【コラム】Omoinotake、メジャー1stアルバム『Ammolite』に色々な輝きと“一番好きになってもらうための条件”
9月6日、Omoinotakeがメジャー1stアルバム『Ammolite』をリリースした。Omoinotakeとは、中学からの同級生である藤井怜央(Vo, Key/通称:レオ)、福島智朗(Ba/通称:エモアキ)、冨田洋之進(Dr/通称:ドラゲ)で結成されたピアノトリオバンド。結成から9年の時間をかけて、2021年、TVアニメ『ブルーピリオド』の主題歌「EVERBLUE」でメジャーデビュー。それから2年、ついにメジャー1stアルバムが完成した。一般的に見ても中学から30歳を超えても仲良くいられる友人は貴重だと思うが、バンドを続けられる関係なんてなおさら稀有だ。アルバム曲「Ammonite」のサビで歌われる通り、Omoinotakeとは《ひとつ ひとつ 踏み締めて》歩んできた、奇跡のバンドだと言いたくなる。
メジャー1stアルバムに辿り着いた祝いの意味も込めて、そんな見解を3人に話してみると、Omoinotakeらしい言葉が返ってきた。その言葉は「Ammonite」やアルバム全体に通ずる「人間にとっての幸せの価値観」にまつわる話へと繋がっていく。
「そうやって矢島さんに言ってもらわないと『奇跡みたいだ』なんて普段思わなくて。積み上げたものって忘れちゃって、どこまで上ったかわからなくなるんですよね。いつも深海にいるような気持ちで、ちゃんと足場があることも忘れてしまいがち。過去と今を比べて誰も得しない気持ちになったりするし、ないものねだりになることもよくあるし。「Ammonite」の《夢は 幾つ叶えば/満ちた心で 生きられるだろう》ということもすごく思っていて。たとえば1stアルバムを作ること自体もいつかの夢だったはずなのに、いつも心が渇いている気がするというか」(エモアキ)
メジャーのレコード会社からCDを出すこと。数千人の前でライブをすること。テレビで演奏すること──。島根に住む中学生の頃に「夢」と思ったものを一つひとつ叶えているにもかかわらず、どうしてか心は満ち足りない。それは、Omoinotakeにまだ叶えていない夢や目標があることの証だともいえるが、どんな職業に就いていても、どんな生活をしていても、「叶えた夢」の喜びより「叶えていない夢」に飢える感情を抱いてしまうのは人間の性だとも思う。
「(「Ammonite」に)《螺旋のlife》って出てくるんですけど、人生の中で『また同じ場所にいるよ』と思ったときって、実は螺旋状に一周して上にいるんじゃないかとも思って。進んでないような気がするときでも、実は進んでいると思えるだけで違う。でもきっと、ずっと渇いているんだろうなと思うんです。どこにいても何をしていても渇いていた方がいいとも思う。それを認めることが大事というか、それも含めて『幸せ』といえるように、みんなも生きているんだろうなと思います。そういう想いを「Ammonite」に詰め込みました。あと、これはアルバムのタイトルにも起因するんですけど、誰かのために生きることや誰かの輝きになれることが『幸せ』なのだろうなとも思います」(エモアキ)
▲アルバム『Ammolite』完全・初回生産限定盤ジャケット
アルバムタイトル『Ammolite』とは、アンモナイトが化石化する過程で宝石になったもののことをいう。見る角度や自分の気持ちによって聴こえ方が変わる楽曲たちが入っているアルバムであることから、「構造色」にちなんだタイトルを考えていたところ、レオが「アンモライト」を考案。すべてのアンモナイトがアンモライトに変わるわけではなく、一部のアンモナイトだけが長い時間をかけて宝石に変わることができるが、音楽や人間もきっとそうで「卑屈に生きてたら光らないほうになるんだろうな」とエモアキは語る。Omoinotakeの音楽も、自分自身も、誰かを輝かせるものでありたいといった願いや、このアルバムが聴いてくれた人の人生にとっていろんな輝きを放つ宝石のようなものに育ってほしいという想いを込めて、今回のタイトルがつけられた。
エモアキが語ってくれた「満たされないことを受け入れること」「誰かの輝きになること」こそが幸せであるという価値観は、アルバム1曲目「Blessing」から最後の「オーダーメイド」まで通じている。私は初めてアルバムを再生したときから、はじまりの1曲に心を鷲掴みにされた。
「これはメロディを先に作った曲で。どういうテーマの歌詞になるかイメージしきれてないまま作ったんですけど、エモアキがこの歌詞を書いてきて本気度が伝わったというか。タイアップとか何もなく、どんなことを書いてもいい状態で書きたいことがこれだったのが『すごくいいねえ』と思って。エモアキの純度が伝わると思います」(レオ)
「今年の梅雨くらいかな? 宗教について考える時間があったりして。俺は何を信じるかなと思ったときにBメロのフレーズ(《祈りはしない 誓えやしない/君じゃない 神様にだなんて/求めもしない 望みもしない ひとつ以外》)が出てきました。(レオが作った)Aメロもとにかくメロディが細かかったし、韻がガチガチだったので、ブツブツ独り言を言ってるようなことを書こうと思って。すげえわがままな歌なんですけど」(エモアキ)
