【インタビュー】車の中は“絶好のオーディオルーム”だった
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CDからダウンロードの時代を経て、サブスクリプションやYouTubeといったネットワークを介する聴き放題サービスが主流となり、音楽流通は大きな変化と進化を遂げている。スマホ1台でいつでもどこでもいくらでも音楽と接触でき、自宅においてもスマホを手元に持つ状況は、音楽の再生ツールも一変させた。イヤホン/ヘッドホンがあればそれでよく、部屋で音楽を流したければbluetoothスピーカーがひとつあればいい。
自宅へオーディオ機器をセットアップし、高品質な音質で音楽を楽しむという好事家はすっかりマイノリティとなり、音楽のファストファッション化はそのまま定着してしまいそうな状況だ。エンターテイメントだとしてもアート作品だとしても、音楽を存分に堪能するには、音楽そのものが持っている瑞々しい情報をすべからく引き出してしっかりと再生させる必要がある。音楽文化の成熟に優れた再生環境が欠かせないのは、昔も今も変わらぬものだ。
そんな状況下、車の中で音楽を聴くには、Honda純正カーナビゲーション&オーディオGathers(ギャザズ)のサウンドが優れており、心地よい音楽体験が得られることを知った。Honda車の車種ごとに専用音響チューニングを施した「tuned by DIATONE SOUND」を搭載したカーナビゲーションとハイグレードスピーカーシステムの組み合わせで音楽を聴くと、車の中とは思えないクリアで定位のはっきりした高品質な音が、自分の身体を包み込んでくれる。
「ドライブしながら音楽を聴く」という既存の価値観を飛び越え、まるで「オーディオルームが移動する」かのパラダイムシフトは、いかにして実現されたのか。Gathers開発に携わるHonda車の純正アクセサリーを企画・販売するホンダアクセスの古賀・後藤両氏にコンタクト、話を聞いた。
▲左:後藤望氏、右:古賀勇貴氏。
──音がいいことにびっくりしました。このサウンドはいつ頃から世に出回っていたんですか?
古賀:スタートは2014年からです。まず「どういった音を作るか」を色々議論した中で、今の結果に至っています。
──作ろうとした音は、どういうものですか?
古賀:一概に「良い音」「良い音を作ろう」と開発しても、「じゃあ良い音ってなんなんだ」っていうところがありますよね。私たちは自動車メーカーですから「車の中に乗って一番気持ちよく聴ける音」という点を重要視しました。「家や視聴室で、難しい顔をして良い音を聴くんだ」というスタンスではなく、車を運転しながら「いい音、楽しい音ってなんだろう」「車の運転が楽しくなるような音とは?」…と議論しまして。
──茫洋としたテーマで難しいですね。答えがどこにあるかわからない。
古賀:今の皆さんはイヤホン/ヘッドホンで聴き、あとはパソコンだったりBluetoothのスピーカーといった環境が多いので、まずはそういった機器で「足りないところ」を補い、スピーカーならではの良いところを伸ばす音作りをすることになりました。低音などは、どうしてもイヤホンやヘッドホンでは担えない部分ですから、まずそこをベースに音の基本をしっかりと作り、その上で自分たちのプラスアルファを積み上げていくやり方です。
──ピュアオーディオは枯れた技術ですが、車の中の音響作りというのは、どういう世界なんですか?
古賀:まず、ホームオーディオと最も違うのは「スピーカーの目の前に座れない」というところなんです。どうしてもスピーカーの横とかに座ることになる。
──なるほど、確かにそうですね。それは大きな制約だ。
古賀:さらに、いろんな障害物が多いんです。ハンドルだったり、座ってるシートの周りにもいろんな凹凸があったり、窓ガラスも音を複雑に反射させますので、そういったところをいかにコントロールするかが、ピュアオーディオとカーオーディオの決定的な違いかと思います。
──吸音するシートと反射するガラスが混在している環境だなんて、考えただけでもゾッとしますね。
古賀:カーペットも音を吸収してしまいますので、そのぶん低い音はホームオーディオの味付けよりもさらに増した形でチューニングをしています。
──走行ノイズもありますし、車内空間の大きさも音を左右しそうですね。
古賀:車内の反射が一番大きく影響します。低音、高音…それぞれいろんな反射が起きてしまうので、そこを突き詰めていくと、細かい反射をどう抑えていくかに苦労するんです。
──最終的な判断は自分の耳ですか?それとも機械で数値を測ったり?
古賀:機械でも当然測っていますけど、機械3割/人の耳7割ぐらいでしょうか。はじめは機械で測定するんですけれども、あとはずっと自分たちの耳になります。ですので、基準となる「視聴CD」を最初に決めました。
──音を確かめるためのリファレンス音源ですね。
古賀:まずはこの曲と決めて、それを基に「ここが足りてる/足りてない」と理想に向かって進んでいくやり方ですね。さまざまな曲を10曲ほど設定していまして、用途によって「この曲はこの部分を聴こう、この曲はここの部分を」と使い分けて、トータル的にバランスが良くなるようにしています。逆にその曲がないとチューニングできないですね。
──ゴールのない旅路にも思えるのですが、「これでよし」という最終ジャッジはどう下すのですか?
