【インタビュー】ゴースト「アルバム制作は、家の図面を紙の上に描く建築家の作業と似ている」

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ゴーストの新アルバム『インペラ』が3月11日にリリースされた。グラミー賞2部門にノミネートされ高評価を得た前作『プレクウェル』から約4年振りとなる新作だ。ガンズ・アンド・ローゼズやメタリカのオープニング・アクトをはじめ世界各国でのライブを精力的に行っていたが、2020年以降は楽曲制作に注力することを宣言していたこともあり、待ちに待ったニューアルバムがついに完成したわけだ。

トビアス・フォージのオカルト的なキャラクターとエンターテイメント性溢れるステージで人気を博するゴーストだが、この『インペラ』は孤立と半神崇拝、空間と精神の植民地化をテーマに制作され、ゴーストにとって最も痛烈で政治的な作品となった。現実と想像、デジタルと生身の人間の両方の専制君主に支配された新世界秩序に対して、ゴーストの楽曲は批判的でありながら共感できるものとなっている。


──2023年2月4日現在、ゴーストはヴォルビートと共にアリーナ・ツアーの真っ只中ですが、ライヴを数本終えてみてツアーの感触はいかがですか?

トビアス・フォージ:すごくいい感じだよ。僕らにとってプラスだったのは、他にツアーしているバンドがあまりいないことで、これは普段では考えられないことだね。今、ツアーしているのはトゥールとかシャインダウン…いくつかのバンドくらいで、コンサートに行くこと自体にまだみんな慣れていないし、外出自体を怖がっている人たちも多いから。

──それは日本も似たような状況です。

トビアス・フォージ:しかもワクチンを打ってない人たちが多いんだよ。コンサート会場ではワクチン接種が必須条件で、ワクチン未接種では入場が許されない。これは、これまでになかった新たな問題と言えるかもしれない。僕はワクチンには賛成だし、みんなに打って欲しいと思っているけどね。もうひとつ、今アメリカはすごい寒波に見舞われていて、昨夜のデンバーでも雪で会場に来れなかったファンが多かったみたいなんだ。いろいろ問題はあるんだけど、それでも毎晩何千人という観客が集まってくれる。昨夜は5千人以上だったからね。今の状況を考えると、凄いことだと思うよ。まだ異様な状況は続いているけど、それなりに楽しんでいる(笑)。多くの人たちの心をハッピーにしていると思うと、それが何よりも大切なことだからね。

──一緒にツアーを回っているヴォルビートとオープニングアクトのTWIN TEMPLEは、どんな印象ですか?


トビアス・フォージ:TWIN TEMPLEは僕らがサポート・バンドに選んだくらいだから、すごく好きだよ。まるでデヴィッド・フィンチの映画に登場する架空のバンドみたいなんだ。ヴォルビートはアップテンポだしロックであり、とても陽気。マイケル・ポールセンは上手いヴォーカリストで彼の歌声が好きなんだ。ここ15~20年くらいのアメリカのモダン・ロックのライヴは、シャウトして腹の底から呻くようなノイジーな音楽が主流だったれど、この3組はちゃんとメロディーがあるロック・バンドだから、一般的なロック・コンサートの概念をいい意味で覆しているんじゃないかな。

──音楽的にも共通項の多い3バンドですよね。そしてゴーストですが、前作『プレクウェル』が全米チャート初登場3位という高い評価を得たことで、心境の面で変化はありましたか?

トビアス・フォージ:キャリアの成功を測る方法はいくつかある。前々作『メリオーラ』と前作『プレクウェル』のもっとも大きな違いは、全米のラジオ局が積極的にかけてくれたことで、それがきっかけでアメリカでの状況も変わってきた。けれど世界的には状況がまた違うんだ。ヨーロッパでは僕らがスウェーデンのバンドということもあり、昔からそこそこ売れていた。でもオーストラリアや日本などは距離的な問題もあり、頻繁に訪れてツアーをするのが難しかったし、日本を訪れるのはいつもフェスだったから、僕らがどれくらい成功しているのかなかなか伝わりづらい状況だったと思う。それを今回のニューアルバムで正したいと思っているんだよ。僕はゴーストを好きでいてくれる人たちに、本来の完全なショウを観てもらいたいという強い願いがあるから。

