【ライブレポート】稲葉浩志、全国ツアー<~enIV~>Kアリーナ横浜公演にハッピーな感動「この喜びには何も勝てない」

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B'zの稲葉浩志が2024年6月26日、前アルバム『Singing Bird』から10年ぶりのソロアルバム『只者』をリリースした。より深みを増した楽曲群や“只者=何者でもないひとりの人間”として自身の内面にある普遍的な感情や苦悩、葛藤などを等身大で描いた歌詞、そして稲葉ならではの強く響くボーカルをパッケージした同作は非常に良質な一作で、彼のファンはもとよりミュージックシーン全体から高い評価を得ている。

◆稲葉浩志 画像

アルバム『只者』リリースに伴って、6月22日から8月18日にかけて開催された全国ツアーが<Koshi Inaba LIVE 2024 ~enIV~>だ。このツアーはホール/アリーナが舞台、さらに全17公演という華々しいものとなった。稲葉浩志が常に待たれている存在であること、『只者』を聴いたリスナーがライブに大きな期待を寄せていたことがうかがえる。<Koshi Inaba LIVE 2024 ~enIV~>のちょうど半ばとなる7月20日および21日に行われたKアリーナ横浜公演より、初日20日の模様をお伝えしよう。

開演時間を迎えて暗転した場内に重厚なオープニングSEが流れ、円筒状のステージにサポートメンバーのShane Gaalaas(Dr)、徳永暁人(B)、DURAN(G)、Sam Pomanti(Key)が登場。少し間を開けて稲葉浩志が姿を現すと客席から大歓声と盛大な拍手が湧き起こる。そしてライブは翳りを帯びたA/Bメロと力強いサビを配した「NOW」で幕を開けた。ステージ中央に凛と立ち、煌びやかなジャケットを身に纏った姿で抑揚を効かせた歌声を魅せる稲葉の存在感は凄いものがあって、視線を釘づけにされる。落ち着いた雰囲気の幕開けだったにも拘わらずオーディエンスは熱いリクションを見せ、ライブが始まると同時に場内の熱気は一気に高まった。


「NOW」の後はパワフルなボーカルと骨太なサウンドを配した「マイミライ」、緊迫感を放つA/Bメロとアッパーなサビの対比が印象的な「BANTAM」を続けてプレイ。弾力感を湛えた稲葉のボーカルや厚みとキレの良さを兼ね備えた上質なサウンド、サポート陣も含めたメンバー全員が織りなす華やかなパフォーマンス、Kアリーナ横浜の天井近くまでそびえ立った荘厳なステージセットを彩る眩いライティングなど、そこにある総てが上質で、ライブが進むに連れてどんどん気持ちが引き上げられていった。3曲聴かせたところで稲葉の挨拶へ。

「あらためまして、こんばんは! 皆さん、お元気でしょうか? <TOUR enⅣ>横浜公演に、ようこそいらっしゃいました。ありがとうございます。外、暑かったでしょう? 暑い中お越しいただいたからには、ここに集まってくれた皆さんがハッピーな気持ちになって帰れるように我々全員、力を尽くして、愛を込めて、歌って、演奏していきたいと思います。今日は最後までゆっくり、たっぷり、楽しんでいってください」──稲葉浩志

という稲葉の言葉に、オーディエンスは温かみのある拍手と歓声で応えていた。MCに続くセカンドブロックではメロウな「くちびる」や、どっしりしたグルーヴと稲葉の訴えかけるようなボーカルをフィーチュアした「念書」、抒情的なスローチューンの「シャッター」などが届けられた。それぞれの楽曲によって表情や温度感などが変わり、そのどれもが説得力に満ちている稲葉のボーカルは聴き応えがあるし、憂いを纏っていながら決して陰鬱ではなく、どこか光を感じさせるという独自の味わいを湛えた楽曲達も実にいい。オープニングブロックで華やかな盛り上がりを見せたオーディエンスもここでは静まり返って楽曲に聴き入っていて、稲葉が描き出すエモーショナルな世界に浸る喜びをじっくりと味わっていることが伝わってきた。


中盤のMCでは、自身初のKアリーナ横浜を見渡し、「高っ! なかなかの傾斜ですけど、大丈夫ですか? 初めて見る景色ですけど、素敵です」と告げ、アルバム『只者』について語った。

「つい先日、10年ぶりとなるソロアルバムが発売となりました。時間に追われることもなく、ゆっくり溜めたアイデアがコップを満たすように、ひとつずつ形にしていった感じです。焦らず、自然なモチベーションで、素敵な音楽仲間とつくり上げたアルバムですので、皆さんも焦ることなく、この先、皆さんの生活の中のどこかで聴いてもらえると嬉しいなと思います。スタジオで一所懸命つくったアルバムですけど、やっぱり聴いてくれる方々がいて、皆さんの前で演奏するこの喜びには何も勝てないかもしれないです。アルバムタイトルは『只者』と申します。そのアルバムから聴いてください」──稲葉浩志

ライブ中盤では、オルガンのイントロがライブアレンジとして加えられ、心にずしりと響く稲葉の独唱を導入に据えた「ブラックホール」を皮切りに、ロックンロール・テイストとレトロ・テイストが香るメロディーのマッチングが心地いい「Chateau Blanc」、稲葉がアコースティックギターを弾きながら明るく歌う「VIVA!」、切ないサウンドと稲葉のエモーショナルな歌声を活かした「我が魂の羅針」といった『只者』に収録されたナンバーが相次いで演奏された。


