「M-SPOT」Vol.039「価値観とは、ブレずとも変わっていくもの?」

前回紹介したガールズトリオバンド、月追う彼方に続き、紹介したいバンドのひとつ、桃色ドロシーというバンドを通して、ミュージシャンが歩むアーティスト人生に思いを馳せてみるのが、今回のテーマとなった。
トークを重ねるのはいつものナビゲーターTuneCore Japanの堀巧馬と進行役の烏丸哲也(BARKS)である。
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堀巧馬(TuneCore Japan):今回は、すごく応援したいと思うバンドとして桃色ドロシーを紹介したいんですが、個人的にこういうサウンド感が好きというのもあるんですけど、桃色ドロシーがエントリーしてきた際のコメントに、「今時の流行りに乗るのではなく、年間100本のライブバンドから生まれる正統派ロックが広がることを願って応募しました」とあるんです。
──いいですね。素晴らしい。
堀巧馬(TuneCore Japan):続いて「バンドマンに限らず、たくさんのプレッシャーだったり期待に押しつぶされそうになる人はたくさんいると思ってます。私自身も実際そうで、そんな中、京丹後で曲作り合宿の時に広大で優しい海を見ながら書いた歌詞と世界観を感じてほしいです」とありまして、それが「朝凪の彼方」という曲なんですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):音楽に流行り廃りがあって、それこそ売れる/売れないみたいな現実って、音楽をずっと演っていく人からするとやっぱり無視できない問題ですよね。特に、同じようなステージで一緒に切磋琢磨して闘ってきたアーティストが、ブレイク路線に1抜け2抜け3抜けしていくような状況もある。そうなった時に「何がもっと売れそうか・聴かれそうか」みたいな議論ってあると思うんです。ただ、そういう試行錯誤を2周も3周もすると、結果的に「やっぱりこういうのが素敵だよね」という自分のあるべき姿に落ち着いていく。桃色ドロシーの曲にもそういう軌跡を感じるんですね。
──エンタメとアートの間に自分を置いてもがき続けるのは、ある意味ポピュラー・ミュージック・アーティストの避けられない道程でもありますよね。「もっとお客さんに寄り添うべきなのか」「寄り添わない自分が素敵なのか」みたいな葛藤から、あるべき本質があぶり出されてきたりもする。最終的には「なぜ音楽を演るのか」「なぜ音楽を聴くのか」というところに何度も立ち返るという経験がアーティストを育てるとも言える。音楽って飲食とも似ていて、高級料理からジャンクフードまでポピュラーなものからマニアックなものまで様々あるけど、どちらも好き嫌いで判断されるものですよね。いい悪いじゃない。
堀巧馬(TuneCore Japan):僕はアーティストをサポートする側の人間なので、アーティストのブランディングやマーケティングの話になることもあって、要は「アーティストとしてどういうキャラクター性があって、どういうメッセージ性があって、どういう立ち位置の人なのかを定めることってすごく大事だよね」という話がある。それはその通りなんですけど、ただ僕は、そんな綺麗に決まるものでもないなって思っているところもあって、この桃色ドロシーがすごく素敵だなって思うのは、やっぱり価値観も変わってきたんだなっていうところを隠さないところなんですよ。
──ほう。
堀巧馬(TuneCore Japan):マーケティングとかブランディングっていう立場からすると、普通に考えて価値観ってあんまり変えない方がいいんです。
──ブレていると見られるもんね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そう。ブレると何を言っているかわからなくなるし説得力も失う。でもね、人間ってそういうもんじゃないですか。いろんな出会いがあって、いろんな経験をしてきて、価値観って全然変わっていくものですよ。それを隠さないところがすごくいいなと思っています。
──ブレや変化ではなく成長ということですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そうそう。どのように曲と向き合うかとかサウンド感もアウトプットに影響するけど、その変化を怖がらないという。
──どの道を通ってきたからこの様になったのか、どういう経験値を得たからこのサウンドに変容したのか…そのような「歩んできたストーリーや時代背景」は、多くの人に伝わって欲しい情報ですね。その理解を得ることで、楽曲の真意も伝わるし聴こえ方も違ってくるし、何より得られる情報量が格段に増えますから。そこにこそ音楽というアートの魅力が詰まっていたりもする。
堀巧馬(TuneCore Japan):ある意味、社会的な情勢もそうだし、個人的な変化もどれだけ巻き込んで出していけるかっていうところですかね。
──そうだと思います。
堀巧馬(TuneCore Japan):極端な話ですけど、例えば結婚して子供が生まれて価値観が大きく変わったりしたときに、それが楽曲に大きな影響を与えていく。でも、そんな極めてパーソナルな出来事なんて、元来他人は感情移入できないものでしょ?共通した社会情勢じゃないんだから。
──知らんがな、ってところですね(笑)。
