【コラム】all at once、『名探偵コナン』ダブルタイアップの親和性と破格のボーカル力

今年2020年4月に初音源を配信リリースした新人アーティストが、コロナ禍でのライブ自粛やCD発売延期などの逆風にも負けず、熱い注目を浴びている。彼らの名はall at once。TVアニメ『名探偵コナン』のオープニングテーマとエンディングテーマを、新人としては異例の2曲同時担当している二人組だと言えば、「ああ、あの歌か」と気づく人も多いだろう。北海道出身、力強いファルセットとレンジの広いボーカルを持つITSUKIと、宮崎県出身、少年のように素朴でシルキーな歌声を持つNARITOのデュオ。その声が今、コロナ禍に沈む世の中に一筋の希望の光を投げかけている。

◆all at once 画像 / 動画

新人離れした破格の注目度には、理由がある。まず何と言っても、デビュー曲「12cm」のアレンジを担当した亀田誠治に「“歌を聴かせる音楽”というものの本質を久しぶりに聴くことができ、鳥肌が立ちました」と言わしめた、パワーと表現力とを兼ね備えたボーカルの力。デビュー前に倉木麻衣のオープニングアクトとゲストコーラスを堂々と務め上げた確かなパフォーマンスとステージ度胸の良さ。6分を超える壮大なバラード曲「12cm」では、男女の理想のキスの身長差は12cmという、当時SNSでバズったテーマを歌詞に取り入れ、甘いラブソングに仕立ててみせた。ミュージックビデオではモデルにして女優の大友花恋を主役に据え、恋愛ショートフィルム仕立てで話題をさらった。世の中がステイホーム期間にある中でも、様々な媒体を通してall at onceの存在はじわじわと浸透していった。


もともとお互いに音楽を志して上京し、音楽専門学校で出会って意気投合した二人には、共通点以上に異なる部分も多い。ローからハイまでのレンジの広さと、温もりと深みのある声の持ち主ITSUKIと、汚れなき透明ボイスの持ち主NARITO。中学時代からブラックミュージックが好きで、ブルーノ・マーズなどを聴いていたというITSUKIと、J-POPを聴いて育ってきたNARITO。完璧主義と細部へのこだわり、ビジョンを持ったリーダータイプのITSUKIと、楽観的で大らかな自然体を貫き、繊細な感受性を武器とするNARITO。それぞれタイプが違うからこそ、お互いを補完しあうような、絶妙のコンビネーションがそこにはある。


そんな二人のさらなるジャンプアップのきっかけになったのは、やはり『名探偵コナン』とのコラボだろう。8月からのエンディングテーマに抜擢された「星合」は、配信と同時に大きな話題を集め、今もロングヒットを続けている。アコースティックギターをフィーチャーした爽やかでメロディアスなR&Bチューンと、一途な恋を夏の星空にたとえたロマンチックな歌詞の魅力が、『名探偵コナン』の持つ恋愛ストーリーの側面を鮮やかに彩っていた。そしてミュージックビデオは『チームラボプラネッツTOKYO』の全面協力を得て、息をのむほどに美しいデジタルアートの世界を見せてくれた。



そんな人気の高まりをさらにビッグウェーブにしたのが、10月から『名探偵コナン』のオープニングテーマとして放送されている新曲「JUST BELIEVE YOU」だ。『名探偵コナン』のオープニング＆エンディングテーマを同時に担当するアーティストという栄誉に加え、『名探偵コナン』の主題歌の歴史の中でもこの曲は特別な存在だ。作詞は倉木麻衣、作曲は大野愛果、編曲にGIORGIO CANCEMIという豪華なメンバーを揃えたこの曲は、2000年の『名探偵コナン』エンディングテーマとして大ヒットした倉木麻衣「Secret of my heart」をサンプリングし、20年後の未来によみがえらせた画期的な1曲。“変わらず側にいてほしい”という歌詞が、時をさかのぼり「Secret of my heart」のメッセージと呼応するようで、あらためて2曲を聴き比べても面白い。幻想的なドラマシーンと歌のシーンを組み合わせた、美しい色彩のミュージックビデオも要チェックだ。

ライブやリリースの少ない現状にも関わらず、いや、だからこそしっかりと心に響く歌が求められるこの時期に、純粋に歌の力だけで勝負できるall at onceの存在はとても貴重なものだ。まだデビュー半年の二人には、たっぷりとした時間と才能と、無限大の未来と可能性がある。メンバーも、スタッフも、リスナーも、“全員を巻き込む”という意味で名付けられた、all at onceというユニット名にふさわしい大活躍はここから始まる。オフィシャルホームぺージをチェックしながら、次のアクションを楽しみに待ちたい。

取材・文◎宮本英夫