スマッシング・パンプキンズ、じわりと伝わってくる綿密に構築されたシンプルさ
まさかの復活というのも、まぁ音楽界には付きものの出来事だが、ドラッグで逮捕・解雇・けんかの果ての解散・ソロ活動など、これほど大騒動を続けた果ての再編成、すべてを白紙に戻し新しい意欲に満ちたアルバム発表へと歩んだ例はあまり聞いたことがない。
◆スマッシング・パンプキンズ映像&画像
スマッシング・パンプキンズの“ほぼ”オリジナル・メンバーによる18年ぶりの新作『シャイニー・アンド・オー・ソー・ブライト VOL.1 / LP:ノー・パスト、ノー・フューチャー、ノー・サン』を聴く前には、正直、どこまでかつてのあの輝かしい作品たちと並ぶものができるのだろうか確信が持てなかったのだが、さすがだ。リック・ルービンというこれ以上は考えられない大物プロデューサーを起用し素晴らしいアルバムを創り上げてきた。復活の狼煙としてはまったく文句のないもので、いよいよここから彼らの新章が始まる。
グループが誕生したのは1988年シカゴでのこと。ブラック・サバスやチープ・トリックからバウハウス、ザ・キュアーなど多彩なグループ等の影響を受けながら曲を書いていたビリー・コーガン(Vo、G)と日系三世のジェイムス・イハ(G)、紅一点のダーシー・レッキー(B)、そしてジミー・チェンバレン(Dr)で結成され、1991年にアルバム『ギッシュ』でデビューを飾る。
当時のアメリカは、ソニック・ユースを始め各地でインディペンデントな活動をするパンク、オルタナティヴ系のアーティストたちに目を向けられていた頃で、スマパンのデビューもそんな中で注目を集めた。同じく1991年に出たニルヴァーナの『ネヴァーマインド』の大ヒットによって世界中にグランジ・ブームも巻き起こり、一連の動きの追い風もあって1992年には初来日も果たしている。
そのライヴでいまでも記憶に残っているのは、ジミーのソリッドで力強いドラミングだ。もちろんビリーの比類ないキャラクターから繰り出される楽曲は魅力だったし、イハのギターも特徴的ではあったが、中でもドラムスは強烈だった。というのも、特にオルタナ系のバンドはニルヴァーナのデイヴ・グロール(現フー・ファイターズ)など、数少ない腕利きはいるにしても、全体的にそれはウィークポイントになりがちなパートで、そこがガッチリしているのを聴いてグループの未来を確信したものだ。
『ギッシュ』はセールス的にもじわじわと売り上げを伸ばし、最終的には100万枚を売り上げるほどになったものの、一般的な知名度や評価はまだそれほど高くはなかったが、そうした層にまで認知されることになったのがセカンドの『サイアミーズ・ドリーム』(1993)で、代表作でもある「トゥデイ」のヒットなど、人気は一気にブレイクし全世界で500万枚以上のセールスを記録したのだった。その成功を励みに1995年には2枚組全28曲入りの超大作『メロンコリーそして終りのない悲しみ(Mellon Collie and the Infinite Sadness)』をリリースし世界中のチャートでトップを飾るなど、まさに創作力から評価、実績に至るまで頂点に達する活躍を見せた。
しかしそんな快進撃に突如、黒い影が落ちる。ワールド・ツアー中の1996年7月、ニューヨークのホテルでサポート・メンバーがヘロインで中毒死。同じ部屋にいたジミーは逮捕されバンドから解雇となってしまう。グループはドラマー不在のまま、次のアルバム『アドア』(1998)を作り、ビリーが打ち込みを駆使しエレクトロニカなど新しいフィールドに挑んだものの前作のようなメガヒットとはならずビリー的には不満の残ったようで、ドラムにジミーを復帰させて5枚目のアルバム『マシーナ/ザ・マシーンズ・オブ・ゴッド』(2000)を発表する。しかしリリース直後に今度はダーシーが脱退し、結局2000年12月のライヴを最後に解散となった。
その後、ファンにはなかなか厳しい時期が続く。ビリーとジミーでズワンを結成しアルバムも発表するが、思ったような結果は得られず、結局二人に新メンバーを加えた体制で2006年にスマパンを再結成し、ツアーやアルバム『ツァイトガイスト』(2007)を発表するものの2009年にはジミーが脱退。配信のみの新曲発表など、どんどん自分たちの殻に閉じこもるような流れになっていく。2010年には10年ぶりの来日があったり、2012年に『オセアニア~海洋の彼方』を発表するなどしていたが、頻繁なメンバー交替のせいもあり全盛期のような輝きはみられなくなる。
