【インタビュー】「【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2」の攻略ポイントは?
4月5日、「【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2」公式サイトで、オフィシャル映像「<リミックス例>【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2」が公開となった。
ここには、当コンテストのお題となっているボーカル音源「超絶 咎 ボスBGM XFLAG SYMPHONY 2018 ver.」を提供したSHADOW OF LAFFANDORからのメッセージコメントと、そこから抜き出された矢内景子のボーカル音源を用いて制作されたクリエイターHΛLによるデモ作品が紹介されている。「用意されたボーカル音源を使用すること」という当コンテストのお題に沿って制作されたもので、制作ポイントもHΛL自身によって詳細が語られている。いずれも、参加クリエイターへエールを送りクリエイティビティを刺激するものだ。
オフィシャル映像「<リミックス例>【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2」
そんな動画の公開とともに、BARKSはHΛLとSHADOW OF LAFFANDORをスタジオでキャッチ、抜き出されたボーカルだけの音源をクリエイターはどう料理すればいいのか?料理される矢内景子はどのようなリミックス作品を期待しているのか?コンテスト参加のクリエイターに向けて、さらなる詳細とアドバイスを聞いた。
──第1回目となった「【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.1」は「武田真治のサックス&五十嵐公太のドラム」音源を使用することが唯一のルールでしたが、vol.2となる今回は矢内景子(SHADOW OF LAFFANDOR)が歌う「ボーカル音源」となっています。自分の歌が題材になるというのは、いかがですか?
矢内景子(SHADOW OF LAFFANDOR):いやなんか…、単にステムデータ(註:編集しやすくするためにひとつのトラックにまとめた音楽ファイル)で歌だけお聴かせするってないことなので、結構恥ずかしいです(笑)。
──パーツとして取り出して裸で聴かれる事自体、シンガー/プレイヤーにとって抵抗ありますよね。
矢内景子:そう、恥ずかしさはすごくあります。ただ、普段から機材や音を録ることに注力しているところではあるので、「こういう音で録るんだ」と専門的な目線で皆さんに聴いていただけるのは楽しみですし、そこから作られたアレンジにもとても興味があります。
▲SHADOW OF LAFFANDOR(矢内景子、近谷直之)
──お題となったボーカル・ステムデータはどういうものですか?
矢内景子:マイクとプリアンプ&コンプはきちっと選んで、がっちり機材で音を作ったものです。でも基本はそのまま一発録りのようなものですね。もちろんリバーブもかかっていない状態です。
──そんなボーカル音源を使いなさいというリミックスコンテストですが、実際に作業してみたHΛLさんはいかがでしたか?このお題は難しいでしょうか、それとも簡単なのでしょうか。
HΛL:実はですね、1990年代のことですけど、浜崎あゆみさんの仕事を始めたとき、浜崎あゆみさんのボーカルトラックだけが届きまして、「これをなんとかしてくれ」って言われたことがあるんです。
──え、まるで今回のリミックスコンテストと全く同じお題じゃないですか。
HΛL:決まっているのはテンポだけです。コード進行がある訳でもないしね。そういう経験もあるので、歌だけからリミックスを作っていく作業は意外と慣れているんです。ただCDに収録される「○○○remix ver.」のようなものを作ることが多かったので、仕事としては「いかに元と違うものにできるか」という方向性になります。
──そうですね、オリジナルと似たようなものを作っても仕方ない。
HΛL:DJの方がリミックスを作ると歌の一部しか使わなかったり、1ワードだけをつまんでリズムで聴かせるような作りが多いんですけど、「歌は必ず全部使う」ことが必須でしたから、リミックスとは言ってもやっていることはリアレンジに近いですよね。
──確かに。
▲梅崎章宏、HΛL、矢内景子
HΛL:ですから、近谷さんが作られた作品とは違う聴こえ方になるようなことを考えるわけですが、高い品質の素材がお題なので、変な話、素材自体をピュアな気持ちで見ますよ。どこの言葉を選べばいいのかと考えると、結局歌詞まで見ちゃいますよね。テーマの部分と歌い上げている部分というふたつの素材があるので、それらをどうするかがポイントですよね。
──審査員の耳を引くような作品を作るためのテクニックやアドバイス、ヒントはありませんか?
