【ライブレポート】Ran、ツアー<awkwardness>ファイナルに輝く活動5周年の集大成と未来「経験が自分の中に馴染んでいく感覚」

2025.10.17 20:00

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2025年7月、活動5年の集大成となるアルバム『awkwardness』をリリースしたシンガーソングライターのRanが、同アルバムを携えてライブツアー<Ran LIVE TOUR 2025 -awkwardness- >を開催した。9月11日の地元・福岡公演を皮切りに、名古屋、大阪と回ったレコ発ツアーのファイナルは、10月10日の東京・SHIBUYA TAKE OFF 7公演だ。

この最終日はバンドセットによるワンマンライブで、会場は満員御礼。ライブ数日前にはツイキャスでの生配信も実施した。2024年9月に開催した活動5周年記念ライブ<Ran one man live -heart->のときのバンドメンバーである同道公祐(G)、shizupi(B)、たにお(Dr)、桑原康輔(Key)が再び揃ったステージとなり、この1年でさまざまな曲の制作を通じて活動を深めてきたRanの成長や進化も見えるライブとなった。

アルバム『awkwardness』の1曲目を飾る「予感」で幕を開けたステージ。観客の拍手のなか、アコースティックギターをかき鳴らしながら、真っ直ぐに放たれる澄んだRanのボーカルにフロアの多くの手が上がる。登場からギターを手に取って奏で始めるまでに緊張の色も感じられたものの、歌声とともにその空気は和らいでいくようだ。続くアップテンポの「立春、坂道にて」では笑みを浮かべ、歌のエネルギーを増していく。カラフルなバンドサウンドに観客のハンドクラップも大きくなって、そのラストに「ありがとう!」と声を上げたRan。

新山詩織と共に制作したコラボ曲「あの日 feat.新山詩織」はバンドアレンジが施され、より温かな印象だ。躍動的なワウギターにどっしりとしたビートが絡んだ包容力のある始まりに、Ranの声を縁取るようなピアノが歌心を引き立てる。ゆったりと問いかけるような歌の余韻から、続く「なんでもない人」ではグッと歌の半径を小さくして、言葉を手渡すように表現する。そんなRanの歌の魅力が伝わる前半となった。

「みなさん、こんばんは。Ranです。後ろのほうまでたくさん、ありがとうございます。最後まで楽しんでいってください」と改めて満員の観客に挨拶をしたRan。

そして突入した中盤は、「淘汰」(2022年発表)、「夜逃げ」(2021年発表)でスタートした。繊細で、人との関係性を築いていくのが不器用で、でもそういう人間だからこそ感じる人や物事の些細な変化や空気の違いを描いてきた活動を始めた頃の曲たちだ。アルバム『awkwardness』へと至るなかでは、アーティストとのコラボをはじめ、これまでにないタッチのサウンドによる新機軸の曲や、タイアップによる書き下ろし、また楽曲提供などさまざまな挑戦や経験を経た。タイトルの“awkwardness”は不器用さ、ぎこちなさなどを意味するが、アルバムではそのさまざまな経験を心地好い違和感として昇華した。本質的な繊細な(あるいはちょっとひねくれた)眼差しは変わらないところだが、その表現には肯定感が上向いたような、柔らかな空気をまとっていることが感じられる。アルバム以前の「淘汰」や「夜逃げ」にもそんなニュアンスが伝わってくるエモーショナルな曲となっていた。

さらに植田真梨恵とのコラボ曲「Lady Frappuccino, feat.植田真梨恵」では演奏のボルテージを上げ、ダイナミックに変化する展開を乗りこなし、歌の表情をくるくると変え、観客を魅了する。音源ではひとひねり、ふたひねり感じさせる洒落たタッチが印象的だが、間奏パートでギタリストがステージ前へと出ると観客の興奮も上がり、エネルギッシュなライブチューンとして中盤を盛り上げる曲になっていたのが新鮮だ。