2011年にはビリーが以前からファンだったプロレスの団体オーナーになったりと驚かされるようなニュースもある中、2015年には、かつてのドラッグ騒ぎなどウソのように、音楽的にはジャズ・プレイヤーらと活動しつつ、テクノロジー関連の投資会社に関わり、成功を収めていたジミーが再び復帰することになり、さらにソロとして『Let it Come Down』(1998)、『Look to the Sky』(2012)と2枚のアルバムを作り、またパーフェクト・サークルを始めさまざまなバンドやアーティストたちとコラボ活動していたジェイムス・イハも合流して本格的に再編成、再始動へと向かっていったのだった。
残念ながらダーシーは、ビリーへの不信・契約問題のせいもあって不参加となったが、それでも2018年2月から6月にかけてレコーディングを行い、7月から<Shiny and Oh So Bright>と名付けたツアーを敢行するなど、結成から30周年を自ら祝うかのような一連の流れで、グループは再び大きな歩みを開始した。
その最初の大きな成果となったのが、11月16日に世界同時発売される『シャイニー・アンド・オー・ソー・ブライト VOL.1 / LP:ノー・パスト、ノー・フューチャー、ノー・サン』だ。当初、4曲入りEPを2枚作ろうという企画で、マリブのシャングリ・ラ・スタジオでリック・ルービンをプロデューサーに進められたものだが、予想以上に充実したセッションでアルバムへと発展していった。
プロデューサーのリックとは『アドア』のレコーディング時にマネージメントの要請で書いた「Let Me Give the World to You」を録音するなど交流はあったものの、そのときは大した成果も得られず終わっているが、それぞれが経験値を積み重ねたことで、濃密なコラボレイションが実現した。
4曲入りEPというのは、現在のサブスクリプション・サービス、ストリーミングがデフォルトの時代を考慮してのことだろうが、確かにコンパクトに聴きやすいヴォリュームではあるものの、そのためにアルバムのような手ごたえは薄くなりがちだ。それがこのアルバムは全8曲と、ヴォリューム的には今どきとしては少ないが、しかし楽曲や演奏の膨らみが、どの曲にもあってバンドとしての勢いが戻っている。
オープナーの「ナイツ・オブ・マルタ」のロマンチックなストリングスに導かれ、ビリーならではのドラマチックな世界が広がり、それまでの長かった別離の時期がウソのようだし、ミディアムのシャープなナンバー「シルヴァリー・サムタイムズ(ゴースツ)」や芯の太いギターがヴォーカルと絡み合って展開する「トラヴェルズ」など、どれも非常にコンパクトでいてスマパンならではの捻れた美学が広がっていく。
かと思えばヘヴィ・サウンドが爆発しまくってグランジ時代を思い出させる「ソラーラ」もあれば、複雑だった人間関係の時代と関係があるのか「ウィズ・シンパシー」なんて曲があったりと、多彩な曲が詰まっている。
どれもごくシンプルなサウンドで、<スマパン復活騒動+リック・ルービン>から予想する大がかりなものとは違っているのだが、そのシンプルさは綿密に構築されたものというのがじわりと伝わってくる。それこそビリーたちの狙ったものだろう。
過去に多くの栄光に包まれていたバンドだけに、その輝かしい過去を汚すことなく、そして今の自分たちが最高に楽しめる音、それらをすべて引っくるめて鳴らした音が詰まっている。良いアルバムだ。ライヴで聴ける日を楽しみにしたい。
文:大鷹俊一
写真:Linda Strawberry / Olivia Bee
スマッシング・パンプキンズ『シャイニー・アンド・オー・ソー・ブライト VOL.1 / LP:ノー・パスト、ノー・フューチャー、ノー・サン』
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【CD】 GQCS-90666 / 4562387208159 / ¥2,500+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.ナイツ・オブ・マルタ
2.シルヴァリー・サムタイムズ(ゴースツ)
3.トラヴェルズ
4.ソラーラ
5.エイリアンネイション
6.マーチン・オン
7.ウィズ・シンパシー
8.シーク・アンド・ユー・シャル・デストロイ
【メンバー】
ビリー・コーガン(ヴォーカル、ギター)
ジェームス・イハ(ギター)
ジミー・チェンバレン(ドラムス)
ジェフ・シュローダー(ギター)
◆スマッシング・パンプキンズ・レーベルサイト
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