「わがまま」とエモアキはいうが、自分のことを《愛想もない 何も持ってない》というかのように始まり、2番では《こんな僕の 何を愛せたの》と歌う「Blessing」は、前回の記事でも書いたように「自分自身に対して謙虚であるがゆえに相手に大きなリスペクトがある、傲慢さのない深い愛が表出している」彼らしい歌詞だと思う。それに、大好きな人に「あなたは僕を輝かせてくれている」と心から伝えることこそ、相手へ「幸せ」を手渡すという行為と呼べるのではないだろうか。
そう伝えるとエモアキは、「結局、自分に自信がある人には書けないだろうなと思うものができたので、僕らしい曲になったかなとは思います」と返してくれた。しかしその後、「いつもこんな(曲に書いているような)気持ちでいられたらいいんですけどね」と、曲に書いていることを自分が毎日できているわけでもない、と言葉を続けるのもまた人間くささを隠そうとしない彼らしい。
▲アルバム『Ammolite』通常盤ジャケット
ここまで主にアルバムに通底している思想について記述してきたが、11年の活動を通して、Omoinotakeはサウンド面でも《ひとつ ひとつ 踏み締めて》飛躍してきた。上品な艶のある歌声、哀愁とキャッチーさのあるメロディ、凝っているのに凝っているとは聴かせないリズム、相容れないものを組み合わせているのに歪には聴かせない巧みさ。それらすべてがOmoinotakeの凄さだ。メジャーデビュー直前にインタビューさせてもらった際、レオは「自分がいいと思う感覚を捨てることって簡単だと思うんですけど、いかにその感覚を大事にして逃げないかだと思う」と話してくれたことを思い出す。それを貫くのはときに難しい場面もあるはずだが、たとえばレオ自身が「30年間の集大成」という『渦幕』の制作においてはドラマ側からのリクエストに応えながらもその考えを軸に置くことで、ジャージードリルをJ-POPに落とし込んだ斬新な一曲を生み出すことができた。
「この3年くらいで、僕が作曲やアレンジをして、エモアキが作詞をして、ドラゲはドラムに集中して、という役割分担ができる体制になったと思います。エモアキは言葉と向き合うことに集中していたからこそ今日話したようなことを思うんだろうし、逆に僕は音に対して解像度が上がったのかなと。「EVERBLUE」からいろんなアレンジャーさんとやらせていただくことによって(「EVERBLUE」は蔦谷好位置がプロデュース・編曲)、1曲やるごとに吸収できて、今回のアルバムに入っている『渦幕』『オーダーメイド』とかはストリングスアレンジも含めて自分たちで完結できたので本当に成長したなと思います」(レオ)
「踊れて泣ける」を標榜し、常にJ-POPシーンに新しいサウンドを産み落とそうとするOmoinotakeだからこそ、リズムを担うドラゲも非常に重要な役割を背負う。ドラゲにとって、今作の中でもっとも古い「モラトリアム」をリリースした頃から今に至るまでの3年半がどういったものであるかを聞いてみると、他の2人と同様、音楽と自身に対するストイックさと謙虚さ、そして誠意が溢れ出た。
「もう、ひたすら迷いまくった3年半ですね。これが正しいのかなと思っていたら、実は全然違う方向へ行っていることに気づいたり。最近は、ずっと目を逸らしていたことのツケが回ってきた感じがしていて、そことどうやって向き合っていこうかなと思ってます。わかりやすくいうと、自分のドラムの癖とか。フォームもいちから見直しましたし。結構プライドがズタズタになるんですけど、それをやらないと10年後、20年後、音楽をやっていてもかっこいいドラムを叩けないだろうなと思ったので。ちょっとずつツケを払っている感覚ですね。今第一線で活躍してるプレイヤーとかはもうその壁を乗り越えているのだろうし、俺もそこ行きたいし」(ドラゲ)
こうして《ひとつ ひとつ 踏み締めて》きたOmoinotakeの11年、もっといえば3人が出会って「エモアキ」などのあだ名をつけた中学生の頃からの歩みの先で、ようやく辿り着いた現在地が『Ammmolite』だ。レオはこれを「これがOmoinotakeです、と自信を持って言える名刺代わりの一枚」と呼ぶ。「そこで表現できたOmoinotakeらしさとは?」と聞いてみると、エモアキは「いろんな曲があって、いろんな聴こえ方がするというのは大いにOmoinotakeらしさのひとつだと思う」と答えながら、少し悩んで、「懐の広さ」と一言で表現してくれた。そしてレオがこう続く。
「昔から思っているのが……リスナーにとっての一番好きなアーティストになるためには、あらゆる感情の曲を歌っているべきだということで。たとえば楽しい気持ちだけを歌っていたら、一番にはならないんじゃないかなと思う。そういう意味で、自分が思う『一番好きになってもらうための条件』がこの11曲でできたんじゃないかなと思います」(レオ)
普段見落としてしまう幸せにも、その過程にある躓きにも、小さな喜びにも、大きな悔いや自省にも、光をあてて踏み出すべき道を照らしてくれるのが『Ammolite』というアルバムであると、私は思う。
文:矢島由佳子
◆ ◆ ◆
