【コラム】チューバという「じゃんけんで負けたヤツがやる楽器」を大人気にする方法

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筆者と愛器。こちらのメーカーのチューバは「小柄」らしいが……。

チューバは多分、吹奏楽部では一番不人気な楽器である。人気楽器ランキングに入ることはまず無いし、不人気ということをいつもネタにされる。奏者への質問も、他の楽器なら「何がきっかけで始めたの?」だが、チューバ奏者は「どうしてチューバやってるの?」。よくよく考えてみれば失礼極まりない。

いやまあ、演奏している当事者から見ても、この楽器に人気が無いのは仕方ないとは思うのだ。まず重い。筆者が高校音楽科でチューバを専攻していたとき、荷物は楽器と教科書をあわせて15キロを軽く超えた。お陰で女子高生の頃から腰痛持ちとなってしまった。

そしてデカい。コントラバスよりは小さいとはいえ、管楽器の中では最大種。ゲーム『モンスターハンター』で使えるガンランスみたいなサイズ感なので、記念撮影時にはバズーカごっこをさせられて、地味に腰がキツい。

その割に演奏では地味で、楽譜には基本四分音符しかない。2小節くらいメロディがあれば小躍りして音楽室を駆け回り、ソロなんかあろうものなら大騒ぎ。それが吹奏楽部のチューバ担当。特にポップスの吹奏楽アレンジにメロディがあるのは激レアなので超嬉しい。

演奏はもちろん、動画編集能力に注目してしまう

そんな調子なのに、たまにトランペット奏者などから「チューバって楽でいいよね」と嫌味を言われたりする。そういうとき、我々は「じゃあお前がチューバ吹けよ!」という言葉をグっと飲み込み、「メロディ楽器って大変だよね」と返す。それがスマートで大人なチューバ吹きの対応である。

つまるところ、音楽をやっていない一般ピーポーにとって、チューバは魅力よりも短所が多い楽器に見えるのだと思う。「音楽にはベースが必要なんだよ!」とは言うが、考えてみれば「音楽にはメロディが必要なんだよ!」「ドラムが必要なんだよ!」的なことはわざわざ言わないわけで。ベースの必要性を感じていない人が見るチューバは、ただただデカくて重くてメロディも吹けない楽器というだけなのかもしれない。

チューバ奏者の大半は、楽器に対するマイナスイメージを受け入れている。だってデカくて重くて地味なのは事実なんだから、「軽いよ!」「派手だよ!」「小さいよ!」なんて喧伝するのは詐欺も良いところだろう。我々にできることはせいぜい「デカい、重い」のマイナスイメージの後に「なので学校で突如バトルロイヤルが始まったら強い」と添えることくらいだ。

しかし今、筆者はチューバ奏者たちに改めて問いたい。チューバ奏者たちはこんなボロボロな言われようで悔しくないのかと。たまには言い返したくないのかと。

私は悔しいので、どうすればチューバが「じゃんけんで負けたヤツがやらされる楽器」というポジションから脱し、国民的人気楽器になれるのかをいつも考えている。それってなんだか「ヘヴィメタルを国歌に!」みたいな話だが、実際海外ではそんな署名運動が行われているそうだし、チューバだって人気楽器になれるはずだと思う。

普段は大人しい楽器でも、実はこんなに軽やか

さて、前述のように不人気な、特に女性人気が非常に低いといわれるチューバだが、不思議なことに創作物のチューバ奏者は割と女性が多かったりする。映画化もされた『響け!ユーフォニアム』では、チューバを担当するキャラの大半が女性。太宰治賞を受賞した小説『チューバはうたう』でも、女性チューバ奏者が登場した。

前述の『響け!ユーフォニアム』がアニメ化された際、チューバ奏者のコミュニティは「チューバを希望する女の子が増えるかも?!」と盛り上がった。今の20~30代といえば、アニメ『けいおん!』に由来するギターブームが記憶に残る世代。期待するのも当然である。

