【インタビュー】平沢進+会人ツアーにも参加する謎のドラマー“#STDRUMS”、とはいったい何者なのか?
スーツケースをバスドラ代わりに叩きまくるドラムパフォーマンスで渋谷・新宿のストリート名物になっていたユージ・レルレ・カワグチによるドラムソロ・プロジェクト#STDRUMS。
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ロンドンの地下鉄車内でのゲリラライブや、路上ライブでのヨーロッパツアーを敢行するなど、あらゆる境界線を軽々と超えていく行動力は今の音楽界では特出した存在だ。昨年からは平沢進+会人のサポートやナカムラルビイとのセッションなど、ますます“なんでもアリ”な状況に。現在は新作の制作に着手しているという彼に、#STDRUMSをはじめたきっかけから、平沢進+会人ツアー参加への経緯、コロナ禍で暮らす思いなどを聞いた。
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■生で鬼叩くドラムンベース
──BARKS初登場となります。#STDRUMSはユージ・レルレ・カワグチさんのソロ・プロジェクトですが、演奏形態としてはひとりでドラムを叩くというスタイルなのですか?
#STDRUMS(エスティドラムス):“#STDRUMS”名義として演奏するときはひとりです。
──ジャンル的にはドラムンベースがいちばん近い気がしますが、ご本人の認識は?
#STDRUMS:今は人力ドラムンベースってワードを出してます。スクエアプッシャーが好きだったので、あれのドラム版をやろうとしたのが最初です。打ち込みのリズムトラックをバックにドラムを鬼叩くってやつ。
──#STDRUMSとして活動するきっかけは?
#STDRUMS:東日本大震災のときストリートで叩いて募金活動をしたことはあったんですけど、本格的にドラムソロを路上でやろうと思ったきっかけとなるとロンドンですかね。自分のルーツであるブリティッシュロックの聖地巡りをするためイギリスに行ったことが大きいです。
──それは観光で?
#STDRUMS:イエス! やはりドラマーである以上、ジョン・ボーナムのお墓参りは行かなければダメだろうと。シン・リジィの故郷であるアイルランドまで行ったり。3週間くらい行ってましたね。実際に自分でその空気に触れてみないと何もはじまらないと思っていたので。
──その旅行が人生を変えた?
#STDRUMS:ロンドンにはいろんな路上パフォーマーがいるんですよね。日本の路上って(当時)アコースティックギターの弾き語りばっかりでしたけど、向こうでは銅像の格好をして動かない人とか、チューバから火を吹く人とか、音楽だけじゃなくて表現に縛りがない。さすがブリティッシュロックを作り出した土地だなと嬉しくなったんです。
──刺激を受けたと。そのときは何もやらなかったんですか?
#STDRUMS:やりました! 500mlペットボトルサイズくらいの小さい太鼓(ジャンベ)を持って行っていたので、それを使って演奏しました。テムズ川のほとりに革ジャン敷いて。そうしたら、30分で2〜3ポンドくらい稼げて。「おおっ〜」って。そのお金で買ったビールは旨かったですねえ。
──日本の路上とは違う刺激を受けたわけですね。
#STDRUMS:リズムに反応してくれる面白さ。それを経験したことで、日本人の自分とロックが生まれたイギリスの土地を音で繋げたくなったんです。音をきっかけに世界と繋がりを作りたいと思ったのが#STDRUMSをやろうと思ったきっかけです。そこからイギリスと日本を往復するようになりました。
──ロンドンっ子の反応は?
#STDRUMS:やり始めた当時はポンドが高かったから稼ぎも含めてかなり良かった。欧米はチップの文化が浸透しているから、演奏時間と結果が比例していくんですよね。夜明け前にパーティ帰りの連中が酔っ払った状態で集まってきて、めっちゃ踊ってお金もバサッーって置いていくみたいな。すげー盛り上がりましたよ。
■会話はバンド名と曲名でOK!
──ロンドン生活で困ったことは?
