しかし、久々のアルバム『HARCO』を出したHARCOこと青木慶則にインタヴューした際、彼は笑顔で、しかし力強い眼差しで「僕がHARCOをやること、自分が歌うことに対して生涯を通してやっていこうと決意できた」と語った。インディ・レーベルで最初の作品を出してから5年目にして、自身のアーティスト名をタイトルにつけたことからも、その意志と重みが充分に感じられた。
そしてその新作を引っさげての名古屋、大阪、東京を廻った<HARCOツアー>。作品、そして自分を更に昇華させるために、リスナーと向き合うライヴはとても重要であり、HARCO自身も気合いが入っていたに違いない。
私が観に行ったのは最終日、東京。今回のツアーは、作品と同じメンバーでギター、ベース、ドラムが参加。そして中央にL字型にセットされた2台の鍵盤の前にHARCOが座る。のっけから迫力ある鍵盤とそれを後押しするような疾走感のあるリズム隊でアルバム収録曲「シリーズ最終回」を披露。もちろん、頭に元気のでるような曲を最初にもってきたのだろうが、”リ・スタート”したその勢いを感じる幕開けであった。
それから次々と演奏していく新作の収録曲は、新曲とは思えないほど、しっかりと自身のものになっている。楽しく、気持よさそうに演奏する姿、地に足がついたその堂々たるピアノ演奏とその独特な歌声は、オーラをもって強力なバック演奏の上に響く。
HARCOは作詞、作曲もほぼ全て自身で手掛けているが、やはりHARCOの歌は彼にしか歌えない独特のメロディ感と歌詞がある。曲の中であるストーリーのように流れていくその言葉は、共感できるような部分が断片的に潜んでおり、それが心をくすぐる。HARCOが奏でる音楽は素朴そうで、実はHARCOにしか奏でられない音楽であることを改めて認識させられる。
また、中盤3曲と後半の「江ノ島ラプソディ」では昔の曲を披露したが、それこそHARCOの歴史を感じる素晴らしい演奏でまた歓声が沸きあがる。ピアノの弾き語りのみで「1分の1の地図」を演奏しだした時は、その美しいピアノの音色がピ~ンと静まりかえった会場に軽やかに走り出し、ちょっぴり切ないメロディが胸を突く。
そして、観客と話すように交わされたMCを何回か挟み、あっという間に迎えたラスト間近、披露された曲「逆光」は、何度も押し寄せてくるような切なさを秘めたメロディとその裏に潜むような明るい光りでもって一番印象的に響いた。
HARCOが『HARCO』を表現したライヴ。全てのHARCOを投影したライヴは、すごく大きなエネルギーを感じ、リアルさを失わないものだった。そしてこれから長く続くだろうHARCOが歩いていく道が、ますます気になるところだ。