しかし残念ながら、チューバ女子が爆増したとか、チューバに対する不人気イメージが覆ったとかいう話は特に聞かない。大ヒット創作物で可愛い女子がチューバを吹いているからといって、現実の女子がチューバに抱くマイナスイメージは変わらないようだ。

とはいえ、私だって『ハイキュー!!』を読んでもバレーボールを始めなかったし、『ジョジョの奇妙な冒険』を読んでもスタンド能力に目覚めなかったので、他人のことは言えない。「『けいおん!』見てギター始めるブーム」はかなり特殊なのだ。

「ヒット作の題材となれば界隈の人口が増えるはず」とは誰もが思う。しかしそこにはモノによる参入障壁がある。『けいおん!』に起因するギターブームは、ギターという楽器が1万円前後で手軽&ひとりで気軽に始められたことが大きいだろう。昨今の『ウマ娘』に起因する競馬ブームもそれに近い。

対して吹奏楽は、参入障壁がめちゃくちゃ高い。管楽器は簡単な曲をまともに吹けるまでに1ヵ月前後かかり、楽器本体の値段も高額。さらには音が大きいのでマンションで練習できないし、合奏を楽しむためにはそこそこ熟練した後にどこかの団体へ所属する必要があり、居住地域によってはそれも困難となる。

そんな管楽器の中でも、「合奏のための楽器」と言って過言ではないチューバは、始めるきっかけ自体が少ない楽器である。現在チューバを吹いている方は、約9割が学生時代に部活動等でチューバを始めた方だろう。サックスやフルート、トランペットなどのように趣味で手軽に始められる楽器とは思えない。

そう考えて行くと、チューバを始めるタイミングは学生時代、特に中学1年生か高校1年生の始めのときがベストとなり、それを逃すと入っていくのが難しくなる。しかもチューバに用意された席は、各吹奏楽部に2~3人。部員数が100人を超える名門校でも5人前後がいいところだ。これは非常に狭き門である。

フランクに音と遊ぶのは管楽器奏者の憧れ

だが、この間口の狭さは転じて「アピールするべき層がハッキリしている」ということにもなる。チューバの志望率を上げる、あるいはせめてチューバに指名されて泣いてしまう生徒を減らすためには、小~中学生にアピールすれば良いのだ。たぶん。

そうなると、創作物で楽器をアピールするにしても、吹奏楽部の“あるある”や奮闘を描く「青春モノ」よりも、楽器で魔法を使ったりする「ファンタジーもの」の方が良いのかもしれない。主人公がチューバを武器として戦い、物語の随所に楽器の知識や小ネタを散りばめた超能力モノ漫画的なもの。ウケるかどうかは別として、ちょっと読みたい。

ところで、入試や就活で使う面接テクニックの一つに「短所を良い感じに言い換える」というものがある。せっかちなことを「物事を素早く対処する能力に長けている」と言ったり、協調性が無いことを「独立心が強い」と言ったり、気難しい変人を「芸術家肌」と言ったりするやつだ。

このテクニックを使うと、「楽譜は四分音符ばかりで退屈、メロディも滅多に無い。合奏中は他の楽器の演奏を聴く時間が長い」とういうチューバの短所も、「ただ楽譜を吹くだけならば簡単だが、自己研鑽を重ねれば無限の宇宙が見えるパズルゲームのような楽器。技術だけでなく耳が鍛えられるので音楽自体のセンスが上がり、音の聞こえ方や価値観も変わる」となる。これはなかなか良い感じではなかろうか。面接だったら合格できそうだ。

しかし「重い&でかい」だけは科学的事実なので言い換えようがない。「腕が鍛えられるよ!」と言う人もいるが、筋肉がついて腕が太くなることを嫌がる少年少女は結構多いので逆効果である。というかそもそも「筋トレになるか」を第一に楽器を選ぶ人っているのだろうか。武田真治だってサックス吹いてるんだぞ。

