SET LIST M1:ナイフ M2:エロス M3:アクセル M4:HONEY PIE M5:プリティ・デイト M6:PRETTY DOLL M7:BACK TO ZERO M8:FANTASIA M9:I'm in Blue M10:イノセントスカイ M11:RAINY LANE M12:心に太陽 M13:LEVEL WELL M14:A-LA-BA・LA-M-BA M15:LOVIN'N NOISE M16:IMAGINE HEROES M17:PURPLE PAIN M18:Fall in Dream
-ENCORE- M19:STRANGER IN PARADISE M20:SPEED M21:せつなさを殺せない |
| ことさら目立った音源リリースのない時期に行なわれるツアーとその内容は、総じて興味深いものが多い。これは、僕のキャリアからはじき出された一つの真実である。今回の吉川晃司のツアーもそれに該当した。
音源リリースがないのは、何も彼が2本の映画を含むACTINGに力を傾けすぎたというわけでもなかろうが、“演じること”も再び射程に入れたことで、吉川晃司は今、非常にニュートラルな状態にあることはこの日のステージからも充分に確認することができた。
ドラムセットの脇に突き出たシンバル…これは、吉川が足を高くあげてシンバルを“蹴って鳴らす”ためのものだ。この種の、バカバカしさとカッコよさが同居した演出、あるいは装置があるときほど、彼は活き活きとパフォーマンスをする。歌にも演奏にもキレが出ていたが、決して“硬く”ならないところが、彼がアスリートの資質を持っている証だ。例えば、ボーッとしながら集中するという、相反する意識を同時に持つことをレベルの高いアスリートは自ら行なえる。そうすることで試合や記録に数字を残すのである。吉川はミュージシャンとしてこの意識を持てる、非常に稀なタイプだと思う。
「HONEY PIE」などを聴いたのは何年ぶりのことだか判らないくらいなのに、少しも古くさくない。むしろ吉川楽曲の先見性を思いがけず感じたりもした。
COMPLEX時代の「PRETTY DOLL」は、ロックを飛び越えてハイパー・パンクになったかのようなbpm(編集部註:1分間あたりの拍数)とテンションで、それでも吉川のギター・ソロはまったく乱れなかった。
かと思えば、ゲストの原田暄太も交え佐野元春のミドルチューン「I'm in Blue」をさりげなく張ったヴォーカルで歌い、これまたレア曲「イノセントスカイ」をアコースティックギターを持ってイメージを羽ばたかせるように歌う。「A-LA-BA・LA-M-BA」では、モニター・スピーカーの上に片足で立ち、「IMAGINE HEROES」では、スタンドマイクから(ボクシングの)ジャブを繰り出すかのようなポーズで、グルーヴの渦を加速させながら歌う。
スポーツで言えば、この“アゴがまったく出ない状態”に、感激すらした。吉川晃司の(過去を充分に吸った)ニュー・フォーマット。その幕を開けたのが、この日のステージだったのではないか。
文●佐伯 明/写真●細野晋司
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