【インタビュー】ミラスが聴かせる、世にも稀なエスニック・メタル

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チュニジアのメタル・バンド、ミラスが5枚目のニュー・アルバム『シェヒーリ』をリリースした。メロディックでプログレッシヴ、そしてエスニックな作品だ。

イスラム圏という環境で活動を続けているミラスだが、日本盤ボーナストラックには「モンスター・イン・マイ・クローゼット」の日本語ヴァージョンが収録されている。ここでは、ヴォーカリストのザヘル・ゾルガティとプロデューサーのケヴィン・コドフェールをキャッチ、話を聞いてみた。



──新作『シェヒーリ』は、どんな作品になりましたか?

ケヴィン:前作『レガシー』(2016年)では、最近のバンドが多くやっているようなやり方…つまりSkypeなんかを使ってメンバーがそれぞれ曲を覚えて、というような方法だったんだけど、今回はまったく違う方法を試したんだよ。メンバー全員で集まって、リフではなくて曲を書いたんだ。ギター一本だけを使って、それに歌のメロディをつけていったんだ。ギターと歌だけだと、とてもエモーショナルな曲ができるからね。つまり、メタルを書こうとしたのではなく、まずは曲を作り、そこからアレンジでメタルにしたのさ。

ザヘル:ミラスは常にいつも自然と湧き上がってくる音楽を書き留めていた。他の多くのバンドのように機械的に書くのではなく、いつでも心から湧き上がるものを大切にしているんだ。心から湧いた曲というのは、聴けばわかるものだよ。そこにはエモーショナルなものがあるから。ミラスは感情の産物だと言うことができる。特に、今回のアルバムは感情にあふれているし、どの曲もギターやピアノだけを使ってヴォーカルのラインを作ったものだからね。それを元に、メタルらしいリフを作り、さらにチュニジアの民族音楽や古い音楽のスタイルも加えていったんだ。

──歌詞の内容はどのようなものですか?


ケヴィン:もともとアルバムのタイトルは『Dance of Death』になる予定で、音楽と歌詞の間につながりが感じられると思う。音楽はとてもグルーヴィーだろ?決してコンセプト・アルバムではないのだけど、ISISに抵抗したシリアのダンサー(Ahmad Joudeh)の話に基づいて書かれている。首に"Dance or Die"というタトゥーを入れたダンサーで、実話に基づいているんだ。

ザヘル:このダンサーはISISに殺すと脅迫されていたんだよ。この話に大きなインスピレーションを受けてね。この問題について語りたいと思ったんだ。これはイギリスのガーディアン紙にも載ったエピソードで、とてもシリアスな話なんだ。

──一方、日本盤には日本語で歌われたボーナストラックが収録されていますね。

ザヘル:東京の友人に手伝ってもらったんだ。英語の詩を日本語に、とても詩的に訳してもらったんだよ。俺は日本の文化が大好きなんだ。だから、日本語で歌ってみたのも、日本の文化や日本のファンへの敬意からなんだよ。日本へのリスペクトを示したくてね。

──日本のどのような文化が好きですか?

ザヘル:全部だよ。若いころは『七人の侍』のような映画のファンだったし、アニメや漫画も大好きさ。昔の日本の生活様式なんかも好きなんだ。京都が都だったころのね。富士山のようなモニュメント、有名な大きなお寺などにもとても魅かれるし非常に興味深い。それから外国人に対する日本人の接し方も素晴らしいし、仕事に対する献身的態度、お互いへのリスペクトなどは、俺にとってはまるで別の惑星でのことのようさ。だから、日本に行くのは長年の夢だったんだ。すでに2度もその夢が叶ったけれど。

──「マルサール」で聴かれる民族的歌唱は誰によるものですか?

ザヘル:Lotfi Bouchnakという有名な歌手に参加してもらったんだ。民族楽器では、まずヴァイオリン、それからルバーブという弦楽器も使った。中国の二胡は知ってる?あれに似た楽器なのだけど、とても暖かい音色なんだ。それからベンディールやダルブッカなどのパーカッション、とても古い東洋のリュートも使ったよ。それからクラリネット。普通のクラシックのクラリネットじゃなくて、トルコのクラリネットで「マルサール」でこれのソロが聴ける。これは新しい試みだと思う。メタルのアルバムでクラリネットが聴けるというのは、過去になかっただろうからね。

──チュニジアはイスラム教が主流の国ですが、ヘヴィメタル・バンド、あるいは長髪にしていることでトラブルになることはありますか?


ザヘル:サタニズムへのつながりを疑われたりすることはもちろんあるよ。だけど気にしていない。俺たちは戦い続けるだけだし、音楽をプレイして人生を楽しんで、若い人たちにもこういう音楽を伝えたいからね。

──では最後に日本のファンへのメッセージを。

ザヘル:日本のファンのみんなには感謝をしたい。初めてさいたまスーパーアリーナでプレイをしたときは、俺たちのことを知らなかったお客さんも多かったに違いないのに、素晴らしいサポートをしてくれた。日本は俺にとって特別な場所なんだ。新しいBlazing Desert Metal、ミラスの新時代を楽しみにしててくれ。

取材・文:川嶋未来
写真:Nidhal Marzouk


2019年4月26日日本先行発売
ミラス『シェヒーリ』
【通販50セット限定 直筆サインカード付CD】 WRDZZ-865 / ¥3,500+税
【CD】 GQCS-90706 / 4562387209118 / ¥2,500+税
※日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入
1.アスル(イントロ)
2.ボーン・トゥ・サヴァイヴ
3.ユーヴ・ロスト・ユアセルフ
4.ダンス
5.ウィキッド・ダイス
6.モンスター・イン・マイ・クローゼット
7.リリ・トゥウィル
8.ノー・ホールディング・バック
9.スターダスト
10.マルサール
11.ダークネス・アライズ
12.シェヒーリ
《日本盤限定ボーナストラック》
13.モンスター・イン・マイ・クローゼット(日本語ヴァージョン)

【メンバー】
ザヘル・ゾルガティ(ヴォーカル)
マレク・ベン・アルビア(ギター)
アニス・ジュイニ(ベース)
エリエス・ブシューシャ(キーボード)
モルガン・ベルテット(ドラムス)

◆ミラス『シェヒーリ』レーベルサイト
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