【インタビュー 後編】KAMIJO、アルバム『OSCAR』が一大巨編な理由「一緒にこの世の中を美しい世界にしませんか」

■2023年でソロ活動を始めてから10年
■僕からの音楽のプレゼント

──HIZAKIさんはアルバムの最後に収められた「NOBLESS OBLIGE」にも参加していますね。

KAMIJO：この曲ではメインで参加してもらってますね。ギターの刻みは、曲作りの時点からHIZAKIが刻んでいるイメージだったので、彼に弾いてもらおうと思ったんです。ギターソロ以外はほとんど指定でお願いしたんですけど、すごくカッコいいニュアンスをつけて弾いてくれて。本当に彼に頼んでよかったなと思いましたね。

──『OSCAR』の最後を飾るに相応しい楽曲だと思いますが、もちろん、そういった意味合いを踏まえて作曲にも臨んでいたのでしょうね。

KAMIJO：そうですね。僕からの音楽のプレゼントじゃないですけど、僕にできる最高の形を作りたい思いがあったのと、2023年でソロ活動を始めてから10年になるんですよ。そのときにどんな景色が見たいかなと思ったときに、その10年間のすべてが蘇ってくる、そんな瞬間が欲しいなと思ったんですよね。“NOBLESS OBLIGE”というのは、直訳すると貴族のたしなみといった意味なんですけども、それはルイが自ら公に現れることでもありながら、僕は貴族とかではないですけども、音楽として、最大限の力をみんなに送れる楽曲にしたいなと、本当にポジティヴな気持ちを詰め込みましたね。

──確かに音的にも言葉の意味的にもポジティヴな広がりを感じますよね。メインキャラクターはルイ17世であり、そこにKAMIJOさん自身を重ねているということになるんでしょうか？

KAMIJO：いや、ここでの主人公は僕です。僕が“あなたがもしも生きているなら”とルイ17世に向かって歌っている。

──なるほど。だから、“Dear XVII”と歌われているんですね。

KAMIJO：はい。現代に生きる我々が、ベートーヴェンでもいいですし、ナポレオンでもいいですし、過去の英雄たちへ“あなたが今、世界のどこかで生きているなら”と思いを馳せるのと同じように、僕はルイ17世に対して、「僕の物語の中ではあなたはまだヴァンパイアとなって生きています。もし本当に生きているなら、一緒にこの世の中を美しい世界にしませんか」と語りかける。僕の著したストーリーを通じて、この世の中が本当に希望の溢れるものになって欲しいという願いを形にしたものですね。それから、“かつて誰かが奏でた歌を歌おう”という箇所は、これまでのすべての伏線を回収する意味もありますね。


──KAMIJOさんの歩みも総括するわけですね。さて、5月から始まっている＜OSCAR TOUR 2022-2023＞も、11〜12月には＜-SCENE IV- AGENDA＞の後半戦が行われ、年明けの1月7日には東京・品川インターシティホールで＜-SCENE V- OSCAR＞と題された公演が開催されることになっています。アルバムがリリースされた後でのパフォーマンスとなりますから、これまでとはまた見え方も変わってきそうですね。

KAMIJO：そうですね。今までのセットリストに入っていた過去の曲も、どんどん新曲に入れ替わってきていますし、ツアーの中盤まで終えた今の時点で、バンドのグルーヴを含め、すごく気持ちよくなってきているんですよね。先日の横浜でも、本当にツアーファイナルなんじゃないかと感じるぐらい、ファンのみなさんも気持ちいい顔をしてくれてたんですよね。ここからは本来あるべきアルバムツアーという形ができるんじゃないかなと思います。まだライヴでやっていないのは、「Beautiful Rock'n Roll」と「NOBLESS OBLIGE」で、すでに完全版に近い状態ではあるんですが、先ほどもお話したように、『OSCAR』に収録した楽曲は、ツアーを廻りながらアレンジが変わっていった部分もありましたし、その意味で言うと、本当にファンの方と一緒に作ったアルバムになったんじゃないかなと思いますね。

──2023年1月7日は、どんな形で昇華されるのが理想でしょう？

KAMIJO：このライヴはあくまでも＜-SCENE V-＞として行うもので、一つのツアーを回ってきたうえでのライヴですから、ひとまずは現時点での頂点に持っていけるものに仕上がるんじゃないかなと思います。もう一つ言えることは、このアルバムの中にも、まだ最大の秘密が隠されてまして。それが明らかにできればいいなと思ってるんですね。来年以降に向けて、今はこのアルバムの中に仕込んだ面白いことを、早くバラしたい気持ちでいっぱいです。だから、この日は特別といいますか、他のライヴハウスではできないような表現方法を使いたいですし、楽しみにしていただきたいですね。

──今回の『OSCAR』で、この数年のKAMIJO作品で触れられてきたエミグレ制度が、ついに具体的に形になって世界を動かしていくのかと思っていたんです。ただ、ここで描かれているのは、まだその前の段階なんですよね。だからこそ、続きを早く知りたい気持ちにもなるんです。

KAMIJO：確かにアルバムのキャッチでも「これがエミグレ後の世界だ」って言ってましたよね。じゃあ、エミグレ後の世界のどこまで描けているかって言ったら、その後の登場人物たちがどうなったかっていうのは描いていますが……。

──“さぁ、行くぞ！”というところで終わっています（笑）。

KAMIJO：ははは。それは僕のライヴで表現していくものでもありますね。どんな未来があるのか。2022年はVersaillesの15周年でもあり、ソロと並行した活動になっていますが、今回の僕の作品に登場するいろんな人物の中で、1人面白いニックネームを持った人がいるんですよ。Versaillesのツアーを行うという今だからこそ、それをより強く感じるんですが、バンドやソロといった垣根を越えた自分のすべての表現に、関連性を改めて見出せるなぁと思っているんです。僕の描く世界は、バンドであろうとソロであろうと、区切ることはできないんだなって。

──なるほど。


KAMIJO：総括になっちゃいますが、冒頭でもちょっとお話したように、『OSCAR』を通して、自分自身がすごく人生を考えさせられたんですよね。小さい頃はこうだったなとか、その後、こんな辛い思いをしたなとか、いろんな場面を振り返ることになった。よく“時代が終わる”といった言い方もされますが、何かに立ち向かう勇気や、どんな困難も乗り越えていこうとする姿勢が、一つの時代を変えることにつながっていくわけですよね。歴史的な出来事だけではなく、これは誰にも当てはまることだと思うんです。そういったヒントが、この作品の中にはあると思いますし、実際、僕はこの作品を作りながら自分で乗り越えていった。今、幸せな人生を送っているとすれば、さらに明るい未来へと進めるでしょうし、もし、ちょっと気分が晴れない人は、気分が晴れるような心持ちになれるかもしれない。

──力が漲ってくるものかもしれませんね。

KAMIJO：初心に帰るじゃないですけど、『Symphony of The Vampire』は、少年版シンデレラストーリーだったんですよ。少年が王様になる話ですね。それで聴いてくれる方々に勇気を与えられたらと思ってたんですけど、まさにそのときの気持ちと一緒なんです。『OSCAR』が勇気と力を与えられる作品になってたら嬉しいなと思います。

取材・文◎土屋京輔
撮影◎逸見隆明／Lestat C&M Project

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