【ライブレポート】CHAIの音楽はこれからも生き続けるし、NEOかわいいもこれからも生き続ける
CHAIが昨日3月12日、東京・六本木EX THEATER ROPPONGIにて開催された<We The CHAI Tour!>ツアーファイナル公演をもって、活動に終止符を打った。
◆ライブ写真
今年1月に活動終了を電撃発表し、1月28日から全国17公演のラストツアー<We The CHAI Tour!>を開催、各地ソールドアウト公演が続出。昨日3月12日に開催されたツアーファイナルでは、約1,700人の来場者と、公式YouTubeでの生配信を視聴していた世界各国からのファンに見守られ、笑いと涙のラストライブを完遂した。ここでは、本公演のオフィシャルレポートをお届けする。
2012年に始動してから12年、2016年12月に1st EP『ほったらかシリーズ』をドロップしてから7年強。1stアルバム『PINK』を出した翌2018年にはアメリカでは「BURGER Records」、イギリスでは「Heavenly Recordings」と契約。その後、2020年にはUSの名門インディーズレーベル「SUB POP」とサインし、日本のみならず北米、南米、ヨーロッパ、アジアと、文字通りボーダレスに世界を飛び回りながら活動を繰り広げてきたCHAI。今年の1月に本ツアーをもって「NEOかわいいをフォーエバーする」=解散することを発表した際には、海外の音楽メディアでもそのニュースが報じられ、多くのファン、関係者から活動終了を惜しむ声が寄せられた。PitchforkやNMEといった英米の主要音楽メディアで解散がニュースとして報じられるバンドは、日本に一体どれだけいるだろう。
この日の会場にも、日本以外にもLA、オースティン、シアトル、スイス、台湾、中国など様々な地域からファンが駆けつけるとともに、YouTubeで行われた生配信での同時視聴者数も8,500人に上り、世界中の多くのファンがCHAIの最後の雄姿を見届けた。そして、そこでCHAIが繰り広げたのは、これが解散ライブだなんてとてもじゃないけど信じられないような、間違いなくライブバンドとしてのCHAIの絶頂を更新するライブだった。
SEがフェードアウトして少しの静寂が訪れた後、ガムランのような金モノの鍵盤打楽器が鳴り響き、オリエンタルなヘットドレスとアイマスクをつけたメンバーが登場。1曲目の「MATCHA」からライブはスタートした。この曲に託されたメッセージの通り、自分自身の内面と向かい合っていくような深くメロウな音像と、中盤、それを切り裂くように訪れるダイナミックなサウンドの爆発。ステージ上をしなやかに躍動するマナ&カナに目が惹きつけられ、早くもCHAIの音楽世界に強く引き込まれていく。
アイマスクを颯爽と投げ捨てたマナが「Hi, everybody!! We’re CHAI. It’s a show time!」と叫んで、Mndsgnをフィーチャーして制作された「IN PINK (feat. Mndsgn)」へ。ユウキが奏でるシンセから放たれるブリブリのベースラインと、ユナが刻むタイトなビートが最高にクール。アウトロではカナがジューシーなギターを響かせ、そこから「ラブじゃん」「アイム・ミー」、そしてユニークな“物販紹介ソング”を挟んでの「Sound & Stomach」と、時にハートフルに、時にキュートに、バンドサウンドならではの有機的な開放感と幸福なカタルシスを生み出すセクションへと入っていく。
CHAIはライブバンドとしてのフィジカルが本当にしっかりしていて、ポストパンクをやらせてもファンクをやらせても、オルタナティヴをやらせても王道の8ビートをやらせても、とにかく抜群にソリッドで気持ちのいい、かつパンチのあるグルーヴ&アンサンブルを響かせる。たとえばフェスなどで他のバンドと並びで観ていると、彼女達のステージになった瞬間にスピーカーから放たれるパワフルで強靭な、それでいてソリッドでグルーヴィーなサウンドに何度も度肝を抜かれたものだ。
