VALSHE、<ISM>ファイナル公演で「守りたいものを守ってください」
VALSHEが2月12日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて<VALSHE LIVE 2022「ISM」>ファイナル公演を開催した。昨年末にリリースした6thミニアルバム『ISM』のテーマはVALSHE自身の“主義・主張”だ。そんな根源的テーマを引っさげたライブは、活動12年目を迎えたVALSHEの円熟味を体現するものとなった。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆VALSHE 画像
ミニアルバム『ISM』のコンセプトカラーであるグリーンのライトで照らし出されたステージに、静かなピアノの旋律とVALSHEの呼吸音が響き渡る。オープニングSEはアルバムタイトルにもなっているインストゥルメンタル「ISM」だ。徐々に激しく展開していく旋律が観客の期待と興奮を体現する一方で、時節がら声援の送れない観客たちのもどかしそうな視線を横目に、VALSHEも溢れ出る衝動を必死で抑えるかのようにステージ中央へとゆっくりと足を進める。
1曲目はアルバム表題曲「GIFT」。VALSHEの出立ちはアルバムジャケット同様の衣装で、照明も引き続きグリーンを基調としたものだったゆえ、ミュージックビデオの中に身を置いたかのような感じを覚える。抑揚と緩急がバンドの生音によってさらに強調され、VALSHEの歌声と共に会場全体に響きわたった。間髪入れず、ハイハットのカウントからVALSHEが咆哮を上げると、アルバム内で最も激しい楽曲と言える「アンプレイアブル」へ。リフとキメ満載の楽曲が会場の熱を加速させた。
「<VALSHE LIVE 2022「ISM」>へようこそー!!」──VALSHE
挨拶に続いては近年のライブでは定番曲となりつつある「DOPE」。ドライブ感溢れる楽曲のためにライブ後半で演奏されることの多かった同曲を序盤に配置したあたりに、“新たなライブを見せたい”というVALSHEの気概が感じられた。そして、よりアップテンポな楽曲「SYM-BOLIC XXX」とノンストップで4曲で続く怒涛の構成が、久しぶりのライブを体感するであろう観客たちの目の色をすっかり取り戻した。MCで開口一番放った一言はVALSHEのみならず、会場全員の総意だったに違いない。
「来たねファイナル! 会いたかったよ! VALSHEはこう思ってます。ステージとフロアは“合わせ鏡”です。期待してるよ! 最後までやり切る覚悟はできてる?」──VALSHE
観客と一体になれるライブを望むVALSHE。その願いに観客が大きな拍手で応えるとこう語った。「じゃあ、存分に期待してよ。次の曲からもどんどん音楽の世界に誘っていきたいと思います」──始まったのはデビューアルバムの1曲目の「NEVER LAND」。先ごろ行われた大阪公演では披露されていない東京公演限定の楽曲ということもあり、驚きと喜びの表情が入り混じる会場。ライブは一気にファンタジーの世界へと誘われた。
『ISM』グッズとして用意されたペンライトはカスタネットのように音が鳴る仕様となっている。そのペンライトを使って、「クラップゲームで遊びませんか?」と呼びかけ、観客とリズムの応酬が始まる。そしてポップで和やかな雰囲気のなかで始まった楽曲は「シープランド」だ。楽曲によって表情をガラリと変えるVALSHEの歌声はフレンチポップの曲調に合わせて、より華やかで楽しげだ。
ライブの折り返し地点で一旦ステージを後にしたVALSHEが衣装を変えて再登場。ライトグリーンが映えるインナー、大きなフードと同じくライトグリーンのチェーンが特徴的なアウターに身を包んだVALSHEの姿が見えるや、会場は待ってましたとばかりに拍手で応える。新衣装にボルテージが上がる中、ハードなストンプから始まったのは「Lingerie」だ。ピンクの照明のなかで妖艶な歌詞が歌い上げられる。K-POPビートに乗せたダンサブルなリズムが縦ノリを生み出して会場が大きくうねっていった。怪しげな雰囲気はそのままに、ダークな一点の照明の明滅と共に始まったのは「Shifty Cat」。クールで淡々としたサウンドながら、重厚感がある楽曲を歌い上げるVALSHEに貫禄と風格が漂う。
三味線のカットインで和の雰囲気をまとうとファンクテイストを取り入れた「浪漫主義」へ。後ろノリのグルーヴを生バンドが作り出し、早口の口上が楽曲のスパイスとなった。陽気な雰囲気から一点、突如始まったのは「空腹」。VALSHE楽曲の中でも異彩を放つポエトリーリーディングをベースとした楽曲だ。“満たされない”という慟哭は、この2年あまりの歳月に向けて放つにふさわしい。
