【コラム】軽快にして重厚・盤石の安定感でスリリング、そんなザ・クロマニヨンズのライブアルバム
毎年、夏から秋にかけてシングル、アルバムをリリースし、その後にツアーで全国を回るというサイクルが確立していたザ・クロマニヨンズ。しかし、コロナ禍の影響もあって、2020年は11月4日シングル「暴動チャイル(BO CHILE)」、12月2日アルバム『MUD SHAKES』といった新作リリースの発表はあったもののツアーの予定は立っていない。
他のアーティストにも言えることだが、今回のコロナ禍によるツアーの延期・中止など、なかなか先の見えない状況が続いているのが現状だ。だが、そんな中でも、ライブ・アルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020』のリリースが決定したのは朗報といえるだろう。
ちなみに、彼らのライブ・アルバムは2013年の『ザ・クロマニヨンズ ツアー 2013 イエティ対クロマニヨン』以来。ライブ映像もこれまでに4作品のDVDをリリースしているが、ライブ音源のみという形では久しぶりとなる。
スタジオ音源でも迫力のバンドサウンドと生々しい歌声を刻んでいる彼らだが、実際のステージとなると、そこに会場の興奮と熱狂が加わり、何倍ものパワーでひとつひとつの楽曲を輝かせる。どんなライブであろうと、いったんスタートすればラストの曲まで休むことなくぶっ通しで演奏し歌う。そんな完全燃焼型のライブをリアルに体感できるのがこのアルバムだ。
内容は2019年からスタートしたツアーの中のライブが1本分(長野公演)、丸ごと収録されている。アルバム『PUNCH』からの曲を中心に、過去の曲も織り交ぜながらハイスピードで突き進んでいく様が目の前に浮かびそうなアルバムだ。
冒頭の甲本ヒロト(Vo)の「オーライ、ロックンロール!」というシャウトに続き、1曲目の「会ってすぐ全部」から一気に熱いサウンドがほとばしる。真島昌利(G)の分厚いギター、小林勝(B)の骨太なベース、桐田勝治(Dr)引き締まったドラム。4人のコンビネーションは完璧だ。お互いの距離感、楽器どうしのダイナミックなやり取り、ヒロトの突き抜けたボーカル・スタイル。そして、彼らの出す音やアクションに向けて送られる観客の歓声が、何よりも大きなエネルギーを生み出しているのが伝わってくる。
コーラスがポップな味わいを生む「怪鳥ディセンバー」、ヒロトのハープ、マーシーのギターが掛け合いがテンションを高める「ケセケセ」、映画の一場面のようなドラマが描かれる「デイジー」、さらに会場との掛け合いも楽しい「ビッグチャンス」など、さまざまな表情がうかがえる『PUNCH』の世界をスケールアップして表現していく。
6曲目「小麦粉の加工」を終えると、「(ここでアナログ盤だと)A面、終わりだよ。(次は)8枚目の『GUMBO INFERNO』から「旅立ちはネアンデルタール」!」というヒロトのMCで、パワフルな音に支えられた「旅立ちはネアンデルタール」の切ないメロディが響く。ちなみに、ほぼアルバムの収録順に披露していくのが最近の彼らのライブの特徴だ。
もう1曲、同じアルバムから「犬の夢」を取り上げた後、「楽しいな。ここからまたアルバムに戻ります。B面の1曲目は「クレーンゲーム」だ!」とヒロトの短いコメントで、途切れることなく曲をつなぐ。A面、B面と、流れが常にアナログ盤に沿っているところも、彼ららしい。
ギターリフが印象的な「クレーンゲーム」や、畳みかけるようなカッティングで迫り、シャープなソロを聴かせる「ガス人間」など、マーシーのギタリストとしてのカッコよさも聴きどころだ。
そして、スカのビートが会場をあおる「整理された箱」に続き、「リリイ」でリッケンバッカーに持ち替えたマーシー。繊細にコードを鳴らし、優しいメロディをヒロトが丁寧に歌っていく。同様にゆったりとした「長い赤信号」では、メンバーのコーラスがきれいなハモリとともに情景を浮かび上がらせる。激しい曲だけでなく、こういったしっとりとした曲でもその魅力を最大限に引き出す演奏とボーカルがじわじわと染みてくる。