この日の「ボーイズ・セコ・メン」もすごかった。CHAI初期に出されたこの曲は、歌詞で歌われる「ずるくてせこい男」を揶揄するかのようにビートはどっしりと雄大で、曲が進行するにつれてサウンドのスケール感が増していくのだけど、その様たるや、もう往年のスタジアムバンドのよう。そこからクールで凛とした「We The Female!」への展開も、気が利いていて見事。
その後しばし、ユナのドラムの上でマナとユウキがサンプラーセッションを繰り広げた後、カナがスタンドマイクを2本持ってステージ中央に登場し、「PING PONG!(feat. YMCK)」へ。ズンズンと腹に来る太いキックに乗ってキラキラとした繊細なメロディを歌いながら、パラパラを踊るマナ&カナ。途中でサラリと、原曲にはなかった、ドナ・サマーの「I feel love」をマッシュアップした展開を差し込んでくるのもアガる。続く「ACTION」では4人ともがハンドマイクを持ち、フォーメーションダンスを披露。それまで彼女達の背中を彩っていたヒラヒラとしたリボンをサッと取り去ると、そこには「新可愛」の3文字が。この絶妙なユーモアセンスも、彼女達のとびきりの魅力だ。
「今日は本っ当に観にきてくれてありがとう! 今日はCHAIの門出。そして、みんなの門出。NEOかわいいベイビーズ達の門出。CHAIは今日をもって解散するもんで。もうこのまま、NEOかわいいをフォーエバーするもんで。すごく明るい未来!」、「今日はいろんな想いを持ってみんなが来てくれとると思うんだけど、そんないろんな想いを全部全部、もう今日から抱きしめて欲しいし、そんな自分を全部丸ごと愛せるようになったらいいなと思って曲を作ったもんで、聴いて」というマナのMCから、「まるごと」へ。その後、マナ・ユナの「みんなみんな、ちょっと変(ストレインジ)だよね。普通なんてないんだよね。みんなそれぞれの人生を歩んどるよね。そう、私たちの人生は、NEO KAWAII〜K?」という言葉に導かれて「NEO KAWAII, K?」をキックし、ライブは後半戦へ。
「クールクールビジョン」ではカナがギターを掲げてステージセンターへと躍り出て、強烈なギタープレイを轟かす。ユウキがマナのキーボードを弾き倒し、マナはステージを縦横無尽に躍動しながら歌を放つ。そんな3人の狂騒的なプレイをユナのドラムが煽りながらもしっかりと支え、バンドという生命体が持つ激しいエナジーがこれでもかと放出されていく。その勢いを削ぐことのないまま、“ハイハイあかちゃん”というかわいいタイトルに反してハイスピードで獰猛なサウンドを展開する楽曲へ。本当に、惚れ惚れするほどカッコいい。マナ&カナがスッと舞台袖にハケて始まったユウキ&ユナによるリズム隊セッションもキレッキレで、これだけで5時間くらい踊り続けられそうな勢いだ。
CHAIが、その始まりの頃から一貫して掲げ続けた“NEOかわいい”や“コンプレックスはアートなり”というコンセプト、あるいは、それらと本質を同じくする“セルフラブ”というメッセージ。それが国境も人種も超えて世界中の多くの人たちから支持され、ライブという現場において数多くの熱狂を生み出していったのは、もちろんそのコンセプト/メッセージへの共鳴があるわけだけど、それだけじゃなく、彼女達が出す音そのもののパワーも大きかったんじゃないかと思う。小柄な4人の女性がぶっ放していく、とんでもなくパワフルでエネルギッシュで、そしてロジック以上に音楽という表現の真髄を突いていくプレイとサウンド。その音に宿る巨大なパワーが彼女達のメッセージに説得力を与え、ボーダーを超えてCHAIのプロップスを上げ続けたのだと思う。
攻めに攻め続けた後半セクションのラストに放たれた、初期からの代表曲「N.E.O.」。世界中でライブを積み重ねてくる中でよりタフにビルドアップされた今のCHAIが歌い鳴らす「N.E.O.」は、アンサンブルの強度にしてもグルーヴの強度にしても、そしてもちろんメッセージの強度にしても、ひとつの極点と言えるレベルに到達していて、もう圧巻だった。鳴り止まない歓声が、それを証明していたと思う。
