【インタビュー】植田真梨恵、3rdアルバム『ハートブレイカー』完成「自分が生きて死んでいくなかでいちばん意味のあること」
■なるべく素の状態の私のままで
■このアルバムを歌うことが重要だった
──では、雲丹亀卓人さん作曲の「憂うべき」。雲丹亀さんはSAWAGI (2019年5月解散)というインストバンドのベーシストでしたが、独特の美しいメロディや歌心をお持ちの方ですね。
植田:やっぱり歌ものが好きな方なんだなと思いました。メロディもコードの響きもずっとキレイで。この優しい静かな雰囲気が雲丹亀さんっぽいですね。雲丹亀さんは3曲くらいデモを聴かせてくださったんです。他の曲は、ジャズテイストだったり、オケだけのものだったんですけど、その中で“これはアルバムのイメージに合う。アルバムの最後にこの曲を入れられたらすごくいい”と思って選ばせてもらったのが、この曲です。
──アルバム全体のなかでの位置も嗅ぎとれるデモだったんですね。その前の「IN TO」との相性もいいですよね。植田さん作詞作曲の「IN TO」はスピード感のあるポップな北欧サウンドで、ここからまたグッとアルバムの温度が上がっていくようです。
植田:嬉しい! 「IN TO」はアルバムで最も好きな曲のひとつです。
植田:温かいオルガンがメインの曲です。ボシャッとした感じのオルガンの音色で、作りこんだメロディをそのまま再現するように弾いてもらいました。これは制作の最後のほうに書いた曲で、全体をトーンアップさせようとして書いた曲ですね。なんとなく、速いカーディガンズみたいな。
──そうですね。こういったサウンドも含めて、自分が好きなものを全方位で入れているんだなっていうことがわかるし、“植田真梨恵360度”なアルバムとして見えてくる。そして新たな視点が「てとてとめとめ」。これは実妹である植田真衣さんにお子さんが生まれたことでできた曲で、真衣さん自身も歌とギターで参加するという姉妹共演も叶いました。
植田:せっかくなので、二度とないかはわからないですけど、こんなにバッチリなテーマはないかなと思って妹にお願いしました。
──身近なところで子どもが生まれたということも、愛についてよりリアルに考えるきっかけになったんでしょうね。
植田:そう思いますね。愛と血という部分と、音楽の持つ不思議な力のなかで、“言葉が通じない小さな子どもをどうやって、笑わせたり踊らせたりできるか”。それこそが音楽の力じゃないですか。頑張ってみましたけど、実はまだ甥っ子に聴いてもらってないので、気になります。実際に彼に躍ってほしいと思いながら書いたから。
──“どうやったら踊ったり歌ったり”という初期衝動的なところに訴えかけられるか、実験的な作品ですね?
植田:うちの甥が『アンパンマン体操』を聴くとなぜかご機嫌で踊るんですよ。ぐずっていても「涙そうそう」を聴くと、すやすや眠ってくれて。なんのサウンドのどんな効果かわからないですけれど、甥が大好きなその2曲を掛け合わせたような曲が作りたかったんです。言葉がまだわからないので、歌詞に深い意味はあまりいらないと思ってはいたんですけど、小さい子が歌うものならなおさら誰も傷つかないものにしたかった。
植田:そうですね。今後、この曲を入れることができるようなアルバムは、まだしばらく作れなさそうだなって、愛と血がテーマならばと滑り込ませました。
──「スルー」は植田さん自身が10代の頃に書いた曲だそうですが、ここで収録となったのはなぜだったんですか?
植田:他の未収録曲にも言えることですけど、単純にその時作っている作品と相性が合わなかったり、タイミングが合わなかったりという理由でリリースせずにいただけなんです。「スルー」はまさにずっとスルーし続けていた曲で(笑)。でもこの曲の転調感とか、考えすぎたら書けないような歌詞は、音楽が生活に密着していた時期だからこそ書けたような曲なんです。であれば、今回のアルバムに収録したいと思いました。
──歌詞にある“誰かに必要とされていたい”というフレーズも、テーマである愛に通じていてピッタリだなと思いました。
植田:ひとりとあなたとみんなという対比が、このアルバムにはどうしても必要なので。「スルー」はひとりでいる曲なんですけど、その前に収録された「鍵穴」もひとりになるような感覚があって、そういう曲が並ぶゾーンでもありますね。
植田:アルバムに向けてというよりは、映画『スーパーマン』(1978年公開)を観て、“作曲モードへ突入するぞ”って準備体操的に書いた曲なんです。でも、早い段階で書けた曲って……これは歌録りにも言えることですけど、1テイク目、2テイク目、3テイク目と歌を録っていくと、“1テイク目は下手だけど濃い。3テイク目は上手いけど面白味に欠ける”ってことになりがちで。曲を書いてるときも私の場合はわりとそうなんですよね。そういう意味では「ERROR」は濃い気持ちが出たのかもしれないです。
──ピアノとボーカルというシンプルな構成ですが、これは最初からピアノメインでいこうと?
植田:下手でもキレイなピアノの曲が書けないかなと思いながら書いたので、西村さんに弾いてもらっちゃったら、別の曲になっちゃうかなと思ったんです。それくらい、こぢんまりと部屋で弾いてる感じを出したくて、自分で頑張ってみました。最後のほうのテイクではエンジニアさんがちょっと呆れてましたけどね(笑)。
──収録予定ではなかったけれど、最終的にアルバムを締めくくる曲にもなりました。曲の構成を考えたときに、その役割みたいなものが?
植田:コレクション盤に付属されるフォトブックもそうなんですけど、今回の私は、何か着飾ったり、演出を過度にするというものではなく、なるべく素の状態の私のままでこのアルバムを歌うということが重要だったみたいです。「ERROR」は、アルバムの最後を締めくくるエンドロール的な役割があります。
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