【インタビュー】INABA/SALAS、5年ぶり3rdアルバムに果てない追求心と豊かな遊び心「互いの個性を融合させたい」

■全ての歌詞がメロディーにバッチリはまる
■だからあのグルーヴが生まれた
──「YOUNG STAR」「Burning Love」「LIGHTNING」といったアッパーチューンについてもうかがいたいのですが、たとえば、翳りを帯びていながらR&Rが香る「Burning Love」はかなりサウンドが緻密ですよね。“こんな感じで”みたいなラフなやり取りでは、絶対ここまでたどり着けない気がします。
稲葉:デモはもっとシンプルな構成で、歌のメロディーも最初は違っていたんですよ。そこから構成やメロディーをアレンジして。この曲もシンセベースとドラムのグルーヴにはめちゃくちゃ時間がかかりましたね。いつになったら終わるんだろう…という感じでしたから(笑)。
サラス:2000年頃に俺はミック・ジャガーの音楽ディレクターをしていて。いつもローリング・ストーンズのことが頭にあったんだよ。「Burning Love」は“今のストーンズが新曲をリリースするとしたら、こういうテイストを”という思いのもとに作った。その前にINABA/SALASが、それをやっちゃったという(笑)。
稲葉:「LIGHTNING」もドラムに時間がかかったよね。
サラス:悪夢のようなドラムレコーディングだったな。これも8時間くらいかかったから(笑)。シンプルな曲ゆえに、ハード過ぎると'90年代ハードロックみたいになってしまう。’80〜'90年代ではないドラムにしたかったし、ロックンロールにするのも容易かったけど、そうもしたくなかった。モダンなクラッシュみたいな雰囲気にするために、少し時間がかかり過ぎてしまったな。
──サラスさんはイメージされている音が明確で、そこに至るためなら一切妥協されないことが分かります。そして、それを楽しまれていますね。
サラス:INABA/SALASは本当に楽しいよ。俺は1年半くらい前にボブ・エズリン(プロデューサー)と一緒にMC5のアルバムを作ったんだけど。彼はアリス・クーパーやピンク・フロイド、キッスとかを手掛ける大御所だから、学びも刺激もあった。だけど、INABA/SALASの仕事は心の底から楽しめるんだ。だって、今回もチワワの写真がアルバムジャケットになっちゃうんだよ(笑)。1stアルバムのジャケットも見ただけで笑っちゃうでしょ。INABA/SALASはどんなことも笑い飛ばせるバカバカしさを持っている一方で、音楽はシリアスというバランスがすごくいい。もし次のアルバムリリースがあるとしたら、今ここにいる全員でジャケットにする動物を一緒に考えない?

──ははは、いいですね(笑)。今、ボブ・エズリンの名前が出ましたが、隠し味の活かし方や世界観の深め方など、INABA/SALASサウンドは、彼のアプローチに通じる部分があるようにも感じました。
サラス:「YOUNG STAR」や「ONLY HELLO part2」はまさにそうだよね。ボーン!と鳴らしたピアノの音に強くコンプをかけるというボブ・エズリンの手法を使ったんだ。キッスの「デトロイトロックシティ」(1976年発表『Destroyer/地獄の軍団』収録)で彼は、ピアノ、ドラム、ギター、ベースに強力なコンプをかけて迫力のある音を作っているんだよ。
稲葉:「デトロイトロックシティ」ってピアノの音も鳴ってるの? 全然気づかなかった。
サラス:そう気づかせないのが、ボブ・エズリンのすごいところだよね。
──サラスさんの音楽的知識やノウハウにはすごいものがありますね。それに細部まで丁寧に作り込んでいながら、ゆとりのない音楽ではなく、聴きやすくて気持ちが上がる音楽になっているのはさすがです。
稲葉:「苦労されましたよね?」って言われるような音楽より、その結果として、気持ちが上がる音楽になるのが一番いいですから。
──お二人の職人気質を感じます。続いて、稲葉さんが歌唱面で大事にされたことも話していただけますか。
稲葉:INABA/SALASは、メロディーも少し変わっているものが多くて。レコーディング本番でも、歌詞をメロディーに当てて歌うところから始めるんです。そうするとやっぱり、最初は少し硬めな歌になるので、一発目からなるべくライブのようなノリで歌うようにしています。INABA/SALASはオケがめちゃくちゃファンキーでグルーヴィなので、歌とリズムを馴染ませるということを意識しますね。さっき話したように、リズムはめちゃくちゃ時間をかけて作っていますから。たとえば、歌ってみて“歌のノリと曲のグルーヴがしっくりきた”と思っても、家に帰って録った音を聴いてみると、もう少し良くなりそうだなということも多いんです。それくらいシビア。

