フィリップ・ベイリー、現在のジャズに刺激を受け、もう一度ブラック・ミュージックへ
フィリップ・ベイリーといえば、やはり1980年代を代表するブラック・コンテンポラリーのイメージが強いだろう。フィル・コリンズとの「Easy Lover」が大ヒットし、ソロ作を立て続けにリリースした。一方、アース・ウインド&ファイアー(EW&F)でも次第にメインの役割を担うようになっていった。
そんなベイリーが2000年代に入って初めてリリースした『Soul on Jazz』は、そのタイトル通り、自身のルーツでもあるジャズに焦点をあてて、セロニアス・モンクやハービー・ハンコックのカヴァーも含め、ベイリー流の洗練されたソウルで解釈をしたアルバムだった。そして、ベイリーはこれ以後、ソロ作をリリースすることはなかった。現在のジャズの活性化とR&Bやヒップホップとの結び付きの強さを見ると、このアルバムは少し早すぎた作品だったのかもしれないと思う。
2019年、17年振りとなる新作『Love Will Find A Way』がリリースされる。バックはロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンらが固める。ベイリーは、グラスパーのコンサートに足を運び、その演奏に魅了され、若い観客がジャズを楽しむ光景に新鮮な驚きを覚えたという。それが新作のきっかけだった。いま勢いのあるジャズ・ミュージシャンたちに後押しされるように制作はスタートした。さらにチック・コリアやクリスチャン・マクブライド、リオーネル・ルエケからウィル・アイ・アムやビラルまでがベイリーの復活を支えた。
「EW&Fでレコーディングをしていた時を思い出すような流れが今回のプロジェクトにはあって、私がAチームだと思う最高のメンバーが揃ったんだ」とベイリーは言う。アルバムは、ケンドリック・スコットが叩くアフロビートが印象的なカーティス・メイフィールドの「Billy Jack」からスタートする。若きベイリーが多大な影響を受けたというアビー・リンカーンの「Long As You're Living」のカヴァーもいい。どの曲の演奏もアレンジもアイディアと多様性に富んでいる。そのことに刺激されるように、ベイリーのファルセット・ヴォイスも終始伸びやに響く。
EW&Fでモーリス・ホワイトが弾いていたカリンバ(親指ピアノ)も聞こえてくる。思えば、初期のEW&Fには時にラグタイムからフリー・ジャズまでの断片が登場することがあった。現在のジャズに刺激を受けながら、もう一度ブラック・ミュージックを広い視野から捉えたアルバムをベイリーは作り上げた。その意味は大きい。
文:原 雅明
フィリップ・ベイリー『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』
2019年7月3日発売
VERVE RECORDS【SHM-CD】UCCV-1177 ¥2,600(税抜価格+税)
1.ビリー・ジャック
2.ユーアー・エヴリシング
3.ウィーアー・ア・ウィナー feat.ビラル
4.ステアウェー・トゥ・ザ・スターズ(星へのきざはし)
5.ブルックリン・ブルース
6.ワンス・イン・ア・ライフタイム
7.別離のささやき
8.セイクリッド・サウンズ
9.ロング・アズ・ユーアー・リヴィング
10.ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイfeat.ケイシー・ベンジャミン
フィーチャリング・アーティスト
・ロバート・グラスパー
・カマシ・ワシントン
・チック・コリア
・クリスチャン・スコット
・ビラル
・クリスチャン・マクブライド
・スティーヴ・ガッド
・デリック・ホッジ
・ケンドリック・スコット
・リオーネル・ ルエケテディ・キャンベル
・ケニー・バロン
・ケイシー・べンジャミン
・ウィル・アイ・アム
◆フィリップ・ベイリー・オフィシャルサイト
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