【インタビュー】Ghost like girlfriend、3年ぶりアルバムにリベンジと変化「コミュニケーションをしたい。音楽を通してわかり合いたい」
シンガーソングライター/トラックメイカーの岡林健勝によるソロプロジェクトGhost like girlfriendが6月8日、およそ3年ぶりとなるフルアルバム『ERAM』をリリースした。“認めてもらいたい”という野心を込めた1stフルアルバム『Version』リリース後にコロナ禍に突入し、徹底してひとりで暮らすということをテーマに過ごしていたという岡林。ひたすらにひとりを過ごすなかで浮き彫りになったのは、“ひとりで大丈夫でありたい” “人に会いたい”という思いだった。
◆Ghost like girlfriend 動画 / 画像
新曲にしてアルバムタイトル曲「ERAM」は「“Eat Ramen At Midnight”の略称で、“夜中にラーメンを食べる、そういう人生のダイジェストに残らないような些細な事ばかりに生かされてるよな”と思って作った楽曲です」とのこと。「いろんな事があり過ぎて一向にやるせなさが消えない毎日ですが、そんな中にも本当に微かに、でも確かにキラッと光る瞬間が、思えばわりとあったような気がして、それらひとつひとつが曲になって今回アルバムになりました」とはGhost like girlfriendのコメントだ。
自分の弱さ、できなさ、やるせなさ、全てを認め、音楽を介して他者とのコミュニケーションを渇望する彼が、3年で地道に向き合ってきた自身の変化、そしてその変化を昇華した『ERAM』を語る。
◆ ◆ ◆
■手段としての音楽ではなく
■必要だから音楽を選んでいる
──およそ3年ぶりのアルバム『ERAM』がリリースされましたが、まず、アルバムを作り終えていかがですか?
Ghost like girlfriend (以下GLG):めちゃくちゃナーバスです。3年前に出した1stフルアルバム『Version』は、“認めてもらいたい、もっと知られたい”という気持ちが強くて、その時の等身大の自分を出すというより、自分の理想を曲にした感じだったんです。つまり、これから手に入れていきたいものを具現化していた。でも、今作は今の自分の根っこから生まれた曲たちで構成されているので、これが受け入れられないと、僕自身が全否定されることになるんじゃないか、という恐れがあって。
──作品を受け取ってもらったあと、それが岡林くん自身にどう返ってくるかという恐怖感?
GLG:そうですね。なおかつ、今作は“これは自分以外の人も抱えていそうだな”という気持ちを優先的に曲にして作っていったんです。だから、アルバムを通して“それ、あるよね” “わかるよ”とか、コミュニケーションが生まれて欲しい。もっと言うと、コミュニケーションが生まれなかったら、失敗とまではいかないけど、自分のセンスを疑いの目で見始めそうな気もしていて。だから、“一か八か”感が前作よりも強いです。そういう意味でも、繰り返しになりますが、非常にナーバスになっています(笑)。
──『Version』では、もっと知られたいという思いがあったそうですが、自分の理想を形にするということが叶った実感はありましたか?
GLG:想定した形通りの作品にはできたので、完成直後は手応えがありました。ただ、世に知られたいということが実現したかというと、正直、その手応えほどではない結果だったと思います。だから、自分のなかでの評価としては(○でも×でもなく)△ですね。そういう意味でも、作りたいものを作って、欲しい結果を手に入れるリベンジとしての今作でもあったりします。
──前作に比べて今作は、自分以外の誰かの存在を感じさせられる曲がすごく多いと感じていたので、今のお話を伺って納得しました。コロナ禍での孤独感があったのかなと想像しつつも、なぜこんなにも他者への欲求がベースにあったのか疑問だったのですが、前作で叶えたいことが叶い切らなかったこととも地続きになっているんですね。
GLG:それもありますし、今作の制作期間、まあ人に会わなかったので孤独感はあると思います(笑)。アルバムを作るぞとなって、2021年4月から7月くらいにかけて、「Rain of 〇〇〇」「面影」「音楽」の3曲ができて。そこから8月末に「Flannel」ができて、9月半ばくらいから外部のアレンジャーさんにも入ってもらい、ようやくアルバム制作が本格的に始動したんです。アレンジャーさんに入ってもらうまでの5ヶ月間は、ひたすらデモだけを作っていて、本当に2〜3回くらいしか人に会っていませんでした。
──その期間はどのように過ごしていましたか?
