【Pearl75周年特集】真矢 [LUNA SEA]×飯石社長対談、「日本が誇る物作りのDNAがしっかり根付いている」

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創立75周年を迎えたパール楽器製造(株)と、結成30周年アニバーサリーを継続中のLUNA SEA。飯石社長と真矢による対談は、メーカーの立場から、プレイヤーの立場から、ドラムという楽器の現在と未来が語られるものとなった。

◆真矢 [LUNA SEA] × 飯石社長 画像 / 動画

飯石真之氏は1995年にパール楽器製造(株)入社。2002年から2012年までオランダのPearlヨーロッパに勤務した後、帰国。本社での営業開発やサプライヤーを経て、2021年1月に同社代表取締役に就任した。一方、能楽師の父親を持つ真矢は、LUNA SEAのドラマーとして1992年にメジャーデビュー。1999年にPearlとエンドースメント契約を締結した。それぞれのアニバーサリーを祝福する真矢の「LUNA SEAは30周年なんですが、Pearl さんは75周年ということで。おめでとうございます!」という一言からトークセッションが始まった。

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■プレイヤーらしさを最大限に引き出す
■それこそがPearlらしさ

真矢:LUNA SEA30年の歴史の中でPearlさんとは22年のお付き合いでして、Pearlさんの音色でLUNA SEAサウンドを支えていただいています。そもそも僕は高校時代からPearlが好きで、初めて買った楽器もPearlのドラムセットだったんです。初心者向けではなく、けっこう高価な2バスのドラムセットを自分で選んで買ったんです。最初からプロになろうと思っていたので。

飯石:2019年のさいたまスーパーアリーナ公演(<LUNA SEA 30th Anniversary LIVE LUNATIC X’MAS 2019>)に訪問させていただいたんですが、素晴らしいライヴでした。LUNA SEAや真矢さん自身がファンの方々をものすごく大切にされていることに感動いたしました。さいたまスーパーアリーナのような大きなライヴ会場で、e/MERGEをプレイされたのは真矢さんが世界初だったんですよ。

▲真矢[LUNA SEA] with President Series Phenolic

真矢:そうなんです。そのとき初めてライヴでe/MERGEを使用したんですが、一言でいうと素直というか。車に例えれば、自分の感覚に合ったアクセルワークができるような感じ。やりたいことが真っ直ぐにできて、なおかつ華やかな音色ですね。

飯石:実はライヴ当日、すごくドキドキしながら観ていたんです。プレゼンテーションという形で小さい場所では使うことがあったんですけど、大きな会場で、しかも当日はテレビの生中継が入っていたので、ライヴが成功してホッとしたと共に感激しました。

真矢:電子ドラムは、これまで少しだけセットに取り入れて使っていたんですけど、e/MERGEを叩いてみたときに、“これでフルセットを組みたい”と思ったんです。ライヴ前日にPAを通してサウンドチェックをしたとき、来ていただいたPearlスタッフのみなさんとハイタッチしましたね。それほどいい感じでした。Pearlというドラムメーカーが培ってきた技術力の賜物だと思います。


飯石:Pearlの創立は1946年なんです。戦後間もない時代なので、調達できる物資が非常に少なかったんですね。その中で何を作っていくか、創意工夫の連続だったんです。

真矢:75年ですもんね。すごい歴史です。

飯石:歴史の始まりは譜面台作りで。創業者の柳沢勝己が打楽器の需要に注目したのがドラム作りのキッカケでした。ただ、物資調達が難しいなかで、ウッドでシェルを作るということが非常に大変だったんです。ですから、いろいろな素材や加工方法を考えつつ、ウッド以外で何ができるのか試行錯誤を繰り返しまして。そういった流れの中で出てきたのがフェノリックシェルを用いた“プレジデント”なんです。

真矢:その復刻とも言える75周年記念モデルは、先ほど初めて叩かせていただきましたが、実は、プレジデントは高校生の時に使っていたんです。キックがファイバーグラスシェルのFX、タムがファイバーシェルのPXでしたね。木胴よりメロウな感じが気に入って使ってました。だから、すごく馴染みのある素材で。

飯石:Pearlのシェル作りのコンセプトというのは、完璧な真円度、共鳴性、シェルの密着度なんです。この3つを実現できる素材と加工方法を探し続けて、ここに行き着いたという流れがあります。1966年にプレジデントシリーズを発表いたしまして、そこからPearlの人気がどんどん世界でも高まっていったんですね。そうしている内に“やはりドラム作りをもっと進化させていかなければならない”ということで、本格的にウッドシェルに尽力していったんです。先ほど申し上げた3つの要素をもとに、私たちが生み出した独自の設計方法がありまして、これをSST (Superior Shell Technology)と呼んでおります。

真矢:どんな技術なんですか?

