは、弾き語りだと身軽にいろんな場所を回れますしね。今回のツアーでは教会とか講堂、カフェとかいろんな会場でライブをしたんですけど、お客さんと近い距離で会えるのも、今の時期にすごく大事なことかなと思って。弾き語りは個人間の対話みたいな感覚があるので、そういう距離感でみんなの顔を見たり、会いたかったという思いもありました。

──会場によっては生の声でも届くようなところもあったり、歌やギターの響きなども楽しめたようですね。

由薫:音の響きは、各会場で全然違って面白かったですね。ライブハウスは、いろんな音が反響し合わないように設計されていますけど、<UTAU>ツアーで回った会場は響きがすごく良かったんです。窓がたくさんある会場もあって、ライブ前には太陽光が入ってきたり、夜になったら星空が見えたり。車が道を通る音とかも聞こえたりする。そういう外とのつながりがあるのが、新鮮でした。

──前回のBARKSインタビューで、今年のテーマは“見つめる”だと話していました。それが、この弾き語りツアーにも反映された感じですか。

由薫:そうですね。同じ<UTAU>ツアーのなかでも、毎回場の空気が本当に違うんです。会場によってお客さんの空気が違ったり、それに合わせて私も曲や話す内容を変えたり。“ここのお客さんはじっくり聴きたいタイプだな”とか、“こここのお客さんは盛り上がりたいんだな”っていうことに対応していきたい気持ちも芽生えました。同時に、自分で空気を作る難しさにも直面しているんですけど、そういうところに向き合えたのも弾き語りツアーならではだったなと思います。毎公演何かしらの勉強があるので、自分の経験値を上げていくことができたのかなと思ってます。

──お客さんの様子を見ながら、その場で曲を変えることもあるんですね。

由薫:途中からそうするようになりました。ツアーの最初のほうはガチガチにセットリストを決めていたんですけど、少しずつ変えたりすることもできるようになって。即興でちょっと歌ったりとかもするようになったり。新しいことをやってみましたね。

──充実した弾き語りツアーを経て、10月22日にはニューシングル「The rose」がリリースされました。この曲は、10月から放送がスタートした読売テレビ・日本テレビ系木曜プライナイト『推しの殺人』の主題歌でもありますが、制作としてはどのように着手していきましたか。

由薫:「The rose」は、先ほどお話した自分と向き合う期間…“見つめる”というテーマのなかで、弾き語りツアーもそうでしたけど、“自分ひとりで曲を作る”というのもそうで。

──デビュー以来コライトでの制作も多かったので、自分ひとりでどういうものができるか曲を作っていきたいという話を、前回のインタビューでもお話されていました。「The rose」はまさにその一環なんですね。

由薫:そうですね。これまでは、“この期間に曲を作って、リリースはここで”という予定が先に決まっている状態での曲作りが多かったんです。だけど今回は、自発的に、自分から何が生まれるのかを見つめて作っていく期間になったんです。そこでいくつかデモができて、そのなかの1曲がこの「The rose」で。ちょうどメロディとかが思い浮かんできている状態のときに、今回のドラマのお話をいただいたんですね。そこからドラマのために歌詞とかを書く、というような順番でした。

──自分のなかから何が生まれるのかを見つめながら作るパーソナルなところから、ドラマ主題歌としても聴かせる曲にするにあたっては、テーマの擦り合わせなどもありましたか?

由薫:そもそもこの「The rose」は、自分でデモをたくさん作ろうといろいろとやっていくなかで、はじめは結構戦略的に考えながら作っていたんです。たとえば、“これはいいメロディラインだな”とか、“曲の展開の豊かさを出そう”とか、“世の中で流行っている曲やみんなが求めているものって何だろう”とか。ただ、そういうことを考えすぎてしまって、段々と心がトゲトゲしてきて……。“もういい! 私はもともと暗い人間だし。世の中が求めているものをやっている人たちはたくさんいるから、こういう曲があったっていいじゃない?”って気持ちで作ったメロディラインが、「The rose」なんです。ドラマ主題歌にはなりましたけど、ドラマの曲っぽいかというと、自分としてはそうだとも思っていなくて。ちょっと暗いし、もともとがアンチテーゼ的な気持ちで作っていた曲ですね。

──その内省的な面や精神は、そのまま大事にしたかったんですね。

由薫:ドラマの原作や脚本を読んでいくなかで、『推しの殺人』にもアンチテーゼ的なものを感じたんです。アイドルグループの3人が殺人を犯してしまって、それでもアイドルとして成功することを目指していくという話なんですけど。搾取されることや華やかさの裏にある苦しさ、女性としての生き方みたいなものを問う作品で、美しさと残酷さ、美しさとグロさの表裏一体感が描かれているんです。そういうところが曲を作ったときの感情というか、作品として美しいものを作ろうとしすぎたときに、自分の内にトゲトゲとした気持ちが生まれてきた感覚と似ているなと思って。この「The rose」では、綺麗事とかじゃなくて、暗く、ちょっと残酷な感じの部分も描きたいなと思ったんです。

──その心に芽生えていったトゲトゲとした気持ちというのが、バラというイメージに通じていったんですか。

由薫:私がバラと聞いて思い浮かぶのは、プロポーズでのバラなんです。大量のバラの花束を抱えてプロポーズをしている動画とかを見て、バラって愛を伝えるものなんだなって。だけど、愛を伝えるという役目を終えたら、捨てられて終わりという。それに、「いくらでも代わりがいるんだよ」という言葉に直面する人も多いと思うんですけど、会社にいてもそうだと思いますし、音楽シーンにもたくさんのアーティストさんがいるし。美しいバラも、プロポーズのときの花束のように、どれがどれだかひと束になったら個性がなくなるじゃないですか。バラという花自体の個性はあるけど、まとめられちゃうとどれでもいいっていう、そのバラのほうに感情移入してしまって(笑)。

──なるほど。

由薫:だから、自分の選択は自分でしたいって思ったんです。美しさって、誰かが決めるものなのかな?って思っていたんですけど、『推しの殺人』を読んで、ボロボロになっても守りたいものや愛したいものがあるという、そういう美しさが存在するんだなって。そういう意味での美しさを自分で選び取るじゃないですけど。誰かが決めたものに当てはまるのではなくて、自分の気持ちとかプライドをもちたいという、そういう芯の通った曲になったかなと思っています。

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