【インタビュー】井出靖「僕らならではの大人な楽しみ方を堪能してもらえたら」
音楽プロデューサーの井出靖が、自身のバンド・プロジェクト“THE MILLION IMAGE ORCHESTRA”を発足させた。名うての演奏家20人が集結したこのプロジェクトは、昨年9月に井出が長年続けているパーティ<HOME PARTY>で初お披露目され、会場に長蛇の列ができる盛況ぶりとなった。そして2回目のライブは、2月4日に代官山UNITにてワンマン型式で予定されているほか、ライブに先駆けて1月31日にはTHE MILLION IMAGE ORCHESTRA初の作品が7インチ・レコードとしてリリース、ライブ会場では井出がこのプロジェクトをイメージしたサントラ『MILLIONS OF IMAGES』の販売も予定されている。ここではTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAを発足させた経緯から、2月のライブに向けての意気込みまで、彼が運営するセレクト・ショップGrand Galleryにて話を聞いた。
■この曲をみんなでやろうというよりも
■僕が決め込んだものを表現していく
──昨年の1月に、これまでの井出さんの作品をコンパイルした『Endless Echo』をリリースされていましたよね?
井出靖(以下、井出):ええ、あの作品は曲順を変えて自分の過去の曲を聴いてみたら“これはなんか新しいぞ”と思って、最初は自社のレーベルから出そうと思っていたんです。が、ユニバーサル・ミュージックからリリースの話を頂いたので選曲を再度やり直して、マスタリングはHIDEO KOBAYASHI君にお願いして、より良い音になって生まれ変わった……それで、ジャケットの写真をどうしようかなと思っていたら、高橋恭司さんがたまたまGrand Galleryに遊びに来てくれて、“新しい写真見ないか?”と言われて。これまで僕の作品のジャケットにはいつも恭司さんの写真を使わせてもらっていたから、この作品は恭司さんの新しい写真を使って、“新作”として出すことにしたんです。かなり前に作った曲もあるし、聴いたことがないって人もいるだろうと思って。
──その『Endless Echo』を聴いてみると、すごく今っぽいというか、とても20年近く前に作られた感じがしなかったです。
井出:そうなんです。自分でも聴いてみて新鮮さを感じました。実はちょうど2〜3年前から僕が主催している<HOME PARTY>では、井出靖ユニットみたいな感じで自分のライブをちょこちょこやっていたんですが、そうこうするうちに、自分のプロジェクトをやろうと決心したのが、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAになりました。去年から一緒にやりたいと思った人と一緒に飲みにいったりして、徐々に声をかけていきました。人数は多いですが、バンドではなくてオーケストラなので、僕とコアとなるメンバーがいたら、あとはスケジュール次第で来られる人がいればいいかなっていう。
──オーケストラというコンセプトはどこからきたのですか?
井出:『LONESOME ECHO STRINGS/PURPLE NOON』が去年で発売20周年ということもあって、そのライブをストリングスがはいったオーケストラの編成でやりたいと思っていたんです。そのときに自分がDJブースに立っていて、演奏家の人々が座っていて、シーンごとに前に出て演奏するっていうイメージを持っていて。こちらもいずれ実現しようと思っていますが、音楽活動が忙しくなっているうちに、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAが先行してはじまったという感じですね。
──なるほど、井出さんのDJに演奏家が混ざっていくという。
井出:ええ、これは井出靖ユニットの延長線上にあるやり方でもあって、僕がトラックを作ってそれをプレイしながら、プレイヤーの演奏をかぶせるという。そのときから元晴君、巽朗君、AKIHIRO君、石井マサユキ君、外池(満広)君も参加してくれていて。ただ、その頃はリハーサルも1回しかやらなかったし、ライブのなかにフリーな要素がけっこうありました。ただ、昨年の2月にTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAをやろうと決めてからは、月に1回は集まれる人が集まって、MTGをしたりリハをしたりするようになりました。このプロジェクトに関してはこの曲をみんなでやろうというよりも、僕が決め込んだものを表現していく感じですね。
──具体的にはどのあたりまで決めこんでいるのですか?