飯石:熱と強力な圧力を同時にかけます。そしてスカーフジョイントというプライウッドの接着ノズル。その組み合わせで強靭なシェルを作るという設計方法なんです。結果、ウッドシェルの評価も非常に高まりまして、世界中のドラムプレーヤーに愛用されていった、というのが大まかなPearl Drumsの流れなんです。

真矢:都市伝説がありますよね。TOTOのジェフ・ポーカロがメインドラムを選ぼうとしたとき、各著名メーカーのタイコを集めて2階から放り投げたところ、Pearlがいちばん壊れなかったから採用したという。特にプロドラマーは長いツアーにセットを持って行きますから、耐久性って絶対的に大事なんですよ。決して雑に扱っているわけじゃないんですけど、トラックに積んで、ステージにセットしてガンガン照明を当ててバシバシ叩いて。ライヴが終わった後はまたトラックの中で揺られながら次のライヴ会場へ向かう。これは楽器にとって、けっこうヘヴィな環境だと思うんですね。もちろん音色は大事なんですけど、耐久性も同じように大切なので、ジェフ・ポーカロのセレクト方法はすごく理に適ってますね。

飯石:ありがとうございます。

真矢:決して海外製のドラムが悪いっていうわけではないですけど、日本の物作りってすごく評価されているじゃないですか。 繊細だし、壊れない。そういうDNAみたいなものがPearl Drumsの中にしっかり根付いているんでしょうね。

▲飯石真之 パール楽器製造 代表取締役社長 with President Series Phenolic

飯石:75周年を迎えるにあたって、私たちも自身の歴史を振り返って考えたんです。“Pearlらしさって何なんだろう?”って。そこで、行き着いたのは、“プレイヤーらしさを最大限に引き出すことなんじゃないか”ということなんですね。それはどういうことかというと、プレイヤーのみなさん、たとえば真矢さんが表現したいものを余すことなく発揮できる楽器を作ること。それこそPearlらしさなのかなと。つまり、最高の精度を誇る楽器でなければいけないと思っています。ですから、シェル作りはもちろん、パーツひとつひとつの精度にこだわった完成度の高い楽器を作ろうと、私たちは日々努力しております。

真矢:素晴らしいです。僕は、「次はあの素材で作りたいな」とか「こういうドラムを作りたい」とか、Pearlのみなさんが「えっ?!」って一歩後ろに引くぐらいのことを提案するんですが、それをいつも完璧に再現してくれるんですよ。だから、楽器との信頼関係と、人としての信頼関係、その両方が築けていると思っていて。最高のメーカーだし、最高の物作りをする方々だなといつも思っています。

飯石:ありがとうございます。シェル開発の詳しい話をさせていただくと、ドラム作りを進化させていった究極的な形が1998年に発表したMasterworksだと思っているんです。至高のアコースティックドラムを作りたいということ。またプレーヤーのみなさんの個性をどこまで表現できるかということ。それらを突き詰めたシリーズでもあるんです。今日、真矢さんにお見せしたいと思って持ってきたものがあるんですが、それはベアリングエッジの見本です。Pearlは5種類の異なるエッジを揃えておりまして。実はこれ、開発スタッフにわかりやすく作ってもらった模型なんです。

真矢:歯の模型かと思いましたよ(笑)。エッジっていうのはドラムヘッドとシェルが当たる部分ですよね。それだけでも5種類選べるってことですね。

▲Pearlベアリングエッジ 模型

飯石:そうです。フルラウンド、インナー45 度、ラウンド45度、スタンダード45度、アウター60度があります。ここまで追求しているドラムメーカーはほかにないんじゃないかなと自負しておりますし、これによって音色の違いを出すことができます。

真矢:5種類あるエッジは、簡単に言うと音にどんな違いがあるんですか?

飯石:例えばフルラウンドはヘッドとエッジの接地面積が大きいので、伝達性に優れています。アウター60度はヘッドの接地部分を外側にすることで、振動を最大限に生かすことができるんです。エッジによってかなり音色が変わってくると思います。

真矢:面白いですね。Pearlさんはエッジもそうですけど、ペダルの可動域も広い。だから、研究しがいがあるし、その結果、自分の好みにバシッと合わせることができるんです。例えばMasterworksでオーダーするとしたら、タムはこのエッジ、フロアはこのエッジっていうふうな選び方をすることもできるんですか?

飯石:もちろんできます。

真矢:それは絶対いい! 今、お話を聞いていて、和太鼓に通じるものがあると感じました。真円度や内部の共鳴っていう考え方は和太鼓の職人さんと一緒なんですよ。和太鼓でいえば、共鳴は“いかに均一にくり抜くか”が重要で、タイコ内部の“カンナがけ”っていう作業があるんですけど、そのカンナがけで音が決まるんです。

飯石:なるほど、同じですね。

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