自分のアートと人生は相反することのせめぎ合いだった

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「自分のアートと人生は相反することのせめぎ合いだった」
~自らのユートピア・プロジェクト、Millenium Showを語る

Peter Gabrielの公式サイトでは、現在「OVO」を全面的にフューチャーしている。GabrielがこのMillenium Domeのプロジェクトを手がけることになった背景をはじめ、ミックスを担当したRichard Evansらのコメントやショウのストーリーを読むことができる。 さらにビデオによるGabriel自身のコメントとショウの模様、オーディオでは「OVO」の2つのヴァージョン(dome ReleaseとInternational releaseがある)から「Time of The Turning」がストリーミング公開されている。


 

ロンドンにおける西暦2000年記念行事の目玉としてテムズ河のほとりに建てられたミレニアム・ドームは、まるで巨大なコンドームの先っぽだ。中に入ると派手でにぎやか、教育的かつエンターテインメント、しかも営利目的ときている(ヒッピーがマクドナルドを乗っ取り、テーマパークの乗り物のスポンサーとなったなら、こんなふうかも)。天井まで150フィート、客席数1万2000のアリーナでは、毎日4回、30分のショウが行なわれている(最近はあまり人気がなく300人ほどしか埋まらない)。Kissのコンサートも顔負けの照明やセット、ドライアイスを使い、ダンサーや空中サーカス、アクロバットなど200人が、Peter Gabrielの音楽に合わせてショウを行なう。このショウの全貌は『OVO: The Millennium Show』で聴くことができる。これはPeter Gabrielのオフィシャルなニューアルバムではないが(7人のヴォーカリストの1人としてクレジットされている)、ファンには'92年の『Us』以来の作品を含むディスクとして歓迎されるだろう。

僕はすごく仕事がのろいんだ」とGabrielは言い訳するように言う。そこは西イングランドにある、築200年の水車小屋を改造した自宅のダイニング(彼のスタジオ兼マルチメディア&レコード会社であるReal Worldの本社)。「昔からずっと何事も遅くてね。なぜかって? 自分で納得できないものがたくさんあって、よし、これでいこう、と言えるところまでたどり着くには長い時間がかかるんだ。それに今ではいろんな機材があるんで、手を加えたり取り替えたりする可能性も以前より多くなった

実はGabrielは、コンピュータが所狭しと置いてあるロフトのスタジオで、『Us』の次作となる本来のニューアルバム『Up』(R.E.M.の『Up』よりずっと前にリリースが予定されていたのだが、今ではどうやら2001年まで遅れるらしい)の制作に取り組んでいた。そこへ、このドーム・プロジェクトが横から舞い込んできたのだ。彼のストーリー、ビジュアル、音楽という自由奔放な才能が発揮できるだけでなく、およそ400億ドルもの多額の予算がつくとあっては、断るわけにはいかない。「いわば巨大な遊び場と砂場があって、自由に砂遊びをしていいってところに惹かれたんだよ

もう1つ気がそそられたのは、このドームにはミレニアムのニューイヤーズ・イヴという「絶対厳守の締め切りがあったこと。僕には特にそれが必要なんだ。アーティストに、いつでも好きなようにやってくれ、なんて言うのは最悪だね。キツイ箱に入れてやるから、なんとか自力で出てみな、と言えば、アーティストは最高に頑張るものなんだ

だがやはり、Gabrielにとって一番の魅力は、長年温めてきたアイデアを試せるという点だった。「一風変わったテーマパークを作ってみたかったんだ。当代きっての面白いアーティストと科学者が設計したディズニーのようなのをね」とGabriel。ミレニアム・ドームは、計画の段階では彼のReal World Experience Parkのようだっただけでなく、同じ建築家や設計者、技術者がコンサルタントとなっていた。

20年前、Gabrielは先進テクノロジーを取り入れたニューエイジ・ユートピアを構想した。ドームの中に独自の天候システムを配備し、アート的で教育的かつ精神的なテーマの乗り物を提供するというアイデアだ。彼はDavid ByrneBrian Eno(彼らとは霊気の地下森林を相談)、心理学者のR.D. Laing(彼とは「乗り物恐怖症」を作り出すことについて相談)、その他コンピューター専門家、バーチャル・リアリティの発明者に至るまで、数多くの人々とアイデアを煮詰め、計画を立てた。オーストラリアやドイツ、最近ではスペインで、このテーマパーク開設を目指して資金提供者を求めたが、どれも空振り。Gabrielはそれにもめげず、今も計画を温め続けている。「いつの日にか実行に移す時が来たら、それは完璧なものになると思う。なにしろ、時間をかけて進めてきたからね」と彼は説明する。一方で、彼はこのアイデアをほかの多くのプロジェクトに活用してきている。自身が毎年開くWOMAD世界音楽フェスティバルのCD-ROM『Eve』などだ。

話を聞いてみると、このガブリエランドのほうが、ミレニアム・ドームよりはるかに面白そうだ。Gabrielもそう認める。「10億ドルの予算を僕にくれれば、もっと違ったものにしてみせる。なにしろこのドームは、僕が知る限り、英国で一番人気のないプロジェクトなんだからね。でも逆に考えると、だからこそ面白いとも言える。僕はこういう2つの相反する力のせめぎ合いに魅力を感じるんだ

そういうせめぎ合いは、ソウルのドラマーとしてデビューしたのち、プログレッシヴロックのシンガーとなり、Genesis脱退後はソロ、しかし、その後も多くのコラボレーターと一緒にやってきたスーパースターのGabrielだからこそ、よく理解できるのだ。自然を愛する元ヒッピーで(「僕がヒッピーだったというのは誰もが知っていることで、花をいっぱい身につけていた時期もあるんだからさ!」)、コンピュータとバーチャル・リアリティ好き。そして自称「けちんぼ英国人」のくせに、精神分析が大好きという、まったく英国人らしからぬところもある(精神分析で学んだ一番大切な点は「悲しみが見つかるまで幸せは見つからない」ことだそうだ)。自分の人生とアートはまさに、相反することのせめぎ合いだったと言う。

これは両親から受け継いだものだと思う。父は電気技師で発明が大好き、おとなしくて内気で、緻密に分析するタイプ。一方、母はもっと本能に忠実なタイプで、感情的でクラシック音楽が好きだった。僕はその両方を受け継いでいる。沈んだ性格だけど、希望にあふれた活発な面もあり、笑いよりは繊細な愛情を好む。僕の好きな音楽には哀しみがあり、楽しい音楽より打ちひしがれた気分を歌う音楽を書くほうが、ずっと自分に合っている。だけど、そのどっちも好きなんだ

ニューアルバム『Up』には当初、“Father, Son”が入る予定だったが、『OVO』に収録されることになった。Gabrielが父親と1週間2人きりで過ごした、大きな「突破口」ともいうべき貴重な経験に基づいて書かれた安らかな賛歌だ(「父が年老いていくのを見るにつれ、それまで親子の絆が思ったほど深くなかったという気がしてきたんだ……」)。この曲や『Up』というアルバムタイトルからは、Gabrielがやっと内面の決着をつけたことが窺える。「これで自分と折り合いがついたよ。今ではずっと気分も軽くなった。でもここまで来るには、どろどろしたものを吐き出さなくてはならなかったんだ」と微笑みながら最後にもう一言。「それでもやはり落ち込んだり、舞い上がったりしてるけどね

 

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