#STDRUMS:ないっすね。路上でスペイン人のJavi Pérez(ハビエル)ってギタリストと出会って、住む場所にも困らなくなったし。いい奴なんすよ、ハビエル。
──日本と同じように路上で友だちができていく。
#STDRUMS:ハビエルの仲間たちと車1台でヨーロッパツアーに行きました。ハビエルの故郷であるスペインを皮切りに、フランス通過して、スイス、チェコ、イタリア、オーストリア。フランスのドーバー海峡をフェリーで渡ってイギリスへ戻りました。ミラノでみたアイアン・メイデンは最高でした!
──路上ミュージシャンたちのツアーって山ほどエピソードありそうですね。
#STDRUMS:イエス! 行き先々の国で、路上ライブをやって現地のお金を作る。あれですね、猿岩石がやってそうなやつ(笑)。路上で演奏してガソリン代ができたら次の街に行く。「あと100ユーロ足りねえ! もうちょいがんばろうぜ!」みたいな。
──よくコミュニケーションができますね?
#STDRUMS:僕は英語力が微妙なので、会話についてはほぼすべてバンド名と曲名です。ハビエルと最初に会ったときも彼はニルヴァーナの「Lithium」を弾き出して一気に距離が近付いたり、レッド・ツェッペリンの「Ramble On」で分かち合う!みたいな(笑)。彼らとの会話は、「メタリカ、イエーイ!」、「レッド・ツェッペリン、サード!」「フォース! Stairway to Heaven! イエス!」ですべて通じる。充分円滑にコミュニケーションできていると思います。
▲ロンドンのストリートで出会ったギタリスト・ハビエルと共作したAL『feat. Javi Pérez』
■アナウンスにビートを感じた
──めちゃくちゃだけど、音楽で言葉の壁を超えられることを実践してますね。話題になった地下鉄ゲリラ撮影もそのノリで?
#STDRUMS:初めてロンドンに行ったときから地下鉄のアナウンスにビートを感じてて、いつか曲にしたいと思っていたんです。それでサンプリングして曲を作って実際に演奏したのがあのMVです。
──よくやれましたね。日本じゃ絶対に無理でしょう?
#STDRUMS:日本じゃ捕まっちゃいますかね(笑)? ロンドンでも当時だからできたってことはありますね。基本的にロンドンの人たちはエンタメに寛容なんですよ。面白ければ許されるって土壌がある。なので機材をセッティングしてるときから、「なにやらかすんだ?」みたいな視線を感じてて、いざやってみたらすげーウェルカムに盛り上がってくれて(笑)。
──どれくらいやれたんですか?
#STDRUMS:結局、盛り上がりすぎて3時間くらいやってました。途中で線路変えたり、終点まで行っちゃったり。映像用を撮り終えたあと片付けようとしたらアンコールが来たのが全てを物語っていますね。
■平沢進+会人に参加
──平沢進さんが#STDRUMSを“発見”したのは地下鉄ゲリラ映像を見たからだとか?
#STDRUMS:そうらしいっすね。聞いた話だとドラムを探していた平沢さんが、“ドラマー”ってワードで検索して、2周目で出てきたらしいです。それというのも、日本人でいい人が見つからず、海外のミュージシャンでもいいやって探し始めて見つけたのがあの地下鉄映像だったと。
──それがまさかの日本人だったと(笑)。
#STDRUMS:平沢さんにお会いして早々に言われたのが、「検索ワードはしっかりしたほうがいい」でしたから(笑)。速攻で「ドラマー」を入れました。
──平沢進さんのサポートの最初はバトルスとのツアーから?
#STDRUMS:そうですね。海外のアーティストとのオープニング・アクトとして新しいタイプの生ドラムを入れたいというオファーを頂きました。その相手がバトルスと聞いて震えましたね。
──スクエアプッシャーが所属しているWarp Recordsの盟友ともいえるバトルスですからね。
#STDRUMS:バトルスは、いちばん最初に出したEPがめちゃくちゃ好きだったし、それはそれは盛大に祝杯をあげました。
──実際、平沢さんとご一緒されていかがでしたか?