「楽しんでいただけてますか? 配信で観ていただいている人も、こんばんは」と挨拶をし、「とうとうこの日が来てしまった」とファイナルを迎えた気持ちを語ったRan。また、アルバム『awkwardness』については、「(福岡から)上京してから数えると音楽活動を始めて7年目になるんですけど。いろんなことや経験があって、その経験が自分の中に馴染んでいく感覚みたいなものが、すごく心地好いと思えるようになりました。そんな感覚を体現できるようなアルバムを作りたいと思いました」と改めて観客に想いを伝えた。「アルバムの良さがたくさんの人に伝わればいいなという思いと、これから自分がどんな音楽をやっていくんだろうという期待を込めて、今日は精一杯歌いたいと思います」とMCで笑顔を見せた。

このMCに続き、スペシャルゲストとして小片リサを呼び込むと大歓声。Ranが楽曲提供した「幻」をふたりで歌い上げた。「幻」は、Ranが初めて楽曲提供したナンバーで、アルバム『awkwardness』のボーナストラックとしてセルフカバーを収録した思い入れ深い曲でもある。「もったいないくらい、やりたくない!」と語ったこの夜の「幻」は、小片リサのバージョンとも、ピアノによる自身のボーナストラックバージョンとも違う、ツアー<awkwardness>ファイナルならではのバンドバージョンという新たな装いで、曲の持つ魅力を広げるものとなった。

エモーショナルで、切ない曲が続いたところで、ライブ後半戦は再びバンドアンサンブルの馬力を上げて、パワフルに突き進んでいく。アーティスト同士というよりも友人同士のいつもの会話やノリの延長で作り上げたmihoro*とのコラボ曲「ドリアン feat.mihoro*」で大きな手拍子を巻き起こすと、間髪入れずに、アルバム『awkwardness』の中でも新しいチャレンジとなったダンサブルな「シトラスを奪って」で、観客の体を揺らす。ファンキーな鍵盤や、ファットなベースの効いたグルーヴィな曲は、ライブを勢いづけていく最高のエッセンスとなっており、弾むようなボーカルに、フロアから歓声が上がった。

一転して、扇情的なピアノのプレリュードでスタートしたのは、バラード曲「あなたと」だ。ピンスポットのもと、静謐なピアノの伴奏に乗せて、声をわずかに震わせながら歌う。その歌をじっくりと全身に染み込ませるように聴き入る観客の心を、ぎゅっと掴むように放たれたのが本編ラストの「少女たち」。強くアコギをかき鳴らしながら、哀愁感とどこか優しさも滲む歌声で、その体に収まりきらない純粋さと未熟さゆえに自分も誰かも傷つけてしまうかもしれない残酷な感情…そんな少女たちへと語りかける。その少女“たち”には、かつての自身の面影も重なるのだろうか。そうしたひんやりとした黒い感情をかき消すかのように、アウトロはこの日一番の爆音アンサンブルを轟かせて、ダイナミックに締めくくった。半ば呆然としたフロアから、歓声や拍手がどんどんと大きくなっていく本編のエンディングが見事だ。

アンコールでは弾き語りによる「華たち」、そして「ビーナス」「ご飯の食べ方」をバンドでと、初期作品を披露したRan。「誰が予想できたでしょう、このセットリストを」と悪戯っぽく語った言葉に、このファイナル公演やツアーの充実感が伺える。さらに熟成したバンド編成という頼もしい力を得ていたことも大きいが、とてもおおらかに、伝えることや観客に向き合っていたライブは、MCでも話していたように、この先のアーティストRanへの期待感も高まるステージだった。活動5周年という、その節目にふさわしいツアーファイナルとなった。

取材・文◎吉羽さおり
撮影◎達川範一

 

■ツアー<Ran LIVE TOUR 2025 -awkwardness- >10月10日@東京・SHIBUYA TAKE OFF 7 セットリスト
01.予感
02.立春、坂道にて
03.あの日 feat.新山詩織
04.なんでもない人
05.淘汰
06.夜逃げ
07.Lady Frappuccino, feat.植田真梨恵
08.幻
09.ドリアン feat.mihoro*
10.シトラスを奪って
11.あなたと
12.少女たち
encore
en1.華たち
en2.ビーナス
en3.ご飯の食べ方

 

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