【コラム】現代人の多くが抱える、騒音性難聴へのリスクと回避法

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いま世界規模で騒音性難聴に関する取り組みが加速している。騒音性難聴がやっかいなのは「自覚症状がなく、なんかおかしいなと気付いたときにはもう手遅れ」な点にある。「失った聴力は二度と元に戻らない」という深刻な現実も、なかなか周知されていない(※文末参照:騒音性難聴のメカニズム)。

現在「12~35歳のほぼ50%に及ぶ11億人の若者に聴覚障害のリスクがある」と言われる中で、世界保健機関(WHO)で対策への議論がスタートし、2019年2月にはSafe Listening Device and Systems(ITU-TH.870)によって、「1週間で安全とされるサウンド許容量は、大人でも80dbで40時間まで」と安全基準が発表された。大音量のコンサート後には、約75%のティーンエージャーが何かしらの耳の不調を感じ、その内の25%が一日以上続く耳鳴りを経験しているというデータもある。

もちろん、スマホで音楽を楽しむ際は、意識的にボリュームを落とすことでリスクを軽減することができる。遮音性の高いイヤホンやノイズキャンセラー搭載のヘッドホンなどで静寂さを確保すれば、かなり小さな音量でも十分に音楽を楽しむことができるものだ。とはいえ、昨今のフェスブームやライブイベント、身近になったクラブ遊びなど爆音に触れる機会も少なくない。バンドマンであれば、練習スタジオやステージ、レコーディングでも常時爆音にさらされる。私もバンド活動時、ドラムが右にいたことで右耳だけ高域が聞こえにくくなったけれど、上手(かみて)立ち位置のギタリストがドラムのシンバルによって右耳だけ高周波難聴に陥るのは、よくきくバンドあるあるだ。

耳が命のミュージシャンや現場スタッフ、熱烈な音楽ファンにとって、難聴や聴覚障害は深刻な問題であり、イヤープロテクター…いわゆる耳栓の使用は待ったなしの状況にある。耳栓というと「単に遮音するだけ」「音楽を楽しむ行為とは真逆」と思われがちだが、いまでは耳を守りながら音楽を存分に楽しむために設計された優れた商品が現れている。もはや“耳栓”ではなく、音量を抑える“サウンド・アッテネーター”と呼ぶべきアイテムだ。2019年10月に発売となったLOOPも、音楽を楽しむための画期的な構造を持った耳栓で、目標金額に対し723%のクラウンドファンディング支援をもって誕生し、3,880円(税込)という安価で最高の機能を発揮するイヤープラグとして登場した。


▲LOOP

LOOPの何がどう画期的なのか。それは音量抑制とともに起こる音質変化(音のこもり)を、外耳道の物理構造の模倣によって解決した点にある。

人間の耳は外耳道と呼ばれる25mm~30mmの細長い穴を経て鼓膜につながっているが、片側だけが空いた筒形状のため、開管共振という気柱共鳴を起こしてしまう。ビンを吹いて音を出すあれのことで、固有周波数でピーク(高レベル)とディップ(低レベル)が発生する物理現象だ。しかしながら、どうやら脳は意識下で補正をかけ、その分は差し引いて感知しているとみえる。日常生活において、おおよそ3kHzや9kHzに大きなピークが発生している事実なんて知る由もない。

そんな耳だが、耳栓で穴を塞ぐと、開管共振から閉管共振へと物理特性が一変してしまう。つまり共鳴の特定周波数が大きくずれるため、これまで人知れず補正していた開管共振のピークとディップが突如なくなり、代わりに閉管共振による違う周波数帯域でピークとディップが現れることになる。おそらく脳は「え?え?」と混乱を来していることだろう。

LOOPは、遮音性の高いイヤーチップを用いて静寂性を担保した状態で開口部から外音を取り込んでいるが、外耳道に流す前に外耳道を模倣した中空チャンネルを経由させている。つまり本来の開管共振と同じピーク&ディップを発生させてから、鼓膜ヘ音を届けているわけだ。これが本来のトーンと変わらぬサウンドを認知させる基本メカニズムである。閉管共振によって発生する新たなピーク&ディップが気になるところだけれど、外耳内で響いているのは20dbの遮音がかかった小音量のため、そこから発生する閉管共振は極小となり、すべてマスキングされてしまうことだろう。