井出:自分の曲をどうやって再構築するかということだから、この曲はこういうテーマで、どの楽器で演奏し、それによってこういった文章やストーリーを表現したいというところまで指示をしています。例えばスカフレイムスの「星に願おう」を演奏する場面なら、50sの甘い映画で出てくるメルズ・ドライブイン(注:アメリカン・ダイナーの店名)のような情景……でも、ちょっと怪しさも欲しいから『ツイン・ピークス』で出てくる酒場“バン・バン・バー”のみたいな雰囲気もある感じ、というように、台本を書くようなイメージですね。
──お披露目ライブは昨年9月にやられていますが、そのときはどんなことを表現しようと思っていましたか?
井出:ライブというよりもショウにしたいと思っていました。9月のライブを具体的に言うと、ステージの幕が開いたらDJブースに僕だけがいて、高橋恭司さんの映像に合わせて編集した「TWILIGHT ROCK」が流れて、そのなかに内田勘太郎さんが登場してボトルネックのギターを弾いて……途中で去っていく。それが終わったら今度はテクノのビートに合わせてタップダンサーが出てきたりと、いろんな仕掛けが縦横無尽に登場する内容でした。僕の作品はよく“サントラみたい”って言われるので、一本の映画を観るような感覚を意識しました。
それに加えて、亡くなった松永(孝義)さん(MUTE BEATベーシストとして活躍)の音や、や朝本(浩文)くんの曲もステージ上で鳴らして、あたかも一緒に演奏しているということもやりたかったんです。“自分達だけの旅”を表現するというか。実はこのプロジェクト、最初からメンバーは男だけにしようと思っていて、それは最初、何かしらの基準がないとメンバーがまとまらないっていうだけの理由だったんですが、今思えば、ロードムーヴィーで描かれるような男のロマンチズムもこのショウにはあったりもするから、この男性だけのメンバーでよかったなって思っています。
──そこまでしっかりと決め込んだショウをやるとなると、かなりリハーサルも大変だったのでは?
井出:お披露目ライブに向けてのリハは最初だったので、大変なところもありましたね。大人数のミュージシャンがいて、場面ごとに演奏者が切り替わってという……衣装も全員ヴィンテージのラルフローレンに統一したり、リハーサルを重ねるうちに、これはただのライブじゃないなと思うようになりました。
──お披露目のライブを終えてみての感想はどうでしたか?
井出:新鮮だったし、面白かったですね。お披露目のときは誰が観てくれるかも分からなかったので、イベント最初の時間帯にやったのですが、入りきらないくらい人がきてくれましたし。それと、参加してくれたミュージシャンたちがみんな面白がってくれたのもよかったです。例えばフリージャズっぽいダブでインプロっぽく聞こえるけど、ちゃんと尺は決まっていたりもするし。でも、ここはカッティングのギターとか、そういうリクエストはしていないです。この場面で自分が欲しいと思う奏者をキャスティングしたら、あとは雰囲気とテンポを伝えるだけという。
■これだけキャリアのある大人たちが集まって
■自分たちがやりたいことを表現していくことに意味がある
──ワンマンライブの前(1月31日)にはTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAにとって初の作品が7インチのレコードとしてリリースされます。A面にはスカフレイムスの「星に願おう」、B面には「FREEMAN DUB」が収録されていますね。
井出:ええ、これはライブハウスの固定カメラで録っていた映像から音声を抜き出して、HIDEO KOBAYASHI君にライブ音源を想定してマスタリングしてもらった音源を7インチ化したものです。「星に願おう」については、僕は昔、彼らのマネージャーをやっていて、7インチは当時プロモーション用のみで、正規リリースされていなかったから作りたいなって。で、B面にはハードなダブを入れて、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAの音楽的な幅を持たせようと思いました。
──で、7インチをリリースする4日後の2月4日には代官山UNITでのワンマンライブがあります。
井出:ええ、まさか1回しかライブをやったことがない人たちがワンマンで、しかもこれだけの人数のミュージシャンが揃う……そんなこと誰もやらないことじゃないですか? そういったハプニング性も大切だと思っています(笑)。それにこれだけキャリアのある大人たちが集まって、懐メロじゃなく、自分たちがやりたいことを表現していくことに意味があると思っていて。
──会場ではサウンドトラック『MILLIONS OF IMAGES』の発売も予定されています。この作品はTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAに参加するミュージシャンの曲から海外アーティストまで、音楽性もスカやダブからエレクトロニクス、ダンス・ミュージックまで幅広い内容です。
井出:コンセプトとしてはイメージサウンド・トラックというか、架空の旅のサウンドトラックですね。曲についてあまり説明するとイメージが先行してしまうので割愛しますが、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAのライブを聴いてもらって、家でもこの作品があれば同じような感覚になれる、そんな作品です。
──今回のワンマンはどういう感じになりそうですか?
