【特別企画】ロック界を揺さぶる新トレンド「DJ時代の到来」…DJは2000年代のサックス奏者か?
ロック界を揺さぶる新トレンド「DJ時代の到来」 …DJは2000年代のサックス奏者か? |
暑い夏の日のガレージでのことだ。君と仲間はメタリカのカヴァーなんかを演奏してロックンロールの炎をつけられ、頭を打ち振り、汗を滴らせ、指から血を流して燃え尽きるのだ。そんな光景が想像できるだろうか? そこへ突然、見知らぬ男がいっぱいのアナログ盤とターンテーブルを抱えて部屋に現われ、「セッションに参加してもいいか?」と訊くのである。君は「それで何をするんだ?」と考える。彼は道具を揃えた作業台に向かい、ラインを接続する。そしてちょっとしたマッドサイエンスを披露してくれるのだ。 わかっただろう? たぶんね。 クラブに行ってみよう。 音楽界に影響を及ぼすDJの存在はヒップホップのアーティストやラッパー、さらには一部のR&Bシンガーにとっては目新しいものではないが、ロックの世界では彼らのことをサラウンドサウンド程度の革命性だと考えている人々もまだ存在する。 ロッカーたちよ、現実を直視するのだ。 DJはロックの世界にも存在し、声高で、他所へ行くつもりなどないのだ。現在の音楽シーンをざっと見回してみても、DJが演奏に加わっているバンドが多く存在することに驚かされるだろう。Limp Bizkit(DJ Lethal)やDeftones(Frank"Pick Me A Nickname" Delgado)は、すぐに思い付くそうした多くのバンドのうちのほんの2つだが、そのリストにはIncubus、Ozomatli、311なども含まれている。 LAUNCHがインタヴューした人々によれば、よりストリート的なミュージシャンが組織的に増えているらしく、これは自然な音楽的進化と考えられるようだ。 サンフランシスコのモダンロック局Live 105のミュージックディレクターAaron Axelsenは、「ステージ上で目撃される現象は、ストリートで起こっている事態なのである。ヒップホップのキッズがロッカーたちとつるんでいるんだ」と説明する。さらに同氏は最近サンフランシスコで行なわれたDeftonesのショウでの観客を例に挙げて、「Deftonesにはまっている連中がCypress Hillのリクエストをしてくるのさ」と語っている。 今ではDJ付きバンドがチャートのトップに昇りつめるようになったが、ヒップホップとロックが最初に遭遇したのは10年以上も前のことである。 DJ Logicの場合は最初オルタナのグループでターンテーブルを回し始め、個性派ギタリストのVernon ReidやジャズのジャムバンドMedeski, Martin & Woodとギグを行なうようになっていった。 彼の経験からは興味深い疑問が浮かび上がってくる。MM&Wやラテン風味のOzomatliのようなバンドは、いったいDJをメンバーに加えることをどのように考えているのだろうか? 最低限の共通要因を取り入れようとしているのか? フックを求めているのか? 都会的な切れ味がどうしても欲しいのか? いや、そんなふうにシニカルなことではまったくないだろう。 しばらく客観的に考えてみよう。 DJは3小節の空白や1-2回のスクラッチで音楽にユニークな音響効果をもたらしたり、感触を一変させてくれたりする。確かにそうした多彩な効用によって、DJは最近のライヴで起きる最もエキサイティングで興味深い事象のひとつとなっている。 いいかい、カッコいいギターソロやド迫力のドラムソロもいいだろう。だが、そんなものはもう耳タコなのだ。DJならエフェクトのためのアンビエンスを入れたり、アティチュードを示すスクラッチを効かせたり、バンドに元通り曲を演奏させることもできるのだ。 しかし、これで彼らを「ミュージシャン」と呼んでいいのだろうか? うーん、この問題に関しては熱い論争が沸騰している。一方でDJは単にレコードを回しているだけだという意見もあれば、彼らは音楽に適したタイミングや場所を知らなければならないので、そうした知識そのものが音楽的なのだという考え方もある。 バンドのサウンドに彩りを添え、ソングライターに影響を与え、オーディエンスを沸かせる。これ以上のことをミュージシャンに望めるのだろうか? そう、彼らは楽器を演奏していると言えるのだろうか? それは君の考え方しだいだ。 歴史的に見てもロックバンドはサウンドを拡大したいときには、キーボードやセカンドギター(Allman Brothersなら5人目もありそうだが)など、メンバーを追加してきた。 だが、音楽に際だったタッチを加えることのできる数少ない才能あるプレーヤーを除けば、キーボード奏者というのは陳腐化した存在である。 間違っているだろうか? '80年代を思いだしてみよう。それで、'80年代のことを話すのなら、バンドが何か新しいものをサウンドに加えようとしてサキソフォン奏者を加えていた時代だったことを忘れてはならない。 サックスは3週間くらいはちょっとクールだったかもしれないが、すぐにがらくたになってしまった。だが、そのことにすぐに気付く者はおらず、問題を複雑化してしまったのである。 ロックDJコンボの世界ではまだそんな事態は起こっていないし、率直に言わせてもらえば、そんなことは起きないだろう。Deftonesの最新メンバーであるDJ Frank Delgadoは最近のインタヴューで、バンドと一緒にDJワークを行なうことに関するキーポイントを語っている。 「連中はまったくヒップホップのバンドではなかったのだから、変身してしまったようなものだ。だが、俺は“ここでブレイクをするから、スクラッチを入れよう”みたいなことはしたくなかった」という。 「そこが重要なんだ。俺はヒップホップ音楽を聴いて育ったし、一方ではヒップホップ音楽も作っているけど、Deftonesの音楽にそんな要素を聞き取ることはまったくなかった」 完璧なスポットを見つけるのは、全体の方程式におけるリンチピン(車輪止めのくさび)のようなものなのだろう。 あらゆる観点から見て、DeftonesのようなバンドがDJを内部に迎えることなしに、『Around The Fur』でのハードコアから『White Pony』でのコンセプトロックへの飛躍を遂られたかどうか、誰もが疑問に思うことだろう。そしてLimp BizkitがDJ Lethalの存在なしに、これほど影響力のあるバンドになっただろうか? それはすべてファンの手にかかっているのだ。彼らはお気に入りのバンドにDJが入るのを受け入れるのだろうか? あるいはバンドたちが流行りのトレンドに飛び付こうとしているだけに見えるのだろうか? Deftonesがアンコールに応えてステージに戻ろうとしているころ、サンフランシスコのWarfield Theaterのロビーでは一人のファンが一息ついているところだった。彼は汗まみれで少し傷跡があったが、ショウを満喫しているようであった。 彼はDJを加えるというバンドの選択に批判的なのだろうか? 首を傾げながらいぶかしげに彼は答えた。 「いいや、どうして?」 3年たてばバカバカしいものになるとしても? 「いいや、どうして?」 …彼はポイントを突いていた。 そう、DJは2000年代のサックス奏者なのかもしれない。3年間、あるいは3カ月で陳腐化してしまうものかもしれない。だが、誰が気にするのだろう? 音楽とは今がすべてなのだ。 by David John Farinella |
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