メジャー1st ALBUM『Ammolite』
◆リリース日
2023年9月6日(水)
◆収録形態・仕様・価格
・完全生産限定盤/ CD+BD/ AIC7-10〜11/5,500円(税込)
デジパック+三方背スリーブケース付き 付属物:ネーム入り完全生産限定スペシャルブックレット
・初回生産限定盤/CD+BD/ AICL-4420〜4421/5,500円(税込)
デジパック+三方背スリーブケース付き 付属物:初回生産限定スペシャルブックレット
・通常盤/CD/AICL-4422 / 3,300円(税込)
◆CD収録曲
M1. Blessing
M2. EVERBLUE(TVアニメ『ブルーピリオド』オープニングテーマ)
M3. One Day
M4. Ammonite
M5. 空蝉
M6. 渦幕(読売テレビ・日本テレビ系 7月期プラチナイト木曜ドラマ「彼女たちの犯罪」主題歌)
M7. モラトリアム(劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』主題歌)
M8. トートロジー
M9. 心音(映画『チェリまほ THE MOVIE』主題歌)
M10. 幸せ(TVアニメ『ホリミヤ -piece-』オープニングテーマ)
M11. オーダーメイド(NHK松江放送局 開局90周年記念テーマソング)
◆Blu-ray収録予定内容 *完全生産限定盤/初回生産限定盤
Omoinotake SPECIAL LIVE 2023 “SUEHIROGARI” 2023.4.28 @Zepp DiverCity (TOKYO)
1. EVERBLUE
2. So Far So Good
3. 産声
4. 心音
5. One Day
6. 彼方
7. By My Side
8. 空蝉
9. 雨と喪失
10. モラトリアム
11. Blanco
12. 惑星
13. Stand Alone
14. トロイメライ
15. Never Let You Go
16. オーダーメイド
17. トニカ
New Single「幸せ」
◆リリース日
2023年9月6日(水)
◆収録形態・仕様・価格
初回仕様限定盤 /CD/AICL-4423/1,430円(税込)
アニメ絵柄書き下ろしジャケット+スリーブケース
◆収録曲
「幸せ」(TVアニメ『ホリミヤ -piece-』オープニングテーマ)
「幸せ (instrumental)」
「夏の魔法のせいじゃない」
<Omoinotake ONE MAN TOUR 2023 “Ammolite”>
9月23日(土)大阪・Zepp Osaka Bayside 開場/開演:16:00/17:00
9月30日(土)福岡・Zepp Fukuoka 開場/開演:16:00/17:00
10月6日(金)東京・Zepp DiverCity(TOKYO) 開場/開演:18:00/19:00
10月14日(土)北海道・Zepp Sapporo 開場/開演:16:00/17:00
10月28日(土)島根・松江テルサホール 開場/開演:16:00/17:00
【券種・チケット料金】
全席指定(一般) 5,500円(税込/ドリンク代別)
全席指定(学割) 4,500円(税込/ドリンク代別)※オフィシャル先行のみ取扱い
※3歳以上有料
※学割チケットをご購入の方は、入場時に学生証を確認致します。
(特に高校生、大学生、専門学生の方は、学生証を忘れた場合は、一般料金との差額をいただく場合がございます。予めご了承ください。)
※お一人様1公演につき4枚まで申込み可
※松江公演のみドリンク代徴収なし
◇チケット購入
URL:https://w.pia.jp/t/omoinotake23/
読売テレビ・日本テレビ系7月期プラチナイト木曜ドラマ『彼女たちの犯罪』
横関大『彼女たちの犯罪』(幻冬舎文庫)
■放送枠・放送日
プラチナイト木曜ドラマ
2023年7月20日(木)スタート
毎週木曜日23時59分~24時54分
■脚本
田辺茂範 (「オー!マイ・ボス恋は別冊で」「婚姻届に判を捺しただけですが」「美食探偵 明智五郎」) ほか
大林利江子 (「純愛ディソナンス」「Sister」「長閑の庭」) ほか
谷口純一郎 (「DCU~手錠を持ったダイバー~」「先生のおとりよせ」「犯罪症候群」) ほか
■監督
菊地健雄
(映画「ディア―ディア―」「望郷」ドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」「生きるとか死ぬとか父親とか」) ほか
高橋名月 (映画「左様なら今晩は」「正しいバスの見分けかた」ドラマ「ジャックフロスト」) ほか
■出演
深川麻衣 石井杏奈 毎熊克哉 さとうほなみ / 野間口徹 / 前田敦子
■スタッフ
チーフプロデューサー:前西和成
プロデューサー:中山喬詞、矢部誠人、河野美里(ホリプロ)
■制作プロダクション
ホリプロ
■制作著作
読売テレビ
■番組公式サイト
https://www.ytv.co.jp/kanojohanzai/
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