「早いんだよ、今回のライブ。体感まだ2曲分くらい」──VALSHE
あっという間に過ぎ去る時間を少し寂しそうに、しかしその何倍も楽しそうに笑顔で語ったVALSHE。「今回、あえて配信を入れずに生ライブにこだわったのは、会場でしか体験できない感覚があるから」という言葉通り、その場でしか感じ得ない時の早さを実感した。
「デビュー当時から自分の主義・主張、価値観はそれほど変わっていないんです。その中で唯一、価値観の変わったテーマが“命”についての価値観です。今まで命についての価値観は、輪郭がすごくぼやけたまま歩んできたんですけど、自分の活動を通して、音楽を通して、一つ大きな価値観の変化があったことをみんなに聞いてもらえたらいいなと思って。勇気を持ってすごく個人的なことを書いてみました」──VALSHE
そう言った後、じっくりと間をとって始まったのは「cue.」。VALSHE自身が「個人的」と形容したこの楽曲は、今回の新曲の中でも一際深い意味合いを持つ。生演奏のみにアレンジされた楽曲は、VALSHEの息遣いと抑揚によってエモーショナルに響き渡る。涙ぐむ観客を、鼓舞するように始まったのは「PLAY THE JOKER」。長年さまざまな形でステージ彩ってきた同曲はライブ<ISM>でもマッチングが絶妙だ。ここからの怒涛の後半戦は、リード曲ラッシュ。デジタルロックな「BLESSING CARD」、王道バンドロック「RIOT」と畳み掛ける。歌い終わりの“RIOT“のロングトーンでライブは最高潮を迎えた。
「譲っちゃいけないところ、折れちゃいけないところっていうのはあるんだな、ということを、君(観客)との音楽での会話を通してVALSHEは学んできました。自分が発した言葉を受け取ってほしいじゃない? そう思った時に、君がそこにいてくれたことは、人生において重要なことだったんです。今ここにVALSHEがいるのは、あなたがいてくれたからです」──VALSHE
語気をワントーン強めた一言からはじまったのは「フィラメント」。2020年の10周年ベストアルバムで書き下ろされた楽曲だ。“強いフリも真実にして 自分を信じられたのは あなたがいてくれたから”──直前のMCが歌詞となって響く。アップテンポで激しい楽曲ながら、必死にVALSHEを涙ぐみながら見つめる観客の姿が印象的だった。
本編ラストはアルバム『ISM』のラストトラック「INTRODUCTION」。メタルサウンドが最後の力を出し尽くすにふさわしい。間奏部のリフ部分で赤く明滅する照明と共にVALSHEが咆哮を上げる。“この思い 果たす場所まで”──歌詞の最後の一節は、まさにこの瞬間のために用意されたかのようだ。盛大なエンディングで「ありがとう!」と少し掠れた声で叫んだVALSHEの姿は、全てを出し切った解放感と高揚感に満ちていた。
アンコールに応えて一人再登場したVALSHEは、今回のライブTシャツに身を包み、満面の笑顔だ。本編とは違い、やや砕けたトークが繰り広げられた後、昨年の活動の多彩さを振り返った。
「ここ半年くらい、特にいろんな活動をしてきたじゃない? モデルやらせてもらったり、舞台や朗読劇に出させてもらったり。今回のライブタイトルは<ISM>でしょ? もう一曲やっていない曲があるよね?」──VALSHE
そして、2021年12月に出演した舞台『Wizards Storia -initium-』のテーマソング「doctus-7.8.6.9-」へ。ファンタジックな世界観に寄り添って造語で構成された同曲は、今までのVALSHEサウンドにはないクラシカルで壮大なオーケストレーションが特徴だ。昨年の活動が多岐にわたったが故に生まれたサウンドが、新たなVALSHEサウンドとしてまた一つ組み込まれる。VALSHE一人の空間となった舞台は、神々しく光り輝いていた。再度バンドメンバーを呼び込み、語り始めたのはコロナ禍に翻弄された2年間、VALSHE自身がなにを思い、感じたか。
「この2年間の中で、自分のこと、周りのことを考え直す時間が沢山ありました。みんなもそうだと思います。VALSHEも自分の音楽についてたくさん考えました」──VALSHE
2020年春に予定されていたツアーが中止になる所からはじまったこの2年間。その間の複雑な思いは変遷を経て、最終的に、“自分はなぜ音楽をするのか”という根源的なところへ考えが至ったという。「音楽を通してみんなと笑い合いたい」──振り返る時間や考える時間があったからこそ、音楽活動を続ける原動力に気づくことができたという。
「君もちゃんと守りたいものを守ってください。自分の大事なもんくらい自分で守って! 自分の誇りくらい自分で守れよ! 信じて前に進みます。応援してください」──VALSHE