セットリストも実に見事な運びだ。ニューアルバムの曲を2~3曲聴かせて、後はライブの定番曲で大いに盛り上がろうというパターンではない。アルバム『只者』収録曲のほぼ全曲が演奏されるなど、10年ぶりのアルバム収録曲をしっかり聴かせる辺りに、稲葉が自信を持って『只者』を世に放ったことが分かるし、実際のところ多彩さと完成度の高さを併せ持った同作の楽曲達は魅力に溢れている。また、ツアー半ばにして早くも新曲達を昇華し、最良の形でオーディエンスに披露してみせたのもさすがといえる。

その後は、乾いた哀愁を纏ったサウンドに乗せて、稲葉が心に染み入る歌声を聴かせる「あの命この命」や静から動へと移るドラマチックな展開を用いた「空夢」、ウォームかつメロディアスな「oh my love」、バンドセッションを挟んで衣装を替えた稲葉が再登場しての「Stray Hearts」では“WOW WOW”のシンガロングに会場が華やいだ。長いインターバルを挟んだりすることなく、とにかく楽曲を聴かせることに特化したピュアなライブアプローチは本当に魅力的だし、物語を紡いでいくような構成も実にいい。心が研ぎ澄まされる瞬間が連続して訪れる流れに強く惹き込まれると共に、心が浄化されていくことが感じ取れた。

「私はですね、40年くらい前にこの近所に下宿しておりまして。その頃は、もっと静かで。みなとみらいなんてなくてですね。それがまさかこんなビルがいっぱい立ち並ぶとは。そのなかのコンサート会場のひとつで私が歌っているとは。40年前、想像がついたでしょうか。開発の勢いというのはすごいものです(笑)」──稲葉浩志


笑いを交えたMCに親近感とこの地ならではの特別感を感じさせつつ、メンバー紹介を挟んで、「横浜! まだ行けますか! 声を聞かせてくださいよ!」という稲葉の熱いアジテーションと共に届けられた「Sẽno de Revolution」からライブは後半へ。ここではアッパーな「CHAIN」や鮮やかなダンステイストに加えてエンディングで稲葉が披露した超絶的なハイトーンシャウトで客席を大いに沸かせた「羽」、爽やかな「YELLOW」などが相次いで演奏された。アリーナに伸びた2本のランエリアも含めたステージ全体を使った華やかなステージングを見せながら躍動感に溢れた歌声を聴かせる稲葉の姿と、爽快感を放つサウンドの応酬にオーディエンスのボルテージはさらに高まり、場内は大きな盛り上がりとなった。

「どうでしょうか皆さん、幸せなハッピーな気持ちになってきたでしょうか。我々も、下から正面から斜め上から空のほうから、皆さんの歓声を浴びることで物凄い幸せなエネルギーをいただきました。このめちゃくちゃ暑い日に、皆さんの大切な時間をいただいて、ここに集まってくれて、本当に嬉しいです、幸せです」──稲葉浩志

本編の締め括りとして「Starchaser」をプレイ。ステージ後方に映し出される宇宙の映像にふさわしい雄大かつ抒情的なサウンドと救いを感じさせる稲葉のボーカルが強く心に響き、深く惹き込まれずにいられない。力強く盛り上げた後にこういう楽曲をビシッと聴かせる流れが見事に決まり、「Starchaser」を歌い終えて稲葉がステージから去ったKアリーナ横浜の場内は、感動的な余韻に包まれていた。そして鳴り止まないアンコールに応えて、再びステージに登場した稲葉はこう語った。

「僕たちはとっても、甘く素敵な気持ちになっております。その素敵な気持ちが、皆さんの夢の中でも続くように。そんな気持ちを込めて歌いたいと思います」──稲葉浩志


アンコールは「気分はI am All Yours」「遠くまで」。ラストナンバーを前に「歌い始めて随分と経ってますけど、続けていると、こういう新しい初めての会場で、皆さんと会えて、素敵な声援を浴びながら音楽ができるということを今日、改めて感じることができました。心の底から感謝します」と語り、「Okay」で全23曲のステージに幕を閉じた。

10年ぶりのニューアルバムを携えたツアーで新曲を核にしたライブを行い、オーディエンスの心を鷲づかみにしてみせた稲葉浩志。ハイクオリティーな楽曲や起伏に富んだ構成、アリーナ公演にふさわしい大がかりなステージセットなど充実したライブで楽しめたし、なにより突き抜けた歌唱力を誇る稲葉のボーカルにはライブを通して圧倒させられた。やはり只者ではない。そして、アルバム『只者』制作を経てアーティストとしてさらなるステップアップを果たしたことを示しただけに、今後の稲葉はまだまだ輝き続けていくに違いない。

取材・文◎村上孝之
(c)VERMILLION

■<Koshi Inaba LIVE 2024 ~enIV~>7月20日(土)@神奈川・Kアリーナ横浜 SET LIST

01. NOW
02. マイミライ
03. BANTAM
04. くちびる
05. 念書
06. シャッター
07. Golden Road
08. ブラックホール
09. Chateau Blanc
10. 我が魂の羅針
11. VIVA!
12. あの命この命
13. 空夢
14. oh my love
15. Stray Hearts
16. Sẽno de Revolution
17. CHAIN
18. 羽
19. YELLOW
20. Starchaser
encore
21. 気分はI am All Yours
22. 遠くまで
23. Okay

▼サポートメンバー
Drums:Shane Gaalaas
Bass:徳永暁人
Guitar:DURAN
Keyboard:Sam Pomanti

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