通常このイベントだとトリを務めるのが普通なのだが、さすがに大物ゲストを迎えたとあって恐縮したか、先の登場ということにあいなった。今年1年は新曲をほとんど発表せずにライヴ活動に充てた彼ら。その分、当然のごとくライヴは鍛えられ演奏も以前に増して安定したものにはなっていたが、正直僕は彼らに対しここ1年ほど疑問を抱いていた。
bloodthirsty buchersやeastern yourhなどの所謂“ジャパニーズ・エモ”と呼ばれるバンドとの対バンや、54-71やTHE BLUE HERBなどのアブストラクトなヒップホップ感覚への憧憬からサウンドもより実験的かつシリアスなものへと変化を遂げてきていた。しかし、そうすることによって初期の彼らにあった圧倒的なソングライティングの旨味や、思わず「フッ」と微笑んでしまいたくなる軽妙なユーモア感覚が大きく減退。
「成長しようとする努力はわかるけど、素のままの非凡な素質がこれでは却って失われているんじゃないか」 ここ1年ほど、そういう気持ちで彼らのライヴを観て来た。しかし、この日のライヴはここ最近のそうした流れから少し解放され、インディ時代やメジャーからの1stアルバムの曲を中心にしたストレートでポップな曲を比較的多めに揃えて来た。
向井とひさ子の2本のギターの絡みや、現在日本の若手ドラマーの中では間違いなくトップレベルの実力を誇るアヒトイナザワの畳み掛けるようなフィルの連打も素晴らしいのだが、そうした演奏技量以前にやはり曲そのものにポップな色気が濃い。
ここのところ、やれ「居合い抜きの精神」だ、「侍魂」だの、精神論めいた言葉ばかりで語られどうにも余裕がなく息苦しく見えて仕方がなかったが、この日はそんな”気合い”うんぬんを抜きにポップ・バンドとしての完成度の高さを久々に存分に堪能させてもらった。
その理由には勿論対バン相手がスーパーチャンクだったこともあるのだろうが、本来こうした対バンの方が実は似合うバンドなのではないだろうか、とも改めて思ってしまった。
先日のテロ事件の影響で多くの来日公演が中止になる中、来日したことも嬉しかったが、実に9年振りとなる久方ぶりの来日という事実はそれ以上に嬉しい。 前回の来日のときは、「シアトルの次はチャペル・ヒルだ!」と、どういうわけだか「ポスト・ニルヴァーナの1番手」的な扱い方までされた時期での来日だったものの、日本は今ほど注目度は高くなく、僕も気づかないうちに終わってしまっていた。
しかしながら、その後彼らはメジャーには進まなかったものの、インディの世界で見事なまでの重鎮的な存在へと登り詰めたわけである。 というわけで前回の来日とはまるでバンドとしての立ち位置は違うが、大きく飛躍した彼らが果たしてどんなステージを繰り広げるかは大いに楽しみな ところであった。
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Pic by Mai Aida
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8時30分を少し回ったところで、4人のメンバーが味にステージに登場。バンド・メンバー的にはギターとベースの違いこそあれど女性メンバーがいるということで、その点はナンバーガールと近い印象もあったが、いざ音が始まってみると、やはりスーパーチャンクならではの世界観が待っていた。
ライヴは出たばかりの新作『Here’s To The Shutting Up』からの曲「Late-Century Dream」でスタート。’97年のアルバム以降、随分とポップさを増していった彼らではあったが、ステージだと案外と初期の少し粗っぽいイメージを露呈する。
そのせいか、選曲には「Punch Me Harder」など初期の名曲も予想以上に目立ち、それが最新作の楽曲と交互にかかるような様相を呈していた。日本でも注目された『Indoor Living』や『Come Pick Me Up』といった最近からの曲が案外少ないのが意外で個人的には少しだけ残念ではあったが、それでもこのバンドの”らしさ”は充分に伝わってくる。
それにしても演奏はツアー慣れしていると思しきアメリカのバンドとしては予想以上に上手いものとは言えなかった。しかし、シンプルではあるものの実によく洗練された良質な楽曲センスはやはり非凡で、ナンバーガールあたりにもおそらくは強い影響を与えているであろうリフやメロディのフレーズが随所に光り、その上手くない演奏にしても人工的に作られた雰囲気は一切皆無で、手作りの良さを余すところなくアピールできていたように思う。 印象としては良くも悪くも実にB級で派手さこそはない。しかし、それだからこそ今があり、決して潰されも燃え尽きもせずに淡々と今を生きれているバンドなのだということも改めて確認した。
僕自身は特にそうしたインディペンデント精神を必ずしも手放しで礼讃するタイプではないが、このバンドに関してはやはりそれが良いと素直に思う。 そんな佇まいは日本のインディ・ロックファンに大いにウケたのか、常に大歓声と喝采がスーパーチャンクを迎え入れ、彼らも溌溂とした笑顔とナンバーガールの2倍にあたる17曲ものゴキゲンな演奏でそれに応えた。
そして最後、あまりにも機嫌が良かったのか、ヴォーカルのマックは“ICHIRO 51”と書いたシアトル・マリナーズのイチローのユニフォームを着て登場するという大サービス! それが日本のファンにはまた格別にウケて、ラストナンバーの「Slack Motherfucker」は興奮の坩堝に包まれたまま終わった…。
こうして、日米を代表する名オルタナ・バンドの夢の共演ライヴは充実のうちに幕を閉じた。最近はフジロックなどの大規模サマー・フェスなどで世界の強者と日本の精鋭達が同じステージに立つことも珍しくはなくなったが、こうしたライヴハウス規模でのほぼ対等の立場に立った共演ライヴというものはまだまだそうは存在しない。
日本の音楽シーンのより良い発展のためにもこうした機会がもっともっと組まれないものだろうか。僕は改めて強くそう願いたくなった。
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