HΛL:ヒントと言えるかは分かりませんけど、今は分野というかジャンルもものすごく増えていますし、ダンスミュージックだけでもいろんな音楽があります。だからこそ逆にダンスミュージックにしようとかヒップホップにしようとかみたいな大きな括りではなく、ジャンルがどんどん違うかたちに変わっていってもいいかなって思います。発想としてはそのほうが逆に作りやすいんじゃないかな。
──でもそれは、引き出しをいっぱい持っている人だからこそ言える話かも(笑)。引き出しがひとつしかない人は、それ1本で行くしかないし。
矢内景子:そうですよね。
HΛL:でもネット上にはあらゆるサンプルが落ちていますし、ソフトシンセも安くていいものがたくさんある。というか、今ではアマチュアの人の方が僕らよりいい機材持ってますよね。
──ミュージシャンなんて大概が貧乏ですからね(笑)。
HΛL:昔はね、プロだからアマチュアが触れないようなものを…と楽器を買っていましたけど、今はアマチュアさんの方が本当に機材はいい。いい時代ですよ。でね、今は制作の時代ではなくセレクトの時代になっているんです。今の方たちって、僕らの時代よりセレクト能力にものすごい長けていると思うんです。
──HΛLさんから見て、そう感じますか?
HΛL:うん。我慢強いとも思います。ループだけ何時間もひたすら聞いていたりする。あれは僕にはできないなぁ(笑)。
──逆に昔のミュージシャンには、今の人には真似できない面がありそうですが。
HΛL:今の人たちはセレクトの能力に長けてるけど、我々は探すのがめんどくさいから「探すくらいだったら作っちゃえ」ってなるんですよ。
──リミックスコンテストも、自分の得意なポイントをいかに活かせるかが大切かもしれませんね。
HΛL:元曲がすごくシンプルにできているので、逆に料理しやすい気もします。元曲とは全く真逆の発想もいいですよね。
──HΛLさんのデモ音源は、ご子息のギタリスト梅崎章宏さんとの共作だそうですね。
梅崎章宏:まず音源を確認しまして、データとして作らないといけなかったので、メロディのコピーから始めて、あとはコードのコピー。あとはピアノのフレーズもある程度コピーし終わったところで「はい」って渡しまして。
──難しいコードが使われていますよね。
近谷直之:クラシカルなメロディなので難しいです。原曲が元々シンフォニックなものだったので、いわゆる歌ものっぽくはないんです。
HΛL:でね、僕は指1本でプレイできるようにしてるんですよ。結局、男の1コード。
近谷直之:1コードで行くって男気ですよね。押し切るのもなかなか勇気いりますから。
矢内景子:そう。
──なぜ1コードで?
HΛL:章宏が作ってくれたデータを聴いて「あー、コード難しいねぇ」「じゃあ、簡単にしよっか」って(笑)。
梅崎章宏:気づいたら頑張って取ったコードが無くなってました(笑)。
近谷直之:そのシンプルさがかっこいいなと思った。まさか1コードか…って。
HΛL:最大で指は2本しか使ってません(笑)。日本人ってすごく優秀で勤勉ですし、律儀で「こうしなきゃいけない」みたいなところがあったりするんです。僕も音楽の勉強も一応やってきてますけど、どうしても理論に惑わされているところを感じるんですよね。でも海外で仕事すると向こうの人は誰もちゃんと考えてないんですよ(笑)。「これ気持ちいいから、そうしよう」という程度なんです。
──メータが振り切れていても「気持ちよければOK」みたいなやつですね。
HΛL:そうそう、それでいいんです。
近谷直之:確かに、HΛLさんのデモはそんな感じがします。冒頭のブレイクビーツのめっちゃかっこいいとこはDマイナーだけど、サビの歌でCマイナーになるでしょう?