GLG:基本的に夜中12時から朝6時まで近所の川沿いをずっと散歩するみたいな生活が続いていました。ひとりの時間が長くなると、昔のことを振り返る時間も増えていって。“俺はあの時どうしたら良かったのかな?”っていうことを考えていくと、一方通行のコミュニケーションだったり、そもそもコミュニケーション不足だったからうまくいかずに、“あの時こう言ってあげられたら良かったな”とか“こう言って欲しかったな”って後悔したことが圧倒的に多かったと気づいたんです。そのうえで音楽を通して何をしたいのかを改めて考えた時に、“こういう気持ちあるよね”っていうことを音楽として形にして、それを聴いた人が何を思うのかを知りたいと思いました。それを受けてまた新しい曲を書いて、また受け取ってもらって……っていうコミュニケーションをしたい。音楽を通してわかり合いたいんですよ。
──逆に1stフルアルバムの時にはどういう思いがあったのでしょうか?
GLG:1stフルアルバムでは、自分の理想、そして理想と現実の間にあるものを形にするうえで、“自分の込めた気持ちが通じて当然でしょ”っていう驕りみたいなものがあったと思います。でも、どれだけ強い気持ちだとしても相手のなかになかったら共鳴はない。やっぱり共鳴やコミュニケーションがしたいんだってことに気づいたんです。だったら、その可能性を上げる作業をして作品を作りたいなと思いました。だから、自分が持っている気持ちのなかで、他の誰かも持っていそうな気持ちをピックアップして形にしていきました。
──今作を制作しているなかで、驕りがあったということに気づいたのですか?
GLG:1回目の緊急事態宣言中かな。『2020の窓辺から』というEPの制作を始める前。当時、ライブやリハがなくなったこともあったのですが、初めてぶっ通しで自分の曲を聴かなかった2〜3ヶ月があって。その頃「EPを作りますか?」って話が出始めて、久々に自分の曲を聴いたんです。空白期間があったので、初めて客観的に聴けたんですけど、自分のたどり着きたい場所や言いたいことばかりが先行しているように感じました。もちろんそんなつもりで書いたわけでは絶対ないけど、良くも悪くも野心的で、“こいつ、30歳で幕張メッセに行くためにこの曲を書いてるな……”みたいなことがよぎる曲が羅列してる感覚になったというか。やっぱり、手段としての音楽ではなく、必要だから音楽を選んでいるという聞こえ方になって欲しいし、緊急事態宣言中はみんな人と会えていなかったわけだから、一方通行ではなく気持ちを通わせ合えるような曲を作りたいという意識が生まれたんですよね。そのマインドの変化が『2020の窓辺から』というEPに反映されているのですが、今回はそれがより色濃くなっている感じ。もっと人と通い合いたい、もっと人と会いたいという気持ちが強くなっていきましたね。
──人への問いかけやShall we的な歌詞も多いなと思うと同時に、“どうか忘れないで”とか“似ていただけ”など記憶も詰まっている印象があります。岡林くんは人と会えないなかで、どんな記憶や思い出を振り返りながら曲を書いていましたか?
GLG:たとえば、さっき話した夜の散歩をしていると、人がいないながらもやっぱり何人かとすれ違うんですが、そのすれ違った人の普段の暮らしや営みを想像したりしていました。あとは、自分の半径5m内で起こったことを詩的な表現に言い換える作業をすごくしましたね。春先に「面影」を作っていた時、カーテンを閉め忘れて冬用の布団で寝て、直射日光で汗ばみながら起きたんですよ。その様子をどこか俯瞰している自分がいたんですけど、第三者視点で見た自分を他の登場人物に変えるだけでちょっとドラマチックに見えるなって思ったんですよね。
──一人称ではなく、客観視することで、リスナーと目線を共有できる感覚もあるんじゃないかなと思います。他にはどんな言い換えをしましたか?
GLG:「光線」の“重く感じたマドラーがコーヒーへ落ちて飛び散って/飛沫が目に飛び込んだら涙が溢れた”っていう歌詞は、アルバムのキャンペーンで訪れた地方の空港での出来事が元になっています。フライトまで時間があったのでうどん屋に入ったんですよ。当時、寝不足だったのでかなりうとうとしていたのですが、うどんが来てフライトの時間も迫ってきて急がなきゃと思った時に、手に取った割り箸が鉛のように重く感じて、出汁のなかに落としちゃったんです。それで飛び散った出汁が目に入って正気を取り戻して。
──出汁もコーヒーに言い換えると、ここまで変わるんですね(笑)。
GLG:自分のいたたまれないダサい出来事を、登場する人や物を変えることでうまく華やかに転用する、みたいな(笑)。人と会ってないぶんエピソードがまったく生まれなかったので、そういうふうに実際に起きたことをリユース/リサイクルしていかないと回っていかなかったんです。こういうちょっとしたことに敏感になったのは、やっぱり人と通い合いたいという思いでアルバムを作ろうと思ったからかなと。しょうもないことでも人と話す口実を作りたかったんですよね。“いつか話そう”って思っていても、その“いつか”の作り方がわからなかったし、うどんの出汁が目に入った話の鮮度って3日くらいだと思うんですよ(笑)。でも、曲のなかだと寿命が半永久的になる。やっぱり人と話したいって気持ちから作品が生まれたんだなと思いますね。
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