【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.109「娯楽に、防災に。ラジオがくれるもの」

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ラジオは車の中でよく聴いている。本当は家でも聴きたいところだけれど在宅中はなにかと動いてしまうので、密室で一人、じっと聴くのが好きだ。知らない音楽や情報も溢れるほど入ってくるし、好みでない音楽に出くわしたとしてもちょっと向き合ってみようかなとなるので不思議だ。もちろんお気に入りの曲が流れたり、それについてのDJのコメントに共感できるとたちまち嬉しくなる。だからこそ、と言うと偉そうだけれども、適当なしゃべりをされるとすぐに別の面白そうな番組を探して移行する。こちらだって、それほど真剣に聴いているのだ。

ところで、今朝のラジオは最高だった。仕事へ向かう道すがら、カーナビの液晶画面のラジオをタップすると前回聴いていたInterFMが流れ始め、DJによってムンク展が開催されると伝えてきた。そうか、ムンクが来るのかとあの絵画が脳内に浮かんだところでMICHAEL JACKSONの「THRILLER」がかかった。

暫く聴いていなかったと気づかされ、家でもマイケルを聴こうと朝から柔軟に影響を受けた私は自然とボリュームを上げた。気分も上々になったところで、なにやら不穏なイントロが聞こえてきた。MARILYN MANSONだ!

息子を保育園に送り届けてちょっと経った頃だから、時刻は9時を少しばかり過ぎた頃だっただろうか。今日はみんなと芋掘りにでかけるのを思いだし、広がる青空を見つめて「今日が晴れでよかった」と思ったばかりの爽やかな朝、これから一日が始まろうとしている幕開けの時間帯に1994年にリリースされたマンソンのカバー曲「SWEET DREAMS」(オリジナルはEurythmics)が朝に最も似つかわしくないダークな曲がぶっ込まれてきたのだ。

おどろおどろしいイントロ、いかがわしい声。ズンズン心臓に迫るビートの毒々しい波が押し寄せてくる。しかしなんで今? リリース時期でもない古い曲なのに? ムンクと引っ掛けるにしてもなかなかの振り切れた選曲と「THRILLER」からの完璧な流れに思わず声をあげてしまったほど驚いた。そして曲終わりには、選曲したDJのYoshikoさんが“私はライブを観てマンソンを大好きになりました”といった主旨のコメントを残してぬるっと終わったのだが、それもまた生放送らしさが出ていてとても好かった。


けして万人には受けないだろう。でも筆者のようなマンソン好きの人をはじめ、感情を変えられた人は多かったのではないだろうか。趣味趣向は人それぞれである世の中において、音楽と言葉の流れによって顔も知らない相手に心を揺り動かされるのは非日常だ。顔も見えない上、相手は多くのリスナーを相手にしているとは分かりながらも創り手側と心が通ったような気持ちになれる一瞬を感じたとき、私はきまってニヤついてしまう。そして、しょっちゅう遭遇できるわけではないからこそ、その感覚をずっと覚えていたりするのだが、あなたはどうだろうか。

いつも何気なく聴いているこの番組が気になったので局のオフィシャルサイトを覗いたところ、今朝方筆者の心を奪い、ボリュームを上げさせたのは「THE GUY PERRYMAN SHOW」という番組だったようだ。そうそう、このGuyさんのイギリス英語が耳心地好くて聴いているのだ、自分。

日中は落ち着いた番組が多い中で、ラジオが生き物であるということを感じさせてくれたYoshiko Kris-Webbさん、Guyさん、ありがとう。

最後に言わずもがなのことを言うが、災害列島である日本で暮らす上で有事の際のラジオの存在は不可欠だ。いつでも起きうる自然災害や人災に備え、有り難い情報源としてラジオを活用させていただこうという心づもりでいる。娯楽に、防災に、ラジオは善だ。

文=早乙女‘dorami’ゆうこ

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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