【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.135「世界の美景『スウェーデン』~TAMAKI's view(MONO)」
旅とは人々が自由に行き交う冒険だ。この国にコロナ禍がやってきて7ヶ月が経過した今、国内旅行はなんとかできるようになってきたが海外旅行へのハードルはまだ高いままである。世界を旅することが難しい今だからこそ、ワールドワイドな活動をしているアーティストの旅話を訊いてみたい!ということで始まったインタビュー・シリーズ「世界の美景~TAMAKI's view」。五カ国目となる今回は、スカンディナビア半島に位置する北欧諸国のひとつ「スウェーデン」だ。これまでに59カ国もの国々で音楽活動をしてきたTAMAKI(MONO)が実際に体感した現地での音楽事情やその魅力について本人撮り下ろしの写真と共にお届けする。
■「スウェーデン」基本情報
正式国名 スウェーデン王国
首都 ストックホルム
面積 45万km2
人口 約1023万人(2019年1月時点)
民族 スウェーデン人。ほかにサーメ人やフィンランド人など。
国旗 青地に黄十字。青は海や湖、黄色は王冠の黄金を象徴している。
(出展:地球の歩き方)
◆ ◆ ◆
■■スウェーデンへ進出のきっかけはアメリカの<SXSW>
──美しい街並みですね。
TAMAKI:綺麗だよねえ。冬は日照時間が短くて夏は日が落ちないのが面白い。2003年に<Avika Festival>に出演したとき、夏で、白夜で。夜中になっても薄ら明るい中でビョークを見てたら陽があけて幻想的で綺麗でした。夏は夏で良いけれど、やっぱりクリスマスシーズンの冬がいいですね。
──白夜のフェスとは北欧らしいですね。
TAMAKI:スウェーデンはMONOがアメリカの次に行った国でね。2001年3月に初めて出た<SXSW>でショーを見ていたスウェーデンのレコード会社の人たちから「スウェーデンでツアーをやらないか?」って声をかけられて。その年の秋にツアーで5本廻りました。
──いきなり5本とはすごい入れ込みようですね。
TAMAKI:まだ海外で場数をそれほど踏んではいなかったけれど、どのヴェニューにもお客さんが入っていたので現地プロモーターが頑張ってくれたんだと思います。中でもSandvikenという小さな街のヴェニューの店長がMONOを気に入ってくれていて、小さい会場だけど毎回たくさんの客が入って、すごく暖かい雰囲気で本当によくしてくれました。
──アメリカの<SXSW>に出演したことでスウェーデン進出に結びついた、と。
TAMAKI:そうです。<SXSW>は見本市ですからね。私たちは<SXSW>の日本枠とかではなく一般枠からエントリーして行って、会場は小さなバーみたいなところで最初は誰もいなくてどうしようかと思いましたけど、外からも中が見えるガラス張りの店構えだったのと爆音だったからか終わる頃には人がいっぱいでした。
──同じく音楽見本市のマンチェスターの<In The City>で観客ゼロの日本人バンドを見た時、お膳立てされても現実は厳しいものだなと感じましたが。
TAMAKI:そういう枠を使ってでも出たいという気持ちも分からなくはない。私たちは相手にされなかったから他から行っただけです。
──どうしたら<SXSW>に自力で出られるのでしょうか。
TAMAKI:私たちの場合はブッキングなどの手伝いをしてくれていたニューヨークのマネージャーがつないでくれて、資料とかも出して。それで通ったんじゃないかなあ。当時、gotoさんから「サウス出れるよ!」って電話がきて「やったあ!」って大騒ぎしたのは覚えてます。
──他にも同様のケースはありましたか。
TAMAKI:そういうことが多いですね。去年もベルギーのフェスに出演した時、そのフェスを指揮していたスタッフから「以前フェス現場でバイトをしていた頃にMONOを見ました。その時一緒に撮ってもらった写真がこれです!」と見せられたりしましたし(笑)。
──各国の音楽業界にMONOのファンがいるんですね。
TAMAKI:スウェーデンでのライブが初めてのヨーロッパツアーだったということもあって、目に入るものすべてが綺麗でしたね。そんな中、タクシーに乗っていたら私たちの曲がかかって「これを丸々かけちゃうんだ」って吃驚したりして。私たちの曲は長いのでフルでかかることは今も昔も日本では有り得ないことなので。
──どの曲が流れたのでしょうか。
TAMAKI:「Error #9」という1枚目のアルバムの曲です。11月だったから昼の3時には暗くなってるし、朝は8時でも真っ暗。本当に陽が当たらず、あっという間に夜がくる。ドキドキ感や不安感もある中でその曲が美しく自分の中で鳴って、「こんな所にも来れるようになったんだ」と感動しました。今でもスウェーデンに到着すると頭の中ではこの曲が流れます。
▲Photo by Yuichiro Hosokawa(Gothenburg, Sweden, 2016)
──最近も演奏されてます?