なので、ここはもう開き直って「確かにでかくて重いが、それだけ目立ちまくる!」と言ってしまったほうが良いだろう。なんだかんだ言って、低音奏者は誠実なのが一番だ。「意外と軽いよ」なんて大嘘はいけない。重いものは重い。

ただ、チューバは基本的に楽器を椅子や台に置いて演奏するものなので、「演奏中に限れば他の楽器より腕が楽」ということはもっと積極的にアピールしていけると思う。実際のところ、長く演奏しているとフルートやトロンボーンなどの手に持って演奏する楽器のほうが腕は疲れるのだ。

この低音は渋い。これはたまらない

このほか、チューバに人気が無い一因には「演奏している姿があまりカッコよく見えない」というのもある。ある程度身長があれば膝に乗せられるが、演奏台を使おうものなら大股開き。女子生徒に嫌がられるのも仕方ない。

これについては現状“大股開き”という姿勢そのものへの世間的なマイナスイメージが強いので、「吹く姿が職人っぽくてかっこよくない?」みたいな感じで、少しでもプラスの方向に導いていくしかない。ドッシリ構えてチューバ吹いてる学生って、男女問わずカッコいいよね。

余談だが、筆者は陰キャなので、チューバを吹いていると演奏会中の写真に顔が写らなくて済むのが嬉しかった。演奏会の写真が届いたとき、他の部員たちが「写りが悪い」「わたし変な顔してる」と騒ぐ中で、ひとり高みの見物をしていられるのは良いものである。ただし「チューバに脚が生えてる」とはよく言われた。

低音奏者たちのちょっとした悪だくみ

……と、ここまで目を逸らしつつ語って来たが、結局のところチューバが不人気楽器である最大の理由って、「楽譜がつまらない」ことだと思う。譜読みは大抵5分で終わり、ときには出番がたった3音。「36小節休んで1音吹いて54小節休み」みたいな楽曲も多々ある。


この記事のため書いてみたものの、拍子記号を書き忘れる痛恨のミス

「学生最後のコンクールでの演奏曲に四分音符と全音符しか無かった」「2時間の演奏会中、チューバの出番は1分程度」「3年間の吹奏楽生活でメロディを吹けたのは3曲だけ」「楽譜ほぼ同じ音」というのはよく聞く話。「『オーメンズ・オブ・ラブ』の左ページはほぼ“シ♭”の音」と冗談めかされるが、ホルストの「火星~戦争をもたらす者~」は半分以上「ソ」だ。でも、どちらの曲も吹いてて楽しいから大好きです。

我々チューバ奏者は、決して作曲・編曲家に苦言を呈したいわけではない。いつも心から感謝しているし、ベース楽器である以上、こういうものだとも理解している。四分音符と全音符だけでも、合奏は超楽しい。その上で、やっぱりちょっと寂しいときがあるのだ。メロディが欲しいなんて贅沢は言わないから、もうちょっとだけ八部音符を吹かせてもらいたい。願いはそれだけなのである。

チューバ吹きは譜読みが早く終わる分、自分の練習に時間を割ける。一般の学生でも、音大生がコンクールで吹くようなソロ用の楽譜を取り寄せ、コソコソ練習している人は少なくない。そうでなくとも、暇を持て余して他パートの複雑なメロディを耳コピしていたら、本来の担当者より上手く吹けるようになってしまった、なんて経験はほとんどのチューバ吹きにあるだろう。

こういう行動を咎め、担当パート譜だけを練習させようとする指導者もいるが、「四分音符と全音符しか無い楽譜」は、幾ら丁寧に練習しても時間が余る。なのでいっそ学生には最初から、音大生が吹く練習曲(エチュード)集を与えてしまった方が良いと思うのだ。練習曲をやっていれば基礎能力が上がるし、メロディを吹けないストレスも解消、パート譜だって上手く吹けるようになる。何より、モチベーションの維持に最適だろう。