──ゴーストは<SUMMER SONIC 2014>と<DOWNLOAD JAPAN 2019>での来日だけですから、ファンはフル・ケースでの単独公演を期待していますよ。

トビアス・フォージ:それは常に僕らが直面する問題で、アメリカやヨーロッパでの会場が大きくなればなるほど、それ以外の国で同じ規模感のショウをやることが難しくなる。それをいかに克服するかが今回の『インペラ』における僕らの課題だったんだ。もちろん、今はパンデミックという困難な状況だけど、ツアーは2023年まで続けるから、それまでの期間に目標を達成したいと思っているんだよ。

──ニューアルバム『インペラ』は、前作『プレクウェル』から1980年代のハード・ロック/ヘヴィ・メタルにフォーカスを絞った明るいサウンドから、さらにその路線を突き詰めた最高傑作になりましたね。「カエサリオン」のイントロにおけるキラキラしたギターフレーズから、天に突き抜ける爽快なハイトーン・ボイス…より大きな会場で映える楽曲が増え、前作以上にバラエティに富んでますね。

トビアス・フォージ:そう言ってもらえると嬉しいよ。そういう意見を聞くと、自分たちのやるべき仕事も、クリエイティヴな意味でも成功したと感じられるからね。アルバムを作ることは、家の図面を紙の上に描く建築家の作業と似ていて、ツアーに出ることで、その図面が実際の形になっていくんだ。そのプロセス自体も僕は大好きなんだよ。

──ライヴで重ねることでアルバムが完成するということですね。

トビアス・フォージ:アーティストは自分が作れるレコードに限りがある、という考え方には一理あると思っている。毎回アルバムを作るたびに「これが最後のアルバムになるかもしれない」と思うからね。映画監督にも「これが最後の作品のつもりで作っている」という意見をよく耳にするよね。だから、アルバムが1枚完成すると「また1枚作れた」と安堵のため息をつく。あまり先のことばかり考えるのはやめようって思うよ。次のアルバムが作れる保証なんてどこにもないから(苦笑)。


──今作は、最初にどんなアルバム像を描いたんですか?

トビアス・フォージ:実現したいことがいくつかあった。前作『プレクウェル』は過去作と比べても、軽めというか全体的にソフトな一面を持つアルバムだった。でも皮肉なことに歌詞はとてもダークで攻撃的で、綺麗事を並べた内容ではなかった。今回の『インペラ』はその真逆なんだよ。『プレクウェル』を作ったときは個人的にあまりいい精神状態ではなかったし、人として上手く機能していなかった。世の中的には今よりずっといい状況だったのにね。でも『インペラ』を作っているときは僕の精神状態はすごく改善されていて、今もとても落ち着いている。『インペラ』ではそのことに触れたかった。

──そうなんですね。

トビアス・フォージ:もうひとつ、僕が書く曲はほとんどがマイナー・キーで、悲しくてメランコリックなものが多いから、少なくとも1曲はメジャー・キーの曲を書きたいと思っていた。最低1曲は心底楽しくてハッピーな曲を書きたかった。それが「カエサリオン」なんだ。でも歌詞はこれまで書いた中でも1~2を争うダークな内容なんだよ。そういう風に相反する矛盾みたいなものが僕は好きなんだ。曲調が明るいほど歌詞はダークにしてみたり、もしくはその逆だったり(笑)。

──今作は2020年4月から15ヶ月かけてスウェーデンの2つのスタジオを使ってレコーディングされたそうですね。


トビアス・フォージ: 2020年4月から2021年7月と言っても、実際は僕がひとりでデモを作っていた期間になるんだ。2021年初めにはデモ/プリプロがかなりでき上がっていたから、そこにどんどん重ねて行き、そのままレコーディングに雪崩れ込むという流れだった。スタジオのひとつはABBAの大ヒット曲を多くレコーディングしたアトランティス・メトロノーム・スタジオなんだよ。本当の意味でレコーディングを開始したのは2021年の4月で、そこから7月までかかった計算になる。長い期間だけど、僕が何事にもこだわるタイプだし、スウェーデン人のプロデューサー:クラス・アーランドも僕と同じくらいこだわる人で、ふたりが集まるとどれだけの時間を費やしても足りないくらいになってしまうんだよ。

