【コラム】コロナ禍のライブ配信や取材方法に新展開 〜BARKS編集部の「おうち時間」Vol.046
東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏1都3県と北海道では緊急事態宣言が継続しているものの、感染拡大は落ちつきをみせているとの政府判断により、感染状況を改めて評価したうえで、可能であれば5月31日の期限を待たずして残る5都道県についても宣言を解除する方針が明らかにされている。
◆「おうち時間」動画 / 画像
特別措置法に基づく緊急事態宣言を全都道府県に拡大したのは4月16日のこと。宣言以降は、無観客ライブ配信や、複数人数が同じ場所で出演するようなトーク生配信番組の開催延期発表が相次ぐなど、音楽業界全体がさらに慎重な方向へ動き始めたことは、以前のコラムで触れたとおりだ。
しかし、不要不急の外出自粛や密閉 / 密集 / 密接といった3密状態を避けながら、アーティストは“#うたつなぎ”や“ソロつなぎ”をはじめ、SNSやYouTube等を利用したライブ配信で、音楽表現を止めることなく、今も勇気と希望を与え続けてくれる。そして、緊急事態宣言の発出から1ヵ月以上が過ぎた。冒頭に記したように、感染者数や重症者数の減少による宣言解除への動きを見据えたアクションでもあるだろう、また、配信に対する意識の変化がこの1ヶ月の間に生まれ、新たなライブ表現に対するアイデアが培われたという事実もあるかもしれない、ライブ配信実施のニュースがBARKS上に増えていると同時に、その配信方法が日々進化している。
BARKSは本日、COUNTRY YARDのライブレポートを公開した。<WAKEFiELD SESSIONS>と名付けられたライブはレコーディングスタジオで行われたものであり、“密”を避けるために各パートが一人ずつスタジオに入り、ライブさながらの一発録りを各々が実施して、各セッションをミックス。最後のパートであるSit(Vo, Ba)のみスタジオにて生配信を行うという、画期的にして実験的なライブ配信となった。
また、wyseが明日5月23日、<Thousands of RAYS ZERO>と題した無観客ライブの無料生中継を実施する。これは、新型コロナの影響で中止となったレコ発ツアーの新展開となるもの。もちろん、ライブに関わるメンバーおよびスタッフは事前検温をはじめとする体調チェックが行われ、“密”に充分配慮した環境で開催されるとのこと。いわゆる数台の固定カメラによる映像だけではなく、最少人数のカメラスタッフと固定カメラを駆使し、リアルなライブ生中継を目指すとのことなので、ステージの熱量や躍動感が伝わるハイクオリティなものになるはずだ。同配信は、5月31日にその第二弾が行われることも決定している。
清春は5月27日および28日の2日間にわたり、<『THE TEST』Live & Recording In Studio>と題したスタジオライヴレコーディングを配信する。これは、デビューからの26年間、単独ライヴやツアーにこだわってきた清春が、未来を見据えた新たな実演手段のひとつとして実施するもの。当日はウェブチケット購入者のみが閲覧できる形で、120分のスタジオライヴを配信するという。後日、演奏された音源のダウンロードも可能だ。
このほか、ACIDMANが7月11日にライブ配信イベント<『灰色の街』リリース記念 プレミアムワンマンライブ“THE STREAM”>の実施を発表、MIYAVIが自宅スタジオから計5公演のバーチャルライブ<“Holy Nights” Virtual Tour 2020>を6月11日まで実施中、Angeloが6月7日にリハーサルスタジオからのアコースティックライヴ<Angelo -Acoustic Live Streaming「NEOPHASE」->を生配信、Base Ball Bearが8週にわたって仮想ライブ企画<LIVE IN LIVE~IN YOUR HOME~>を展開中など、その手法はさまざま。
しかも、ここに挙げたライブ配信は一例であり、そのほとんどがこの一週間以内に発表されたものばかり。もとより実験精神と探求心に溢れているのがアーティストの本質でもあるわけで、音源制作とも生のステージともまた異なる“ライブ配信”に、新たな可能性を見出す動きは今後ますます活発化していくのかもしれない。
そして、BARKSでは日々インタビュー記事を公開しているが、4月中旬以降から現在まで、実施したインタビュー取材のほとんどすべてがオンラインによるものとなった。オンライン取材始動当初は、接続に手間取るなんてことはもちろん、自分が発する声量の度合いがいかなるものかすら分からず、さらには取材中も「今の発言、音声が乱れて聞き取れなかったので、もう一度…」などと会話の流れに水を差す場面がしばしば。対面取材で生まれる空気感は、当然ながら同じ空間にいて初めて生まれるものだと改めて実感している。
しかし、アーティストの自宅やプライベートスタジオとつながることの多いオンライン取材現場は、ある意味ではアーティストにとって居心地のいい場所から発信されるトークであるため、リラックスモードの言葉が飛び出すこともあって興味深い。加えて、傍らに置いてあるギターを手に取って、フレーズを解説してくれるアーティストもいてありがたい限りだ。お互いにまだこなれていない取材環境であるが、「この先のインタビューは全部オンラインがいい」と感想を語ったアーティストもいるほど。地元在住型のアーティストも少なくない現在、コロナ禍以降もオンライン取材はますます採り入れられることになるかもしれない。
新たな環境に順応する。そこから得られる成長も絶対的にあるだろう。しかし、音楽ファンは感動で胸が熱くなる言葉やメロディの数々が、生のライブ会場にあることを知っている。そのかけがいのない一瞬一瞬から膨大な活力が得られることも知っている。今しかない瞬間が、間違いなくその場所にはある。オンラインの利点を活かしたライブ配信の可能性に刺激を受けて満たされながら、生ライブの記憶に身を焦がして再びライブハウスに戻れる日、その両方を楽しみにしたい。
構成・文◎梶原靖夫 (BARKS)
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