『光の構築』への挑戦
『光の構築』への挑戦 |
過去30年余りのあいだに、King Crimsonは何度もラインナップを変えた。 その回数たるや、よほどオタクなファンでもなければ数える気にもならないが、このアートロック界の大御所には、昔から変わらない点が少なくとも2つある。 ギターの名匠Robert Frippの存在と、鬼のように複雑な音楽性だ。…となれば、最新作『The ConstruKction Of Light』においても、すべてが秩序に基づいているのは当然だ。 例のごとくFrippの指揮のもと、いつにもまして濃密で複雑に入り組んだ音楽が展開される。20年にわたってバンドの外向的なフロントマンを務めてきたシンガー兼ギタリストのAdrian Belewは、KCのヨーロピアンツアーを間近に控えて、新曲のむずかしさに頭をかかえているという。 Belewが苦笑するのも無理はない。 「それに今回は、自分で自分を追い込んじゃったところがあってね。というのも、「The ConstruKction Of Light」のコーラスはランダムな単語でできていて、この高さの音にはこの言葉というのが決まっている。Gの音を歌うときは「pain」と言い、Eの音を歌うときは「「passion」と言う、といったふうに。しかも同じ高さの音が何度も出てくる場合は、2つめの言葉、3つめの言葉をあてがっていく。そういう内部構造にしようと考えて、歌詞を書くのはおもしろかったよ。だけど、まったく脈絡のない言葉を覚えるとなると……しかも4拍子でギターを弾きながら、5拍子と7拍子で歌わなくちゃいけないんだから。まだしばらくは悩まされそうだよ。メンバーにはいつもジョークを言ってるんだ。ヨーロピアンツアーの最終公演はスペインだから『心配するな、スペインまでにはマスターするよ』って」 Frippの考案によるもので、『The ConstruKction Of Light』の収録曲中で重要な役割を果たす(ところで、タイトル中の“Kc”の表記はミスプリントではない。このアルバムでは“c”の代わりに“Kc”…おそらくKing Crimsonのイニシャル…文字が使われている。もちろんFrippが独自に思いついた、厄介なPrince風の変体アルファベットだ)。 BelewとFrippがオフセッツでプレイする場合、あらかじめ決めておいた順序に従って代わる代わる一音ずつを弾くことによって、互いの音を反響させ、空間的な効果を生み出す。Trey Gunnが両手であやつるタッチ・ギターでこれに加わると(バンドの語法ではこれを“トリプル・オフセッツ”という)、音の広がりはさらに大きくなり、3台の楽器によって奏でられる各パートが混ざり合って、空中で和音を形づくる。 「特に「The ConstruKction Of Light」は5/4拍子に切り替わるからね。まずTreyがフレーズの最初の音を弾くと、僕が2番目の音を弾き、Robertが3番目、そして僕が……いやTreyが4番目、僕が5番目を弾く。こうすることで音がそこらじゅうにはね返る感じになる。それがもともとの意図なんだ」 しかし、ここにも仕掛けがある。 Belewのヴォーカルの回転速度を、彼の声とはわからないくらいにまで落としてあるのだ。 「体重300ポンドのブルースマンみたいな声になってみたかったんだ。ほかのメンバーにはないしょにしてたけど(笑)。自分のソロアルバム(現在制作中)で試した後だったから、やり方はわかっていた。コンピュータで時間を圧縮するというトリックさ。まずダミーのギター・トラックをバックに、ピッチを上げて自分の声を録音し、ギター・トラックをはずして普通のピッチに下げる。そうすると、うんと太っちょになったみたいな声ができあがるよ」 '97~'99年にかけて、4つのユニットが世界のあちこちで公演を行ない、ほとんどのパフォーマンスが録音されて、FrippのレーベルDiscipline Global Mobileからリリースされている。 ProjeKct Twoに参加して、イギリスと日本、アメリカをツアーしたBelewが言うには、『ConstruKction』の何曲かは、このときのバンドが着想したものだそうだ。 