井出:ローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』みたいなイメージを持っていますね。まだ未定の部分もありますが、開場と同時にいろんな場所で音楽が演奏されていたりして、僕たちが普段やっている<HOME PARTY>のように美味しいケータリングのフードとお酒を楽しめる……そんな驚きのある実験的な空間を作りたいなと思っています。THE MILLION IMAGE ORCHESTRAとしては、休憩を挟む二部構成で2時間近くのパフォーマンス時間を予定しています。ですから、開演ギリギリに来ちゃうとあんまり楽しめないと思うので、開場の時間に来てもらいたいですね。
──それは面白そうですね。
井出:そう、だからこれは事前に言っておきたいなと思って。そうしないとみんなギリギリに来ちゃいそうだから(笑)。
──確かに。でも、そう言われたら最初から来ちゃいますよ。そういった趣向を凝らしたお客さんの楽しませる方法も、長年ご自身のイベント<HOME PARTY>を続けている井出さんならではの視点だと思います。
井出:それはありますね、僕らならではの大人な楽しみ方を堪能してもらえたらと思います。
取材・文:伊藤大輔
「星に願おう/FREE MAN DUB」
SIDE A 星に願おう
SIDE B FREE MAN DUB
GRGAE-0018 1620円(税込)
YASUSHI IDE PRESENTS THE MILLION IMAGE ORCHESTRA<WELCOME TO THE MILLION IMAGE SHOW>
代官山UNIT
OPEN 18:30 START 19:30
Adv 4,500yen (ドリンク代別) Door 5,500yen (ドリンク代別) ※再入場禁止
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)
※整理番号順にご入場となります。
■チケット(10月13日発売)
Pコード:132-292
Lコード:71634
eplus.jp
■出演
内田勘太郎/高木完/延原達治(ThePrivates)/紫垣徹(THE SKAFLAMES)/塚本功/奇妙礼太郎/石井マサユキ(TICA)/AKIHIRO/藤本一馬/watusi(COLDFEET)/穴井仁吉(TH eROCKERS)/屋敷豪太/椎野恭一/外池満広/西岡ヒデロー/及川浩志/巽朗(Speak No Evil)/元晴(MORE THE MAN/Speak No Evil)/石川道久(THE SKAFLAMES)/icchie(YOSSY LITLLE NOISEWEAVER)/冷牟田竜之(MORE THE MAN)/今里(STRUGGLE FOR PRIDE)/SARO(Conguero Tres Hoofers)/荏開津広/DJ YAS/田中知之(FPM)/井出靖
映像:信藤三雄/中野裕之/高橋恭司/高木康行/VIDEOTAPEMUSIC
◆Grand Gallery オフィシャルサイト
この記事の関連情報
井出靖、ジャズに焦点を当てたスクラップ本『VINTAGE JAZZ POSTER SCRAP』リリース
井出靖、<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION Vol.2 日本のロック黎明期Part.1 -バンド、グループ編->開催
<BLAXPLOITATION ORIGINAL MOVIE POSTER EXHIBITION>、開催
ナサニエル・ラッセル、日本での作品展を井出靖のGrand Galleryにて開催
井出靖、“DUB”をテーマに独自の審美眼で蒐集したレアなポスター/チラシ類の展覧会開催
【インタビュー】井出靖、「自伝を書くことで沸き起こった、自分が文化を残さなくてはいけないという“使命感”」
井出靖、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAが再び始動
<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION 井出 靖が見た東京の景色 PART.2>、会期延長決定
Jロックのヴィンテージ・ポスター&フライヤーを展示する<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION 井出 靖が見た東京の景色 PART.2>2月11日(土・祝)より開催