『Reptile』 Wea Japan WPCR-11082 2001年9月19日発売 2,079(tax in) 1 レプタイル 2 ガット・ユー・オン・マイ・マインド 3 トラヴェリング・ライト 4 ビリーヴ・イン・ライフ 5 カム・バック・ベイビー 6 ブロークン・ダウン 7 ファインド・マイセルフ 8 アイ・エイント・ゴナ・スタンド・フォー・イット 9 アイ・ウォント・ア・リトル・ガール 10 セカンド・ネイチャー 11 ドント・レット・ミー・ビー・ロンリー・トゥナイト 12 モダン・ガール 13 スーパーマン・インサイド 14 サン&シルヴィア 15 ルージング・ハンド * *日本版ボーナス・トラック
| オフィシャル・サイトはこちら | 初夏の「引退騒ぎ」はまったくの誤報だったが、Eric Claptonが「大規模なワールド・ツアーは今回限り」と表明していることは事実だ。それは公式プログラムにもきちんと書いてある。
日本公演は、つまり、その最後を締めくくる記念碑的なステージとなったわけなのだ。
もっとも、だからといってとりたててなにか特別なことをするわけではないのだが、なんだかじわじわと伝わってくるものがあった。
ここ数年、50代半ばのベテラン・アーティストとは思えないほどの精力的な創作活動を展開してきたその自信からなのか、私生活の充実ぶりを背景としたものなのか、ともかく余裕たっぷりの、しかも深い味わいにあふれたステージをClaptonと彼の仲間たちは聴かせてくれたのだった。
プログラムはステージ上で彼自身が語っていたとおり、新旧をバランスよく取りまぜたもの。'98年の『ピルグリム』と最新作『レプタイル』からのナンバーが6曲、お馴染み「ティアーズ・イン・ヘヴン」と「チェンジ・ザ・ワールド」の2曲、あとはクラシック的な名曲とブルースといった構成だ。我がままとも受け取れるが、ファンへのサービスもしっかりと心得た選曲である。
'60年代から、それほど熱心にではないものの、彼の音楽を聴きつづけてきた僕として面白かったのは、やはり、会場を埋めたファンの年齢層の幅広さだった。明らかに「ティアーズ・イン・ヘヴン」をきっかけに彼を聴きはじめたと思われる若い女性たち、昔の曲ばかりに反応するオジさん連中、なにかを勘違いしているらしいカップルも少なくない。武道館だけで8回も満員にしてしまうのだから、まあ、それも仕方のないことなのだろう。
もちろん、Claptonもそういう状況はしっかりと分かっているはず。理解し納得した上で、極論をするなら、彼は彼自身のためだけに力強くギターを弾き、表情豊かに歌い、最高のミュージシャンたちが顔をそろえたバンドを引っ張っていく。Claptonにとって重要なのは、自分の音楽がブルースという絶対的な存在に対して誠実であるか、音楽表現の可能性を伸ばすことに貢献しているか、といったことだけなのだ。冷たい表現に聞こえるかもしれないが、彼はずっとそういうスタンスで音楽に取り組んできた。
「レイラ」や「ワンダフル・トゥナイト」も、彼はもう自分を離れたものとして演奏している。それらの名曲が誕生するまでの逸話も、もう彼には関係のないことなのだ。一般的な意味でのヒット曲ではない「ベル・ボトム・ブルース」と「リヴァー・オブ・ティアーズ」を異様なまでの気合いとともに歌っていたことからも、そういったClaptonの基本的な姿勢がうかがえると思う。
最後を締めたのは、スタンダードの「オーヴァー・ザ・レインボウ」。トニー・ベネットらの歌唱で知られる曲だが、Claptonはそれをもう完全に自分の歌としてしまっていた。
大規模なツアーはこれが最後、といっても引退するわけではない。おそらく、このやや意外なエンディングは次のステップを予告する意味も持っているのではないか、と僕はそう受け止めているのだが。文●大友博(01/12/06) | |