A Righteous Return ~ 偽りのないカムバック
A Righteous Return ~ 偽りのないカムバック |
Joan Osborneが『Relish』をリリースしてからすでに5年。 メジャーレーベル移籍後のこのデビューアルバムは、マルチプラチナを達成し、グラミー賞にもノミネートされた。その後、「One Of Us」がかなりのシングルヒットとなったものの、インデペンデント時代の『Early Recordings』が再リリースされただけで、Osborneはどうやら音楽業界から姿を消してしまったかのようにみえた。 しかし、周囲がどう思おうと、Osborneはその間、無為に過ごしていたわけではない。タイトなスケジュールをこなしていたのだ。 「『Relish』のプロモーションで2年間ツアーに出ていたのよ」と話す彼女は、先日、『The Tonight Show』に出演し、ニューアルバム『Righteous Love』を紹介したばかり。 「それからすぐスタジオ入りして新作に取りかかったんだけれど、コラボレーターを変えてやってみても上手くいかなくてね。私が仕上りが気に入らなかったり、レコード会社側が気に入らなかったりで、思うようにいかない時期が続き、何度も何度も最初からやり直す羽目になったのよ」 何度もトライしたアルバム制作の中には、プロデューサーのMike Mangini(Digable Planets、Imani Coppola)や、CrackerのフロントマンのDavid Lowery、それにT-Bone Burnettを迎えたセッションもあった。どれも完全に満足いく仕上りとはならなかったものの、かなりの量のマテリアルが生まれたので、いつか日の目を見ることになるかもしれないとのこと。 こういうセッションの合間をぬって、彼女はインドに出かけてダライ・ラマとチベット解放のための支援コンサートに出演したり、キューバで行なわれたMusic Bridgesプログラムに参加。キューバではBonnie RaittやBurt Bacharach、Me'Shell Ndegeocelloなどのアメリカ人アーティストと共に、1週間にわたり、キューバのミュージシャンを交えて作曲、レコーディング、パフォーマンスを披露した。 またChieftainsやBob Dylan、Ricky Skaggsとのレコーディングもあった。 「だから、ただじっと座ってミューズがインスピレーションを与えてくれるのを待ってたわけじゃないのよ。ずっと活動は続けていたんだけれど、それが必ずしもニューアルバムにつながるとは限らないってこと」 昨年12月、Osborneがレコード会社との提携やスタッフを変えたことで、それまでのレーベルMercury Recordsは、彼女との契約を打ち切った。 これは『Relish』の成功を考えると、信じられないような仕打ちだったが、彼女は懸命に仕事を続け、プロデューサーのMitchell Froomを起用し、自分の資金で新たなレコーディングを行なう。 「ちょっと不安定な時期で、私が新作を出すかどうかなんて誰も気にも留めてないんじゃないかと思った。スタジオ入りしてからも、だらだらやらなかったわ。だから、このアルバムにはそういうストレートな雰囲気や当時の心境が伝わってるはずよ」 だが、この「ストレート」というのは、これまでFroomがプロデュースした作品を形容する言葉ではない。彼の作品で知られるのは、Los Lobosから分かれたLatin PlayboysやAmerican Music Club、彼の妻Suzanne Vegaなど、くせのある左寄りの作品だ(もちろん、Sheryl CrowやCrowded House、Vonda Shepardといった、ごく中道のアーティストも手掛けてはいるが)。 「Mitchellは、自分がコアなファン層に受けるものだけ創るプロデューサーだという評判が広まってるのを知ってたのよ。だから、そりゃそういうのもやれるけど、違うタイプのもやれるんだって言いたい感じだった。私が出した歌を気に入ってくれたのも、そういう理由からだったんだと思う。私との仕事で、彼がこだわるアート性を維持しながら、しかも一般受けし、ラジオ受けもする作品を仕上げる方向性を見出したのよ」 そういう意味でOsborneは、今回のアルバムでは曲作りでも興味深いコラボレーションを行なっている。