後藤:ゴールはないのかも知れないです。でも私自身、チューニングをすることで「音が目の前から聴こえてくる」ということを知って、より興味も湧いてきて「もっと楽しくするにはどうするんだ」と思ってきたんですね。そういう魅力を買っていただける方に伝えられればいいかな、と思っています。
──「DIATONE SOUND」にはON/OFFがありますよね?OFFにすると、いわゆる普通のカーオーディオのサウンドでしたが、ONにすることでGathersサウンドが飛び出してくる。その差は歴然ですからOFFにする人なんかいないと思うのですが。
古賀:確かにそうなんです(笑)。そこは我々も最初に議論になりまして「常にONでいいじゃないか。OFFボタンなんていらないだろう」と。ですが「機能をONにする」という「自らがスタートさせる行為/きっかけ」があったほうが、買っていただいたお客様にとってより喜びと感動が増えるんじゃないかと思い、ON/OFFを持たせました。
──確かに、ONにするという体験がその価値をよりリアルなものにするかもしれない。トリガーを自分で引くという行為は決して無駄ではないんですね。
後藤:自己満足とか自慢したいとき、「こんな違うんだぞ」ということがわかりますし(笑)。
──品質向上には、「いいところを伸ばす」ことと「ダメなところを引き上げる」というふたつのアプローチがあると思いますが、カーオーディオの場合はどうなのでしょう。
古賀:車種にもよりますが、スピーカーが取り付く場所っていうのは決まっていますので、イコライザーとタイムアライメントを調整しながら行なっていきます。あーだこーだ、ここがこーだ、良い悪いと言いながら(笑)。
──タイムアライメントって何ですか?
古賀:例えば左右のスピーカーの真ん中に座れば、ステレオ効果も得られる一番良い状態なんですけど、車のように片側に寄ってしまうと、左右のスピーカーの距離が違ってしまうので、音の到達時間にギャップが生じるんです。なので左右同時に鳴らすのではなく、近い距離のスピーカーからのタイミングを遅らせて、仮想的に真ん中に座っているように音を聴かせるような機能ですね。
──ほお。
古賀:それで自分の目の前に定位がきます。ただ、その場所以外では音がずれてしまうわけですから、「どの席に座っても同じようにちゃんと聴こえるように」ということで、デフォルトではフロントの真ん中という位置付けでチューニングをしています。もちろん場所の設定は調整可能なので、好きな場所に移動していただければ。
──細やかなチューニングの積み重ねによって、ようやくあの音ができているというわけですね。
▲バランス・フェーダー設定画面。前後左右のスピーカーの音量バランスを設定できる。
▲ポジション設定画面。ポジション位置に、最適なタイムアライメント調整ができる。
後藤:単に音の質が上がるとそれだけ皆さん喜んでもらえますから、自分の場合でも、家族みんなであの音を楽しんでいまして、それでいいのだろうと思っています。子供もYouTubeでミュージックビデオとかを見たりしていますけど、それも音がまるで違うと喜んでいますから、それだけでドライブすること・車に乗ることが楽しいわけで。
──車の中って、音楽がひときわ楽しいですもんね。実は絶好のリスニング環境なんだとも思います。
後藤:子供も、後ろのモニターでアニメを見ることから、最近は音楽を聴く方向に変わってきています。そういうところでも感情豊かになればいいなと思いますよね。
──逆にまだ抱えている問題や課題はありますか?
古賀:リア席だとフロント席よりもちょっと音が遠くなってしまうところですね。車の特性上しょうがないところはあるんですけれど、もっと改善していきたいと思います。基本的な質もさらにあげていきたいとも思いますし。
──まだ品質向上の余地はあると考えているんですか?
古賀:あると思います。チューニングのやり方と基本性能の向上によって。ただ、それによって価格が上がってしまうのはいいことではありませんので、あくまでも値段はキープした状態で、もっとより良いものを作っていきたいんです。技術の進化によってもっと良いものが作れることができるようになりますから。
──「DIATONE SOUND」を搭載したナビゲーションシステムは、車種ごとにチューニングをしていったわけですよね?
古賀:ひとつずつやりました。楽しいですよ。音が変わっていきますから。
──車種によって、音響特性が良い/悪いもありそうですね。
古賀:例えばシビック TYPE Rやオデッセイのような、ボディ剛性が高くて骨格がガシッとしている車は、どんな低い低域をたくさん出しても、車が負けずにちゃんと耐えて音を出してくれるんです。ミニバンのような車体自体がとても大きい場合は、音作りにも苦労します。室内の形が四角に近くなってくると反射が起きて、いろんなところに増幅された音が出てきやすくなるんです。真四角な車っていうのはやりづらいですよ。
──オーディオルームが真四角だから、むしろやりやすいのかと思った。
古賀:オーディオルームの場合は、不要な反射が起きないように吸音材なりの工夫があると思いますが、車の場合は全面窓ガラスなので(笑)。
──それにしてもイヤホン・ヘッドホンではなく、身体全体で音楽を堪能できる環境というのは最高ですね。
古賀:確かに車内は、身体で音を感じる唯一の場所と思っていますので、チューニングしているときにも、身体で感じられる音かどうかも評価しているんです。フェスやライブは昔から変わらず盛り上がっていますから、身体で聴ける環境を車の中でも作りたいんです。フェスの帰りに車で聴いていても、その音楽を身体で感じて感動できるように。時代の流れとしてハイレゾの存在もありますので、私たちがどういった解釈をしてどのように商品に落とし込むかも、今いろいろ検討してます。
──これからも楽しみですね。ありがとうございました。
◆Gathersオフィシャルサイト
◆Honda車専用音響チューニング「tuned by DIATONE SOUND」
◆Honda MUSIC GARAGE内ドッキリ企画ページ(限定公開中)
◆Honda MUSIC GARAGE「耳からウロコが落ちる!?イヤホンを変えるだけで、音はグンとよくなる!」
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