本編最後は「Donuts Mind If I Do」からの「フューチャー」、つまり、そっとリスナーの心に寄り添うような2曲で締め括られた。イノセントでやわらかな多幸感を響かせる「フューチャー」で歌われる、《どんな夢をこの先で/歌いながら叶えよう?/思ってるよりもずっと/わたしの世界は広い》というリリックは、先のMCでマナが言っていた通り、CHAIにとってもファンにとっても新たな門出となるこの日に歌われるに何よりふさわしい。思わず涙が溢れた人も多かったのではないかと思うけれど、それはきっと悲しい涙ではない、あたたかな涙だったはずだ。
アンコールでは、2017年に下北沢Basement Barで初めてワンマンをした時のことを思い返しながら、その時にも演奏したという「ほれちゃった」を奏でた後、ひとりずつ最後のMCへ。それぞれにファンとスタッフ、そしてメンバーに対するたくさんの感謝を述べた上で、以下のようなことを話してくれた。
カナ「CHAIの音楽は永遠に残ってますから。ずっとずっと、みんなの隣にいる音楽だと思っているので。キテレツな曲もあるし、『このヤロウ!』っていう気持ちの時に歌ってほしい曲もあるし、泣きたい時に寄り添ってくれる曲もあるし、あたたかい気持ちになる曲もあります。どんな場面でも聴けるように作ったつもりです。だからこれからもぜひ聴いてください。そして、これからも一緒に生きてください」
ユナ「CHAIっていう概念や作品たちは今後もずっと残っていくもの。みんながもし辛くなっちゃったり、もちろん楽しい時でもどんな時でも、みんなのそのお守りになるようなものなんじゃないかなと思っているので、これからもCHAIを愛し続けてもらえたらうれしいです」
ユウキ「私にとって、CHAIがすべてのきっかけで。ベースを始めたこともそうだし、バンドをやったこともそうだし、夢を持って世界を舞台に活動するのもそう。そんなことが私の人生にあるなんて本当に考えたこともなかったけど、この3人に出会って、同じひとつの夢を目指して活動できたこと、それがすごくすごく、私の人生の誇りです。この活動の中で、私は『ああ、自分を愛することってなんて楽しいんだろう。難しいことじゃ全然なかったんだ!』って思えたから。これから先CHAIの活動は止まってしまうけど、楽しい時も、悲しい時も、ちょっと自分のことが嫌いだなって思う時も、それでも自分100パーセントでいいんだっていうのがCHAIで伝えたかったことだから。だから思い出した時にまた聴いてみて、今日この日を思い出して、みんな自分100パーセントで生きていってください。私もそうします!」
マナ「CHAIをこうして続けてこられたのも、今日観に来てくれたNEOかわいいベイビーズたちが、常にCHAIと一緒に生きてきてくれたから。常に、メンバーが一緒にCHAIを生きてきてくれたから。常に、今ここにいるスタッフみんながCHAIと一緒に生きてきてくれたからです。CHAIの活動は今日で終わるんだけど、CHAIの音楽はこれからも生き続けるし、NEOかわいいもこれからも生き続けるから。だもんで、一緒に生きていこう!」
そして「sayonara complex」を晴れやかに奏で、さらにダブルアンコールでは「ぎゃらんぶー」で元気にファニーにセンチメンタルを振り払った後、本当の最後の最後にもう一度、爆音で“N.E.O.”をぶちかまし、フロアに巨大な熱狂と歓声を呼び起こし、そうしてCHAIは満面の笑顔で最後のライブを終えた。
きっとCHAIを愛した人すべてにとって、このバンドを愛した自分を心から誇りに思えるような、そんなライブだったんじゃないかと思う。これから先どんな時も、この日、この場所に轟いていたCHAIの音楽を思い出せば、エネルギーが湧いてくる。最高過ぎるほどに最高の、どこまでもCHAIらしいラストライブだった。
文◎有泉智子(MUSICA編集長)
写真◎Yoshio Nakaiso
映像商品情報
2024年7月3日(水)発売予定
完全生産限定盤 <BD + フォトブック >三方背BOX仕様
¥6,200+税 / SIXL-3
商品予約リンク:
https://CHAIband.lnk.to/CHAITourFinalBD
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