──「ドミニオン」「トゥエンティーズ」ではミュージカルやテーマパークのような賑やかなオーケストラ・アレンジが楽しめますが、これは新境地ですね。

トビアス・フォージ:曲のベーシックとなるビートとノコギリの刃みたいなザクザクしたギターのアイディアは頭の中にあったんだ。Aメロをどうするか、どう歌いたいか、コーラスをどう入れるかもわかっていた。それで共同ソングライターのサレム・アル・ファキールとヴィンセント・ポンターレ(※ふたりともゴーストのヒット曲「Dance Macabre」他を手掛けた人物)にトラックを聴かせて、「スレイヤーとミッシー・エリオットが出会ったみたいな、ほとんどアーバンと呼んでいいようなフィーリングのちょっと変わったアイディアがあるんだけど、どう思う?」と意見を聞いてみたんだ。

──例えがカオスですね。

トビアス・フォージ:ふたりはポップやラップ寄りの人間だから、何を感じるのか聞いてみたかったんだよ。そしたらふたりとも乗り気になってくれて、映像のアイディアも話しあった。ジャングル、トライバルなダンス…映画『蝿の王』の世界さ。そしたら「ルイジアナの葬式の音楽を取り入れよう」という話になり、それでトランペットやチューバといった管楽器も入れることになったんだよ。

──セカンドラインですね(※ルイジアナ州ニューオリンズのブラスバンドを伴ったパレードから生まれた音楽)。

トビアス・フォージ:そう、ルイジアナの死者を送る葬式の行進というのが最初のアイディアだった。黒人音楽寄りと言えばいいのかな。その後に、テンポのせいもあるけどアイディアは変化して実際にはオーケストラ・サウンドになったという。錆びた…壊れたオーケストラとでも言うのかな、普通の世界に生きる人間たちが孤島に漂着して、気がどんどんおかしくなってクレイジーになっていく。まさに『蠅の王』のイメージだったんだ。


──一方で「ウォッチャー・イン・ザ・スカイ」も、「カエサリオン」と並んでゴーストの新たなアンセム曲だなと感じました。わかりやすいリフ、キャッチーなサビ、ビッグコーラス、中盤すぎの煌びやかなツインリード…つまりはアリーナ・メタルの全部盛りで。

トビアス・フォージ:そうだね(笑)。まさにメタルを超えた曲にしたいという狙いがあったから。歌詞は言ってみればジョージ・オーウェルの『1984』に描かれてるような近未来的な世界だよ。だから、サウンドもコンピューターを用いて機械的にした。この曲の歌詞のオチは「いかに科学を利用して神とコネクトするか」ということ。「Watcher In The Sky」は、空から僕らを監視する番人とどうコンタクトを取ればいいのか?ということを歌っているんだ。


──これらの作品を、早くライブで楽しみたいと思っています。

トビアス・フォージ:遅くとも、2023年には日本に行きたいと思っているよ。頻繁に日本に行けないことを、本当に申し訳なく思ってるからね。実現に向けて頑張るつもりだよ。

インタビュー◎荒金良介
通訳・翻訳◎丸山京子
編集◎BARKS編集部


ゴースト『インペラ』

2022年3月11日(金)発売
UICB-10007 3,300円(税込)
1.Imperium(インペリウム)
2.Kaisarion(カエサリオン)
3.Spillways(スピルウェイズ)
4.Call Me Little Sunshine(コール・ミー・リトル・サンシャイン)
5.Hunter's Moon(ハンターズ・ムーン)
6.Watcher In The Sky(ウォッチャー・イン・ザ・スカイ)
7.Dominion(ドミニオン)
8.Twenties(トゥエンティーズ)
9.Darkness At The Heart Of My Love(ダークネス・アット・ザ・ハート・オブ・マイ・ラヴ)
10.Griftwood(グリフトウッド)
11.Bite Of Passage(バイト・オブ・パッセージ)
12.Respite On The Spitalfields(レスピトゥ・オン・ザ・スピタルフィールズ)

◆ゴースト・レーベルサイト
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