―― ズバリ、『千嘉千涙【senka-senrui】』はどんなアルバムですか?
イトウフミオ: そうですね。Kemuriの3枚目のアルバムで、メンバーがひとり抜けまして、いままでとは違って6人になって、“新生”Kemuriという感じで作ったアルバムです。どういう風に思ったりしたとか、どういう風に感じたりしたとかは、それは多分聴いていただくのが一番早いかなぁ、と思ってまして。とにかく、今まで以上に自分達の好きなことをやろうと、好きなことだけやっていこうと思って作ったアルバムです。それが非常にいいカタチに表現できてたんじゃないかと思っています。
―― 2年ぶりのアルバムですが、サウンドが前作に比べてさらにはじけている印象を持ったんですが、それは、自分達の中でなにか抑えていた部分、というものがなくなってきたんでしょうか?
イトウフミオ: まぁなんというか制約というか、本当に…。うーん、そうですね。「こういう風にしなくちゃいけないのかなぁ」なんて思っていたことや、漠然とした不安がなくなって、「好きなことやっていいや」っていう。楽しさ優先、気持ち良さ優先、と思っていただいていいんじゃないかなと。
―― ところで、今回のアルバムのタイトルを『千嘉千涙』にしたキッカケとは?
イトウフミオ: そうですね。“千嘉千涙”という言葉の意味は“たくさんの喜びと、たくさんの悲しみ”という感じです。これは自分達で作った造語なんですが、思い通りになること、喜びがたくさんあっても、必ず悲しみというものと、2つは一組になってやって来るものなんだろうなぁ、と強く感じたんですね、今回。 だから、すっごい喜んでいるときでも、やっぱり慢心しないで、足下を見てしっかり歩んで行きたいし、また逆にね、思い通りにならないことが多くても、絶望的にならないでね、その後には必ずやっぱりいいことがあるから。それを忘れないで、本当に、地に足をつけて、自分の目標だけを見てね、それが遠くにあるものでも近くにあるものでも、ずっとやっていきたいなと…そういう気持ちって絶対忘れたくないな、と思ってこういうタイトルをつけました。
―― そういう風に、いいことも悪いことも…とか、自分が今立っている場所について、じっくり考える時期というのは、わりとヘヴィーな時とか、環境に劇的な変化があったときのような気もするのですが…。このアルバムを作るまでの2年間というのは、そういった、いろいろな波が押し寄せてくる時期だったのでしょうか?
イトウフミオ: …やっぱり、ライヴをやる会場もだいぶ規模が大きくなってきたし、本当に自分達が楽しめればいいやと思ってきたバンドが、思っていた以上、予想していた以上にたくさんの人がね、共感してくれたりって…。そういうことがありましたね。それに対して喜びもあったけれどやっぱり、とまどいもあったし…。
―― ライヴ会場が大きくなってくるに連れて、お客さんの反応や、それに関わってくる人というのもだいぶ変わってきますよね。予想外のことが増えているのではないでしょうか?
イトウフミオ: やっぱり、多少とまどいはありますよね。「キャーフミオー」とか言われちゃうと(笑)。なんかねぇ、それだったらもっと若くてピチピチした、もっとハンサムな人に言った方がいいんじゃないとか思うし(笑)。なんて言えばいいんだかわかんないですよ。「キャーフミオー」って言われて、「ああ、どうもコンニチハ」って、あんまり言えないかなぁって…。なんて言おうかなぁ、って、けっこう戸惑うんですよ。「こんにちはー」って言われたら「こんにちは」って言えるんですけどね。でも何にも言わないと「なんだよーシカトして!」とか言われそうじゃないですか。だから、なんか言わないといけないかなぁ、と思って。 でも真面目な話、客層はね、幸いあんまり変わってないですけどね。やっぱり、光あるところにいろんなものが集まってきますから。ある種ね。
―― 今自分達は“発光している”感じはしますか?
イトウフミオ: そうですね…。あまりそういう感じはしないんですけど、光っているのかな…。そう思うようなときはあります。
―― 話は変わりますが、前作に比べて、今回は歌詞に重みが増したと言うか、考えさせられるものがあるような気がするのですが? 今までどおり元気で楽しい、というのがありつつも、歌詞をじっくり考えてみると「深いなぁ」と思わせる内容が増えてきていますけど、それは何かあるんですか?
イトウフミオ: とくにキッカケはないんですけどね…。いろんな状況を見て忘れたくないなぁ、という気持ち、例えば、さっきも言いましたけど「これでいいのかなぁ」と、思い直す気持ちというのか、問題意識というか。何気ない習慣でやっていることでも、本当に時としてやっぱりこれでいいのかなぁと思う気持ち。っていう感じです、わかりにくいですかね(笑)。でも、それは、作品を聴いていただいて、感じてもらえればいいと思うので。聴いていただければわかると思います。
―― このCD発表とともに、かなりハイペースなスケジュールで全国をまわりますが、ツアーの意気込みがあったら教えてください。
イトウフミオ: そうですね。やっぱり、いろんな活動をしていけるのも、ここまでやってこれたのも、やっぱりライヴで楽しそうに汗かいて踊ってくれるお客さんの顔とか見ると、すごい元気づけられて、力をもらうんですね。それがなかったら、やっぱり、やってこれなかったかなぁ、ということもすごくあるので。また、そういう場になるように、心と体やっぱり両方を、鍛えて、治して望みたいと思います。120%の力を出せるように。
―― 120%の力を出す方法とは?
イトウフミオ: 楽にやることですかね(笑)。楽しく、あまり無理しないで
―― やっぱり楽しいことが一番ですかね。
イトウフミオ: そうですね。本当にそう思いますけど。
―― わかりました。では最後にロンチ・ジャパンを見ている人にメッセージを。
イトウフミオ: どうも初めまして。興味があったら、『千嘉千涙』をよろしくお願いします。それでは!
前作を発売してから2年、すべてにおいて試行錯誤の連続だったというイトウフミオ氏。しかし、アルバム制作が終わり全国ツアーを控えた今、すべてを達観したかのように、涼やかにやさしく話す彼の姿を見ていると、きっとなにか大きな壁を乗り越えて、自分の目指す道をはっきり見据えたのであろう、人としてのスケールの大きさとすがすがしさを感じさせられた。“新生”Kemuriはきっと、今まで以上にパワーアップした姿を見せてくれると確信している。
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