#STDRUMS:あのツアーは最高でしたし、学ぶことが多かったです。僕はソロとして活動していますけど、平沢進さんとバトルスの存在を目の前で感じることで、人数と音数の意味をすごく考えさせられました。なぜ、#STDRUMSはソロでやっているのか?の再構築をするきっかけになりましたね。ツアーが最高だったのはもちろんですけど、思い出以上に自分の活動を改めて考えるきっかけになったのは大きかったです。
──貴重な経験ですね。
#STDRUMS:音楽家として最高峰の生き様を間近で見れたのはなかなか得難い経験です。
■「思ったとおりに叩け」の重さ
──平沢進さんからドラムとして要求されたことは?
#STDRUMS:リハーサルのとき、わりと音源っぽい演奏をしたときに平沢さんから言われたのが、「それをやるんだったら、しっかりやってくれるドラマーに頼むから」って。「とにかく思ったとおり叩いてくれ」と。僕としては音源にリスペクトを込めてやったつもりだったんですけど、その言葉を聞いた次の一瞬から、好き放題手癖で叩きました(笑)。もう、そこからは自由にやらせて貰いました。「あ、得意なヤツでいいんだっ!」って(笑)。
──フリーでいいというディレクションはいちばん怖い気もします。
#STDRUMS:指示があって活きるタイプと、フリーにやらせて弾けるタイプがあって、僕は圧倒的に後者だと思っています。自由に叩けるっていうのは最高ですからね! 平沢さんは、信じているものがある行動を選択させてくれる。ただし、ちょっとでも迷いがあるとバレる。迷わないのが正しい。確かにソロで演奏しているときは、迷わず叩いていますからね。
■全て即興演奏のレトルノセ
──今年に入ってから、サックスのナカムラルビイさんとのセッションもされていますね?
#STDRUMS:ルビイちゃんとは以前、インビシブルマンズデスベッドのサポートで大阪公演をやったときに対バンで顔だけ知っていたんですけど、平沢進さんのサポートで名古屋に行ったときに偶然再会して、意気投合したので「スタジオに入りましょう」ってことで今年になってから何回かセッションしました。
──ドラムとサックスというのも新鮮ですね。ライブも?
#STDRUMS:実験的なセッションをしながら、いつかカタチにできれば面白いという話はしていたときに、じゃあ、僕のイベントにオープニングアクトとして一緒に出たら面白いのでは? と思って一緒に出ることになった。
──それが“レトルノセ”に繋がった?
#STDRUMS:ユニット名は平沢進さんがTwitterで呟いてくれた「“レ”と“ル”が“セ”する」という言葉から頂きました(笑)。レトルノセはもう完全に即興でやってます。
──YouTubeで観られるレトルノセもセッション?
#STDRUMS:あれもセッションなんですけど、収録することを前提にしているので、スタジオには何回か入りましたね。とはいえ、お互いの手の内を知っただけで、やってることは即興ですけど(笑)。
──コロナ禍でツアーはキャンセル、海外にも行けずで現状はかなりストレスを感じているのでは?
#STDRUMS:こういうときはなるべく日常を過ごすことが正解だと思っています。気にはするんだけど、籠もりすぎないことが重要。結局、集中しすぎちゃってる人が買い占めとかを起こすんじゃないですかね。もちろん軽く見ているわけじゃないけど、なるべく日常の結果の延長線だと思うようにしています。そうやって暮らしているおかげで曲作りがはかどりました。今もずっと曲を作っています。
──時間ができたことを前向きに捉えているわけですね。
#STDRUMS:新曲を作ってはライヴで試してを繰り返してフィードバックを得られまくってます。海外の連中とも連絡をとってますけど、あっちも店が空いてないから日本と同じ状況ですね。「ロックダウンで外に出ちゃ行けないからやることがねぇ! ガハハ」って感じ。まあ、生き甲斐であるロンドンパブがやってないのであれば行く価値も半減しちゃいます(笑)。
──決まっているスケジュールは?
#STDRUMS:9月15日に下北沢251でインビシブルマンズデスベッドのサポートドラマーとして出演するのが決まっています。曲作りの期間ではありますけど、演奏のオファーがあればいくらでも受けるので気軽に声をかけてほしいですね。特に平沢進さんからのオファーを待ってます(笑)!
取材・文・撮影:高畠正人
『LOTUS ROOT』
RICH FOREVER RECORDING
◆#STDRUMS オフィシャルサイト