例えばBurnettとの仕事を通じて出会ったJoseph Arthur、Froom の紹介によるLos LobosのLouie Perezなどだ。 アルバムの舞い上がるようなタイトルトラックを共作したArthurについて、Osborneはこう話す。 「Arthur はすごく才能があり、音楽に対して遊び心がある人。とても多感な人だけど、音楽になるとすっと自然に流れ出る。インスパイアされることが多く、理詰めで考えすぎるようになっていた私がちょうど必要としていたタイプの人だったわけ。ほんとに楽しい日々だったわ」 ミキシングは、『Relish』をスマッシュヒットに仕立て上げたクリエイティヴチームのRick ChertoffとRob Hymanが担当。 「なんで『Relish』と同じスタッフでレコーディングしないの?とよく訊かれるんだけど、ちょっと違うことを試してみたかった。それに彼らのほうも他の人のレコードに関わっていたりだったし。スケジュール的にまったく無理ってことじゃなかったから、私も少しは彼らと一緒にやりたいと思って、曲作りを一緒にしたのよ。こうしておくと関係も維持できるしね」 『Righteous Love』には、オリジナル曲のほかにカヴァー曲も2曲入っている。Bob Dylanの甘いバラード「Make You Feel My Love」と、Gary Wrightの'70年代のポップファンクの大ヒット「Love Is Alive」だ。 「私って、どうしてもBob Dylanのカヴァー曲を入れてしまうのよね」とOsborneは笑って言う(『Relish』にはDylanの「Man In The Long Black Coat」が入っていた)。 「とても好きな歌よ。『Time Out Of Mind』に入ってたんだけど、運転してた車を急遽道端に止めて聴き入ったくらい。すごく衝撃的だった。シンガーとして他人の曲をカヴァーするなら、それくらい強力なインパクトがあるものを取り上げたいわ。あの曲はまさにそういう作品なのよ」 Wrightの曲のほうは、最初スタジオバンドと冗談でプレイしたものだという。 このバンドはJack Sh-tという名前で知られるハリウッドのクラブの常連で、ある晩、Osborneも一緒に出かけた際、ステージの途中で、全員が知っている曲を1曲プレイしようということになり、この曲の登場となったのだ。スタジオへ戻ってプレイしたのをFroomが聴き、ぜひレコーディングしようと提案。 「それが、これってわけ。お遊びよ」とOsborne は笑う。 遊びはさておき、今度始めたインターネットマガジンへの興味はまじめである。その名はHeroine (www.heroinemag.com)。手短かに言うと、コンテンツは“インスパイアリングなことをやってるクールな女性”。彼女が資金を出し、インタビューも少し手掛けている。例えば女優のSusan Sarandonとフォークロック・デュオのIndigo Girlsを交えた円卓形式のインタビューで、テーマは有名人と政治への関心。 「(マガジン創刊は)レコードを出せなかったことのフラストレーションもあったわ。なんとか表現したいという気持ちね。でも、それ以外に、一般の女性雑誌への不満もあったのよ。空港の売店で、機内で読もうと女性雑誌をいろいろ探すでしょ。確かに面白い記事もあるんだけれど、なにしろ山のようなリップスティックのページや、ファッションやメイクやダイエットやショッピングのページをかき分けてでないとお目にかかれないわけ。そういうのもいいんだろうけど、私はもう飽き飽きしてる。だから、そういう派手なページはいらないっていう人向けに、内容のある記事だけが読める場所があってもいいと思わない?」 「それで始めたのよ。普通の雑誌にしたかったんだけど、ものすごく資金がかかるし、ウェブマガジンにも興味があったんで、今はその形でやってるわ」 LAUNCHとしてはもちろん全面的に賛成だ。 ただ、レコード店へ足を運んで、『Righteous Love』を探すというのも捨てがたい楽しみではある(この意味、分かってくれるね?) by Dan Durchholz |