──INABA/SALASでの稲葉さんのボーカルは、優れたリズム楽器として機能していることを今回改めて感じました。
稲葉:リズムに関してはスティーヴィーがすごく厳しいので(笑)、僕自身、結構ナーバスになるんです。僕の歌は基本的に前ノリになりがちなのでいつも気をつけていますが、INABA/SALASではことさらですね。
サラス:INABA/SALASを始めたときのルールとして、シンセベースを必ず使うことと、ダンスできる曲にしたいというのがあって。その頃にビージーズのドキュメンタリー映画を観たんだけど、その中で彼らは「歌詞のために楽曲を変えることはしない。必ずメロディーに歌詞を合わせる」と言っていたんだ。INABA/SALASも1stアルバム『CHUBBY GROOVE』では、そこに重点を置いたからこそ、あのグルーヴが生まれた。当初から全ての歌詞がメロディーにバッチリはまるようにしているし、KOSHIが少しでもメロディーを変えると全体のグルーヴが崩れてしまうから、「出来る限り変えないでほしい」とお願いしているんだよ。
──妥協せずにグルーヴを追求するスティーヴィーさんも、それに応える稲葉さんもさすがです。
稲葉:今回で3作目なので、だいぶ慣れたというのはありますね。1枚目の時は大変でしたけど(笑)。
サラス:KOSHIに泣かれるんじゃないか?と思う時もあったよ(笑)。
稲葉:いやいや(笑)。大変さはあるけど、リズムを意識して歌うことはボーカリストとしてすごくいい勉強になるし、得ることが多いので楽しいんですよ。それにメロディーや歌詞ももちろん大事ですけど、サウンドだけで身体が思わず動き出す楽曲に仕上がっていることは、こだわりの結果ですよね。
──実績と経験を持っていながら、チャレンジを忘れない姿勢が素敵です。
稲葉:お互いに“自分はこういうスタイルだから”といって、それを重ね合わせるだけでは、一緒にやる意味がないですからね。
サラス:俺はもともとKOSHIのソロアルバム(2004年発表『Peace Of Mind』収録曲「正面衝突」「ハズムセカイ」)にも参加していて、その時はKOSHIのスタイルに合わせたギターを弾いたし、KOSHIに俺のアルバム(2006年発表『Be What It Is』収録曲「Head On Collision」)にボーカル、コーラス、ブルースハープ、作詞作曲で参加してもらったときは、アルバムに沿ったハープを吹いてもらった。どちらかの意向に沿うことはもう経験したから、お互いの個性を融合させたものをやろうということで、INABA/SALASを始めたわけで。それがルールになっているし、変える気はないよ。
──話を『ATOMIC CHIHUAHUA』のボーカルに戻しますが、ボーカルのリズムの良さが光る楽曲に加えて、「EVERYWHERE」や「DRIFT」といったバラードの表現力が圧巻です。「DRIFT」もそうですが、稲葉さんが歌い始めた瞬間、寂寥感のようなものが広がって惹き込まれる感覚を受けました。
稲葉:「DRIFT」は最初にデモを聴いたとき、“面白い曲だからやりたいけど、歌は大変かもな。ちょっと苦手かもしれない”と思ったんですよ。もちろん何回も歌い直しましたけど、キーやメロディーの影響もあってか、意外と歌いやすかったんですよね。
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