HΛL:そうね。
近谷直之:こんな発想なかった。歌ものでDマイナーからCマイナーに下がる転調なんてムリクリ感あるんですけど、それが新鮮で。普通そんな転調はありえませんから。
HΛL:普通はないですね(笑)。
近谷直之:だからめちゃめちゃ驚きました。
矢内景子:しかも、2パターンの歌のデータをどう使うかみんな悩むのに、HΛLさんは一緒にぶち込んじゃうんですよ。同じ時に鳴っているんです。自由さがあってすごいなあって思いました。同じときに鳴らすのって、2個しかない素材がもったいないっていう怖さもあるし、そもそもコード進行だって違うんですから。これを通せる勇気がすごい。
近谷直之:すごい攻めた作品で、こんな発想もあるんだって思いました。不協和音もカッコいいですから。
──参加者の出鼻をくじきそうな大胆でぶち抜けたデモ、というわけですね(笑)。
HΛL:あのギリギリの気持ち悪さが好きなんです。どうしようもなくなったらコードを変えるみたいな(笑)。
梅崎章宏:どうしようもないところも、そのまま突き通していますけどね(笑)。「ここは変える」って言ってたのに最終的に変わってない、みたいな。
──面白いですね。
近谷直之:普通だったら「歌の部分を盛り上げたい」って思いますけど、前半部分にぐわーっとアゲていってふわーって抜ける感じが新鮮。一聴したときはHΛLさんのサウンドだって思いましたけど、サビでリフが抜けるのが今のEDMっぽくてめちゃくちゃ面白いです。
矢内景子:歌が1コーラス~フルコーラス用意されているアレンジコンテストってよくあるんですが、今回はメロディも歌詞もあるのに、2小節くらいしかないでしょう?しかも2種類しかない素材がAメロとBメロみたいに繋がるのかって言ったらそういう訳でもない。そうなると、これをどう楽器と捉えるか、その楽器としてのボーカルをどういう立ち位置に置くかっていう話になってくるのかなと思うんです。ルールにとらわれず新しい発見を見せてくれたら、楽しいですよね。
──加工する人もいれば、そのまま自分でハモってくる人もいそうですね。HΛLさんは審査員でもありますが、どんな作品をHΛL賞に選出しますか?
HΛL:そうだな…やっぱりインパクトがあるものですよね。「おっ」と目を引くようなもの。あとは構成かな。起承転結というか、音楽ですからやっぱり流れが欲しいです。
近谷直之:僕もまずは構成が気になります。ものを作る時って、細かい意思決定をひとつひとつしていくでしょう?「これにするしない」って。ある程度はノリだとしても「これにしよう・してみよう」と重ねていったら、最終的に自分のやりたい色が出てくるのかなと思います。「こういうルーツが好きなんだろうな」ってのが最初の一音目から伝わるというか、1小節のフィルだけでもそのひとのセンスがわかるというか。細部も気にしつつ、時に大胆にやってみてもらうのがいいのかなって思います。
矢内景子:「楽器として使えばいい」とは言ったものの、ちゃんと歌詞があって世界観があって、モンスターストライクというゲームであり「咎」という楽曲の世界観に対する想いが英詞に込められているものなので、それに対してどういうアプローチをしてくるかが楽しみです。言葉を並び替えて新しい歌詞が生まれても素敵ですよね。
HΛL:やっぱり新しいクリエイターを見たいよね。新しいジャンルというか新しいクリエイター集団ができていけばいい。
近谷直之:そうですね、話をしたいですね。それこそvol.1では若い人が多かったですし。
──16歳ですごい作品を作り上げている人とかいましたよね。
近谷直之:Macにはガレージバンドも入ってますし、誰もがDTMができて参加しやすい時代になっているんだと感じます。既成概念にとらわれない新しい音楽が生まれるかもしれないですね。
──では応募作品の到着を楽しみにしていましょう。それらを酒の肴に盛り上がる…それが審査員の特権ですから(笑)。
HΛL:いいですね。楽しみにしております。
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也
「【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2」
応募期間:2019年3月25日12:00~5月13日11:59
選考期間:2019年5月13日12:00~6月25日11:59
受賞作品発表:2019年6月25日12:00
XFLAG SOUND CREATORS YouTube Channelにて発表予定
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