【ライブレポート】ブギ連、ソロの長さも歌いだすタイミングも、その場の空気で変わっていく

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憂歌団の内田勘太郎(Vo、G)、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロト(Vo、Harp)の2人からなるブギ連は、ブルースの巨人、ジョン・リー・フッカーの名曲「ブギ・チレン」から名前を付けことからもわかるように、ミシシッピ・ブルースを土台にしたオリジナルのブルースやブギを持ち味とするデュオだ。彼らはアルバム『ブギ連』を6月26日にリリースし、7月4日にブギ連LIVE<ブギる心>をスタートさせた。東京公演は東京キネマ倶楽部で9月27日・28日の2日間に渡って行われたが、ここでは初日の27日のライブをレポートしよう。


オープニングSEが流れ出すと、内田勘太郎は颯爽と、甲本ヒロトは這いずりながらステージに登場。会場は割れんばかりの大きな拍手に包まれる。中央の椅子に2人が掛け、「ドゥー・ザ・ブギー」でスタート。勘太郎がアコースティックギターで豪快にリフを奏で、ヒロトがハーモニカでシャープに切り込み、今回のライブ“ブギる心”のテーマといえる歌詞を叫ぶ。

続く「あさってベイビイ」では、勘太郎がスライドギターのソロをふんだんに取り入れ、怒涛の勢いで圧倒する。そして、この2曲目で早くもギターの弦が切れるというアクシデントが発生。にもかかわらず、何事もなかったかのようにプレイし続ける勘太郎のクールな佇まいは、さすがの風格だ。

「今を去ること6年前、横浜のとあるお店で甲本さんを誘って、そのとき最初に2人で合わせた曲です」──内田勘太郎

紹介されたのは「ひたすらハイウェイ」。エリック・クラプトンでおなじみの「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」をベースにしていると思われるナンバーで、軽快な中にも哀愁をにじませる演奏と歌を聴かせる。「誰かが見てる」でも勘太郎は縦横無尽にギターのフレーズを奏で、ヒロトのハーモニカがそれに応えてはじける。さらに、あえて低く抑えた歌い方をする2人がどこかユーモラスに響く。



一転、深みのあるコードをつま弾きながら始まったのは「バットマン・ブルース」。ヒロトがマイナーの寂しげなメロディを歌い、勘太郎のギターがそのメロディに呼応してフレーズを紡いでいく。そして、スローブルース「闇に無」でヒロトが力強くエモーショナルに歌い上げると、勘太郎のスライドギターがさらに激しく吠えて応える。特にこの曲での、感情がほとばしるように長いフレーズを弾く勘太郎のギターは強烈。曲のサイズをオーバーし、ワイルドにスライドバーをネックに叩きつけるように弾くその姿には、衝動を抑えられない感情が渦巻いているようで、胸を熱くさせてくれた。

その勘太郎がハードなリフを弾きながら、「グッバイ クロスロード」で渋い歌声を聴かせる。間奏にはヒロトのハーモニカソロ、そこに競い合うように勘太郎のスライドギターが全力でぶつかってくる。

「このツアーのためにヒロトさんがインストゥルメンタル・ナンバーを作りました。ロックなヒロトさんですけど、本当はブルースが好きで、1920年代からのレコードのコレクターでもあって。ハーモニカ吹きでサニーボーイ・ウィリアムソンという人がいて、戦前と戦後でそれぞれ2人いるんですけど。もうひとつの分け方をすると、いい顔のサニーボーイ、悪い顔のサニーボーイ、その2人の特徴を吹き分けます。やるほうも大変ですけど、聴くほうも大変。わからないわけですから(笑)」──内田勘太郎



ヒロトのハーモニカを大々的にフィーチュアしたイントロで始まったのは「ロケット18」。勘太郎のMCどおり、1台のハーモニカだけでさまざまな音色と多彩な表情を生み出していく。最も口に近い楽器であるだけに、ハーモニカに託した肉声が目の前で響いているような、リアルなパフォーマンスが観客に迫ってきた。

「(今使っていたハーモニカの)Aというキーは戦後の怖い顔のサニーボーイが使っていて、戦前のかっこいいサニーボーイはもっと高い(キーの)ハーモニカを使っていて。だからどうしても2世(戦後)のほうの音に似てしまう…ということは、誰も気付かない(笑)」──甲本ヒロト

マニアックな成り立ちのインスト曲に続いて、アルバム『ブギ連』の中で最も繊細な曲「軽はずみの恋」をしっとりと届ける2人。切ない歌詞をかみしめるように歌うヒロト、ジャジーなコードを交えて滑らかなフレーズを弾く勘太郎。先ほどまでの激しい演奏とは異なる、音の隅々まで聴き取れるようなプレイが観客を魅了した。

ここからは後半の盛り上がりに突入。ヒロトのダーティーな歌い方がドス黒い迫力を生む「ナマズ気取り」。勘太郎の硬質な音のギターリフに始まり、間奏ではまさに暴れまくる蛇のようにソロを弾き続ける「ヘビが中まで」。さらに、シャウトするヒロトのボーカル、勘太郎のスライドギターがリミットを外して全力で押し寄せてくる「オイラ悶絶」で一気にピークを迎える。その熱量を下げないうちに「腹のほう」で、ドライヴ感あふれるスライドギターと荒ぶるボーカルがぶつかり合う。

ラストは彼らのテーマ曲「ブギ連」。勘太郎は昂る感情のすべてを爆発させるようにタフにギターを弾き、ヒロトの骨太でふてぶてしい歌声が会場を貫き、本編は終了した。

アンコールで登場した2人はスローブルース「おえりゃあせんのう」を披露。キツネに騙された話を、まるで日本昔話のような口調で、しかも岡山の方言で語っていくという斬新なナンバーだ。シュールな笑いと怖さが同居した不思議な雰囲気が会場を包んだ後は、「ラブ・ミー・テンダー」をカバー。ゆったりとした柔らかいメロディを訥々と歌うヒロトに寄り添うよう、勘太郎のギターも優しく響く。

そのテンポのまま始まったのは、ブルースに導き寄せられた男たちの運命を歌った「ブルースがなぜ」。エルモア・ジェイムス、マディ・ウォーターズといったブルースの偉人たちにリスペクトを捧げた内容が胸に刺さる。

「おうちに帰るまでがブギ連です。そして明日、自慢してください」──甲本ヒロト

この日のラストは、これまた岡山の方言の語りが入る「道がぢるいけえ気ィつけて行かれえ」。“道がぬかるんでいるから気をつけて行きなさい”という意味なのだが、この2人の手にかかると、ミシシッピの寂しい田舎道に立っている光景が浮かぶようだった。それほどまでにディープな音楽体験を聴き手に与える2人の凄みを改めて感じたライブだった。


キャリアも歩んできた道も異なる2人だが、ブルースへの惜しみない愛で結成されたブギ連は、即興性を重視したユニットだ。音源制作であってもライブであっても、その姿勢は変わらない。ソロの長さも、歌いだすタイミングも、その場の空気で変わっていく。今回のツアーを経たことで、その空気や一体感はさらに濃密なものとなったことだろう。もしあるのなら、次回作にも次回のライブにも期待したい。そう思わせてくれる、唯一無二のステージだった。

写真:柴田恵理
文:岡本明

ブギ連 LIVE「ブギる心」

2019年9月27日(金)
東京都 東京キネマ倶楽部

◆ブギ連オフィシャルサイト
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