「クレーンゲーム」のカップリング曲「単二と七味」から、再びスピーディーなナンバーへと突入。そのスピード感を損なうことなく、「生きる」を筆頭にシングル曲が連続。「やるぞ、長野!」というヒロトの叫びで「エルビス(仮)」が始まると会場も合唱し、反復されるビートにこたえて「オイ!オイ!」と叫び返しているのが聴こえてくる。さらに、王道を行くロックンロール・ナンバー「エイトビート」、ライブのたびに逞しさを増していく「紙飛行機」、観客とのコール&レスポンスでどこまでも昇り詰めていく「ナンバーワン野郎!」と、ここまで最強のシングル曲が5曲も登場し、圧巻の見せ場を作る。
『PUNCH』からの最後の曲は「ロケッティア」。曲中に挟まれるパーカッションのユニークな音も効果的で、変則的なリズムから8ビートになだれ込む流れとともに、ラストを飾るアクセントとなっていた。
アンコールにこたえ「ペテン師のロック」を携えて登場すると、心地いいロックンロールの波で再び観客を揺らし、デビューシングル曲「タリホー」でとどめをさすように会場を沸かせる。
そして、「ありがとう、また来るぜ!我々がザ・クロマニヨンズだ!」とヒロトが叫んで「クロマニヨン・ストンプ」を叩きつけ、4人は颯爽とステージを去っていった。マーシーの「またね」というさりげない、いつもの一言を残して。
軽快にして重厚。盤石の安定感がありつつもスリリングな演奏、そして比類ない最強のボーカル。そんなザ・クロマニヨンズのむき出しのロックンロールが堪能できるのがこのライブ・アルバムだ。湧き上がる衝動を原動力に、とことん磨き上げられた洗練の極みを、すべての曲から感じてほしい。
そして、映像作品とは異なり、視覚要素に頼らないことで、かえってその音楽性に純粋にフォーカスできるのがライブ・アルバムの醍醐味だ。むしろ、これまで派手な演出や凝ったセットを必要としないライブを行ってきただけに、音源だけで勝負できる強みも彼らには備わっている。
ツアーの再開がいつになるのかは未定だし、コロナの終息が見えないだけに不安もないわけではないが、このライブ・アルバムの中には間違いなくタフな生命力が宿っている。映像に頼らなくても音だけで聴き手を説き伏せてしまう凄みがある。
ロックンロール・ショーとして素直に楽しむことももちろんできるが、ライブ仕様のアレンジや演奏の変化、ヒロトのハーモニカ・ソロの巧みなアドリブなど、聴きこむほどに新しい発見もある。ライブでしか味わえない快感をパッケージした今回の作品を徹底的に堪能してほしい。
文:岡本明
撮影:柴田恵理(11/20東京都TSUTAYA O-EAST)
ライブ・アルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020』
惜しくも12公演を残し中止となった、アルバム「PUNCH」を引っ提げての全国ツアー<ザ・クロマニヨンズツアーPUNCH 2019-2020>から、幻のライブ音源を収録したライブアルバムを発売。アルバム『PUNCH』全曲にプラスし、シングル曲「生きる」「エルビス(仮)」「ペテン師ロック」「ナンバーワン野郎!」等を含む23曲収録。ライブの臨場感そのままに、熱気がストレートに伝わる1枚。
■CD【初回仕様限定盤】発売中/¥2,913+税/BVCL-1100 紙ジャケット/28P写真集付
■完全生産限定盤/アナログ盤:発売中/¥4,000+税/BVJL-44~45 2枚組 28P写真集付 180g重量盤採用
1.会ってすぐ全部
2.怪鳥ディセンバー
3.ケセケセ
4.デイジー
5.ビッグチャンス
6.小麦粉の加工
7.旅立ちはネアンデルタール
8.犬の夢
9.クレーンゲーム
10.ガス人間
11.整理された箱
12.リリイ
13.長い赤信号
14.単二と七味
15.生きる
16.エルビス(仮)
17.エイトビート
18.紙飛行機
19.ナンバーワン野郎!
20.ロケッティア
21.ペテン師ロック
22.タリホー
23.クロマニヨン・ストンプ
◆ザ・クロマニヨンズ・オフィシャルサイト
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