【インタビュー】シキドロップ、ポップなサウンドと深い内省に沈む歌詞とが鮮やかなコントラストを描く「銀河鉄道」

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■間違った選択をするぐらいなら逃げたほうがいいし
■それがいつか前進につながる一歩になるかもしれない


――言葉を追っていくと、見えてくる風景があるんですね。主人公には叶えたい夢があって、頑張って、でも叶わなくて、挫折して、人のせいにしたり、自分のせいにしたり、ぐるぐる回って、結論は出ないままに、夜中に一人でひとりごとをつぶやいている。そんなことって、きっと誰しもが経験のあるシーンだと思うし、年齢や性別や環境を超えて、ぐっとくる歌詞だと思います。

平牧:年齢や性別も関係なく、喜怒哀楽を突き詰めた先にあるものって、共感だと思うんです。それと、悲しみというものは向き合わないと昇華できないと思っていて、目をそらしている限りは絶対に癒えることはないと思うので、この歌の主人公は、弱そうに見えるけど、ちゃんと悲しみと向き合っているところが素敵だなと思います。

――そうですね。

平牧:やっぱり向き合わないと、ものごとは終わらないと思うので。たとえば相手が恋人でも友達でも、モヤモヤした感情から目をそらしても消えるわけではなくて、いつか絶対ケンカになったりするじゃないですか。そういう小さなことも含めて、たとえば本当にやりたい夢があるのなら、ちゃんと向き合わないと願望は消えることはないし、たとえば失恋だとしたら、痛みと向き合わないといつか絶対思い出してしまう。でもそこには“逃げる”という選択肢もあって、さっきお話した“生きていく上での選択”というテーマの中には、現状から逃げることも入っているんです。自分を守るために逃げることは、今の時代にすごく大事だと思うし、間違った選択をするぐらいなら逃げたほうがいいし、それがいつか前進につながる一歩になるかもしれない。どちらにしろ、向き合わないと決断はできないので、向き合うことには痛みをともなうけれど、そうやって何かを終わらせたあとに、さあどこへ行こうか?という思いが生まれてくる。たぶん「銀河鉄道」はその途中の歌というか、泣いている真っ最中だと思います。そして主人公はこのあと、自分の感情にサヨナラできて、素敵な明日が迎えられますようにという、祈りのような歌ですね。きれいに言えば。


――よくわかりました。そして「銀河鉄道」というと、誰もが宮沢賢治を連想すると思うんですけど、そこの関係性は?

平牧:僕は宮沢賢治さんが大好きで、「銀河鉄道の夜」も大好きで、何十回も読んでいるものなんです。最近だと「青春の光と影」がジョニ・ミッチェルのオマージュで、今回もオマージュ続きになっちゃうんですけど、タイトルはお借りしましたね。

――「銀河鉄道の夜」の、どのあたりが響きますか。

平牧:あれは本当にイノセンスのかたまりというか、邪心がどこにもない。そこに勝手に感情移入しちゃうんですよね。本当に友達のことを大切に思っていて、でも言えなくて、最後に言うんだけどもう遅くて。最後は悲しみなんだけど、情景がすごくきれいだから、悲しいのに美しいという、それは文学の力なのかもしれないですけど、それをシキドロップの音楽の力でうまく表現できたらうれしいと思って、祈りを込めて「銀河鉄道」と名付けました。

――まさにその通りで、悲しいけど美しい、イノセンスを描いた曲だと思います。個人的には“果たせない夢も、笑う母の顔も、今はたださよなら”という歌詞がすごく沁みるんですよね。なぜか。

平牧:ありがとうございます。それは、するっと出た言葉ですね。男の子って、申し訳ないことをした時に母親の顔が思い浮かぶことってないですか? そういうニュアンスなのかなと思います。

宇野:がっかりさせちゃう、みたいな感じ?

平牧:うん。たぶんこの少年は、本当は夢を捨てたくなくて、母親もその夢を応援していたんでしょうね。この歌詞は、自分が夢を捨てたことを表現しているんですけど、母の期待も裏切ってしまって、申し訳なくて、顔が思い浮かぶのかもしれない。そこは想像してもらえるとうれしいです。

――シキドロップのファンは、深く想像しながら聴くタイプだと思うので、いろんな解釈が出てくると思います。

宇野:これって一回、SNSに載せてるよね?

平牧:そう。自分が作ったデモをワンコーラスだけ、ツイッター動画に載せました。去年はやれることがなさすぎて、音楽家として発信できるものが何かないかな?と思った時に、とにかくやらなきゃと思って、自分で動画を作って載せました。そもそも期間限定で、残すつもりはなくて、まもなく消しましたけど。中には「あの曲がこうなったんだ」って、思ってくれてる人がいたらうれしいです。

宇野:ちょっと調べたけど、みんな覚えてる感じだった。

――悠人くん、あらためて、アレンジで気に入っているポイントは?

宇野:サステイン(持続音)が長いベースをとにかく入れたかったんですよ。仁ちゃんとのやり取りの中で、サステインを短くして調整した部分もあるんですけど、ベースの音色は最初から一緒。特に理由はないですけど、直感でこの音が合うと思ったので。今までのシキドロップの曲では、「先生の言うとおり」で同じようなベースの音を使っています。あれをまたやりたくて、挑戦したのが今回だったんです。

平牧:そうだったんだ。

宇野:だから、今回好きなのはそこです。サビのベースの、サステインが長い音。どうでもいいか(笑)。

――アレンジャー・宇野悠人も進化中ということで。振り返ると2021年、充実した1年でしたね。

平牧:そうですね。去年に比べると、「音楽した」という感じは全然強いです。

宇野:今年はけっこう動いた気がする。シキドロップという仁ちゃんが作った世界観の上で僕は歌っていただけですけど、その中にちょっと入り込めたかな?みたいなところはあったので、僕の中でも2021年はいい1年だったと思います。

平牧:セルフプロデュースも、今年からだから。

宇野:そうだね。去年も考えてはいたんだろうけど、こんなにやるとは思ってなかった(笑)。1年間、ちょっとずつ動き続けた年でした。

――1年間本当にありがとうございました。来年もよろしく。

平牧:よろしくお願いします。

宇野:2022年は、もうちょっとコロナウィルスに落ち着いてもらって、楽しくライブができるような頃に戻れたらいいなと思いますね。

取材・文;宮本英夫

リリース情報

Digital Single「銀河鉄道」
2021年12月15日 配信スタート
1. 銀河鉄道
2. 銀河鉄道 (Instrumental))

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