「あのバンドで僕がドラマーになる前につくった唯一の音楽が「The ConstruKction Of Light」だった。それから「Frying Pan」のオープニングで、RobertとTreyと僕がお互いに逆行するクロマティック・スケールを弾くところ…あれはずっと以前に考えて、ほったらかしてあったものだ。それを「Projection」とか「Construction」とか呼んでいた時期もあったよ。そのうち曲名が混乱しちゃってね(笑)」 2人の脱退について、Belewは言う。 「詳しく説明するとかなり込み入った話なんだけど、第三者風にかいつまんで言えば、BillとRobertはもはや音楽的にそりが合わなくなって、Billがこのバンドでやっていく気をなくしたんだと思う。Tonyはまた話が別で、バンドに参加できる状況になかった。あの時点で、彼はSealと1年半のツアーに出かけ、引き続きおそらくPeter Gabrielに1年半同行する予定だと、僕らは理解していた。バンドのラインナップを決定する権限はRobertにある。彼と僕は10日ほど毎日、その件について話し合ったよ。そして結局Robertが、『熱心な若いのが2人p…PatとTreyのこと…いるじゃないか。彼らはやる気満々で、何だってするつもりだし、ショウにも欠かさず出たいと思ってる。だから4人でやっていくことにしよう』っていう気持ちになったんだ。BillとTonyがいなくなったのはとても寂しい。大好きなプレイヤーだし、なによりも人間として大好きな人たちだから。でも、バンドの編成はカルテットのほうが好みなので、僕もRobertの案に同意した。正直なところ、6人もいるとやりにくかったんだ。みんなが何となく抑えなくちゃいけない感じでね。4人になると、各自がもっといろんなことをやれる。僕は4人編成で大満足だよ。そこにRobertと僕がいる限りはハッピーだ」 「Patは独特のサウンドをつくるために、たいへんな時間と労力をかける。エレクトロニック・ドラミングには限界もあるが、彼はすばらしい仕事をしていると思う。僕らのサウンドに新風を吹き込んでくれたよ」 『The ConstruKction Of Light』の自己言及の多さには驚かされる。彼らはほとんど全曲で、自らの過去の作品…とりわけBrufordとベーシスト兼シンガーだったJohn Wettonが在籍した'70年代中頃のダブル・トリオ期のもの…を引き合いに出している。 曲のタイトルにしてもそうだ。「FraKctured」はタイトルもメロディも、'74年のアルバム『Starless And Bible Black』収録の「Fracture」にそっくりだし、「Larks' Tongues In Aspic Part 4」は'72年に始まった一連作の最新版。 このような“焼き直し”は、Frippのアイデアが尽きてきたせいだと思う向きもあろうが、Frippにしてみれば、同じ道筋を違う方法でたどって、さまざまな要素の新しいコンビネーションを生み出す試みだろう。 確実に言えるのは、この手法でつくられた音楽は、Crimson以外の何ものでもないサウンドになるということだ。Belewもその点を強調する。 これについてはほかのメンバーも同感らしい。 「今回のアルバム制作は楽しいことばかりじゃなかったけど、意欲をかき立てられたし、頑張った甲斐があったね。ナッシュヴィルの自宅で快適に仕事ができたのはよかった。バンドにとってもいいことだったと思う。新しいカルテットのサウンドは大好きだ。ツアーに出るのが待ち遠しいよ。今はこのバンドの立場を明らかにし、“これがKing Crimsonだ、楽しんでくれ”と宣言して、そこから先へ進んでいきたい。近いうちにもう1枚アルバムを作って、いつもより大々的にツアーをやるつもり。つまりは、レコード1枚で終わってしまうようなプロジェクトじゃないってことさ。これは正真正銘のバンドだ。改めて自分に責任を持ったという気がする。だから…」 彼は笑いながらこう締めくくる。 「改めて負ったその責任を果たすために力を尽くさないとね」 by Mac Randall |
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