――約2年ぶりのアルバムですね。
堀込泰行(以下、泰行):そうですね。確かにオリジナルとしては久々なんですけど、その間に『OMNIBUS』というセルフカヴァーを主にしたアルバムや、『スウィートソウルep』っていうミニアルバム的なシングルを出したり、トリビュートに参加したりしてたんで、僕ら的にはコンスタントにやってきてる気分ではあるんです。ただ文字にすると2年ぶりなのか…っていう。
――曲はいつ頃から作り始めたんですか?
堀込高樹(以下、高樹):『スウィートソウルep』を作る前ぐらいから曲をためてって感じです。シングルはポップな作品にしたいと思っていたのでポップな曲を集めたんですけど、アルバムはまた違う側面を出したいと思っていたのでアルバム用の曲は別において。だから『スウィートソウルep』を作って、はい次、というよりはトリビュートとかライヴの流れで曲を書き溜めたって感じですね。
――シングルやアルバムに対して、曲を区別する意識はあるんですか?
泰行:シングルを出す時は、曲出しの作業が迫っているのでなんとなく意識してるとは思います。やっぱり最初からどよーんとしたものは出したくないですから。ただシングルの曲作りをしてるときに、並行してシングルには向かない曲だけど良い曲ができたりするんですよ。そういうのがアルバムに生かされたりすることはあります。逆にアルバム用の曲作りでシンプルだけどかっこいい曲ができて、それがシングルになったりとかもするし。
――アルバムのタイトルについても伺いたいんですが。
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▲こちら弟の堀込泰行氏 |
泰行:これは最初、冗談のつもりでつけたんですよ。というのは、今回のアルバムにはあまりパッとしない人が主人公の曲が多いんですね。もちろん僕らの中にもそういう部分はあるし、そういう自分のイヤな部分が何かをキッカケにしてなくなればいいんだけど、人間てなかなか変われないじゃないですか。で、その時に変われないことを嘆いたり現実から目をそむけて“変われる”って信じるよりも、それぞれのイビツなところも自分の愛すべきものとして受け入れて上手く付き合っていこうよ、という意味から軽い気持ちでどう?って言ってみたんですよ。そしたら周りのみんながいいじゃないか、と。
――今回のアルバムには、さまざまな感情が詰め込まれているなあと思ったんですが。
高樹:一度書いたことのあるテーマで全く違うものを作るってテもあるんだろうけど、今までに書いたことのない曲を書くと、今までに書いたことのない詞のスタイルがおのずと要求されると思うんですね。そういうことをやっていくうちに、他とは違う感情だったり違う表現の仕方になっていくと思うんです。
――そういった感情は実体験から出てくるんですか?
高樹:実体験というのとはちょっと違うと思うんですよ。
泰行:もちろん実生活を描くものもあるけど、暮らしている中で感じていた気持ちをフィクションを描いた時にも投影していくっていうか。
――なるほど。私がそう思ったのは、1曲目「奴のシャツ」で衝撃を受けたというか。グサっときたんですよ。
高樹:でもこれこそフィクションなんですよ。僕らくらいの年齢の人たちに見られるアダルト・チルドレン的な曲ですよね。
泰行:わりと周りのみんなも同じように思うみたいで、“俺のことか?”みたいな(笑)。
――そうなんですよ。しかもそういう衝撃的な曲からアルバムがスタートするのでさらにドキっとして(笑)。こういった曲の並びも重要視してるんですか?
泰行:これはいつも以上に考えました。マスタリングが終了した後にもさらにやり直したり。お互いがお互いを引き立て合う並びがいいなって思ってるんですけどね。 高樹:ダレずに適度な緊張感を保つものですよね。なおかつ、今度のアルバムはこうなんだって1曲目で印象づけるようにしたり、最終的には気分良く聴き終えて欲しいなって思って考えてみたり。
――「奴のシャツ」でドキっとして最後の「スウィートソウル」でホっとしました。
高樹:それは最初から決まってたんですよ。
――「繁華街」はライヴでは以前から披露されている曲ですね。
泰行:そうですね。作ったのはメジャーになってから最初のアルバムを出す時で、レコーディングまでしたんですけど、気に入らなかったのでお蔵にしていた曲です。
――なぜ今回収録に?
泰行:曲としては気に入ってたから、以前から出すタイミングを図っていたんです。昔作った曲だけど曲調としては、今、自分たちがやっても違和感がないと思ったので“よし、ここだな”って感じで。あとはバンドも小慣れてきて自然にできるようになったので、じゃあライヴのバンド編成でやってみようと。
――キリンジの曲は普遍的な要素を持っていると思うんですが、曲作りにおいてそういう意識はあるんですか?
泰行:いや、実際作っている時はそういう事はないですね。ライヴで演奏する曲がまだ決まってない状態の初期のリハーサルで、ある曲をやってたとして“でも今の気分じゃないな”っていうのはあるんですよ。そういう曲はちょっと置いておいたりするんですけど。
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▲こちら兄の堀込高樹氏
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高樹:ただ、将来の自分を予言する曲っていうのはあるんですよね。よく人のアルバムを聴いてて思うのは、1stアルバムの中にやけに異質なものが1曲あるんだけど、後期の8枚目あたりと出した時に作風が似てるものがあったり。だから結局そうなった曲は将来を予言していた曲だったんでしょうね。
――昨年末からトリビュートとかセルフ・カヴァー的な作品をリリースして、今年の初めに移籍第1弾シングルを出しましたが、どこか気持ちのひと区切りはありました?
高樹:移籍すると半年くらい作品を出さないとか、普通そういう慣例とかあるみたいなんですけど、あんまりねぇ……。むしろ拘束されたほうが良かったりして(笑)。
泰行:武道館でひと区切りって感じかもしれない。
――その武道館ライヴは11月に行なわれますが。
高樹:そうですねえ。特別ハデな演出はないと思うんですよ。でも正面突破はハデにやりたいかも。まだ考える前の段階で(笑)、わかんないけど。
取材・文●市川美奈香