【コラム】ブライアン・メイの大きな背中~BARKS編集部の「おうち時間」Vol.049

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いわゆる“雷に打たれたような衝撃”なロックとの出会いは、中3のとき。当時、校庭の掃除当番だった私はラジオを聞きながらホウキを履いていたのだけれど、そこにいきなり「ボヘミアン・ラプソディ」が流れてきた。歌謡曲とフォークソングしか知らなかった純朴な中学生に、抜き打ちであれなので「途中で曲調がコロコロ変わるけど、これで1曲なの?」「なんか知らない音楽だらけ」と、困惑というか混乱というか私の琴線は挙動不審に陥ってしまい、聞き終わった後の感想は「もう一回聴きたい、今すぐ」となった。かなり変なテンションだったと思う。

「曲名はぼへみあんらぷろそでぃ、ぼへみあんらぷろそでぃ…」と忘れないように反芻しながら、この日を境に私はクイーンファンになった(当時は女子が好きな外タレという風評だったから、友達にはエアロスミス大好きをアピールしてたけど)。


ほどなくしてサウンドにも興味が出てきて、猛烈にエレキギターが欲しくなったけれど、私の環境…1970年代の鹿児島県のド田舎は「ロックは不良」という、今で言えば「YouTuberはニート」的なトンチンカンな認識がまかり通っていたので、エレキを手に入れることはできず、楽器店でもらったカタログを穴が空くほど見続ける日々を送り、結果、私は鬼のようなスペック厨になった。

そんな私だったので、念願叶ってギターを弾き始め、いろんな機材を手にし、サウンドメイクに青春を費やすようになって、いかにブライアン・メイのサウンドメイクが個性的で魅力的かを思い知ることになるのだけれど、やっぱその音は自分で体感しなくちゃね、とオタク気質がムラムラと起き上がり、彼の真似事を始めるのである。


100年前の暖炉の木なんだとか、パーツはバイクのバネだとか、レッド・スペシャル(例のブライアンのオリジナルギターのお名前。以下レスペ)にはほのぼのエピソードがたくさんあるのは皆さんご存知のとおりだけど、最大の特徴でありすぐにでも真似できるポイントとして、13通りの音が出せるPU回路があるので、まずはストラトにスイッチを増設してそれを真似てみたりした。「なんじゃ、普通のハムより変な音だな」とか「これ、使えるか?」「うわ、ハーフトーン出なくなった」というガックシな結果を元に、一般的なパラレル接続も加味してバリエーションに実用性を持たせたりもするのだけれど、ブライアン・メイのトーンには1mmも近づかない。学ぶことはたくさんあったけど、ブライアンのサウンドは遥か彼方だった。

そんなアホな私でも、年月を経ると色々分かってくることもある。「いちばん大事なのは指」という大原則はあれど、サウンドメイクはあらゆるパラメーターの総決算なので、何か一箇所だけを採り込んだところでゴールは見えないことは理解した。同時多発的にポイントを攻めれば攻略できるのは分かってきたので、要点を絞り込めばもう私の勝ちである(←すでに周りが見えていない)。

結果、要点は4つに絞られた。(1)レッド・スペシャルと同回路のPU構成(2)VOX AC-30(3)トレブルブースター(4)コインである。これさえ揃えばブライアン・メイ・サウンドは手中に落ちる。もう勝ったも同然だ(←錯乱中)。

ここからは楽しくも幸せな地獄の日々となった。まさに地獄へ道づれ。(1)に関してはレッド・スペシャルのコピー/レプリカがベストなので、まずはグレコBM-900を手に入れた。程なくしてKid's BM-260を買った。その後レプリカの忠実度が上がったKid's BM-Specialも手に入れた。


