「M-SPOT」Vol.041「和美珠世にみる、日本製R&Bの美しさ」

2025.11.11 20:00

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R&Bやブラックミュージックと一言で言ったところで楽曲の雰囲気やテイストは曲によって様々であり、ルーツや影響下にあった音楽性によって、醸し出される匂いも質感もまちまちだったりする。そこには、そこはかとなく漂う「和」の雰囲気があったり、洋楽ルーツながらも古き良き日本のポップスの香りが漂ったりすることもある。

音楽理解への解像度を上げたり下げたりすることで、見えてくる世界も変わる。今回はそんな話を、和美珠世というアーティストから紐解いてみよう。ナビゲーターはTuneCore Japanの堀巧馬と同じくTuneCore Japanの菅江美津穂、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。

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堀巧馬(TuneCore Japan):和美珠世(わみたまよ)というR&Bアーティストがいるんですが、「PEA」という曲を聴くと、サウンド感としてはチャカ・カーンとかブラックミュージックに影響を受けているとは思うんですけど、歌っている内容にものすごい日本的な要素を感じるんです。非常にきめ細かい感性というか、微妙なニュアンスを書き分けているところに、日本語という言語の特性が表れていると思ったんですね。

──日本語自体がそうですよね。「I LOVE YOU」を「愛している」と言わずに「月が綺麗ですね」と表現するような趣きと振れ幅がある。

堀巧馬(TuneCore Japan):そう。それが逆に日本のR&Bの良さなんじゃないかとも思っているんです。もちろんサウンドの骨格としてはブラックミュージックのグルーブやテンポの取り方など、グローバルな影響下にあるとは思うんですけど、日本ならではみたいなところって、そういう機微の細かさなんじゃないかと思うんです。

──本来海外から派生したR&Bというものは、人種差別を始めとした民族的な音楽…レースミュージックが礎ですから、日本人の生まれ育った環境とは交わらないものですよね。なのにアーティスト活動の一発目の楽曲として、このテンポ感の作品を発表しちゃうところに、彼女の人生観や価値観がそのまま表れていると感じます。

堀巧馬(TuneCore Japan):なかなかの玄人ですね。


──プロフィールには、「2025年5月に初シングル「PEA」をリリース。R&B、ブラックミュージックに影響を受けたボーカルと、様々なジャンルを取り入れて現在進行形で成長している楽曲達を携えて活動中」とあります。自分はR&Bアーティストだということを単にアピールしたいのであれば、一発目にはR&B然とした楽曲を名刺代わりに出すのが正攻法ですけど、決してそういうマインドではないですよね。彼女独特の音世界を持っているんだろうなって気がします。

堀巧馬(TuneCore Japan):テンポ感もそうだし、サウンド自体もただのR&Bとして片付けられないですよね。

──そうですよね。「私、R&Bをやりたいんです」じゃなくて「自分の音楽を表現したい」ですね。じゃなければこんなレイドバックしているはずがない。

堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。なんならちょっとフォークというかカントリーな空気感も感じますもん。

──そうですよね。人となりが気になりますね。今後どういう方向に音楽性が伸びていくのか。しっぽりするのかダンサブルになるのか、ブルース寄りなのかファンキーなのか、こういう日本人アーティストってずごく珍しいと思います。

堀巧馬(TuneCore Japan):そうですよね。めちゃくちゃ気になります。

菅江美津穂(TuneCore Japan):「日本人らしいR&B」ってなんだろうって思いました。そういう視点で考えたことがなかったので。

和美珠世

──日本のR&B楽曲って、欧米ではどう聴こえているんでしょうね。もしかしたらJ-POP味を強く感じているかもしれない。

堀巧馬(TuneCore Japan):宇多田ヒカルとかアメリカではJ-POPなのかな。一般的なリスナーの感覚と音楽業界の人の感覚の違いもありそうだけど、それでも宇多田ヒカルの楽曲を聴くと、節々に欧米のルーツを感じますから、R&Bって言ったらR&Bですよね(笑)。

菅江美津穂(TuneCore Japan):特に初期の宇多田ヒカルの楽曲には、日本人の私達は「アメリカ人の音楽だ」みたいな印象を受けたと思います。でも最近の宇多田ヒカルの楽曲は、また全然違うじゃないですか。もうちょっとインターナショナルというか、各国のいろんな感覚・機微が入った楽曲になっているなと思うので、やっぱりその人の生き様みたいなものがあるんでしょうね。

──そういうものが楽曲に出ますよね。今の世の音楽の流行り廃りで言えば、TikTokやインスタなりのショート動画で訴求させるためにキャッチーな要素をぎゅっと詰めてバズらせるのが雛形としたら、そういうつもりは和美珠世さんには一切ないでしょ?

堀巧馬(TuneCore Japan):それは間違いなくないでしょうね。

──とにかく時間の流れがゆったりしてる。でもこのテンポ感とサビまでの流れという構成があって、初めて表現しうる世界観がある。「まずはサビを聴かせちゃえ」みたいなせっかちで邪な考えもなくて。

菅江美津穂(TuneCore Japan):実際5分以上あるので、最近では珍しいくらいのちょっと長尺の曲ですもんね。

──コスパとかタイパが正義と言われるご時世なので、表現のために相応の時間を必要とする音楽は厳しいですよね。表現したいものをそのまま素直に形にすることがとても難しい時代だと思います。

堀巧馬(TuneCore Japan):色んな人に聴いてもらうための「起承転結」構成じゃなくて、楽曲として表現したいことを実現させるための「起承転結」なんですね。まずサビを聴かせるというのも現代の考え方で、最初の30秒でフルスロットルみたいな楽曲が多い中で、表現が軸にあっての楽曲構成を感じます。

──自由な作品作りが難しくなったなかで、いい作品に出会えた気がします。

堀巧馬(TuneCore Japan):日本語で歌うR&Bって超素敵だなと思いました。もちろん洋楽R&Bも好きですけど、例えばノー・ガイダンスの「Is It A Crime?」なんて王道のR&Bですけど「いろんな女の子が可愛く見えて、一人に絞れない、全員欲しいよ」みたいなことを歌っているんですよ。「これは罪?」という直球のタイトルで、中身も超ストレートなんですよね。でも和美珠世さんの作品って、歌詞を見ると一見哲学っぽくて、でも字面が綺麗なんですよ。考察のしがいもあるし深掘ろうと思ったらすごく深掘れるっていうのが、日本のR&Bの良さなんじゃないかなって思い始めてます。

──ま、あちらは肉食ですからね(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):そうそう(笑)。

菅江美津穂(TuneCore Japan):なんか「あれ…ルーツ違うな」みたいな(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):失恋ソングとかでも違いますよね。なんて言うか、日本の歌詞のほうが深堀り甲斐があるような気がする。言語による表現の違いなのか、日本はすごく綺麗で美しいR&Bだなって感じたりします。

──和美珠世さんの今後の活動、新曲がどういうテイストなのか、さらに楽しみですね。注目していきたいと思います。

和美珠世

埼玉県出身。2025年5月に初シングル「PEA」をリリース。 R&B、ブラックミュージックに影響を受けたボーカルと、様々なジャンルを取り入れて現在進行形で成長している楽曲達を携えて活動中。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=975542

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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