【インタビュー】植田真梨恵、<LAZWARD PIANO>10周年記念アルバム完成「もう一つのバンドだと思ってます」
■“永遠に”という言葉には
■“ない”という言葉しかくっつかない
──そして今回の全曲新録音のベストアルバムは、2枚組32曲というすごいボリュームになりましたけど、選曲はどんなふうに?
植田:あのー、私自身ではわかんなくて、何がいいのか、どれが聴きたいのか。どれも平等に思い入れはあるし、でもこの編成のライブを「すごく好き」と言ってくださる方たちがたくさんいらっしゃって。その愛が深いのも感じていたので、もしかしたら私以上に、これを好いてくれている人はたくさんいるのかもしれないと思ってるんです。そんな人たちを満足させたいなという気持ちがあって。二人で個室に入って、キーボードとアコギで片っ端から、夏のあいだに何日か、何十曲もプリプロをやりました。それを元に、曲によっては“せーの”でしかできない曲だったり、でも、そればっかりだと録音物として繰り返し聴くのは面白くないから、“この曲はクリックを使って録ったほうがいい”とか、それこそ“狭い部屋が似合うのか、ホールが似合うのか”とか、曲によりけりだったんですよ。そのへんを考えつつ、軸となるBPMを決めながらプリプロしていって。それを全部マネージャーに投げました。「これどうしますか?」って。
▲Pre-Production
──あはは。「どうしますか?」と言われても。
植田:それこそオリジナルアルバムの『Euphoria』というものがあって、私はそれを全部自分のわがままで作ることに決めてたんです。何があっても絶対に曲げない気持ちで作ったんですけど、そのあとの『BEST OF LAZWARD PIANO』に関しては、自我ではなくて、みなさんの聴きたいものを作りたい気持ちがすごく大きくて、それを実現させたい気持ちがあったから、余計に『Euphoria』でわがままを言えたというか。
──ああ、なるほど、そういう補完関係があったのか。
植田:なので、“<LAZWARD PIANO>はこうじゃないと駄目なんです”とか、そういうことは全然思ってなくて。“こういうのが聴きたいです”とか、“こうしてください”という意見があればどんどん聞きます、と思いながら作っていきました。自分の心の置きどころとして。
──そういえば、2枚組のDISC2のサブタイトルが“~ラズワルドピアノで聴きたい曲たち。新曲から時を遡って。”となってるでしょう。“歌いたい曲”じゃなくて“聴きたい曲”なんだなって思ってたんで、今の話を聞いて納得したというか。
植田:それは西村さんも同じ気持ちで、自分たちの良さは自分たちよりも、マネージャーやファンの人たちのほうが知ってると思ってるから、“演りたい曲”よりも“聴きたい曲”を作りたいなという気持ちが強かったです。
──結果的に、インディーズ時代の曲が半分以上入ってます。
植田:そうなりました。<LAZWARD PIANO>を演り始めた頃にアレンジしていった曲が多く入っていて。おそらく最初は、<LAZWARD PIANO>というものもまだなくて、“え? この曲をピアノとアコギだけでできる? 無理じゃない?”と思いながらも、なんとかかんとか“もっとこういう感じかな?”って手探りで構築していったので、アレンジとしてパワーがある曲が多いかなと思います。
▲Music Video shooting
──聴きどころとして、初めて音源になった新曲「恥ずかしい」がありますね。これは、前回の“blue morning, blues”ツアーでやってました。どんな思いで書いた曲ですか。
植田:まさに、“私が教会で歌うとしたら”という思いで書いた曲です。あの場所でどんなことを歌えるんだろう?と思って書いたんですけど。
──言われてみれば、懺悔の曲にも聴こえるような。違うかもしれないけれど。
植田:いえ、そう思います。私たち人間の決めた制度の中で生きていくこと、それに似合わない自分、できない自分が恥ずかしいとか、自分のことが疑わしいとか、そういうものすべてですね。そして教会という場所は、結婚式もおこなわれるし、「永遠の愛を誓いますか?」という場でもあるけれど、私自身は“永遠に”という言葉は、“ある”という言葉が後ろに来るんじゃなくて、“ない”という言葉しかくっつかないんじゃないかな、と思って書いた曲です。
──“ない”という言葉しかつかない? それはどういう感覚なんだろう。
植田:“永遠に” “ある”という言葉を信じたい気持ちはあるけど。たとえばおとぎ話の中で、「永遠に幸せに暮らしました」みたいな言い方があったとして、でも今の時点の私にとってそれはファンタジーで、「永遠に開かれることはありませんでした」という使い方のほうが、よっぽどしっくりくるんですよね。“永遠”という言葉に対しては。
──うーん。なるほど。
植田:それが寂しくもあり、逆に「彼に守ってほしい10のこと」という、メジャーデビュー曲では、“最後に僕が君のそばにいるだろう”と歌っていて。永遠に続くものを自分の体で示そうとしている歌なんです。ずっと、そのせめぎあいの中にいるんですよ。
──ああー。そうか。
植田:ひとつの実験です。永遠というものをテーマにして、私はこれからも生きていくと思うし、それは死ぬ時まで答えは出ないと思うんですけど、30何歳時点の私としては、“永遠”に“ある”はつかない、というのが答えです。“ある”にしたいな、とは思いますけど。
──それはリスナーへの命題でもありますね。たぶん、それぞれ答えが違うと思う。すごく興味深いテーマ。
植田:ファンの人たちはどう思ってるのかな? どんな考えで私の曲を聴いてるのかな?って聞いてみたいです。久しぶりに自分の心の内をさらけだして、勇気を出して書いた歌詞だったりするので、ドキドキしながらツアーで下ろした曲です。
▲<live of LAZWARD piano "blue morning, blues">
──そして、なんといってもこのアルバムの特徴は、いろんな場所で録音しているところ。スタジオ、ライブハウス、ホール、ストリートピアノでも。
植田:せっかくだったら。昔、「朝焼けの番人」とか「ソロジー」をピアノで録音したことがあって、その時は会社のレコーディングスタジオにグランドピアノがあったんですけど、今はそういうスタジオが手近になくて。だったらいろんなピアノで、弾き比べるように録っていくのも面白いんじゃない?というところから入りました。
──ピアノの種類もそれぞれ違っていて。よく聴くと、というか、普通に聴いても音の違いがわかるから、すごく面白かった。
植田:良かった。けっこう違いますよね。
──歌の響き方も、メルパルクホール大阪はすごく天井の高い感じがするし、名古屋ボトムラインはライブハウスらしい親密な音がするし。ストリートピアノで歌った「Stranger」は言わずもがなで。
植田:どのシチュエーションでも<LAZWARD PIANO>だ、というものを楽しんでもらえたらいいなと思ってるんです。
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