▲1980年代当時、最も再現性の高いモデルとして話題となったKid's BM-260。

いろんなレスペ・モデルを手にしたことで、セミホローという構造が災いすると、ダンエレクトロのようなビザール系サウンドになってしまうことを知ったり、たくさんの個性的というか非常識な条件が重なり合って、あのブライアン・サウンドが生まれていることも理解した。「超弱テンション」と「ブリッジに近すぎるPU配置とシリーズ配線」が欠かせない重要ポイントと気付くものの、そんなけったいなギターは世の中に存在しないので、結局は究極のレプリカが必要という強迫観念にとらわれ、GUILDを飛び越え、某工房に大枚叩いてオーダーするところまで暴走した。


▲某工房にオーダーした1本。木工過程がほぼ完了して、これから塗装に入るという状態。

普通の日本人では指が届かないほど非常識なまでにネックがぶっとく、そのネックこそがサウンドの肝になっているという真実を知ることで、「演奏性とトーンの両立が困難である」というレスペ最大の新事実にぶち当たった。あれは“ブライアン・メイだけのためのギター”だったのだ。あ、みんな知ってました?


▲究極のレプリカを求めて制作されたレッドスペシャル。写真からはわかりにくいけど、ネックは大根並みの太さ。

もちろん並行して、AC-30を選り抜き、あらゆるトレブルブースターを手にした。「お、これは「ブライトン・ロック」の感じ」「こいつは「うつろな日曜日」のソロにドンズバ」と、ゲルマニウムを中心に攻めに攻めた。結果、ピッキングやフィンガリングといった重要な極意は残されるものの、ブライアンを思わせるトーンの基本は、トレブルブースターとコインで即席的に出来上がることがよく分かった。もっと言ってしまえば、ギザギザしているコインのエッジは倍音のコントロールを担い、トレブルブースターは艶と明るさを生む。そこに粘っこいフレージングが加われば、ブライアンの香りがやってくる。ハーモニクス大盛りのあの音だ。


▲トレブルブースターというのは、こんな感じの機材。ビンテージから大手メーカーもの、ガレージ系からマニアのハンドメイドまで、あらゆるブースターを試しまくった。

最終的に、究極レスペ・レプリカ+ビンテージAC-30+トレブルブースターで魔法のようなクイーンサウンドに到達したが、そのままギターをレスポールに替えてみると、単にもっといい音がしたという笑える話も経験済だ。というか、そりゃそうだ。そもそもAC-30にトレブルブースターを突っ込んで輝かしきロックサウンドを生み出すというのは、1970年代ギタリストの定石だったんだもの。クラプトンだってリッチー・ブラックモアだってトニー・アイオミだって、そうやってローをカットしながらミッド~ハイをブーストしてAC-30をギャンギャン泣かせてレコーディングしていたんだし、そもそもブライアン・メイは、ロリー・ギャラガーのセッティングとサウンドにいたく感銘を受けてこうなったんだから。

ブライアン・メイの生音は想像以上に荒く、ブーミーなニュアンスが意外なほど乗っているという事実は、アルバムからは分からないけれど、マニア間ではよく話題に出る初期アルバムのラフミックスなどを聴けば、粗く暴れたトーンが確認できる。彼のエクササイズ映像などを観ても、そのあたりの生々しさがよく分かる。そんな映像も今ではネットで簡単に観れるので、いやーいい時代になった。つーか、着ているトレーナーに目が行ってサウンドに集中できないんですけど。


ということで、ブライアンに向けて熱暴走したのも良き思い出。遠い目をしながら今はハンナリとSTAR'SのBM-1を愛でている。忠実度は劣るものの、バランバランと鳴るカワイイ一本。もちろん今でも、6ペンスコインは常に財布の中に忍ばせている。いつでも「Keep Yourself Alive」のイントロを再現できるように、ね。



▲ブライアン・メイはピックの代わりにコインを使うのです。これは有名な6ペンスコイン。今は全く流通していない古ーい硬貨です。

文◎烏丸哲也(BARKS / JMN統括編集長)

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