真っ直ぐに観客を見据えて声を上げたVALSHEは、このライブを通して確固たる価値観をさらに強めたようだ。アカペラの歌唱からはじまったのは、災禍の2020年に発表されたファンへ向けた「present.」。ライブで歌唱する機会を奪われ続けていたことを知る観客たちは、この楽曲が披露されたことに大きな意味を感じ取っていただろう。涙を我慢できない人、一瞬も目を離すまいとじっとVALSHEを見つめる人。その姿はさまざまだが、歌に込めたメッセージはしっかりと届いていた。
「今日のライブ最高でした。100点満点だったと思います」──VALSHE
ラストナンバーは「Shout of JOY」。幾度となくライブの最後を飾ったこの楽曲には、“思うようにライブができなかった期間を取り戻し、思い出してほしい”という願いが凝縮されていた。思い思いの色でペンライトを輝かせながら、一糸乱れず左右に手を振る会場の様子は、VALSHEのライブが帰ってきた瞬間だった。
アルバムやライブに冠された<ISM>というタイトルは独善的にも感じられるが、VALSHEが伝えたかったのは、誰もが持つ悩みや問いに対する提示だった。“自分らしくあり続けること”──本当の<ISM>の一端を生ライブから垣間見ることができた。
撮影◎Kyoichi Sugisaki
■<VALSHE LIVE 2022「ISM」>2月12日(土)@東京・duo MUSIC EXCHANGE セットリスト
01. GIFT
02. アンプレイアブル
03. DOPE
04. 「SYM-BOLIC XXX」
05. NEVERLAND ※東京公演限定
06. シープランド
07. Lingerie
08. Shifty Cat
09. 浪漫主義
10. 空腹 ※東京公演限定
11. cue.
12. PLAY THE JOKER
13. BLESSING CARD
14. RIOT
15. フィラメント
16. INTRODUCTION
encore
en1. doctus-7.8.6.9-
en2. present.
en3. Shout of JOY
■6thミニアルバム『ISM』
【初回限定盤 (CD+DVD)】JBCZ-9125 / BBZ-9125 ¥4,500(税込)
▼特典DVD
・「GIFT」Music Video
・Making of 「GIFT」
【通常盤 (CD+DVD)】BCZ-9126 ¥3,500(税込)
※白皙描き下ろしイラストジャケット
▼収録楽曲 ※全形態共通
1. ISM
作曲:VALSHE 編曲:G’n- [instrumental]
2. GIFT
作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
3. シープランド
作詞:VALSHE 作曲:向井健太(Dream Monster) 編曲:高木龍一(Dream Monster)
4. アンプレイアブル
作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
5. cue.
作詞:VALSHE 作曲・編曲:doriko
6. Lingerie
作詞:doriko 作曲:平間光 編曲:山崎佳祐
7. doctus-7.8.6.9-
作詞・作曲:VALSHE 編曲:松岡美弥子(未来古代楽団)
※『Wizards Storia』テーマソング
8. 浪漫主義
作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
※文化放送「矢野・小南 絵物語WA-GEI」エンディングテーマ
9. INTRODUCTION
作詞:VALSHE 作曲・編曲:山本伸弘
この記事の関連情報
VALSHE、長い旅路を完走、ツアーファイナルは「忘れられない7ヶ月になった」
新生VALSHE、人気シリーズ3作目のコンセプトミニアルバム『storyteller III 〜THE SCARY STORIES〜』をリリース
新生VALSHE、投票で開催地を決定する14ヵ所の全国ツアーを2024年開催
VALSHE、7thミニアルバム『SAGAS』の世界観を表現するストーリーライブ出演陣発表
VALSHE × 今夜、あの街から、『名探偵コナン』エンディング曲で初コラボ「全身全霊を込めて」
【ライブレポート】VALSHE、10+2周年ツアーファイナルで「執念の今日を始めるぞ!」
【ライブレポート】VALSHE、<ISM>に込めた覚悟と決意「諦めたくないもの、譲っちゃいけないもの」
【インタビュー】VALSHE、6thミニアルバム『ISM』に主義と主張「あなたは間違えない」
VALSHE、デビュー作から最新アルバム『ISM』まで全曲サブスク解禁