【インタビュー】植田真梨恵、3rdアルバム『ハートブレイカー』完成「自分が生きて死んでいくなかでいちばん意味のあること」
■アルバムジャケットを撮影した部屋は
■15歳のときに借りた会社のマンション
──「Black Cherry In The Dirty Forest」が早い段階であったんですね。この曲はエレクトロなテイストで、まさにいろいろな実験のなかでできたように感じました。
植田:YAMAHAのCP-73 (電子ピアノ)を買って家で遊んでいて、面白い音色がいろいろ作れて気持ちよかったので、そこから曲を作っていったという。ずっと気持ちいいコード感をたたみかけるように連ねて作った曲です。
──アンビエントな気持ち良さが出ていますね。アレンジを手がけたsoshiranuさんは、今回いくつかの曲でアレンジや作曲を手がけていますが、すごく今の植田さんが演りたいであろうサウンドや質感にあってるなと思いました。
植田:シングル「Stranger」を一緒に作ったときに、“このイメージでもうちょっと突き詰めたいな”と思って。結果、今回たくさんの曲で一緒にアレンジしてもらっていますね。
植田:制作過程が実験的で面白かったんですよね。それまではあくまでプリプロ用だと思っていた打ち込みの工程で、本当にカッコいいなと思えるところまでPCの中でつくることができた。サンプリングだけじゃなく、実際におもちゃの鉄琴を叩いたり、アコギやブルージーなエレキギターのアプローチがあったり、「Stranger」がひと言で形容しがたい雰囲気の楽曲になったので、この方向性を突き詰めてみたいなと思ったんです。
──「Black Cherry In The Dirty Forest」もsoshiranuさんのアレンジですし。曲順でいうと「Black Cherry In The Dirty Forest」「Stranger」「小さな恋の誓い」へ、そして「眠れぬ夜に」という並びもいいですね。静かにディープに潜っていくようで。
植田:「小さな恋の誓い」「眠れぬ夜に」の2曲はわりと近い時期にデモを聴きました。その時点で集まっていた曲がマイナー調に偏っていたというか、全体的にタッチが暗かったり、湿度が高い感じになってきていたから、“どんなふうに色をばらけさせようかな”ということはものすごく考えましたね。
──そうだったんですね。低音の心地よさやR&Bの香りが核になりながらも、例えば「小さな恋の誓い」ならワウギターのファンキーさだったり、それぞれ違いがあって。しっかりとアルバム中盤を担う曲たちになっていると思います。
植田:ありがとうございます。細かなアプローチやエッセンスはそれぞれ全然違うテイストのものになっているので、その変化がかえって楽しい並びになりました。
植田:はい。これはトラック数がものすごく多くて、特にミックスが大変でした。joeくんには「一世一代のいい曲を作って! 一生に1曲よ」っていう圧をかけていたんです。joeくんから、「ここに吉井(和哉 / THE YELLOW MONKEY)さんの声を入れたい」と言われたときは、“マジか…”と思いましたけど。
──この曲は吉井和哉さんがポエトリーリーディングで参加していますが、植田さんは以前からTHE YELLOW MONKEYが好きだと公言していたので、植田さん発案かと思っていましたが、joeさんの提案だったんですね?
植田:joeくんもめちゃくちゃTHE YELLOW MONKEYのファンで、一緒に復活ライブにも行っているんですよ。
──なるほど。資料では植田さん自身が“天から轟く神様の声のような語り”と表現されてますが、まさにその通りで。トラック数が多いという「鍵穴」ですが、曲自体にも長い物語を凝縮したような音楽的面白さがあって、長編映画を5分で見せるような濃さがあります。
植田:そういう曲は作ろうとして作れるものではないので、joeくんの、何とも言いようがないトラウマめいた描写のようなメロディは、ノスタルジックであり不思議な感覚で、よく書いたなって。だから、“どうやってこの曲を5分半、飽きずに聴いてもらおうか”って思いながら歌詞を書きましたね。
──冒頭の“ガチャリと鍵穴 抜けなくてひっぱる”という歌詞から物語がどう転がって行くのか。これが最終的にすごく大きな世界まで行く。この鍵っていうモチーフはどんなイメージからだったんですか?
植田:アルバムジャケットを撮影した部屋は、私が15歳のときに借りた会社のマンションで、今、住まいは別に移しているんですけど、なかなか引き払うことができなかったんです。いろいろなものを置いているし、淋しさもあって。でも、今回引き払おうと思って、片付けて何もなくなった部屋で撮影したんです。で、その部屋の鍵穴と鍵が、だんだん合わなくなってきていたんですよね。ひねってるのにノブに引っかかって鍵が抜けないとか、そういうことを描きたいなとは思っていて。今回のアルバムに入れたいってずっと思っていたもののひとつです。ドアは開いてるのに次に進めない、そういうものの象徴としてだったり、そこからドラマが始まったらいいなって。鍵と鍵穴が合わなくなることって、切なくもありますよね。なにか自分のなかで引っかかっていた出来事だったんでしょうね。
植田:そうですね。描きたいイメージみたいなものは他にもモチーフとしてたくさん持っていて。それらがうまくハマればいいなというのは、他の曲にも思っていたことなんです。でも、そのなかでも個人的に体験したテーマで、しっかりハマったのは今回のアルバムではこの曲だけだと思います。
──デモ段階で「鍵穴」もほぼでき上がっていた感じでしたか?
植田:そうですね、生楽器に差し替えていく工程で、差し替えていったら、それ以外の部分がチープに聴こえちゃったりして、どんどん差し替えなきゃいけない部分が増えたり。joeくんの意欲作ということで、一生懸命レコーディングしました。たぶん再来年くらいになったら、もっと上手に録れるのかも(笑)。
──消化するのもタフな曲なんですね。
植田:この曲はボーカルも録り直したんですよ。今回、作家のみなさんには「どれだけ難しいメロディでもいいです」と言っておきながら、それが歌えないとまずいなーと思っていたんですね。で、この曲は“歌えない”と思いました(笑)。それくらい難しいし、「キーを下げようか」って迷ったりもしたんですけど、結局下げないまま歌ったり……というくらいギリギリの曲でした。
──でも、これこそ“植田さんへの曲だから”ということで書かれたと思うんです。
植田:転調し続けるし、間奏がない。そんな曲です(笑)。
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