LOOPが筒状の構造を持っているのは必然というわけだが、3Dプリンティング技術をもって可能な限りコンパクトに整形することで、すべての耳にフィットするようなデザインとなり、まるでピアスのようなコンパクトさとファッション性を持ち合わせたアイテムとなった。耳から飛び出さないデザインなので、睡眠時にも問題なく使用できる点もいい。

LOOPを手に入れ様々なシーンで使用してみると、軽い付け心地としっかりとした遮音性能ながら、聞こえてくる音そのものはとてもクリアで、淀みがないナチュラルなトーンであることが実感できる。付けていることすら忘れてしまうのは「装着感の良さ」もさることながら「音質の自然さ」によるところが大きい。ここが一般的な耳栓との決定的な違いだ。


完全遮音ではないからこそ、音楽や会話は違和感なく楽しめ生活アラートなども聞き逃すことがない。ライブ会場のみならず、エンジン音や電動工具などの作業音、パチンコホールやカラオケ、映画館などでもいつもと違う安心の抑音環境が手に入り、これを経験するともう以前には戻れないし、戻りたくもない。空の旅や電車移動でもノイズから解放されると、とても安らかな環境が生まれるし、集中力を高めたいときにこそ静寂は正義だ。

たかが耳栓なのだけど、これひとつで得られる静寂性や安心感によって、生活レベルが1ランクアップしたかのような上質な日常が手に入る。「静音環境」は慌ただしい現代人にとって「最高の贅沢品」とも言えそうだ。

文:BARKS編集長 烏丸哲也


●LOOP
3,880円(税込)発売中
・コンサート、イベント、スポーツ、旅行やミュージシャンのために設計された聴覚保護用イヤープラグ
・サイズ:直径1.5㎝
・重量:2g
・素材:ABS樹脂
・付属品:ポーチ、ユーザーガイド、6組のイヤーチップ(低反発フォーム:サイズS、M、L、シリコンイヤーチップ:サイズS、M、L)
・カラーバリエーション:スウィンギングシルバー/レイビングレッド/ミッドナイトブラック/グロリアスゴールド/フラーティーローズゴールド

◆LOOP オフィシャルサイト

※騒音性難聴のメカニズム

蝸牛の中に長さの異なったたくさんの有毛細胞が並んで立っており、それぞれが各周波数を担当している。有毛細胞にとって大きな音は強い刺激で、刺激を与え続けると疲労ししおれるように倒れてしまう。若いうちは休むことで回復し再び立ち上がるが、それも程度問題で、倒れたまま復帰しないとその周波数音域帯だけが聞こえなくなる。これが騒音性難聴の発症プロセスである。

騒音性難聴は、音量のみならず負荷時間で危険性が変わる。さほど大きくなくてもさらされる時間が長ければ危険度は大きくなる。逆に120dBという大音量となると7分が限界だ。騒音性難聴は4KHzと6KHzからダメージを受ける事が多く、その後3KHzから2KHzへと聞こえない領域が広がっていく。騒音性難聴にかぎらず経年経過による老人性難聴の場合も、いっぺんに全域の有毛細胞がダメになるものではないため、特定周波数が聞こえなくなっている事実に気付きにくいという特徴がある。「何か聞こえにくくなったな…」と自覚が出るころには、多大なダメージが蔓延した「時すでに遅し」状態となっている。

また、「耳へのケアの難しさ」もある。真っ暗でも時間が経つと「眼が慣れてきて」周りがぼんやりと見えてくるのは、脳の働きによって視覚のダイナミックレンジが変更される暗順応だが、音でも同様の現象として「大きな音がそのうち大きいと感じなくなる」現象が起きてしまう。その状態だと音楽に迫力が感じられず、もっと音量を上げるというスパイラルに入り、いつしか「聴覚細胞を傷つけてしまうほどの大音量にさらされていることに気付かない」状況になる。コンサートでも後半につれて音量がどんどんと上がっていっているが、多くの観客はそれに気づいていない。

この問題の解決策はシンプルで「耳を休ませる」だけでいい。音楽を止め、10分でいいから休憩を取る。耳の感度をリセットし、遮音性の高いイヤホン/ヘッドホンを用意すれば、とても小さな音量で、音楽の持つ豊潤な情報量を受け取ることができる。聴覚の感度を上げ自らのダイナミックレンジが大きく広がれば、小さな音量でも存分に音楽を堪能することができるので、日常においても大きな音量から耳を守ることを意識することこそ、最も有効な防衛手段となる。
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