![](https://img.barks.jp/image/review/52255054/starJ.jpg) 『love is here』 東芝EMI TOCP-65799 2001年9月27日発売 2,548(tax in)
1 Tie Up My Hands 2 Poor Misguided Fool 3 Alcoholic 4 Lullaby 5 Way To Fall 6 Fever 7 She Just Wept 8 Talk Her Down 9 Love Is Here 10 Good Souls 11 Coming Down
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| ここ最近、ロックファンの注目がなかなかUKロックの若手にいっていなかったが、ここに来てまたメディアがUKロックの新人バンドをプッシュしはじめている。JJ72、マイ・ヴィトリオール、クーパー・テンプル・クローズ、キング・アドラ…。こうしたバンドたちが、特にここ日本において期待のバンドとして大いにプッシュされつつあるが、実際本国ではまだ実績をあげていない“期待のバンド”の域を出きっていない彼らよりも断然熱い視線を、今実際にイギリスで注がれているバンドがスターセイラーである。
どうやらまだ日本では、本国ほどの熱い興奮が現時点では伝わっているとは言い難い。それはわからないではない。実際、スターセイラーには“若さ”という特権を活かしたアイドル性があるわけでも、日本人のインディ・ロックファンに聴き馴染みのある音を出すわけでもなく、“何かを変えてやろう”というワイルドな野望を抱いているような存在でもない。現時点での日本人のUKロックファン的なマーケッティングに適っているバンドではない。だがしかし、このスターセイラーには、そうした“条件”など何ら必要としない、桁外れの潜在能力があるのだから。
スターセイラーほど結成の時点から成功が約束されていたバンドも珍しい。驚くことに、その結成から“現象的ブーム直前”と言われている現在に至るまで、わずか1年半しか経ていないのだから! そこまでの早さで成功した前例は他にちょっと思いつかない。
では、何が彼らをそんなに惹きつけるのか。
それはズバリ、その“声”に全てがある。スターセイラーのサウンドや曲調は、いわゆる最近イギリスで圧倒的な強さを誇るトラヴィスやコールドプレイといった“癒し系”バンドに共通する、ジックリと聴かせる穏やかなものではある。しかし、このスターセイラーには、そうしたバンドたちをも凌ぐ、辺りの空気を一変させるようなエモーションとパワーがある。その声の持ち主は弱冠21歳の天才ヴォーカリスト、ジェイムズ・ウォルシュ。とにかくこの声を直に、特に生で歌われる姿を真近で体験すれば、これが驚かずにはいられないものであるかは確実にわかるはずだ。そう。スターセイラーはUKロック界に10年に一人現われるかどうかの段違いの歌唱力を誇っているのだ。
そのジェイムズのそっくり返るような独特の苦味を持った溢れんばかりの破壊力さえ持った声は、彼の同郷の大先輩リチャード・アシュクロフトに通じる所もあるが、その声のルーツは'90年代最高の不世出のシンガー、ジェフ・バックリー、そしてその父親にして最高にプログレッシヴなサウンドと呪術的な唱法で伝説となったティム・バックリー。この親子はアメリカ人ながら、レディオヘッド、トラヴィス、コールドプレイなどのUKロックの大物たちがこぞってその影響を口にする大物。ジェイムズも息子のジェフを経由してティムを知り、そのあまりの傾倒ぶりからティムのアルバム『スターセイラー』からバンド名を拝借したというエピソードがあるほど。
しかし、そんなカリスマ親子に影響を受けたアーティストは数多くあれど、ジェイムズほど、その声質・感情表現をうけついだ存在もいない。そんな“伝説”を彷佛とさせる強烈な声を聴かされれば、それはもう飛びつかずにはいられないだろう。
そして、ジェイムズの影にかくれながらもタイトで確実なリズムを奏で、'60年代のソウルフルなブリティッシュ・ロックを連想させるようなモッドでクールでジャジーな雰囲気をたたえたバックの3人の演奏も、とても20代前半とは思えない渋みがある。特に教会のオルガン・プレイヤーだったという、バリーの年季の入ったオルガン・プレイは見事なバイ・プレイヤーぶりをアピールしている。
こうした新人とはとても思えない、堂々とした貫禄のある立ち姿。スターセイラーが既に桁外れな存在なのはこれでおわかりだろう。
そして、そんなスターセイラーにかかる期待は本国イギリスだけにとどまらない。いずれはアメリカ、そして世界、というコースをたどって行くことになるのだろう。実は現在、アメリカのシーンはスターセイラーを受け入れるのにジャストな状況も整いつつある。
今、アメリカではダイド、デヴィッド・グレイ、コールドプレイ、トラヴィスといったアーティストが“イギリスから来た癒し系アーティスト”として、アメリカの音楽には存在しないものとして重宝され、次々と50万からミリオンのセールスを記録している最中。
こうしたUKアーティストの成功は“マッドチェスター”や“ブリット・ポップ”の頃にもなかったことであり、イギリス産のアーティストの本格アメリカ・ブレイクが実は密かに盛り上がりつつあるのだが、そうした流れにもちゃんと乗れ、なおかつ若さと圧倒的なカリスマ性を擁するスターセイラーはこの流れの決定打となるのではないか。そうした見方さえ、現在あるのもまた事実。現にダイドが彼らの大ファンであることを既に表明したりと、その噂は確実に広がりつつある。
こうした圧倒的な絶賛の声に後押しされる形で、9月27日リリースの待望のデビューアルバム『Love Is Here』は間違いなくシーンに強烈な一撃を食らわせるだろう。そしてこれを足掛かりに、あのジェイムズの声が世界中に轟くことを今から期待したいところだ。 文●沢田太陽 |
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