堀巧馬(TuneCore Japan):その人の人生の中の変化を僕らにお話してもらってるみたいな状況だから、悪い言い方をすると「へぇ」なだけですよね(笑)。でも、これを感情移入させるのがうまい人たちが、国民的支持を得るんだろうなとも思うんです。
──そういう事かもしれないですね。1970年代のフォークソングなんかまさしくそれだったし、長渕剛などはその権化かもしれない。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうですよね。
──曲作りのセンスや言葉の選び方も重要ですけど、そこにどれだけ余白を織り込めるのかが多くの共感を呼ぶポイントに直結しているかもしれないですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そういう視点で音楽を聴きたいなって思います。
──でもそれは、ある程度音楽を聴き込んで年齢を重ねて到達した境地でしょ(笑)?中高生のときはそんな意識ないよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):確かにそんな感覚で聴いてないですね。理屈じゃなくてビビッときた感覚だったから脳死だった(笑)。
──そこです。アンテナ感度の高い多感な世代だからこそ、感覚でその余白をキャッチしていたんだとも思います。動物的な本能っていうか反射神経で音楽を摂取していたというか。
堀巧馬(TuneCore Japan):音楽作りにおいて色んな意見がありますけど、「メロディーが1番大事だ」という人ってたくさんいるじゃないですか。音楽の表層を舐めて「いいと思ったものを聴いていた」だけのことを考えると、「やっぱメロディーが大事」というのは本質かもしれない。そこが1番耳に残るし、そもそも音楽は、言語化されてないコミュニケーション言語ですもんね。日本語とか英語とか関係なく「メロディ」というものが世界共通のコミュニケーション言語だから。
──確かに。
堀巧馬(TuneCore Japan):明確にはよくわかってはいないけど、理由付けをするならそういうことでもあるのかな。
──そうだと思いますよ。言語を理解していなくても、動物たちが音楽に興じている映像って世界中にあるのが何よりの証拠でしょ?
堀巧馬(TuneCore Japan):そういや僕の息子も、2歳ぐらいの時にザ・ジェイビーズの「All Aboard the Soul Funky Train」で踊ってましたね(笑)。つくづく人間の本能に訴えかけるような本当に骨の髄までダンスソングなんだなって思いました。
──ほんとですね。理屈じゃないんですね。本能を刺激するようなそんなアートが身近にたくさん存在するというのは素敵なことですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):いや本当に、感受性を豊かにすることで幸福度って変わります。
──そういうことか。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうなんだと思います(笑)。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
桃色ドロシー
横浜のロックバンド。瀬谷西高校 軽音楽部にてハキイ。とキシベを中心に結成。突き抜けるハイトーンボイス・透き通るようなファルセットから力強いミドルボイスまで変幻自在なボーカリスト。そこに寄り添うハーモニーと見事なバンドアンサンブル支えるドラマー、メロディアスなベースラインを奏るサポートベーシストの加納誠人。スリーピースで織りなすソリッドな実力派ロックかつ 日本語の響きを重んじた歌詞からは耳が離せない。第21回ハンブルク日本映画祭で最優秀映画賞受賞作品「北のほうへ/To The North」の挿入歌、 SQUARE ENIXよりNintendo Switch / PlayStation4にて2021年7月27日に発売された「新すばらしきこのせかい」にハキイ。がリードボーカルとして2曲参加。2022年5月、初の全国21ヶ所に及ぶツアー桃色ドロシー“リンカネーション”Tour 2022を開催 渋谷Spotify O-WESTでのツアーファイナルは満員御礼。2023年、デジタルミニアルバム『アイオライト』をリリースし全国ツアーを開催 初となる野外フェス「JOIN ALIVE」「COMING KOBE」「STONE HAMMER」「京都大作戦-前夜祭-」「男鹿フェス-前夜祭-」などに出演。10月、自主企画『ADDICTION PARTY vol.4』を地元横浜ライブハウス『横浜BuzzFront』にて開催。アルカラ / 感覚ピエロのスリーマンは大盛況。2024年1stフルアルバム「ユナカイト」を初全国流通 更に史上初の30本に及ぶ全国ツアーを開催。2025年、YouTubeインディーズバトルトーナメント「音楽深化論」にて初代チャンピオンに。大型イベントのオープニングアクト・全国各地のサーキットや映画・ゲームのタイアップが続々と決定し、地元横浜から世界に羽ばたく「桃色ドロシー」に世間が気がつくのも時間の問題だ。
https://www.tunecore.co.jp/artists/MOMOIRO-DOROTHY