TAMAKI:いや、まったく。日本で演ったことないんじゃないかな。先日、SNSでアルバムの曲を振り返る企画があって「Error #9」のコメントを私が書くことになった時も頭の中はすぐスウェーデンになって。その頃、大なり小なりあった苦労や不満が詰まってるし、いい想い出も悪い想い出も曲を聴いたり弾いたりすると出てくる。特に最初の頃に作った、または演っていた曲には想い出が詰まり過ぎているから、今こうして話しているだけでも胸がいっぱいになります。
▲Photo by Yuichiro Hosokawa(Gothenburg, Sweden, 2016)
■■お気に入りの楽器店
──行くと必ず立ち寄るような場所はありますか。
TAMAKI:必ず行く楽器店がある! ストックホルムにあるHELLSTONEは品揃えがすごいのよ。欲しいものがいろいろ揃ってて、昔のヴィンテージの楽器が「あれもある! これもある!」って、みんなワクワクします。
──メンバーと出かけることもあるんですね。
TAMAKI:昔はショーとショーの隙間の移動時間中に行くことが多かったから、みんなで「何かないかな」って言いながら探しに行ってたけど最近は個々かな。
──その店で購入した楽器はありますか。
TAMAKI:ベースを一本買ったことがある。今メインで使っているのはギブソンのEB-3 1966年ですが、70年をこのスウェーデンの楽器屋さんで見つけました。状態もすごくいいし、音も今のメインのものと似ていたので悩んだ末に買って帰りましたね。メインの子が年代にしては良い状態ではあると色々な方に言われるのですが、それでも少しずつ弱っては行くのでいい状態のものに出会えたら買うようにはしていて。
▲左:メインのEB-3 1966年、右:スウェーデンで購入したEB-3 1970年
──楽器は海外で買うことが多い?