よく「チューバ吹きは縁の下の力持ち」と言われるけれど、私はあんまりこの言葉が好きじゃない。縁の下、つまり見えないところにいるつもりがないからだ。だって、同じステージ上で横に並んで吹いているではないか。

ロックバンドのベーシストに対して、たとえばポール・マッカートニーやジョン・エントウィッスルらに「縁の下の力持ちですね」なんて言う人はいない。彼らはあくまで「低音楽器を専門としているアーティスト」であって、縁の下から主役を支える存在ではないと、皆がわかっているからだ。

秘儀・チューバ大風車。腰が心配

チューバ奏者だって、ロックのベーシストと同じく「低音楽器を専門としているアーティスト」である。そんなチューバ奏者に「縁の下の力持ち」と言うのは、一見すると誉め言葉のようだが、転じて「あなたは脇役である」と言っていることにもなるので、失礼なことだと思う。

私は「チューバは演奏の大黒柱」だと思っている。大黒柱とはつまり、普段はあまり存在を気に留めないが、無いと屋根が崩れ落ちてしまう大切な存在のことだ。

上手いベーシストがいるバンドのヴォーカリストやギタリストは、よく「ベースが上手いからオレたちが輝けるんだ」と言う。彼らはベーシストのことを大黒柱だと考えている。ベーシスト本人だって、きっとそう思っていることだろう。

チューバも、そういうふうに思われるようになりたい。私たちは主役を引き立たせるための、いわば刺身のツマのような存在でも、裏方から主役を支える存在でもない。決して主役とは言えないけれど、主役と同じように舞台の真ん中に聳え立ち、音楽を作る歯車のひとつなのだ。

「チューバを吹いている」と言うだけで笑われることもある今、ついつい自虐ネタに走りがちなチューバ奏者たちではあるが、「私はチューバ担当、つまりバンドの大黒柱です」といつでも胸を張って言い切れるようになれたら、少しずつ世間の目も変わってくると思う。

結局、楽器は一長一短である。どんな楽器にも長所と短所があり、特別に劣った・不便な楽器というものは無い。年々レベルが上がり競技として激化していく吹奏楽界では、人気楽器ほど茨の道だ。一方で低音奏者は今も昔も楽しくやっていて、人脈も非常に広い。

チューバをサックスやフルート以上の大人気楽器にするのは、やっぱりあまりに難しいだろう。どの楽団にも数人いるのに、テレビでは「ニッチな楽器」として取り上げられるし、挙句の果てには「マニアックな楽器だね」と言われる始末。チューバがマニアックだったらゴピチャンドやランケットはどうなるというのだ。

でもきっと、「じゃんけんで負けた人が担当する楽器」という最悪なイメージは消していける。チューバを吹いている人は、チューバを愛している。たとえ最初は第一希望では無かったとしても、やがて短所を含めて愛しい楽器となる。それはきっと、どんな楽器でも同じことだと思う。

これから暑くなり、チューバ奏者にとって苦しい季節がやってくる。ソフトケースでチューバを背負い歩く炎天下は、正直「背中のダイエット」だと思わないとやってられない。

けれど、私は「大変だね」と声をかけてくださる町の方へ、「大好きな楽器なので平気です!」と笑顔を返してきたい。いつかその方が別のチューバ奏者を見たとき、親戚や自分の子どもがチューバを担当することになったとき、「大好きな楽器」と笑った通りすがりのチューバ奏者のことを思い出してほしいから。

チューバは自由だ、何でもできる。

文◎安藤さやか(BARKS編集部)

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「俺の楽器・私の愛機」コーナーでは、皆さんご自慢の楽器を募集しています。BARKS楽器人編集部までガンガンお寄せください。編集部のコメントとともにご紹介させていただきますので、以下の要素をお待ちしております。

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