【インタビュー】由薫、ドラマ『推しの殺人』主題歌「The rose」に残酷さと混沌と光り「美しさとはどういうものか?」

2025.11.16 17:00

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■自分の武器だと思っているのが声だったり
■英語と日本語、洋楽と邦楽の縛りがないこと

──「“もういい! 私はもともと暗い人間だし。世の中が求めているものをやっている人たちはたくさんいるから、こういう曲があったっていいじゃない?”って気持ちで作ったメロディライン」とのことですが、そのメロディラインがとても美しい。J-POPでも洋楽でもない、由薫さん独自のもので。自分から自然に出たものがこの曲では大事にされているんだろうなと思いました。前回の<YU-KA Tour 2025 “Wild Nights”>のSEにポエトリーリーディングのパートがありましたが、まさに詩を詠むような雰囲気、自由さで歌っている感じを受けました。

由薫:シンガーソングライターっぽいというか、弾き語りっぽいというか、そういう印象は意識しましたね。

──頭で考えていたものを一旦取っ払って、今、素直に出てくるものに従う感じですか?

由薫:そうですね。私は結構、自分で自分を型にはめてしまうことが多いんです。定期的にそれを壊して、抜け出したい気持ちが出てくるんですけど(笑)。「The rose」はそのひとつのきっかけかもしれないです。ピアノに自分の胸の内を打ち明ける気持ちで書いていったら、このメロディができたみたいな感じでした。

──そのようにして生まれた曲をどう聴かせていくか、由薫さんのなかでアレンジのイメージなどもありましたか。

由薫:「The rose」は今回、川口大輔さんがアレンジをしてくださったんです。世の中の人に一番聴いてもらえている自分の曲が「星月夜」で。どうしてこの曲がこんなに聴いてもらえるのか、いろいろと考えたりもしたんですね。そもそも私自身バラードが好きで、それが「由薫の声に合っている」と言われることも少なくなくて。「The rose」は血の通ったバラードのアレンジにしたくて、川口さんにお願いをしようとなったんです。お願いするにあたっては、自分の今の状態から話をしましたね。「私は生き残るために、この音楽業界のどこかに穴を開けなければいけないんです」って(笑)。

──ここにきて強い気持ちが出てきましたね。

由薫:戦うための自分の武器だと思っているのが、声であったり、英語と日本語、洋楽と邦楽の縛りがないことだったり、そういうことをこの曲を通して伝えたいという感じです。だからアレンジも、「J-POPでも洋楽でもありながら、そのどちらでもない感じがいいな」とか、「ダイナミックさがほしいです」というようなお話をしたり。どちらかというと、「今こういう姿勢で音楽をやっています」という話もしましたね。自分としても納得のいく曲ができたので、そこを川口さんに汲み取っていただけました。

──ピアノを基調としたシンプルさと、音が重なっていく重厚感とのダイナミックなコントラストがありますが、同時にストリングスの深く豊かな低音が柔らかに歌を包んでいる感じも印象的で。濃密な世界観が味わえる曲だと思います。サウンドのムードや質感など、特にリファレンスにしたものはありましたか?

由薫:洋楽では結構、暗いことを暗いままに歌うアーティストがいるので、そういう雰囲気の暗いけどなんか聴いてしまう曲をリファレンスとしてお送りしました。あまりいい話にしたくはなかったんですよね。

──ちなみに、「The rose」というタイトルではベッド・ミドラーの歌った楽曲も有名ですよね。あの曲もピアノがとても美しい曲でしたが、曲の存在はご存知でしたか?

由薫:聴き馴染みのあった曲だったんですけど、実はあの曲のタイトルが「The Rose」だとは思っていなかったんです(笑)。でもどこか共通点を感じなくもなくて、面白いなと思いました。

──先ほど暗いという言葉が出ましたが、この曲ではどっぷりと暗さに浸るというよりも、どこか少し光が差してる感覚もありますね。それはどういったところから来るものだと思いますか。

由薫:そうですね、もともと曲を作った段階では“暗いまま終わってやる”っていう気持ちだったんですけど。ドラマの影響もあって、混乱のなかで、それでも静かに咲く美しさみたいなことをイメージするようになったんです。誰かのため、何かのためっていうのが一筋の希望になっているのかなって思います。最初は“君”という存在が一切出てこないイメージだったんですけど、物語を読んで、“君”が出てくることが光になるんじゃないかなと思って。

──ドラマという作品があったからこそ、その感覚も芽生えたんですね。

由薫:それは間違いないですね。ドラマの内容がなかったら、真っ暗なままで終わらせてやろうと思っていました(笑)。