TAMAKI:アメリカが多いですね。掘り出し物もあるし。69年はアメリカで見つけました。昔は海外へ行くたびにヴィンテージ・ショップを見つけては足を運んでましたね。私はそんなには買わないけど、gotoさんやYODAはエフェクターを見ては「あ!」とか言ってたりして(笑)。
──ヴィンテージ楽器は扱いが難しいと耳にしますけれど。
TAMAKI:コレクターの方って大事にされているからか「弾かない」とか言いますよね。ミュージシャン仲間にも「流石にツアーには持って行かない」という人もいるし。私やgotoさんがいつもメンテに出しているヴィンテージ専門の楽器屋さんからは「ヴィンテージをこんなに乱暴に扱う人たちはいませんよ。ツアー1本でボロボロになって帰ってきますね」って言われちゃう。でも「楽器にとっては嬉しいことだと思いますよ。弾いてあげて、なんぼだから」って言ってくれもする。住んで使わないとダメになっちゃう家と一緒で楽器は鳴らさないとね。
■■各国の“爆音”事情
──これは音量測定ですね。
TAMAKI:ここ数年、様々な国で厳しくなってきていてヨーロッパはどこでも音量を測ってますね。最近はあからさまに表示している会場が多い。これはミキシングスペースにいるサウンドガイが見られる用にあった小さなものだけど、フランスには客席からも見える場所に時刻表ほどの大きさでバーンと出しているところもあって。昔は音量計測機を持った人から指摘されたサウンドガイがバンドに「ちょっと音下げようか」って言いに来てたのが、今はみんなが共有できる大きさで示してくる。
──客に対しても見せているのでしょうか。
TAMAKI:きっとね。スウェーデンにいるミュージシャンの友達から「スウェーデンは音量規制が厳しい」とか「耳が難聴になったと訴えられたケースもあるらしくて音量は厳しいよ」っていうのは聞いていたし、私たちは特に問題になったことはないけれど、昔、ドイツで「これ以上大きな音を出すなら出演させない」って言われて「いいよ、キャンセルしてやるよ」と怒って帰ったことがあったけど、当時は音規制があまりなかったからよく分かってなくて(笑)。
▲Photo by Ogino Design(Gothenburg, Sweden, 2019)
──外タレ現場では耳栓が当たり前のように用意されていますが、日本ではミュージシャンもスタッフも客も耳栓やイヤーマフをして耳を保護するという意識があまりないように見えます。MONOはどうですか。
TAMAKI:してないです。曲にダイナミクスがあるから耳栓しちゃうとそこがまったく分からなくなっちゃうので、爆音でも耳の穴を広げておかないと。一緒にツアーをまわる外国の人たちはほとんど耳栓してるけどDahmはしないんだよね。「音がダイレクトに聞けないのは嫌だから」って。
──お客さんが耳栓しているのを見て気になります?
TAMAKI:全然。それはその人たちの自由。出したお料理を「自由に楽しんでください」っていうのと同じ気持ちです。それに海外のヴェニューでは客向けに売られてますから。
▲Photo by Ake Tireland(Stockholm, Sweden, 2019)
──イヤモニも昔は大きな会場でやる人たちが使ってる印象でしたが今は小さなライブハウスでも使われていますけど、使っていますか?
TAMAKI:いや。絶対やだ。試したことないけど、今の所試してみようとは思いません。目の前にモニターがあって、スピーカーがあって、一体の音で楽しむんだっていう気持ちの方が強いです。でも今の若いバンドってみんなイヤモニしてるから足下も何にもないんだよね。一緒に廻ったALCESTも足下スッキリしてて、よくよく見たらみんなイヤモニしてた。
■■スウェディッシュ・ファッション
──観光したことは?
TAMAKI:スウェーデンには日本人の友達がいるので、空き時間があればお茶したり、ご飯食べたりしています。一度、彼女の家で味噌汁とサバ焼きを食べさせてもらいました(笑)。ワールドツアー中、その子に会って日本語をしゃべるとホッとするし、メンバーが全員男性だから女同士の会話もたまにはしたいし。そういえば、スウェーデンではみんな洋服を買ってるね。ツアー中、ジーパンに穴が空いてきたとか、くったくたになってヤバいねって時にちょっと買い物に出かけたりして「これ買った」と写真を送りあったりする。
──スウェーデンのファッションといえばH&Mなどが有名ですね。
TAMAKI:そう、そう。H&Mがまだ日本にはなくてNYCに初めて出来た頃、たまたまコートを買ったら丈夫で暖かかったんだよね。当時は寒い国のメーカーだからか、すごくしっかりしていて。わりと安価で格好いいのがありましたね。クルーたちもスウェーデンでは買い物に出るね。
──ところでTAMAKIさんの衣装はどう作られているのでしょうか。
TAMAKI:自分でデザインしたり、イメージを伝えて絵コンテを描いてもらったりして友人のデザイナーに作ってもらっています。既製品で格好いいのがあればいいけれど物足りなさもあるし。でも実は、あまり得意な分野ではない…。
▲Photo by Ake Tireland(Stockholm, Sweden, 2019)
──いつもドレッシーに着こなされている印象がありますが。
TAMAKI:いや、いや、とんでもない(笑)。人任せが一番。私は何にも浮かばないから、人からもらった客観的なアドバイスをちょっとアレンジするほうが気持ち的には楽。
──海外での買い物なんて帰国後に「あれ?」となることが多いのに。
TAMAKI:日本では手にできないような洗練されたデザインが多いよね。私もMONO加入前にロンドンに行った時に「こんなのどこで着るんだ」っていうブーツとか買っちゃったことがあったけど衣装として使えたから結果的に良かったことがある。
──食文化はどうでしょう。
TAMAKI:ミートボールとかが多いんだって。フルーツジャム付けて食べるんでしょ? あとはニシンの酢漬け、サーモン。ホテルで出される青魚の酢漬けは日本のサバの昆布締めみたいな気分になれるから結構好き。ホットドッグはガスステーションでの休憩で食べたりするね。
──日本ではIKEAでスウェーデン料理を知った人も多いでしょうね。これはお酒でしょうか。
TAMAKI:スウェーデンだけではないけど変わったラベルのビールを用意されることが多いの。だからといって、スウェーデンのビールの味がどうかというと記憶が定かではない…(笑)。
──最後にお訊きしたいことがあります。コロナ対策において独自路線を行ったことで注目されたスウェーデンですが、現地では独特な雰囲気など感じるのでしょうか。
TAMAKI:そういうのはあまりよく分からないけれど、この間ふと思ったのが、スウェーデンではトイレがどこでも一緒だなって。ヴェニューのトレイもそうですが、男女で分かれてないところがほとんどだということに最近気がついて。今でこそ世界中でトランスジェンダーの問題を掲げているけど、スウェーデンではわりと早くから浸透していて昔から「分けないよ、区別しないよ」という国だったのかなと。スウェーデンは教育が無償で福祉も充実していて手厚い反面、パートやアルバイトで生活するのは大変だとも聞きます。保障されている感はあるようですが、ノルウェー、フィンランドもそうだけど北欧はその辺を徹底している分だけ税金は高いというから、どっちがいいのか分からないよね。
写真◎TAMAKI
カバー写真◎Yuichiro Hosokawa
取材・文◎早乙女‘dorami'ゆうこ
◆ ◆ ◆
▲Photo by Yoko Hiramatsu
■TAMAKI(MONO)
東京出身4人組インストゥルメンタル・ロック・バンドMONOのベーシスト。イギリスの音楽誌NMEで“This Is Music For The Gods.(神の音楽)”と賞賛されたMONOサウンドにおいて、ピアノ、鉄琴なども操る他、20周年を迎えてリリースした最新アルバム『NOWHERE NOW HERE』に収録の「Breathe」ではヴォーカルを初披露。これがバンド初の歌入り作品となって話題に。ライブでは華奢に映るその容姿からは想像もつかないような男前な弾きっぷりと美脚に魅了されるファン多数。
◆ ◆ ◆
アルバム『Nowhere Now Here』
2019年1月25日(金)発売
Labels:Temporary Residence Ltd.(North America & Asia),
Pelagic Records(UK, Europe & Oceania)
Formats:CD, LP & Digital
1.God Bless
2.After You Comes the Flood
3.Breathe
4.Nowhere, Now Here
5.Far and Further
6.Sorrow
7.Parting
8.Meet Us Where the Night Ends
9.Funeral Song
10.Vanishing, Vanishing Maybe
◆アルバム購入
www.smarturl.it/mono-nnh
◆Single 1「After You Comes the Flood」
www.smarturl.it/mono-ayctf
◆Single 2「Breathe」
www.smarturl.it/mono-breathe
◆Single 3「Meet Us Where the Night Ends」
www.smarturl.it/mono-muwtne
◆MONOオフィシャルサイト
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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